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Information

――証券アナリストを取り巻く環境は大きく変わってきている…。

 新芝 背景には、わが国の企業統治改革や欧州のMiFID2(ミフィッドツー:第2次金融商品市場指令)等の規制改革、AIやビッグデータ等の技術革新、サステナビリティの潮流、そして、コロナ禍の影響等がある。環境変化に伴い、証券アナリストに求められる役割も変化している。現在の証券アナリストには、日進月歩でレベルを上げ、企業価値の「評価」だけでなく、中長期的な企業価値の「向上」への貢献や、企業と投資家の建設的な対話の橋渡し役など、より広範な専門分野において重要な役割を果たすことが期待されている。証券アナリストがインベストメント・チェーンにおいて担う役割は大きい。

――MiFID2の影響について…。

 新芝 2018年1月から欧州で導入されたMiFID2では、投資家保護強化の観点から、調査費用への考え方が大きく変わり、それまで仲介手数料に含まれていた調査費用のコストが分離されることになった。ブローカーの役割も明確になり、証券ビジネスにおいてもリレーションだけではなく、どのような付加価値を提供したかが評価されるような時代になっている。証券アナリスト一人ひとりのレポート等に値段が付くようになり、まさに、証券アナリストの真価が問われている中で、力のある人間にとっては良い時代だ。しかし、一部の活躍しているトップアナリストだけに仕事が集中するようになり、ジュニアアナリストが育ちにくくなるという問題点もある。そのため、日本証券アナリスト協会でも今まで以上に気を配り、各証券会社や資産運用会社等としっかり連携を取って、証券アナリストを育てていく過程を支援していかなければならないと考えている。

――金融庁からは証券アナリストに対する規制が出されているが…。

 新芝 例えばスチュワードシップ・コードやフェア・ディスクロージャー・ルール等の規制はしっかりしたもので、改定も進んでおり、混乱はない。ただ、不公平感の是正という面では、昔インサイダー取引というような言葉もなく早耳情報しかなかった時代から、その早耳情報が違法となり情報が公平に出される一方で、Fintechなどのテクノロジーを駆使した情報収集が効果を生み始め、その進化が加速している時代だ。つまり、どの企業が成長するのか、テクノロジーを使って調査しようと思えば様々なことが出来る。例えば、スーパーの売り上げを調査するために、人工衛星でスーパーの駐車場を見ながら集客数を予測したり、ビッグデータを利用することで買い物情報から売り上げを分析したりすることも可能だろう。このようなやり方でも、結局の狙いはかつて行われていた早耳情報と同じようなものであり、いくら制度的に公平にしようとしても、オルタナティブな情報を知恵比べのような形で追い求めている部分があるということは事実だ。

――協会としてどのように証券アナリストを支援していくのか…。

 新芝 当協会の社会的使命は、広い視野、深い専門知識・分析能力、そして高い倫理観を備え、時代の要請に応える金融・投資のプロフェッショナルを育てていくことだ。そこで、当協会では証券アナリスト資格の教材内容を15年ぶりに改定する。2021年6月にスタート予定の新プログラムでは、SDG sやESG、ロボット運用、行動ファイナンスなどの旬なトピックもカリキュラムに含まれている。また、この間に出てきた新しいコンセプトや概念も組み込まれている。証券アナリストになるためにクリアすべき課題や学習分野は、時代の変化に応じて変わってきている。だからこそ、それらをよりたくさんの人に修得していただくために、実務の視点から教材を作成し、図表や数値例を充実させる等の工夫を凝らして学習しやすいプログラムへと作り直している。eラーニングアプリ等のデジタルツールも積極的に活用して、これからの証券アナリストたちの支援をしていく。

――証券アナリストの資格を持つ人たちの活躍の場が広がってきている…。

 新芝 証券アナリスト資格保有者の現在の所属分布を見てみると、証券会社が2割、信託を含めた銀行系が2割、資産運用会社が2割、そして事業会社が1割5分となっており、最近では事業会社に所属する資格保有者がかなり増えていることがわかる。IR部門や財務部門で活躍したり、社外取締役として専門分野を生かしたり、証券アナリストの概念が昔に比べて多様化しており、業務の幅もかなり広がっている。特に財務部門では、昔のように単にお金の流れを見るというだけでなく、例えば、資本コストという概念を取り入れて経営アドバイスを行うなど、今の時代を生き抜くための高度な専門知識への需要が高まっており、そういった能力を備えた人材が求められている。

――これまでの証券アナリストといえば、いわゆるセルサイドの仕事のイメージが強かったが…。

 新芝 今ではセルサイドだけでなく、バイサイドや銀行、事業会社にも証券アナリスト資格を持つ人は多い。実際に証券アナリストの業務が変わってきている。当協会としても幅広く活躍してもらえるような方向に証券アナリストのイメージを変えていく必要があると考え、2019年4月に証券アナリストの資格称号として「日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA:Certified Member Analyst of the Securities Analysts Association of Japan)」を新たに定め、ロゴマークも新設した。現在、2万7千人強の「CMA」が様々な分野で活躍しており、証券アナリストの質が良い方向に変わってきていることは大事にしたい。そして、これをきっかけに「CMA」という呼称を広めていきたいと考えている。

――最後に、協会の課題と抱負を…。

 新芝 今回、「認定アナリスト(CMA)」という資格称号を改めて制定したのは、証券アナリストを取り巻く環境や求められる役割が変わっているからだ。それと同時に高度化もしている。当協会は、時代の要請に応える金融・投資のプロフェッショナルを育てていくことで、日本経済の発展に寄与することを目的としている。現在、コロナ禍により既存の秩序が根底から揺るがされている。人々の価値観や行動様式は不可逆的に大きく変容し、次の時代へ時計の針が一気に進んだ。当協会でもコロナ禍を奇貨として、スピード感を持って様々な施策を進めていく。当協会のビジョン、ミッション、ストラテジーを明確にし、新しい時代に対応できる証券アナリストを育てていくことに貢献していきたい。

コロナ対策で国民はうんざり

――3たび緊急事態宣言が発令された…。

  一言で言うと多くの国民は「うんざり」と言ったところだ。昨年の春から、「ここが勝負どころだ」、「あと3週間の辛抱」など、政府や専門家と言われる人達の精神論的な発言をマスコミを通じて何度も聞かされ、その度に国民は様々な形の自粛を迫られてきた。しかし、一向にコロナは収束しないばかりか、むしろ酷くなっている。またその間も、GOTOキャンペーンや海外からの渡航が再開された途端に緊急事態宣言と合わせて再び中止されるなど、後手後手、ちぐはぐ、無駄使いの政策が眼に余るようになっている。

  それに新年の緊急事態宣言は、引き続き飲食を目の敵にしている一方で、ライブや映画上映は続けられるなど、人と人との接触を徹底的に避けるという内容にはなっていない。もはやかなりの国民が素直に政府やマスコミの言うことを聞かなくなっていることもあり、ワクチンの接種如何だが、感染拡大がダラダラと5~6月頃までさらに長期化するとの懸念も広まっている。むしろ経済のためなら、思い切ってワクチン接種が予定される2月の中旬ぐらいまで全国一斉に緊急事態宣言を発令した方が良いのではないかという訳だ。

検査体制崩壊の次は医療体制崩壊

――保健所を中心とする検査体制が崩壊している…。

  年末年始の感染者急増により保健所の検査体制が崩壊し、感染者がさらに野放し状態になってきている。本紙4日付の新春記者座談会でも指摘したように、保健所が感染力の弱い結核対応の濃厚接触者の検査に終始した結果、感染者を封じ込めることが出来ず、現状はもはや濃厚接触者の検査すら出来なくなっている。かつその間に、感染拡大の見通しが甘く病床の確保も手緩かったため、今度は医療体制が崩壊の危機に直面し、再度の緊急事態宣言を出さざるを得ない羽目に陥った。

  そもそも濃厚接触者という概念自体が不適切で、感染力の強いコロナなどの場合は接触者すべてを検査する必要があった。また、37.5度が数日間続かなければ検査を受けられず、その間に周りの者に感染させている。そしてその結果、前回20年4月6日の緊急記者座談会の予想通り潜在的な感染者が拡大し、今の感染拡大に至っている。

  その点で、前週に広島県の湯崎知事が発表した、80万人へのPCR検査は画期的だった。というより、むしろ東京都を含めた他の知事が何故今までやらなかったのか不思議だ。

  しかし、今に至っては検査体制以上に、急速に患者が増えていることから、医療体制や病床の確保も機動的かつ弾力的な対応が必要だが、前週までのところ相変わらず保健所中心の体制を変えていない。その犠牲者として自宅待機の感染者が急増しており、症状が急変し自宅で亡くなる人も目立ってきた。

医療法の改正を

――コロナ補正を100兆円規模で組み、かつ日本は人口あたりの病床率が世界一高いというのに、なにをやっとるのかね政府は…。

  日本を含め東アジア諸国では欧米ほどコロナの死亡率が高くないため、インフルエンザなどと同様に多くの診療所や病院でコロナの検査や治療を出来るよう、感染症法の適用や感染症法そのものを改正すべきとの意見が医療関係者から聞かれている。また、感染症法だけでなく医療法を改正し専門外の民間病院に対しても、政府が感染症などの治療を勧告にとどまらず命令ができるようにすべきだ。コロナ感染の急拡大はいわば戦争と同じなので、平時の考えで対応していては手遅れだ。何がなんでも国民を守るという精神から、医者も率先してコロナ対策に当たらないようでは、それこそ大赤字の国民皆保険制度を見直す必要もあろう。

  政府は今、コロナを感染症法の新型インフルエンザ等感染症に指定し、より強い規制が取れるようにしようとしている。また、飲食への罰則だけでなく検査や報告、入院を拒否した場合の罰則も導入するという。それ自体はコロナの感染力の強さや、今後も新たな感染症が生まれる可能性を勘案すると必要不可欠の措置だ。むしろ台湾で成功したように感染者の氏名と行動歴の公表や医薬品の価格統制と配給制、米国のような企業への生産命令、諸外国と同様の夜間外出禁止令などの法的準備も整えておくべきだ。

戦争状態の備え必要

  コロナ対応でも改めて日本の平和ボケがよく出た。なんでも前例踏襲、法律遵守、責任回避、自分大切という悪い役人体質が染み付いており、いざと言うときは超法規的な対応も必要という対応が取れない。そんな姿勢だから、竹島も北方領土も尖閣もズルズルと他国に実効支配されていく。これでは、自衛隊予算を増やしても国は守れまい。日本のどこかが攻撃された時に医者が逃げてしまってはお手上げだ。

  コロナ禍を機会に行政のデジタル化がようやく動き出し、加えて多の国と同様に戦時に備えた医療体制も構築できれば良い。また、スパイ防止法の導入や、世界平和と反日対策のためのプロパガンダの世界的展開など、この期に一気に普通の国としての備えが出来れば「禍転じて福と成す」だ。

  確かに守り神である米国の弱体化が日に日に目立ってきている今、日本が独立国家として自立していかなければ、次は中国の属国になり下がろう。しかし、その一方で首相が平気で嘘をついたり、コロナでも政府に都合の良いデータしか公表しなかったり、マスコミも政府広報の様相が強いなか政府の権力を強めると、太平洋戦争の二の舞になりかねない。国民に正しい情報が届かなければ、政府の間違いを正すことができず、ズルズルと敗戦の道を歩むことになる。このため、政治家の嘘を厳罰にしたり、憲法に情報開示義務を盛り込んだりすることも必要だ。

与党の責任は

  コロナ対応で罰則規定を導入する場合、ここまでコロナ禍を長引かせ巨額の借金を重ねた責任を取って、やはりけじめとして二階幹事長の首を国民に差し出すぐらいのことをする必要があるのではないか。二階幹事長はいわゆる勝負の3週間にもかかわらずGOTOを強行させ「令和の大失敗」を招いた張本人というイメージが強いし、「禁断の老人会食」もやってしまった。このままでは、秋の選挙はボロ負けだ。

――トランプ、ブラジル、スエーデンなどコロナを軽視して経済を重視した政権は支持を失っている。日本の野党に政権遂行能力はないが、高齢のバイデンを選ばざるを得なかった米国と同様に、何かしなければ与党が大きく議席を失うことになるだろうね。

――日本の財政がどうなるのか心配だ…。
 米澤 ただでさえ日本の財政は破綻に瀕しているのに、今年度の3次にわたる補正では、当初予算の年間新規国債発行額の3.5倍を1年で発行することになった。まるでメーターの針が振り切れて飛んだような状態だ。新型コロナウィルスの世界的大流行という100年に1度の異常事態に対処するためやむを得ないという事だろうが、本当にこれが賢い政策なのか検証が必要だ。新型コロナ対策として何より優先されるべきものは感染拡大防止と医療体制の確保・充実だ。そこにはワクチンや特効薬の開発、医療従事者の処遇改善も含まれるが、第3次にわたる補正予算での歳出追加73兆円の内、これらに該当するものは約13%の9.2兆円に過ぎない。こうした中で、昨年末にかけて医療体制にしわ寄せがきて、ここに最も深刻な危機がきている。また、残りの60兆円余は、影響を受ける事業従事者や雇用者への対策、経済全体の落ち込みを緩和するための需要喚起策、将来に向けての経済構造転換・インフラ整備等、色々な名目を付けて多岐にわたっている。これらは緊急性や費用対効果に濃淡があり、本来ならばその濃淡に応じて優先順位をつけ、悪用・乱用防止の制度設計をきめ細かに工夫すべきだ。しかし、残念ながら一連の対策にはそうした吟味がなく、バラマキと声の大きいところを宥めるための安易な支出が多いという感が否めない。

――PCR検査体制が他の先進国に比べて極めて脆弱であるにも関わらず、政府はGoToキャンペーンを実施し、国民の警戒心を緩めて感染を広めるという政策を行った…。
 米澤 今のような状況下での経済対策は、最大の目的である感染拡大の防止に資するか、せめて逆行しないことが求められるのに、医療支援を上回るような規模で計上されたGoToトラベルやGoToイートなどは、感染拡大期にその主要原因である人の移動や集合と会食を補助金付きで奨励するものに他ならず、無駄を通り越して有害なものとなってしまった。また、1次補正での10万円一律給付金は費用対効果の面で拙劣で、故大平正芳総理風に言うならば「イージーゴーイング」な政策だった。さらに、3次補正での「ポストコロナに向けた経済政策の転換・好循環の実現」と「国土強靭化」に至っては、コロナ対策へ便乗した財政法29条(補正予算)違反の駆け込みとしか思えない。73兆円の内、少なく見積もっても半分はこうした有害、無駄、或いは便乗で占められている様に感じられる。

――政府債務残高が1000兆円を超え、GDPの2倍となっているこの状況下で、先行きの国家財政の見通しは暗い…。
 米澤 ただそうは言っても100年に一度の緊急異常事態に対処するためには、本年度採られた予算措置の少なくとも何割かの追加財政出動は不可避だった。まさにこうした時こそ財政出動が必要であり、本来はそれに備えて平時の財政にゆとりを持たせておく必要がある。にもかかわらず、我が国の財政は散々言い尽くされていることながら、令和2年当初の段階ですでに国債残高のGDP比は160%とG7諸国中飛びぬけて最悪になっていた。自著「国債が映す日本経済史」等でも私は再三警鐘を鳴らしてきたが、国民の間に一向に危機感が深刻化しないまま今日に至ってしまっている。財政再建など夢のまた夢だ。ただ、日本はこれだけ財政赤字を垂れ流していながら、アルゼンチンやギリシャのような経済危機にはまだ陥ってはいない。その理由は、一つに国際収支の経常収支が黒字で、国債が日本国内の貯蓄で賄われているからだ。だからと言って財政赤字がいくら大きくても大丈夫という訳ではなく、日本国債の信用が失われ、投資家が国債を買わなくなれば直ちにデフォルトとなるだろう。それは国債の消化が国内だろうが国外だろうが同様であり、現に昭和50年代後半には国債が発行できず休債となったことが8回もあった。新規国債に加えて年間100兆円を超す借換債を発行しなければならない現状は「板子一枚下は地獄」だ。

――地獄はいつ来るかわからない…。
 米澤 さらにもう少し視野を広げると、財政赤字が増え続けていることによる日本経済への悪影響は既に現れている。例えば、若い世代の財布の紐が固く消費が振るわないのは、「年金が貰えなくなる」など国の財政の将来への不安や不信が影響している。また、資金循環の面から見ると、世界に冠たる日本国民の貯蓄は、もしこれが財政赤字に向かわずに国内外の投資に向かっていたならばそれだけ果実を生み、日本国民の富が増えていたはずなのに、果実を生まない財政赤字のファイナンスという不毛な使途に向かっていたためにその機会が失われてしまった。目先の需要喚起のための財政出動を無反省に重ねた結果、中長期的な競争力は失われ、1990年の日本のGDPは米国の2分の1強、中国の8倍だったものが、2018年には米国の4分の1、中国の4割弱にまで低迷してしまった。これが「失われた30年」の真実だ。その意味で財政再建こそが最大の成長戦略であったのに、その成果の出ないうちにコロナに見舞われてしまった。

――今後の起死回生の策は…。
 米澤 プライマリーバランスの均衡化を目指して地道な努力を長く積み重ねていくより他はないだろう。99年小渕内閣の時に08年度とされたプライマリーバランス均衡化目標の達成時期はその後4回先送りされ、18年には25年度とされてはきたものの、この数年、赤字の水準自体は減ってきていた。残念ながら今回それが一気に消し飛ばされてしまったが、コロナ終息後の長期的視野に立って、国民の理解と協力を得て再びその努力を再開し持続するしかない。国民の側からいえば受益と負担の均衡を図るという事になり、歳出削減と国民の負担増をどう組み合わせるかは国民の選択だ。個人的には歳出削減の余地は限られており、抜本対策としては緩やかな負担増しかないと思う。平成元年から33年間の当初予算での歳出増加の内訳を見ると、歳出全体がコロナ予備費を除き44.9兆円増えている中で、社会保障、国債費、交付税が42.7兆円と殆どを占め、その他の経費は防衛費が1.6兆円増えているだけだ。民主党政権時代に鳴り物入りで行った仕分けでもネズミ一匹程度しか出てこなかったことを振り返ると、兆円単位での削減余地は乏しい。そう考えると、やはり大きく切るには社会保障しかないが、その手段は年金国庫負担の引き下げや医療自己負担の引き上げといった負担増に属する方法だろう。国際的にみても日本は大きな政府とは言えない。ただしもちろん、この時期に教育の無償化拡大や35人学級を導入するなど後年度負担の大きい施策は論外だ。一点、消費税に関して付言すると、これまで4次の消費税導入・増税を行ったが、結局見返りの減税や支出が大きく、累計で見れば目に見える寄与はしていない。消費税導入の検討を始めた昭和40年代の税制当局は、日本人の消費税アレルギーが非常に強いという事を想定していなかったのだろう。このため、消費増税一本槍ではなく、そういった国民感情や国情に合わせた負担増の組み合わせを工夫すべきなのではないか。

12/14掲載「国の管理で中小河川敷が荒廃」
愛媛県農業法人協会 会長 ジェイ・ウィングファーム 代表取締役 牧 秀宣 氏
――水害等への対策費用は国の予算から十分割り当てられているのではないのか…。
  河川の改修費用で国の予算がつくのは目に見えた大きいところだけで、中小河川敷の管理は殆ど出来ていない。昔は中小河川敷の管理はその河川に面した農地を持つ人が管理していたため、しっかり目が行き届いていたのだが、今は河川敷の管理が国のものになったため自治体任せになってしまい、毎日その場所を目にする人がいても、手を出すわけにはいかない。結局、管理の行き届かない河川敷の土手には木が茂り、草が伸び放題で、手を付けられない状態になる。自然のサイクルが壊れたことによる全国の被害は莫大だ。農地においても河川においても、集落という規模で地方自治がしっかりと管理できれば、自然のサイクルが働き、国から莫大な水害対策費用等をもらう必要もなくなると思うのだが、集落を合併させて一つの自治体を大きくしたことで地方の行政管理機能がパンク状態になってしまった。そして、荒れてしまった土地にいくらお金をつぎ込んでも解決できないという悪循環の状況になっている。

12/7掲載 「DXには独自のシステム必要」
慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 教授 土屋 大洋 氏
――デジタル化を支える今のサイバーセキュリティ基本法に足りないものは…。
 土屋 サイバーセキュリティ基本法が制定されてからすでに2回ほど改正しており、今後何か課題があっても、それは軽微な修正で対応できる。また、基本法を細かく変えたところであまり意味はなく、むしろその体制が重要だと思うが、通信の秘密に関する憲法改正が出来ていない以上、サイバーセキュリティのためのインテリジェンス体制はあまり変わることはない。いずれにしても今回設置された日本のデジタル庁はインテリジェンス活動のためではなく、国民皆がパソコンを使うように推進するためだけのものだと思う。例えば閣議をオンラインで行うといった場合には物凄いセキュリティが必要だが、そういうことをやるような雰囲気でもなく、そもそも現在日本で使われているオンラインのプラットフォームはほとんど外国のものであり、日本のソフトウェア会社はこういったツールを提供していない。こういった状況でオンライン閣議など行えるはずがない。インテリジェンス活動を前提としたセキュリティを考えるのであれば、NTT、KDDI、ソフトバンクなどのデジタルシステムを作る会社は、早急にオンラインワークのためのツールを作るべきだ。

――通信会社同士の値下げ競争を促すのではなく、むしろ外国に頼らずに使えるオンラインツールを作り上げるための予算が必要だ…。
 土屋 パナソニックは完全国産のパソコンを製造しているが、それは非常に限定的で値段も高い。安く済ませようと思うとどうしても外国製になってしまう。また、日本メーカーだから安心かといえば、部品が外国で製造されていたらそれもまた不安材料となる。国内で今更パソコンやソフトウェアを作れるかといえばそれも厳しい。しかし、安全を追求するという面も考えて日本独自のシステムをつくらなければ、いつまでたっても外国依存のままだ。同盟国の米国でさえ日本のことを当然傍受しているという前提に立ってやらなければならない。

11/30掲載 「日本自立を、蘇る三島の思想」
一水会 代表 木村 三浩 氏
――米中対立が激化するなかで日本の立ち位置をどう考えるか…。
 木村 日本は米中の利害を調整する緩衝材としての役割が求められる。それには外交において主体性を持つことが必要だ。現在米国は、オーストラリアをはじめとしたインド太平洋諸国で中国を包囲しようとしているが、単に日本がそれに加担するというのはよくない。いわゆる西側諸国やインド太平洋諸国が自由や人権を重んじ、新自由主義的考えを持つことを否定するわけではないが、中国には中国式というものがある。米中の緊張状態は高いものの、日本の外交としては中国の言い分をアメリカに伝え、アメリカの言い分を中国に伝えるようなことをすべきだ。ただアメリカの肩を持つのではなく、日本は主体的に行動することが大切だ。今までそういうことをしてこなかったから、北方領土や拉致問題が一向に解決しなかった。また、今はイスラエルとイランの関係が懸念される。新型コロナで景気が世界中で悪くなっているが、一番簡単に景気をよくする方法として為政者が考えることは戦争をすることだ。イスラエルはスーダン、バーレーンなどと国交を樹立したが、イランはそれに反発している。その結果、第5次中東戦争が始まったら、ホルムズ海峡が封鎖されることになる可能性が高い。そうなった場合困るのは大量の石油を輸入している日本であり、中国だ。また、尖閣諸島をめぐり日中間が戦争状態に突入した時、いつの間にか自国第一主義でアメリカ軍がいなくなってしまっていたということでは困る。つまり、これからはアメリカに頼りきりでなく、主体的に行動できる国家を築いていくことが重要だ。三島烈士が命を賭してまで伝えたかったことは、日本が対外的に国家主権を保持した自立した国になるべきだということだ。

11/24掲載 「中国事業のメリットに疑問」
IPAC 経済安全保障専門家アドバイザー 井形 彬 氏
――日本は米国と中国、両国からの規制の板挟みとなる…。
 井形 例えば、日本で研究開発したものを東南アジアで製造し、欧米に輸出するというやり方と、中国圏だけをターゲットに中国国内で研究開発、製造、販売すべてを行うというやり方を同時並行的にオペレートすることは出来ないことではない。しかし、中国で得た利益を日本に還元できないという規制を中国がとっている限り、日本企業が中国で経済活動をするメリットはどれほどあるだろうか。加えて、中国自身がこれまでの輸出主導から内需主導のデュアルサーキュレーションに国家戦略を変更し、中国製造2025の中で主要産業を国営企業でナンバーワンにする試みが着々と進んでいる。最終的に中国での産業が中国企業で占められてしまうのであれば、今のうちに日本は中国から去ってインドやアセアンに移ることも考えるべきだろう。こうしたことを背景に、最近、私は各大使館から話が聞きたいと言われ意見交換をしているのだが、特に東南アジアの大使館からは日本企業を誘致するための売り込みを受けることも多い。

11/2掲載 「DCは金融立国の一丁目一番地」
野村アセットマネジメント 取締役会長< 尾﨑哲 氏
――日本の国家戦略である金融立国を実現させるためにはDC市場の発展が欠かせない…。
 尾﨑 申し上げたように、日本の国家戦略である金融立国と、個人の資産形成と、世界貢献、全てを実現させるための一丁目一番地はDCを欧米並みに本格展開することだ。戦後、投資信託が再開されて60年で個人保有残高はわずか70兆円。DCの本格化による少額積立に国民全員が注力すればこの額は次の10年で倍に出来る。その資金は世界の分散投資に向けられ、世界貢献と同時にそれなりのリターンも得られるはずだ。単純な計算だが、超高齢の一人世帯を除く日本の約5200万世帯が月2万円ずつをDCを含めて積立てていけば5年で70兆円になる(年率3%程度のGPIFの実績リターンも適用)。一家計当たりの平均給与が月収で36万円なので、月2万円は決して安い金額ではないが、それを1万円にしても10年で今の投資信託のサイズになる。来年のDC20周年を機に、2020年から2030年までの10年間、ESG投資によるSDGsの達成に向かって、日本のDCを本格的に発展させることで、健全な資産形成とそれを通じた世界貢献をすべく、関係者と尽力していきたい。

10/19掲載 「銀行融資と社債の同順位を」
日本証券業協会 副会長 森本 学 氏
――日本の社債市場は米国などに比べてまだまだ小規模だ。やるべきことは沢山ある…。
 森本 社債市場の活性化は日証協が長い間取り組んでいる課題だ。足元では多少発行が増えてきたが、まだ我々が目指しているような状況ではなく、ボリューム的にあまりにも小さい。これは証券界だけでなく、当局や関係者を巻き込んで構造的問題に取り組まなければ実現しない問題だ。例えば発行体について言えば、米国ではBBB格以下の銘柄が半分以上を占めておりリスクマネーを供給するという市場の役割が果たされているが、日本ではBBB格は1割にも満たない。さらに米国には、日本にはほとんど存在しないハイイールド市場もある。そういったことから、日本ではせっかく低金利になってもリスクマネーが流れないという残念な状況になっている。発行銘柄の多様化は引き続き大きな課題であり、そのため先ずやるべきことは、銀行ローンと社債の実質的な同順位(パリパス)を確保することだ。そこで重要になるのはネガティブプレッジ(担保制限条項)であり、日本は社債間での担保制限条項はついているが、米国では標準である銀行ローンとの間の担保制限条項がついていない。その結果として、日本ではデフォルトすると社債権者の回収率が非常に低くなることから、投資家は低格付社債に投資しにくい状況が続いている。

10/12掲載 「21世紀の日英同盟締結を」
衆議院議員 国民民主党 党首 玉木 雄一郎 氏
――中国包囲網ともいえる「アジア版NATO」についての考えは…。
 玉木 中国は引っ越し出来ない隣人だ。彼らが国際秩序のなかで責任ある大国として振る舞うことを期待する。それが日本対中国の一対一の関係では難しいのであれば、多国間で中国に対して然るべき提言を行うような外交が必要だが、私はアジアで軍事同盟的なものを結ぶよりも、「21世紀の日英同盟」を結ぶべきだと考えている。ここで指す「英」は旧英連邦を意味し、インド、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド等すべての旧英連邦の国々を含む。これらの国々と同盟を結ぶことが出来れば、経済を含む安全保障上の問題において、日本が相当大きなポテンシャルを持つことになるだろう。

――南シナ海などで中国が覇権主義を拡大させている中で、日本のシーレーンは守ることが出来るのか…。
 玉木 日本の海上交通路について言えば、日米同盟は地域全体の公共財という役割を果たしているため、それを強固に保つことは必要だ。同時にアセアン周辺諸国の協力も欠かせない。ただ、米国がアジアへのコミットメントを弱めていこうと考えているのであれば、力の空白が出来てしまうため、そうならないように米国をアジアに関与させ続けるという努力を日本はし続けなくてはならない。シーレーン防衛は我が国にとって生命線とも言える。何かがあった時の後方支援の在り方を事前に定めておくことは重要だ。

10/5掲載「経済外交の最善の道を模索」
財務官員 岡村 健司 氏
――米中対立が悪化して米ソ冷戦時代の二の舞になれば、中国をゲートウェイとするビジネスモデルは通用しなくなる。日本の経済外交の方向性は…。
 岡村 米国の中国に対する基本姿勢は、安全保障の観点を考えると、大統領選の結果にかかわらず、今後も変わらないだろう。しかし、仮に米中融和となった時に、米国に寄り添っていた日本に対する中国の対応は非常に厳しいものとなろう。日本が米国にはしごを外される可能性も否定できない。日本はインドとアセアンに注力すべきという声もあり、その通りと思う一方で、インドもアセアンも、日本と中国を天秤にかけているということは常に考慮に入れておかなければならない。伝統的な米ロ対立の構図の中で米国と同盟する欧州は、米中対立の文脈では第三極の形成を指向しているように見える。そういったこと全てに注意しながら、日本は、今後ともアジアで生きていかなくてはならない。暗中模索ではあるが、諸情勢を冷徹に見通して、最善の道を探していきたい。

9/28掲載 「『国消国産』で食料安保を推進」
全国農業協同組合中央会 代表理事会長 中家 徹 氏
――今後の日本の農業への抱負を…。
 中家 5年前、一連の農協改革により農協法が改正されたが、我々JAグループは「農業者の所得増大」、「農業生産の拡大」、「地域の活性化」を基本目標とした創造的自己改革の実践をすすめてきた。組合員の願いを実現するため、これからもJAグループ一体となって自己改革に取り組み続け、日本の農業、農村が元気になるように努めていきたい。また、今回のコロナ禍では食料の輸出規制を行う国が出てくる事態となったが、これを契機に、食料安全保障に関する課題を国民の皆さんにもっと浸透させていきたいと考えている。自国で消費するものは自国で生産するという「国消国産」の重要性を広めていきたい。この他にも、企業がテレワーク等を定着させていく中で、例えば、地方へ移住し、会社員として働きながら農業に取り組む人たちが出てくるというような、東京など大都市からの「一極集中の是正」の流れにも期待している。

9/7掲載 「金融機関として本領発揮の時」
金融庁長官 氷見野 良三 氏
――コロナ禍が長期化する様相となっており、金融機関には不良債権化の懸念が出始めている…。
 氷見野 緊急事態宣言時に比べれば経済は持ち直しているのだとは思うが、今後どのようになって行くかを見通すことは難しい。コロナ禍の長期化の可能性も否定できないとなると、金融機関としても悩みどころだと思うが、顧客に背を向けるという選択は無いのではないか。不良債権が怖いから資金繰りを繋がないということを一旦行うと、地域の中での信頼は二度と取り返せないだろう。今後については、長引くコロナ禍で課題が山積する顧客に対して、経営改善や事業再生支援などに取り組むことが銀行の本来の仕事だ。金融機関としての本領発揮の時であり、それをせずに放って置くことは、結局は信用コスト増にもなってしまうし、金融機関の存在意義も社会に信じてもらえないと思う。コストカットや販路拡大、業種転換、事業承継を支援するなど、様々な工夫を進める上で、政府としても出来るだけのサポートは行っていく。すでに政府系金融機関からは約6兆円の劣後ローン枠が、地域経済活性化支援機構(REVIC)等のファンドからは約6兆円の出資枠が確保されている。そういった選択肢も組み合わせて事業再生に取り組んでもらいたい。

8/31掲載 「対コロナで早急に法改正を」
東京都医師会 会長 尾﨑治夫 氏
――その他、都や国への要望は…。
 尾﨑 行政との関係が上手くいっている医師会とそうではない医師会があるが、東京の場合は、都と医師会が車の両輪であるという共通認識を持ち、常に連絡を取り合いながら物事を進めることが出来ていると思う。一方で、実際に東京都が休業要請を出しても、結局そこに強制力はない。宿泊療養や自宅療養の仕組みにしても、大元の仕組みを決めるのは国の役割だ。その国が的確な政策をとっていないという事に対して、言いたいことは沢山ある。もっと本気になって最善の策を考えてほしい。例えばPCR検査にしても、診断治療の一環として行うものと、経済活動を円滑に動かすために実施するものと、一定の地域で感染している人数をはっきりさせるために行う公衆衛生上の検査の3つに分けて、そこに健康保険を適用させるのかどうかも含めて、検査体制をきちんと整えることが重要だと思う。目的に応じたPCR検査を自由に受けられる仕組みを早く作るべきだ。今は高い検査費用も、検査数が多くなれば資本主義原理で安くなっていくだろう。医療の現場では、患者や感染者を救うために日々最適な決断を迫られながら頑張っている。政府にも、もっとスピーディーに、先を見越した政策を実行してもらいたい。その意味で、早く法律を改正してインフルエンザの流行時期の前にしっかりとした体制を整えるべきだ。

8/24掲載 「日台は共通の価値観を保有」
台北駐日経済文化代表処 代表 謝 長廷 氏
――台湾政府から日本政府に望むことは…。
 謝 台湾と日本は共通の価値観を持っている。それは自由、民主主義、人権、法による支配という価値観だ。これら国際的な普遍価値を共有している事を重視してこれからも友好関係を続けていきたい。また、台湾と日本の国民の間には長い歴史の中で培ったお互いの信頼感がある。それを土台にして、災害時の協力や技術革新の共有など、広い意味でのお互いの安全のために、日本と台湾の間でさらなる交流が生まれることを期待している。そして最後に、日本政府から台湾の国際組織への参加に対する後押しをお願いしたい。特にWHOやCPTPPへの台湾の参加は、日本にとってもメリットがあるはずだ。現在、年間約200万人の日本人が台湾を訪ねている。台湾の貿易に支障が出れば日本にも当然影響があるだろう。台湾がなければ地理的な空白もでてくる。特に日本が主導しているCPTPPにおいては、台湾の加入を強く望んでいる。

7/20掲載 「まず日米同盟の真の理解を」
国際変動研究所理事長 軍事アナリスト 小川 和久 氏
――政治家も官僚も、もっとしっかりと米国を活用することで日本の防衛能力を高めるべきだと…。
小川 日米安全保障条約をみても、米国は日本を防衛する義務はあるが、日本が米国を防衛する義務は謳われていない。米国を守れないと肩身が狭いと考える人がいるが、日本に米国防衛の義務がないのは当たり前の話だ。米国は日本とドイツの軍事的自立を恐れ、再軍備の時から自立できない構造の軍事力しか持たせなかった。だから、日本やドイツの軍隊が海を渡って米国を救援してくれるなどとは、考えていない。その代わり、日本は他の国ができない戦略的根拠地としての日本列島を提供し、国防と重ねて自衛隊で守っている。この役割分担は、最も双務的、つまり最も対等に近い同盟国は日本だということを物語っている。日本の官僚や政治家などいわゆる勝ち組と言われる人たちは、大学の教科書に載っていることしか頭にないようで、現実の世界で起きていることを直視する力は弱い。世界を股にかけて日本外交を進めるのであれば、世界に通用する能力を磨かなければならない。

8/3掲載 「デジタル決済は成長に不可欠」
フューチャー 取締役 山岡 浩巳 氏
――デジタル通貨は、経済社会全体のデジタル化と不可分となる…。
 山岡 FacebookのCEOザッカーバーグ氏は、昨年10月の議会証言でデジタル通貨について中国脅威論を訴えたが、日本として、技術革新が通貨を巡る競争を促す方向に働くこと、そして、決済インフラのデジタル化は「デジタルエコノミーの発展」という大きな政策課題の重要な要素であることを意識し、円の利便性向上に努める必要がある。情報技術革新により、外貨を国内で使うコストも昔に比べて下がっており、信頼度や利便性の劣る通貨はますます、他の通貨との競争に晒されやすくなっている。例えばスウェーデンは、周囲の多くの国々がユーロに移行する中、自国通貨クローナを維持するため、その利便性を高めていくことが、デジタル通貨“e-Krona”の研究を進める一つの動機となっている。日本円は、英ポンドや人民元と、米ドル、ユーロに次ぐ第3の通貨の地位を争う立場にあるわけだが、歴史あるポンドや国の経済規模の大きい人民元との競争の中、日本円を幅広い取引に使い続けてもらうためには、新技術の応用も含め、可能な取り組みを積極的に行っていく必要がある。デジタル技術の活用を通じた決済インフラのイノベーションは、日本におけるデジタルエコノミーの発展や、中長期的にみた経済安全保障にも貢献するものだ。

7/13掲載 「日本の通商戦略は2正面作戦」
杏林大学 名誉教授 国際貿易投資研究所理事 馬田 啓一 氏
――となると、日本の通商戦略はどうあるべきか…。
 馬田 完全に中国を見限るわけにはいかないというのが、企業の本音だ。現実的な対応としては、中国に片足を残したまま、中国以外のところでも生産する「チャイナ・プラス・ワン」と呼ばれる2正面作戦を考えている。米国は中国を締め出すために、関税をかけるだけでなく、中国からの対米投資を規制し、米国のハイテク技術を使って生産した製品を、米国企業だけでなく日本や他国の企業が中国に輸出することも規制している。さらに、中国での現地生産も規制して、米国のハイテク技術の流出を阻止しようとしている。日本としては単独で動くのではなく、各国との国際協調の枠組みの中で米中対立がエスカレートしないようにするのが、日本の通商戦略の課題だ。米国は11月に大統領選挙を控えている。米国経済を持ち直すことが出来なければ、トランプ大統領が再選する可能性はなくなる。現在の支持率は民主党バイデン氏が50%、共和党トランプ大統領が40%程度で、過去にこれほど差がついた大統領選ではすべて現職の大統領が負けている。もちろん、バイデン氏が大統領になったとして、今までの米国の対中戦略がガラッと変わることはない。「このまま中国を好き放題にさせると足をすくわれる」というのが米国のコンセンサスだ。親中派のレッテルがついているが、したたかなバイデン氏は国内の世論を反映して、米中デカップリング(分断)の姿勢を示していくだろう。

――農業を始められて46年。これまでの経緯は…。
  私が就職を考える頃の昭和の時代は「農業などしている場合ではない」という風潮が強かった。皆が勉強をして地元を離れ都会に出て行く中で、当時中学2年生だった私は「このままでは村が空っぽになってしまう」と強い危機感を持ったのを覚えている。そして高校を卒業し、19歳の時に外務省と農林水産省の主催で行われた米国農業研修プロジェクトに参加した。2年ほど米国に滞在して研修を受ける中で、日本の中にある情報は殆どあてにならないと感じた。それまで未知の世界だった米国は、アイダホ州という田舎だったこともあるのか、義理人情に溢れ、私にとって非常に居心地の良いところだった。一方で、私の故郷愛媛県の地元の道後温泉の辺りではどんどん土地開発が進み、農地がなくなっていっていた。同時進行的に農地法が変わって永小作権がなくなり、農地を貸せる制度が出来た。一旦、日本に戻った私が、やはり米国で農業を続けようかと考えていたところに、地元の知り合いが裏作として麦用の畑を貸してくれるという。迷った末、私は日本で農業をやることを決めて農地を借りることにした。結局、日本の農業界ではその後も減反政策など色々なことが起こり、農家が減り、農地が余るようになってきた。そういった農地が私からお願いするまでもなく自然と集まってきて、一人では手に余るようになってきたため、仲間を集めて農業を法人化することを決め、今に至っている。

――ご自身が考える「農業」とは…。
  私としては、自分が生まれた時代の風景を残したいという思いだけだった。自分が小さい頃に見ていた美しい川や田んぼは一体誰が管理していたのかと考えた時、それは農家の方々だった。地元で裏作として栽培されていた麦畑がなくなれば、「麦秋」という言葉も残らない。私は景観維持という観点から、先ず農地を麦畑にすることを決めた。当時、麦は高価なものではなく、周りからはなぜ麦畑を作るのかと不思議がられたが、価格の問題ではない。麦には麦の価値があり、その価値を高めるために麦作経営に取り組んだ。取り掛かる中で、麦は個人で販売できないという事実に直面し、流通を詳しく調べると、当時の麦は補助金政策の一環で政府無制限買入制度となっていた。裸麦というのは世界中でもそう多くない作物で、ネパールやイタリアなど一部の地域に残っている程度だ。私はこの希少価値を利用しない手はないと考え、最初は補助金をもらわず自分で販売することにした。しかし、裸麦は天候に左右されやすい。後に補助金制度を利用するようになり、徐々に規模が拡大してきたところで、リスク分散のために全国展開することを考えた。例えば、四国で不作だった時には九州で豊作になり、九州が不作の時には別の地域で不足分をカバーする。当たり前のことをやってリスク管理をしているだけなのだが、今の農協組織が考えるリスクはお金の面ばかりで、自然災害時のリスク管理についての方向性が見えておらず、連携も取れていない。私はそうこうしながら麦を作り続け、やっとここにきて国産麦が認められ始めてきた。

――しかし、農家は確実に減ってきている…。
  愛媛という地域は平たん地が少なく、1農家当たりの耕作面積も少なく、農地といえば米や麦が主体になる。また、麦の作付けをしていても、実際に裸麦を食べたことがないと言う人は多い。理由は、収穫された麦の大部分は畜産物の飼料として使われたり、醤油、味噌、焼酎の原料となったりして、主食として食卓にのぼることが殆どないからだ。戦後、輸入されてきた米国産の安い小麦を日本国民が買うという仕組みはすでに出来上がっており、わざわざ日本で麦を栽培する必要はないという風潮もあった。しかも外国産の麦は美味しいものではなかった。ようやく今、国産の裸麦を普及させていくことが出来るようになり、「麦は美味しくない」といった昔のイメージを払しょくさせ、皆に「美味しい」と思ってもらえるようになってきた。とはいえ、どんなに私が愛媛県の裸麦が日本一だと言っても、結局それを日本中で知っているのは愛媛県人か、或いは農業関係者だけだ。皆に理解してもらうためには、全国の人に食べてもらわなければ始まらない。また、最近多発している水害の影響でインフラ整備もできなくなっており、生産者も大幅に減少しているというのが現状だ。

――水害等への対策費用は国の予算から十分割り当てられているのではないのか…。
  河川の改修費用で国の予算がつくのは目に見えた大きいところだけで、中小河川敷の管理は殆ど出来ていない。昔は中小河川敷の管理はその河川に面した農地を持つ人が管理していたため、しっかり目が行き届いていたのだが、今は河川敷の管理が国のものになったため自治体任せになってしまい、毎日その場所を目にする人がいても、手を出すわけにはいかない。結局、管理の行き届かない河川敷の土手には木が茂り、草が伸び放題で、手を付けられない状態になる。自然のサイクルが壊れたことによる全国の被害は莫大だ。農地においても河川においても、集落という規模で地方自治がしっかりと管理できれば、自然のサイクルが働き、国から莫大な水害対策費用等をもらう必要もなくなると思うのだが、集落を合併させて一つの自治体を大きくしたことで地方の行政管理機能がパンク状態になってしまった。そして、荒れてしまった土地にいくらお金をつぎ込んでも解決できないという悪循環の状況になっている。

――農業の補助金については…。
  人間の生活に欠かせない食料を守るための補助金はあるべきだと思う。ただ、各機能をしっかりさせるために、補助金の出し方については考える必要がある。例えば、私は入ってきた補助金のすべてを河川の整備や田畑の草刈りといった保障管理費に使用している。生産のために使用するお金は全く残らないが、補助金は国が管理できないところを我々がお金をもらって管理するための当然必要な資金だと考えている。ただ、そのように考える農家はごくわずかで、補助金をもらうことを当然の権利とし、その補助金を使って行うべき義務を果たそうとしない人たちが多くなっている。地域の清掃についてもお金を払って他の人にやってもらい、自分で汗をかくようなことをしなくなった。こういったことが続くと、地域に対する思いや景観の大切さなどを欠片も感じない人たちによって土地や農業が動かされてしまうと懸念している。

――国は農地の集約や大規模農業を進めて経済合理性を追求する方向にあるが…。
  日本の農地を最大限活用するという事であればよいと思うが、経済合理性を求めて集団農業経営を行えば、結局、利益幅を求めて高く売るための行動をするようになる。それが、日本国民の分の食糧を差し置いてまでも輸出して儲かろうという経営になってしまってはならない。輸出するのは悪い事ではないが、先ずは自国の分の食糧をしっかり蓄えたうえで、余ったものを輸出する。欧米などでもそれが基本だ。農業は人間の営みに欠かせない一次産業だが、日本の教育で農業が教えられることはない。そして、例えば昆布の出汁殻が農作物にとって最高の肥料になるといったような無駄のない生活のための情報も、今の時代ではなかなか伝えられなくなっている。こういった世の中に「なんだか少し違う」と感じている若者たちが、昔よりもはるかに便利になった通信機能や輸送機能を活用しながら、健全な自然のサイクルを取り戻してくれることを期待したい。そのために国にお願いしたいことは、農業経験のない若者たちに、実際に様々な田畑や農地を見て体験できる機会を提供することだ。見聞を広めると同時に技術を伝えていく、そういった仕組みをつくらなければ、これからの日本の農業は難しい。私は今、「社団法人アグリフューチャージャパン」という日本農業経営者大学校に参加しているが、50年後を見据えた農業法人の育成の必要性をつくづく感じている。日本人にとって当たり前だと思われている水と緑の景観をこれからも見続けられるように、農業の力を広げていきたい。

――三島由紀夫の没後50年になる…。
 木村 三島由紀夫、森田必勝両烈士ほか3名が、自衛隊東部方面総監室を占拠し演説したことは、憂国的な行動であった。日本を憂いて、自分たちの国は自分たちで立ち上がっていかなければならない、憲法上で自衛隊が軍として成立しない限り、日本の独立は果たせないことを身を持って伝えたということだ。三島烈士は、最後の声明文として「檄文」を散布し、自衛隊をはじめ戦後の日本には「生命尊重以上の価値の所在」があるのか、と問う。生命尊重以上の価値とは、日本であり、親兄弟、愛する人の存在だ。自衛隊は軍隊としてこの生命尊重以上の価値のために自分の命を賭けられるかどうか。三島は、このままでは日本が諸外国と比較して、「無機質な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない」空虚な経済的国家に成り下がってしまいかねないという危機感を抱いていた。このため、三島は自分の命を賭け、自衛隊が日本を守ることができる組織として立ち上がるよう、日本が独立した国家となるよう檄を飛ばした。

――当時の日本では三島の思想が曲解され伝えられていた…。
 木村 当時首相だった佐藤栄作は、気が狂っていると評し、防衛庁長官だった中曾根康弘も迷惑なものだとしていた。多くの日本人は報道を通じて、事件の本質とは異なる受け止め方をしていた。三島は、「王陽明」という陽明学者を引用し、陽明学を行動の哲学であり革命の哲学であると位置付け、真理を知るということに至れば、すなわち行動しなければならないと述べた。明治維新は陽明学を核の哲学にして行動したため成功した。三島は、世の中のために、日本という国家を守るために、問題意識を持ち、それを提起し行動することの大切さを説いた。

――50年前に三島が唱えたことが、現在改めて再評価されている…。
 木村 現代の日本人は、戦後から続く平和を重んじ平和憲法を守ると言う思想が主流となっているが、当然、戦うべき時が来たら戦わなければならない。諸外国は三島が言ったように自国防衛を行っており、日本だけがいまだ取り残されている。そういうなかで日本人は今こそ三島由紀夫の考え方を学ぶべきだ。没後50年を記念して映画などが公開されている。一水会は三島、森田両烈士が割腹自殺をした2年後、彼らの「憂国の精神」を継承するため結成された。結成以来、民族自主独立を掲げ、対米自立、対米対等な独立国家を目指している。

――菅総理については…。
 木村 世の中には先駆者がいて、その後それを理論付けて皆に理解させる理解者がいて、次に革命家として実務者が現れる。今は、三島のような先駆者の後に、憲法改正の理論付けのための憲法学者が全面に出てきて、そろそろ世の中が変わってくる時期だ。最後に実務者として、安倍前総理が憲法改正法案などに取り組んでいたが病気で倒れてしまった。しかし菅総理がいる。彼は実務者として規制改革、縦割り打破を唱えており、憲法改正も期待している。しかし、菅総理が日本の歴史、伝統、対外関係を理解しているのかと疑問に思うことがある。それは、10月17日、神嘗祭と同時に中曽根元総理の合同葬が行われたためだ。神嘗祭は皇室にとって重要な祭事であり、国民にとっても祈りと感謝を象徴する重要な日であるはずだが、政府は、国立大学や自治体に対して「弔旗の掲揚」と「黙とう」を求め、祭事とは逆のことを同日に行ってしまった。菅総理や今の役人は日本という国や国民感情が本当は分かっていないと思われても仕方ない。

――一方で、国会では菅首相が学術会議を見直すことを野党が問題視しているが…。
 木村 学術会議の見直しは大いに結構なことだ。しかし、やり方を間違えた。菅総理は、日本学術会議の今までの慣例ではこうなっているが、新しいやり方があるのではないか、と正面から議論をすべきだった。学術会議の人数を減らすのもいい。しかし、6人だけ任命を拒否し、さらにその理由が説明できないのは意味のない議論だ。そもそも日本学術会議の方針で国防の研究をしてはいけないなんて学問の自由とは真逆だ。

――それに国会で学術会議の議論をしている場合だろうか…。
 木村 近隣国では、中国と台湾の関係が悪化しているうえ、北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)を持っているかもしれない状況になってきている。既にアゼルバイジャンとアルメニアでは軍事衝突が実際に起こっている。また、米国が民主党政権となったことで、尖閣を中国が支配しようとする姿勢が強まろう。世界中の国々が自国第一主義を採用し、その結果様々な紛争に発展している現状のなかで学術会議の任命などといったつまらない議論をしている場合ではない。

――中国に関してはどうか…。
 木村 中国は共産党の一党独裁ではなく、連邦的な国家を作るのがよいのではないか。あれだけ大きな国であるため、一党の独裁だけでは国がもたない。経済が発展するにつれて、その国民は自由や平等、参政権などの人間としての権利を欲しはじめる。独裁体制ではなく、共産党や国民党など様々な政党が活動し、選挙のなかで戦っていく国家を目指すことで安定を図っていくべきだ。現在の独裁体制では、国内に矛盾が発生し、それに対する国民の目をそらすために、香港や台湾など外部に向けることになる。このため、周りの国々は中国の国内矛盾が外に暴発しないようにコントロールしていく必要がある。中国が暴発した時に備えて日本の防衛力を高めることも大切だが、権力で縛り付けるのではなく中国内部のシステムを改善するよう日本が働きかけていく努力も必要だ。

――米中対立が激化するなかで日本の立ち位置をどう考えるか…。
 木村 日本は米中の利害を調整する緩衝材としての役割が求められる。それには外交において主体性を持つことが必要だ。現在米国は、オーストラリアをはじめとしたインド太平洋諸国で中国を包囲しようとしているが、単に日本がそれに加担するというのはよくない。いわゆる西側諸国やインド太平洋諸国が自由や人権を重んじ、新自由主義的考えを持つことを否定するわけではないが、中国には中国式というものがある。米中の緊張状態は高いものの、日本の外交としては中国の言い分をアメリカに伝え、アメリカの言い分を中国に伝えるようなことをすべきだ。ただアメリカの肩を持つのではなく、日本は主体的に行動することが大切だ。今までそういうことをしてこなかったから、北方領土や拉致問題が一向に解決しなかった。また、今はイスラエルとイランの関係が懸念される。新型コロナで景気が世界中で悪くなっているが、一番簡単に景気をよくする方法として為政者が考えることは戦争をすることだ。イスラエルはスーダン、バーレーンなどと国交を樹立したが、イランはそれに反発している。その結果、第5次中東戦争が始まったら、ホルムズ海峡が封鎖されることになる可能性が高い。そうなった場合困るのは大量の石油を輸入している日本であり、中国だ。また、尖閣諸島をめぐり日中間が戦争状態に突入した時、いつの間にか自国第一主義でアメリカ軍がいなくなってしまっていたということでは困る。つまり、これからはアメリカに頼りきりでなく、主体的に行動できる国家を築いていくことが重要だ。三島烈士が命を賭してまで伝えたかったことは、日本が対外的に国家主権を保持した自立した国になるべきだということだ。

――今回の米大統領選挙ではジョー・バイデン氏が勝利宣言したが…。
 貞岡 そもそも、バイデン氏の勝利宣言は余り意味がない。テレビ局の発表は各州の選挙管理委員会が発表する数字をベースにして勝敗を判断しているが、通常の投票選挙の流れは、テレビ局が発表する数字をもとに敗者が敗北宣言をし、勝者に電話をして祝意を述べるというものだ。それを踏まえて勝利宣言が行われる。つまり、敗北宣言のない勝利宣言などあり得ない。大統領選任までの正式の手続きは、今回の投票をもとに来月12月8日までに各州が選挙人を決め、その選挙人が12月14日までに誰を次の大統領にするかを投票する。その投票の結果は来年1月6日の新しい連邦議会で開票し、そこで初めて法的に大統領が決定される。このため、バイデン氏が勝利宣言をしたものの、法的にはまだ何の意味も持っていない。トランプ氏が敗北宣言を出さずに法廷闘争に持ち込んでいる限り、今回の決着は相当長引くだろう。

――トランプ氏は選挙結果に対して「不正」を訴えているが、その具体的な根拠は…。
 貞岡 郵便投票の中にはかなりの部分、正式の手続きに沿っていないものがある。例えば、投票用紙を入れる封筒は内袋と外袋があり、2重にして投函しなくてはならないのだが、内袋を捨ててしまっていたり、そういった決まりを知らずに、直接外袋に投票用紙を入れて1重で郵送されているものもある。また、例えば有権者登録がされていないにもかかわらず投票している人がいたり、事前に登録している署名と違うようになっていたり、もしくは、マークシート方式で記したマル印が見えづらくて判然としないといった、いわゆる不正ではないにしても、きちんとした投票手続きに沿ってなされていないものが多くあるということだ。今回の選挙は大統領を決めるだけの選挙ではなく、各州の上下院議員、知事などの選挙に加えて、さまざまな住民投票もすべて同時に行われている。だからこそ煩雑で開票にも時間がかかっていたのだが、そういった曖昧な票をどのように判断するのかは民主党派と共和党派で考え方が違っており、州ごとに分かれている。法廷闘争となった場合には、また混乱をきたし、判決までにはかなりの時間がかかってくるだろう。

――法廷闘争となり、その結論が出たとして、その後の流れは…。
 貞岡 裁判所で結論が出たとしても、憲法上、各州の選挙人は各州の知事と議会で決めることになっており、今、大接戦となったウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州は、知事は民主党、議会は共和党であるため、州の統一意見を見つけるのは難しい。州の選挙人がぎりぎりまで選ばれなかった例が過去にある。1876年のこの大統領選では、就任式の2日前に、ようやく民主党と共和党が話し合いを行い、次の大統領が決まった。今回、仮に同様な事態になったとしても民主党と共和党の折り合いがどの段階でつくのかわからず、またそこで決着したとしても、トランプ氏が次の大統領の就任式となる日の昼12時までにホワイトハウスをおとなしく出るかどうかも心配されている。

――エスパー国防長官も解任した…。
 貞岡 大統領選後に、トランプ大統領が エスパー国防長官を解任した理由は何なのか。今だになりふり構わず大統領の座に固執する姿勢からすると、外敵を軍事攻撃する目的で、自らの言うことを聞かない長官を解任したということも考えられる。4年後の大統領選をも視野に入れているという報道もあり、外敵を作ることで国内の支持率をさらに高めたいという戦略を捨てきれないのではないか。実際に多くのマスメディアの報道に反し、コロナ下にもかかわらず4年前の当選時よりも多くの7000万票を獲得している。トランプ大統領がこの国民の熱狂的な支持をどのように持っていくのか、バイデン氏が大統領に就任した後の最大の課題でもあろう。

――米国内での暴動にも気を付けなければならない…。
 貞岡 ミスが起こりやすい郵便投票に加え、今回の投票結果が僅差だったため、トランプ氏もトランプ支持者も納得がいかないという思いは強い。そうすると、選挙結果が白黒ついた時点で暴動や混乱が起き、国内での分断がさらに激しさを増す可能性も出てくる。しかし、もともと米国は分断している国だ。州の集まりであるアメリカ合衆国は、建国当初から政府対個人、中央政府対州政府という対立があり、そういった対立が激化したり沈静化したりを繰り返している。例えば、2000年の大統領選では当時の共和党J・W・ブッシュテキサス州知事と民主党アル・ゴア副大統領の対決でフロリダ州の集計結果を巡って対立が起き、結局、最高裁判所の判決によってブッシュ知事の勝利となったが、決着がついても民主党支持者は納得せず、しばらくの間、米国内では分裂が続いていた。それが解消するきっかけとなったのは、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件だ。今回の選挙による分断を再び結束させるものが何かはわからないが、米国はこのように分断と結束を繰り返しながら段々と大国になってきたのだと思う。

――米国の今後の展望は…。
 貞岡 現在、米国が抱えている最大の問題は所得格差であり、先ずはこれを早く直さないことには分断は解決しない。それには全体のパイを大きくして格差を是正しないことには、経済全体の活力も失うことになる。小さいパイを皆で分けるとますます貧しくなる可能性もあり、その舵取りは難しい。外交政策について言えば、バイデン氏が次の大統領になればオバマ外交の再現が始まる。オバマ前大統領時代に自分のレガシーとして行ったものを、トランプ氏が大統領になったことですべて覆されてしまったからだ。ただ、米国第一主義が有権者の中には非常に浸透しているため、TPPへの即参加は難しい。それ以外のパリ協定やイランとの核合意についてはすぐに復帰するだろう。いずれにしても、今回の選挙による分断で、米国が世界のリーダーであるという今の地位を落としていくというような考え方は時期尚早だ。

――米国の空白期間に中国が何らかのアクションを行う懸念も浮上しているが…。
 貞岡 米国内の混乱をより悪化させるために、中国が陰で動いていることは否定できない。対中政策については、米国は民主党、共和党、国民すべてが中国を脅威と思っていることは間違いないため、バイデン氏も口では対中脅威論を唱え、中国に対して強固な姿勢を貫くと言うかもしれない。しかし、実際にどこまでやるかは不明だ。オバマ元大統領が核兵器廃絶を唱えノーベル平和賞を受賞したものの、現実はその間に米国は核兵器を増強させてきたように、きれいごとを言いつつも実態がついていかないという従来の米国の政治家の要素がバイデン氏には強い。実際には中国に舐められ軽んじられる外交になるのではないか。

――米国民主党は以前から軍事力にはあまり力を入れない方針だ。そうなると、日本は自力で軍事・外交力を強化していかなければならない…。
 貞岡 仮にトランプ大統領が法廷闘争の末に勝利し、大統領2期目に入ったとしても、米国大統領には3期目がないことを考えると、トランプ氏は次の選挙のために国民の目を気にする必要がなくなり、場合によっては中国と手を結ぶという可能性も無きにしも非ずだ。日本としては、外交政策で警戒を怠ることなく、どのような事態になろうともそれに対応できるように、日頃からしっかりと情報収集をして、外交、軍事、ともに自立していく必要がある。

――資産運用会社には厳しい環境が続いている…。
 菅野 これまで日本だけの問題だった低成長、デフレ、マイナス金利という状況が、コロナ禍でグローバルに広がっている。少し前までは、少なくとも2%あった米国債利回りが今では1%以下となった。欧米の投資家も日本と同じような運用難の状況に陥っている中で、どのようにパフォーマンスを上げていくかが、我々運用会社の今一番の課題だ。特に安定的なインカムはゼロ金利の現状では望むべくもなく、これを如何に確保していくかが一番難しい。手数料を更に引き下げて投資家に還元するよう促す声もあるが、それはお客様によっても状況が異なる。例えば年金等の機関投資家は、大手公的年金を筆頭にもともと国際的に見ても日本はかなり低い手数料設定となっている。

――個人投資家に対する手数料については…。
 菅野 個人向け投資信託の手数料は機関投資家向けに比べて高いものの、グローバルな手数料低下やパッシブ化の潮流も受け、右肩下がりとなっている。海外では特にアクティブファンドの手数料が右肩下がりになっており、その結果、運用会社同士が合併してコスト削減を指向するという流れになっている。他方、日本でコスト削減のために運用会社同士の合併が進むかというと、金融グループ内での再編はある程度進んできたものの、金融グループを跨いだ合併は今後ともかなり難しいと言わざるを得ない。そのような中、我々は2016年10月にみずほ投信投資顧問、新光投信、DIAMアセットマネジメントとみずほ信託銀行の運用部門を統合して、60兆円弱の運用資産規模のアセットマネジメントOneを設立した。三井住友信託銀行も資産運用部門を切り出して、グループの三井住友トラストアセットマネジメントに統合している。今後、手数料低下の潮流に対応するためにどのような戦略をとっていくのかが、どの運用会社にとっても大きな課題だ。昨今の決算状況等を見てみると、ETF業務に以前から注力している社に関しては、日銀によるETF購入に支えられて収益がかさ上げされているものの、それ以外のビジネスが伸びている訳ではない。当社についても経常利益は前年度比ほぼ横ばい、その他の大手は、総じて収益的に厳しい状態だ。こういった状況を打破するために、手数料低下の潮流への対応もさることながら、公募投信市場の拡大自体を目指す必要がある。政府は貯蓄から資産形成へというスローガンを掲げて様々な施策を打ってきているが、現実には個人金融資産を現預金からリスク性資産へ動かすのは難しい。

――御社独自の取り組みは…。
 菅野 我々の足元の注力分野はオルタナティブ、ESG、マルチアセットの3点だ。1点目のオルタナティブは世界中がゼロ金利化してしまっているため安定的なインカム確保の手段の一つとして有効と考えている。例えばインフラに関するプロジェクトファイナンスを束ねたファンドなどは、2018年11月に当社の子会社となったアセットマネジメントOneオルタナティブインベストメンツが設定しており、毎年のインカム確保が可能なファンドを求める機関投資家に選好されている。2点目のESG投資は、欧米に比べて日本は周回遅れで金額も小さいが、GPIFなどの公的年金が先導し、他の年金基金にも徐々に広がり急成長している。我々としては、特に株式の分野で「ESGインテグレーション」というアクティブ運用にESGの観点を組み込んだ運用手法を取り入れている。個人投資家向けには、みずほグループを販売会社とする「未来の世界ESG」という公募投信を7月に設定した。グローバルな株式投資にESGの要素を組み込んだものだが、ベースになったグローバル株式投資のパフォーマンスが非常に良く、且つESGの手法が取り入れられていたため、資金流入規模は大変大きくなった。設定額は過去10年で最大の3,800億円で、足元では6,000億円を超えている。今後、ESG投資は個人投資家も含めて中核戦略として扱っていくことになろう。そして3点目のマルチアセットは、様々なプロダクトを組み合わせてお客様のポートフォリオ全体を俯瞰しながら2~3%のリターンを目指していく戦略で、特に私募投信として地方銀行を中心に提案している。このように複数の資産をリスクコントロールしながら運用していくファンドは私募投信全体で約2兆円であり、当社の主力戦略となっている。

――新興国への取り組みについて…。
 菅野 足元、新興国に注力する状況にはない。これから新興国経済は厳しくなるだろう。コロナ禍で財務支出は増加し、これをファイナンスするために金融緩和を行うと、今度は通貨が下落してくる。解が見つからない状態だ。新興国は国富が脆弱なため、財政や金融のサポートからいつまでも脱却できないと、リスクがかなり高くなる。

――公募投信がなかなか活性化しない…。
 菅野 これまで比較的投資への興味が希薄であった20歳代から40歳代までの資産形成層が、昨年の金融庁の報告書で「老後2,000万円問題」というフレーズが話題になって以降、積極的に投資を始めている。しかしながら、そういった若手・中堅層は、彼らの親が取引していた証券会社や銀行窓口ではなく、ネット証券やプラットフォーマー等での取引に慣れ親しんでいる。このデジタルプラットフォーマーをしっかり育てることで、全体としての底上げが出来て、10年後にはETFを除いた公募投信全体として100兆円超えも目指していけるのではないかと考えている。また、金融庁が顧客本位の態勢を唱える中で、運用会社や販売会社に対して様々なKPI(重要業績評価指標)を公表することを進めているが、それにも関わらず、販売会社が販売手数料を稼ぐために短期で新商品に乗り換えさせるといったような商習慣がなかなか変わらないケースも散見される。全体として販売会社は相当の努力をしてきているが、現状でも公募投信残高が60兆円台で停滞しているのは、一種の回転売買が一定程度横行している表れだと思う。

――当局への意見や要望は…。
 菅野 資産運用は社会にとって絶対に必要だということを、もっと一般に知らしめてほしい。金融庁には確定拠出型年金(DC)の使い勝手を良くしたり、非課税額を拡大するような政策対応をお願いしたい。日本では、家計に占める投資信託の割合は4%程度。米国並みの10%超を目指すのであれば、先ずはDCで増加させていくことを考えなければならない。もう一点、金融庁は今年6月の資産運用高度化プログレスレポートで、外資系と独立系を称賛し、金融グループ系資産運用会社については比較的低評価だったが、日本の資産運用会社が当初金融グループ内のみでしか設立出来なかったという経緯を無視して独立系や外資系を金融系資産運用会社の上におくことは意味がない。理想と現実をマッチさせることで、現実的な解を見出すべきだ。英国では植民地経営での稼得資金を運用する会社がグローバルに展開したことで金融が発達し、製造業等のグローバル競争力低下による凋落もカバーしてきた。日本も経済成長で1,900兆円程度まで積み上がった個人金融資産を使って、資産運用や直接金融の市場を活発化させて国力を更に向上させなくてはならない。そのような状況を生み出すと共に各種規制を緩和し、東京がロンドンに比肩する国際金融都市になれば、様々な人材が集まり、ひいては産業界の生産性も高まってくるだろう。以上も含めた種々の対応を取らなければ、他国にはない豊富な資産が、無為に減少していくことになる。

――日本の投資信託残高は米国に比べると格段に小さく、金融資産における個人の株式保有比率は年々過去最低を更新している…。
 尾﨑 日本では個人の株式保有比率の低迷の状況が続いている。松下幸之助さんは1979年に「株式の大衆化で新たな繁栄を」と20年30年後の世界を念頭にピープルズ・キャピタリズムによる個人株主の繁栄を展望した記事をPHPに寄稿したが、40年以上経った現在も実現していない。また公募投資信託の個人保有比率についても同様に減少傾向であり、これらは大きな国家的課題と言えよう。日本の国民金融資産1845兆円のうち、54%の約1000兆円は現預金であり、これは日本の5倍の金融資産を持つ米国の現預金1250兆円とほぼ同じサイズだ。そして投資信託の保有比率が日本は3.4%なのに対して米国は12.3%、株式等保有比率は日本が9.6%に対して米国が32.5%と、米国の家計は日本の約3倍のリスクを取っていることがわかる。そして長くコツコツと投資をしてきた結果、米国では金融資産も投資人口も拡大している。

――日本で直接金融市場が発展せず、資産も増えない理由は…。
 尾﨑 日本ではDC(確定拠出年金)市場が発達していないことが、大きな理由として挙げられる。米国ではDCで初めて投資信託に投資したという人が63%に上ったといわれており、日米の圧倒的な差は、資産形成としてDCを本格的に導入したかどうかによって生じていると言える。日本でDCが導入されたのは20年前だ。来年10月1日の20周年に向けて、例えば拠出限度額を引き上げたり本格的な株式分散ポートフォリオをデフォルト化するなど、DCを欧米並みに本格化させれば、それが証券市場全体の起爆剤になるのは間違いない。現在、日本の企業型DCの拠出額上限は年間66万円、個人型のIDECOが年間82万円弱だ。一方、米国の401kは円換算年間約600万円、英国でも約540万円と、桁が違う。日本は国の年金システムが「主」で、DCを「従」としているが、国家財政・年金財政が厳しいことは周知の事実であり、さらに、世界的な超低金利の継続による運用難と新型コロナによる財政の加速度的な赤字拡大や格差の拡大、また長寿リスク認識の普及から、DCの更なる柔軟化を含むイノベーションと全国民への普及が先進各国とも喫緊の課題となっているのが実態だ。日本も、新型コロナで自助意識もさらに高まっており、DCを本格化して健全な資産形成の流れを作るチャンスだろう。

――DCのポートフォリオは基本的にどのような形になっているのか…。
 尾﨑 企業型DCを例にとれば、通常、DB(企業年金)から移行するが、DCに移行する際に、せっかく分散投資していたDBのポートフォリオが、個人選択を経て平均的に半分程度が預金・保険となってしまっている。DCへの移行で、DBで潜在的に得られるはずだったリターンを得られないようなポートフォリオの内容になるのは、制度の趣旨からしても明らかにおかしい。先進各国ではデフォルトファンドと呼ばれる典型的な分散型のポートフォリオを提供するのは常識となっており、また若年層やアドバイスを受けられない低所得者層への対応としても、いかに分かりやすくシンプルなベストソリューションを提供するかが研究されている。先ほどのサイズの問題に加え、このような投資ポートフォリオの質的な課題を、菅新内閣で行政がさらに縦割りを打破していくことによってブレークスルーしていくことを期待したい。これは、今後の日本が目指す「金融立国」の中心に据えるべき課題だという認識だ。そもそも日本は、資産形成の王道として、分散型ポートフォリオを長期に積み立てていくという投資行動が大変遅れており、DC20周年の制度的本格化を啓蒙することによってキャッチアップを目指すべきだ。

――日本が金融立国として「国際金融センター」の地位を確立するためには…。
 尾﨑 先ずは、個人金融資産1845兆円を、国家的「資源」として再認識し、その「資源」をESG投資などを含め健全な投資を通じて拡大させていく、それが投資ガバナンスを通じて国際貢献にも繋がっていく、という姿だろう。国際金融センターを目指すには、特に自国民である個人金融資産の健全な形成への国家的コミットメントが必須であり、自国民の資産の健全な姿がなければ金融立国とはいえない。トマ・ピケティの2013年の著書「21世紀の資本」で提起された資本収益が所得収益を上回り、格差が拡大していく状態は今日でも世界的に続いているし、今後も続くだろう。これは、現預金中心の日本の個人金融資産にとっては極めて不都合な真実であり、これ以上放置すると、格差はどんどん拡大していくだろう。

――証券の税制上の問題について…。
 尾﨑 今、預金にしても、投資信託や株式等の有価証券にしても、資産を保有している大層は高齢の方々だ。これが日本の不都合な真実その2だ。高齢者による有価証券の保有比率は、60歳以上で70%超を占めており、70歳以上でも40%に上る。これら有価証券は一般に相続で現金化され、従って日本の個人の有価証券投資はどんどん減っていくことになる。それを次の世代に繋げていくような、有価証券を含めた相続税制の在り方を考えることは必要だと思う。それだけ証券市場は危機的状況にある。このような現在ストックとして保有されている金融資産についても、今後フローで積み立てられる金融資産についても、税制は重要である。ただ、投資が文化として発達せずに低迷しているのは、必ずしも税制の問題がネックというわけではなく、寄付を含めて社会、次世代のために積極的に余資を使うという文化の問題も大きく、投資教育はそのような観点も含む幅広い啓蒙が極めて重要だと考える。

――先ずは投資信託で学びをしながら、直接金融に慣れ親しんでいく文化を作る…。
 尾﨑 まずはコアの資産形成を投資信託を使った分散投資で行い、その分散された資産の中の一つ、例えば日本株投資信託のポートフォリオを集中して研究し、その中の投資先企業に投資信託経由ではなく自分でもダイレクトに株式投資をしてみる、そして株主総会に出席するなどを通じて、手触り感のある投資を経験していく、そのような社会貢献を実感できる投資文化を作り上げることも証券市場の活性化には必要だ。かつて渋沢栄一は「一滴一滴が大河になる」と唱え合本主義を掲げた。それを現代グローバル版に言い換えて「日本のお金を少しずつでもよいからSDGsのためのESG投資に」を合言葉に旗を振り、国際貢献をしていくという機運を盛り上げていけば、2030年までに合計すればGPIF並みの巨大な投資信託群が日本にもう一つ現れることになる。日本発の長期分散投資が倍増すれば、自然と日本に人が集まり、国際金融センターになる。日本は自国民ファーストの国際分散投資を活発化させ、いわば国際分散投資の高度化による国際金融センターを目指すべきであり、そこには自ずと人は集まるはずだ。来年のNHK大河ドラマは渋沢栄一でもあり、機運を盛り上げたい。

――日本の国家戦略である金融立国を実現させるためにはDC市場の発展が欠かせない…。
 尾﨑 申し上げたように、日本の国家戦略である金融立国と、個人の資産形成と、世界貢献、全てを実現させるための一丁目一番地はDCを欧米並みに本格展開することだ。戦後、投資信託が再開されて60年で個人保有残高はわずか70兆円。DCの本格化による少額積立に国民全員が注力すればこの額は次の10年で倍に出来る。その資金は世界の分散投資に向けられ、世界貢献と同時にそれなりのリターンも得られるはずだ。単純な計算だが、超高齢の一人世帯を除く日本の約5200万世帯が月2万円ずつをDCを含めて積立てていけば5年で70兆円になる(年率3%程度のGPIFの実績リターンも適用)。一家計当たりの平均給与が月収で36万円なので、月2万円は決して安い金額ではないが、それを1万円にしても10年で今の投資信託のサイズになる。来年のDC20周年を機に、2020年から2030年までの10年間、ESG投資によるSDGsの達成に向かって、日本のDCを本格的に発展させることで、健全な資産形成とそれを通じた世界貢献をすべく、関係者と尽力していきたい。

――このほど、理財局長に就任された…。
 大鹿 私自身の経歴は、主計局の在籍が長く4つの課長職を経験した。理財局は94年~95年に国債課に所属しており、その頃の日本経済を振り返ると、金利低下が始まったところだった。それでも当時の国債のクーポンは長期国債で4%程度あったが、私が国債課を離れた後、95年半ばに顕著な金利低下となり、何故こんなに下がるのかと同僚たちと話していたことを覚えている。一方で、当時は20年国債の市場を拡大させようと考えていたところだった。

――コロナ禍対策と税収減で、国債は再び大量増発されている…。
 大鹿 コロナ対策のための第一次、第二次補正予算を経て、2020年度の新規国債発行額は過去最高の90兆円超となった。この規模は未曽有の経験であり、大きなチャレンジだ。幸いなことに、米国の金利が低下している事や、入札実績が堅調な事などから、7月以降の増額局面でも安定的な推移を見せている。しかし、今年度の増額は短期債を中心に対応しているため、来年度にその償還が到来し、借換えが必要になることを考えると、今後の年限構成をどのようにしていくかが大きな課題だ。今後の状況を見ながら、一定の期間をかけて正常状態に戻していかなくてはならないのだが、一方で、現在のコロナ禍がいつまで続くかわからず、その辺りも見極めながら、節目節目で年限の平準化を図っていくつもりだ。

――金利が低い今は、超長期国債に力を入れるべきだという意見と、コロナ禍が短期で収束するのであれば短期国債で良いという意見もある…。
 大鹿 今春の補正予算編成の段階では、短期間に約100兆円規模の国債増額が決まったため、消化の安定性を考えて短期国債を中心に増発した。ただ、金利変動リスクや中長期的なコストという観点で考えるならば、今後も短期中心という訳にはいかない。この辺りは、上手くバランスを考えた年限構成にしていかなくてはならない。

――民間では先んじて50年債を発行している。この未曽有の中で、他国を参考に100年債、或いは永久債を出すというような議論もあるようだが…。
 大鹿 先ずは、市場のニーズをきちんと捉えることが大事だ。国債は、市場や国民の信頼で成り立っている。関係者の協力によって、ここまでの規模に充実させてきた。本当に50年以上の年限の市場ニーズがあるのか、そのニーズがどの程度なのか、新たな年限債を出すに値するほどの規模があるのかどうかを踏まえるべきだ。

――国債発行の制度はこれまで十二分に整備されてきたが、改めて何か新たな取り組みはあるのか…。
 大鹿 制度面については、毎年のように試行錯誤を繰り返しながら、かなりやり尽くしてきている面はあるが、新たな取組としては、超低金利下における表面利率の在り方について、下限が現在0.1%のところを来年4月から0.005%に変更することとしており、それに向けて準備を進めているところだ。これは、発行予定額と収入金額との乖離を埋めること以上に、現在の金利環境に合わせた発行の在り方として望ましい変更であり、市場機能の充実につながると考えている。

――日本の入札方式は価格コンベンショナル方式が主流で、米国で主流の利回りダッチ方式は40年債に使われている程度だ。今後、ダッチ方式を増やしていくようなお考えは…。
 大鹿 そういう議論があることは承知しているが、日本は市場の成熟化に伴って、むしろダッチ方式からコンベンショナル方式へと変わってきたと認識している。米国はダッチ方式へと変わってきたが、フランスやドイツなど他の主要国を見れば、やはりコンベンショナル方式が主流だ。どちらが良いという訳ではないが、入札参加者にとってコンベンショナル方式の方がわかりやすいといった事や、応札した価格での落札が期待できる事、それによって市場が活性化するといった事を勘案すると、敢えて、今それを変える必要性は無いと考えている
――プライマリー・ディーラー(国債市場特別参加者)制度の魅力が低下しているという声もあるが…。
 大鹿 プライマリー・ディーラー制度には、第Ⅰ、第Ⅱ非価格競争入札や流動性供給入札への参加資格といったメリットもある。市場との対話を重視するという面でも、常に当事者たちからの忌憚のない率直な意見にしっかりと耳を傾けていきたい。また、政府と日銀には、実質2%の経済成長の実現に向けて、大胆な金融政策と機動的な財政政策、或いは成長戦略を組み合わせていくという方針がある。我々はそれに対応し、色々なツールを使って市場機能の発揮、市場の維持・活性化を図っていく。想像力を逞しくして、今後も色々なことを検討していきたい。

――社債取引情報の公表について、この度、対象銘柄の範囲が拡大される…。
 森本 社債取引情報の発表は2015年から開始した。これまで発表対象はAA格以上の銘柄に限定していたが、この度、条件付きではあるがAフラット格の銘柄まで公表することになった。最終的には全銘柄公表することを目指しているが、日本では社債市場の規模が小さく参加者が限られているため、マイナスの影響が出ないかどうか状況を見ながら拡大していく必要がある。今回の拡大によって銘柄数がそれほど増える訳ではないが、約7~8%のカバー率向上が見込まれている。もともと日本の社債発行市場はAA格とA格が大半を占め、流通市場においてもこれらの格付け銘柄で半々程度という状況だったが、足元でA格大型銘柄の社債発行が増え始め、全体に占めるAA格以上の割合が低下してきたことが、今回の拡大の背景にある。

――社債等の募集手続の見直しも行っている。相次ぐ規制改正の狙いは…。
 森本 社債等の募集手続については、募集の際の需要状況が関係者から見えにくいという当局や業界内からの指摘があり、ワーキンググループで検討を行った。債券の発行条件を決める手法としては、海外では投資家の需要を実名で関係者間で共有するポット方式が主流だが、日本では需要額のみを報告するリテンション方式が定着している。どちらを採用しても良いのだが、今回の改正では、発行体に対して金融機関など主要な投資家の需要・販売情報を実名で伝えるというルールを作った。エクイティでしばらく前から行っているトランスペアレンシー・ルールに似たものだ。市場実勢が把握しやすくなることにより、社債等の市場がよりこなれたものになることを期待している。基本的に、社債取引情報の公表対象の拡大は来年4月からである。また、社債等の募集手続きについては来年1月からの施行を予定しているが、地方債については来年4月から、100億円以下の起債については時期をずらして段階的に適用させていく方針だ。

――日本の社債市場は米国などに比べてまだまだ小規模だ。やるべきことは沢山ある…。
 森本 社債市場の活性化は日証協が長い間取り組んでいる課題だ。足元では多少発行が増えてきたが、まだ我々が目指しているような状況ではなく、ボリューム的にあまりにも小さい。これは証券界だけでなく、当局や関係者を巻き込んで構造的問題に取り組まなければ実現しない問題だ。例えば発行体について言えば、米国ではBBB格以下の銘柄が半分以上を占めておりリスクマネーを供給するという市場の役割が果たされているが、日本ではBBB格は1割にも満たない。さらに米国には、日本にはほとんど存在しないハイイールド市場もある。そういったことから、日本ではせっかく低金利になってもリスクマネーが流れないという残念な状況になっている。発行銘柄の多様化は引き続き大きな課題であり、そのため先ずやるべきことは、銀行ローンと社債の実質的な同順位(パリパス)を確保することだ。そこで重要になるのはネガティブプレッジ(担保制限条項)であり、日本は社債間での担保制限条項はついているが、米国では標準である銀行ローンとの間の担保制限条項がついていない。その結果として、日本ではデフォルトすると社債権者の回収率が非常に低くなることから、投資家は低格付社債に投資しにくい状況が続いている。

――日本で社債管理者制度があまり利用されていないことも、社債が流通しない一つの理由だ…。
 森本 日本では社債を発行する際、社債管理者制度があまり利用されず、大部分がFA債(社債管理会社不設置債)だ。日本の法律では社債管理者の義務・責任が抽象的にしか規定されていないという事もあるが、例えば発行体のメインバンクが社債管理者になり、融資もしていれば、デフォルトになった時に、果たして、社債権者のために動くのか、自行のローン回収のために動くのかという利益相反の問題も出てくる。そうなると、低格付けのものについてはますます社債管理者制度は使われない。また、もう一つ解決すべき課題は、今の日本の社債市場における投資家層の大半が地銀など預金金融機関や保険会社が占めている事だ。米国では預金金融機関が社債を保有することは殆どなく、代わりに投信、個人、海外投資家が6割を占めている。日本はこの部分が殆どゼロに等しく、そのため持ちきりになり、流通しづらい状況になっている。流通市場が発展しなければ市場調達のメリットは発揮されない。

――社債が投資信託に組み入れられない理由は…。
 森本 日本ではFA債が大半だという事の裏返しでもある。投信に組み込むには信用リスク分散のために色々な銘柄を入れたいが、FA債は券面1億円以上であるため、金額が大きすぎる。同様に、個人投資家に対しても1億円以上という規模は大きすぎる。これは、社債管理者制度とリンクしている問題であり、理想的な状態からかなり外れているため、この辺りをもっと良い形に近づけることが出来れば、取引量も増えてくると考えている。

――銀行がもっと弾力的に直接金融を育てるという気持ちにならないものか…。
 森本 そろそろ、その辺りも変わってきていると思う。中小企業等は当然、銀行融資が中心だが、大銀行が大企業に貸すことは、最近ではリスク管理が難しいと考えられる様になってきている。バーゼル規制上も、同じ融資でも大企業向けはさらに慎重に評価すべきとなっている。先ずは企業が社債を使って資金調達を行い、その後、色々な手段で金融商品にすることは出来るし、最近では銀行もグループ化し、社債引き受けも大きなビジネスになってきている。大企業の資金調達で社債が増えれば、そういった銀行グループにとってもマイナスではないだろう。制度、慣行的な問題が絡んでいるが、この点については是非、関係者間でそうした機運が醸成される様にしていきたい。基本的に、投信等の金融商品では先ずクレジットものがベースにあり、その上にエクイティ、デリバティブ、オルターナティブなどを加えて商品性を作り上げていくというのが普通だ。しかし、日本はこのベース部分がないため、すぐに外国のものに頼り、そのため、為替リスクが出てきてしまう。これらは、日本の投資家に健全な金融商品を提供する上でも解決すべき問題であり、本腰を入れた取り組みが必要だと考えている。

――一方で、期待を持てる動きも出てきている…。
 森本 今、低金利下で社債発行が増えているという事は期待できる動きだ。また、今まで低格付け債が発行されない理由の一つに、機関投資家の投資基準がA格以上になっていることが多かったという背景があるが、GPIF(年金積立金管理運用独立法人)が2年前からBB格までの低格付け債に投資出来るよう基準を緩和するなど、目線は変わってきている。さらに、会社法が改正され、来年から社債管理補助者制度が施行される。この制度は、社債管理の権限や責任がより明確であり、低格付け債にも利用されることが期待されている。社債管理補助者制度は、以前、日証協が任意の制度で作った社債権者補佐人制度がたたき台になっている。我々としては、この時の要綱やひな形を改訂して新制度が利用されるように活動していくつもりだ。また、取引情報の公表の見直しについては、我々としても引き続き可能な範囲でしっかり取り組んでいきたい。ただ、それだけで社債市場の活性化が進む訳ではない。社債市場を巡る構造的問題について、証券界だけでなく、当局や関係者を巻き込んで検討が進むように努力して行きたい。(了)

――野党は分党と結党を繰り返し、非常にわかりづらい状況になっている。今回、新たな国民民主党が目指すところは…。
 玉木 2017年にできた立憲民主党と旧国民民主党が合流して一大野党を目指そうと、皆が納得する条件交渉をこれまで重ねてきたが、結局、今年8月11日に立憲民主党が提示した条件では旧国民民主党全員の同意を得ることが出来ず、交渉は役員会レベルで事実上決裂した。しかし、秋にも総選挙かと言われていた衆議院内では、野党として一つの塊になったほうが当選しやすいという考えをもつ議員もいたため、合流したい人は合流するという事で分党の決断に至った訳だ。我々新たな国民民主党としては、これまで同様、政策提案型の改革中道政党を貫いていく。与野党関係なく、このコロナ禍で大変な思いをされている日本国民や日本企業を救うために、一つでも多くの政策を出すことが、今の政治家の役割だ。これまでにも、10万円給付案、持続給付金にフリーランスを含める案、家賃補助案など、国民の役に立つ政策を提案してきた。今後も継続して具体的な政策案を出し、その実現を図っていきたい。国民民主党が標榜するのは「偏らない、現実的な、正直な政治」だ。その立ち位置をしっかりと守り、コロナ時代の新しい野党の在り方を模索していく。

――憲法議論や安保問題を考えていく上でも、同じ考えを持つ人達で一つの党を結成するのは当然のことだ…。
 玉木 憲法議論についてはこれまで以上に積極的に行っていくつもりだ。すでに改正草案もほぼ出来ている。私は、議会政治においては議論を戦わせる事が何より大事だと考えており、審議拒否はしない。論点を明らかにするという意味でも議論を積極的にやりたいし、賛否あってよいと思う。その中で我々なりの考え方を示していきたい。また、安全保障問題については、これだけ米中対立が深まっている中で、野党議員としても外交安全保障に対して現実的な解決策を示すことは不可欠だ。さらに、経済や企業が元気にならない限り、働く人も元気にはならない。国民一人一人を豊かにするためには、日本経済を底上げしていく具体的な政策提案が必要だ。

――憲法9条の改正案とは…。
 玉木 自衛隊を戦力として認めたうえで、その戦力行使がどこまで認められるかという縛りを憲法に明記すべきだ。様々な戦いの形態が想定される今の時代に、どういう時に武力を行使することが我が国の平和主義と整合的なのか、その外枠の議論を、国民全体を巻き込んでコンセンサスを得るための議論が、憲法議論においては一番大事だ。日米同盟もあるが、基本的に自分の国は自分で守るべきであり、米中対立が激しさを増す中でどのように日本が対応していくかはどの政権にとっても大きな課題だ。

――中国包囲網ともいえる「アジア版NATO」についての考えは…。
 玉木 中国は引っ越し出来ない隣人だ。彼らが国際秩序のなかで責任ある大国として振る舞うことを期待する。それが日本対中国の一対一の関係では難しいのであれば、多国間で中国に対して然るべき提言を行うような外交が必要だが、私はアジアで軍事同盟的なものを結ぶよりも、「21世紀の日英同盟」を結ぶべきだと考えている。ここで指す「英」は旧英連邦を意味し、インド、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド等すべての旧英連邦の国々を含む。これらの国々と同盟を結ぶことが出来れば、経済を含む安全保障上の問題において、日本が相当大きなポテンシャルを持つことになるだろう。

――南シナ海などで中国が覇権主義を拡大させている中で、日本のシーレーンは守ることが出来るのか…。
 玉木 日本の海上交通路について言えば、日米同盟は地域全体の公共財という役割を果たしているため、それを強固に保つことは必要だ。同時にアセアン周辺諸国の協力も欠かせない。ただ、米国がアジアへのコミットメントを弱めていこうと考えているのであれば、力の空白が出来てしまうため、そうならないように米国をアジアに関与させ続けるという努力を日本はし続けなくてはならない。シーレーン防衛は我が国にとって生命線とも言える。何かがあった時の後方支援の在り方を事前に定めておくことは重要だ。

――国内の経済政策については…。
 玉木 自民党政権は約7年8カ月の間、アベノミクスという名目で経済政策に力を注いできたが、この間の実質GDP伸び率は平均約0.9%でほぼ横ばいだ。しかもケインズが言っているように、あらゆる財政政策、金融政策も長期に亘れば効果を発揮しない。日本がバブル崩壊後に本来やるべきだった事は、より付加価値の高い産業構造に転換していく、本当の意味での構造改革だ。今こそ原点に返り、生産性の向上とそれを支えるためのイノベーションを追求しなければならない。そのためには優秀な人材の教育が必要だ。この30年程度で国の予算規模は1.7倍に膨れており、特に年金・医療・社会保障は3.3倍になり、高齢者に対する資金投入が増大している一方で、教育や科学技術に対する予算規模は昭和後期から全く変わっていない。国際競争力ランキングを見ても、日本は平成最初の頃は4年連続1位だったのに、今では30位台で中国や韓国にも負けている。企業の時価総額ランキングでも、平成初めの頃はトップテンの内7社を日本企業が占めていたが、今ではトヨタ自動車が40位台に入る程度だ。これは、これまでに各国が教育や科学技術にかけた投資額の差だ。

――教育や科学技術に対する投資をもっと増やしていくべきだと…。
 玉木 日本は天然資源がないため、人材という資源で劣る訳にはいかない。それなのに、今の日本の子供たちは、世界中の、特にアジアの子供たちに比べてハングリーさが足りないように感じる。同じ世代で諸外国と戦うためには、今の日本の人材育成教育のままではいけない。全ての子供たちが質の高い次世代型の教育をしっかり受けられるように、公教育にはもっと力を注ぐべきだ。そして、経済格差が教育格差につながり、生涯所得の格差を生み出す今の悪循環の仕組みを早く変えなければならない。また、日本の科学技術力に関して言えば、中国や米国が軍事技術を民間に転用して発展しているのに比べて、日本ではそれがない分、遅れがちだが、技術大国日本をもう一度取り戻さなければ、これからの日本の主要産業はどうなっていくのか。日銀が大量の株を購入したり金融緩和をしたりと、表面上の数字をよく見せる術は沢山やっているが、本当に焦点を当てて進めるべきことは、国家の基礎体力をあげることだ。そういった部分で、我々が新しい提案をし、国会で皆の目を覚まさせるような議論をしていきたい。コロナ禍によって社会や経済の在り方が大きく変わってきている。それにともない、政局の在り方も野党の在り方も、変わっていかなくてはならない。その第一歩として、国民民主党としての新たなスタートをしっかりと踏み出していきたい。

――安全保障にも関係する農業政策について…。
 玉木 今回のコロナ禍で再認識したのは、日本国内で一定程度の食料を生産できる体制を維持しておかなければ、有事の際に国として存続できなくなるということだ。安全保障上の観点から見て、食料にしてもエネルギーにしても、国内需給をいかに高め、国内回帰をいかに進めていくかが重要になっており、グローバルに開き続ける時代から、「戦略的に閉じる」分野をきちんと見定めていく時代に変わってきている事を感じている。特に、農業や漁業という一次産業は、地域創生にも繋がっている。農地の多面的機能を生かし、集落を維持していくことがその土地を守ることになるという考えから、米国や欧州には田舎の農業を支援する制度もある。日本は海に囲まれているため、そういう発想はあまりないが、地方の土地を大事にすることは、国家保全のために重要だ。先進国で行う農業は、途上国で作るよりはるかに高いコストがかかるが、安全保障などの観点からも、農業は税金を投入してでも守るべき業種だ。産業のための農業と、地域保全のための農業を、その目的を明確に峻別したうえで、それぞれに応じた税を投入していくことが、これからの農業政策には必要だ。

――財務省の課題について…。
 岡村 まず、コロナ禍の下での国際的合意形成のための方法論が今日的課題だ。込み入った交渉事をリモートで行うのは非常に難しいと実感している。課題認識の中身に入ると、先ずはコロナ感染拡大の抑制策と経済活動の再開をいかに両立していくのか、特に、需要・供給両面の縮小による実体経済の停滞が長期化せざるを得ない状況にどう向き合うのか、そして、大規模な財政出動や金融緩和の効果と副作用を見据えてどのように舵取りしていくのかが、喫緊の課題だ。今、株価は約30年ぶりの高値圏にある一方で、企業業績は良いところと悪いところに分かれている。流動性供給のためのドル資金の大量供給が重要なセーフティーネットとして機能した一方で、行き場を求める投資資金は豊富にあるといえよう。株価が、足元ではアップダウンしつつも趨勢的な上昇を見せているという事は、コロナ禍ではあっても、将来に対する悲観は強くないことの表れだ。一方、為替は各国通貨の相対的強弱なので、国際的な動きが同方向に連動しがちな株価とは異なる動きとなる。日米欧の金融政策の温度感が揃っている中で安定している現状にあるが、当局としては、急激な変動に備えて常に客観的なリスク認識は欠かせないと考えている。

――コロナ禍で、世界的に政府債務が増えてきている…。
 岡村 日本の政府債務のGDP比率はもともと高く、かねてからプライマリーバランスの黒字化を財政政策上の目標として掲げ、それに向けて努力してきた。今回のコロナ禍では世界的な債務増大が問題となっている。特に途上国債務は、大変深刻な状況だ。コロナ禍以前より、中国は途上国に対して、不透明な条件での貸付や非譲許的な貸付を行ってきており、これは途上国の債務持続可能性の悪化の大きな原因となっている。中でも、中国が行ってきた担保付貸付は、他の先進諸国から「無責任貸付」ともいわれる程で、我々も警戒を強めていた。というのも、担保付貸付は、途上国が債務を返済できなかった場合に、債務の代わりに、例えばその国の港湾運営権など、中国の国家戦略において重要な意義を持つ資産の権益を獲得するものであり、中国のやり方が世界の安全保障に直結するからだ。こういった中国の途上国に対する経済的囲い込み行動を国際社会全体でいかに封じ込めていくかが、これまでにも増して大きな課題となっている。G20で合意した債務支払猶予イニシアティブを実施中だが、将来的には、支払猶予だけでは済まなくなり、更なる債務再編が必要になるケースも出てくるだろう。そこでは、IMFや世界銀行といった国際金融機関からニューマネーを供給する必要が出てくるので、先々は、そうした国際金融機関に対する増資の必要性という話にもつながってくる。

――中国包囲網の一環として外為法も改正されたが…。
 岡村 外為法では、国の安全等の観点から、一部の業種への対内直接投資について、事前届出を義務付けている。今年5月に施行された改正外為法では、届出が必要となる上場会社の株式取得の閾値を10%から1%に引き下げる等の経済安全保障面の懸念への対処を強化した。しかし、それが外国からの投資を過度に抑制することのないよう、一定の基準を順守すれば事前届出を免除するなど、対内直投の促進という原則とバランスをとるような制度設計としている。今はこれを順調に運用していく段階であり、さらに規制を強化する必要があるとは考えていない。投資組合からの投資に関しても適切な手当てを行っており、しっかりと法改正の趣旨に沿って運用していくことに注力している。

――制度を改正したとして、それを監視する体制は…。
 岡村 外為法は、財務省国際局が横串的に、各事業を担当する官庁と共同で所管する仕組みとなっている。審査に当たっては、先ずは各事業を担当する官庁、例えば技術関係であれば経済産業省、情報通信関係であれば総務省といったように、それぞれが担当する分野の責任を持つことになっている。しかし、届出案件に対して安全保障上問題があるかどうかの判断が出来る目利きの人物はそれほど多くおらず、審査体制自体がそれほど強固ではない。経験を蓄積しながら体制を整備している状態だ。

――東京を香港に替わるアジアの金融ハブに据えるという構想について…。
 岡村 アジアにおいて日本の金融ビジネスの地位向上を目指す動きはかねてからあり、政府等でも様々な取組が行われてきた。香港情勢が揺らいでいる今こそチャンスだという声もあるが、それほど単純なことではない。香港市場の発展の経緯をみれば、香港で行われている中国本土向けのビジネスを日本に移すという考えには至らないだろうし、日本の市場が中国化するのであれば、香港にいる欧米系の金融機関の人たちはむしろ日本を敬遠する可能性もあるだろう。あくまでも、香港市場の一部の機能を日本が補完することで、アジアにおいて香港・シンガポール、そして、日本が、それぞれの強みを生かしながら金融ハブ機能を発揮し、日本全体にもプラスになるという方向性を考えている。

――シンガポールのように税率を安くしたり、「金融特区」を作り分離課税を行うようなアイデアは…。
 岡村 アフターコロナの時代において、ビジネス・生活環境の整備はますます重要な要素となってきている。しかし、それだけではなく、金融センターが所在する香港やシンガポールと比べて、特に所得税や相続税の負担を何とか軽減しなければ、リモートワークの環境が整いそれが当たり前の生活になってきた時に、日本を離れて税率の安い海外に移住して仕事をする人たちも出てくるかもしれない。日本を金融センターとして魅力のある国にするために必要な政策を、財務省と金融庁でタッグを組んで考えていきたい。「金融特区」については、それらが政治的な綱引きの材料になってはいけないと考えている。また、国税について、一国の中で異なる税率を設けるのは、公平性の観点から慎重に検討すべきものであり、場合によっては有害税制にもなり得る。もっと現実的なやり方を考えなくてはならないだろう。

――米中対立が悪化して米ソ冷戦時代の二の舞になれば、中国をゲートウェイとするビジネスモデルは通用しなくなる。日本の経済外交の方向性は…。
 岡村 米国の中国に対する基本姿勢は、安全保障の観点を考えると、大統領選の結果にかかわらず、今後も変わらないだろう。しかし、仮に米中融和となった時に、米国に寄り添っていた日本に対する中国の対応は非常に厳しいものとなろう。日本が米国にはしごを外される可能性も否定できない。日本はインドとアセアンに注力すべきという声もあり、その通りと思う一方で、インドもアセアンも、日本と中国を天秤にかけているということは常に考慮に入れておかなければならない。伝統的な米ロ対立の構図の中で米国と同盟する欧州は、米中対立の文脈では第三極の形成を指向しているように見える。そういったこと全てに注意しながら、日本は、今後ともアジアで生きていかなくてはならない。暗中模索ではあるが、諸情勢を冷徹に見通して、最善の道を探していきたい。

――全国農業協同組合中央会(JA全中)の役割について…。
中家 全国には584の農業協同組合(JA)がある。各地域のJAは、組合員のニーズに応じて、農業生産に必要な肥料や農薬等の資材を共同で購入したり、農畜産物を共同で販売したりする経済事業や、貯金・貸出などの信用事業、生命・建物・自動車等の共済事業など、幅広い事業を展開している。JAが事業を総合的に行うなかで、それぞれを効率的・効果的にすすめていくため、事業ごとの専門的な組織は都道府県段階や全国段階で各系統に分けられている。このJAグループの中で、代表・総合調整・経営相談の3つの機能を担うのがJA全中だ。「代表機能」として、組合員・JAの共通の意思の結集・実現をはかっていくことで、生産現場や組合員・JA等の会員からの声を積み上げ政策企画・提案や、多様な媒体を活用した情報発信などに取り組んでいる。また、「総合調整機能」として、地域・事業の枠を越えてJAグループの総合力を発揮していくため、戦略立案や組織・系統間の様々な調整などを行っている。最後に、「経営相談機能」として、創意工夫ある取り組みに積極的に挑戦するJAに対し、営農経済・くらしの活動・人材開発・情報システムなどの分野での支援や、JAの経営健全性を確保するため、法令・会計・税務・人事労務等に関する情報提供・改善支援などもすすめている。

――食料安全保障の重要性が増している…。
中家
 食料安全保障に対するリスクは、近年、非常に高まっている。要因は、日本における食料自給率の低さと生産基盤の弱さだ。農業に就業する人たちは高齢化し、担い手が不足している。担い手がいない田畑は荒れ果てて使い物にならなくなる。その結果、農地が減少しているというのが現状だ。さらに、ここ最近の自然災害は農畜産物の生産に多大な影響を及ぼしている。この異常気象による自然災害は世界的な問題だ。日本の食料自給率は38%であるが、残りの62%を海外に頼ろうとしても、世界中で農畜産物の生産量が低下すれば輸入も出来なくなる。加えて、世界の人口は増加しており2050年には95億人にもなると言われている。人間の増加に対して食料供給が追い付かない時代になってきている。現在の飢餓人口は約7億人とも言われているが、今後この数字はさらに増えていき、世界的な食料難となっていくだろう。一方で今後も、農業は国際化していく。TPPや日欧EPAなどで日本の農業が市場開放していることをみても、それは明らかだ。

――日本の食料自給率をアップさせるための契機となるものは…。
中家 COVID-19(新型コロナウィルス)の流行でマスクの需要が急激に増えたことが、日本の食料自給率を考えるための一つの教訓となっている。日本のマスク自給率はもともと2割程度だったが、COVID-19の発生によって政府によるマスクの生産支援を受け、大幅に自給率をアップさせた。ただ、工業製造品であるマスクは生産に乗り出せば、一定期間において生産量を増やすことができるが、農畜産物は生産量を増やそうと思って直ぐに増やせるものではない。荒れた農地を元に戻すには、5~10年のスパンで考えなくてはならない。そのことを理解してもらうために、我々はあらゆる機会を通じて発信していきたい。日本の農地を疲弊させてはならない。そして、消費者の皆さんにはこうした日本の食料や農業に関する実態を知っていただき、出来るだけ国産農畜産物を応援していただきたい。

――農業を活性化させるためのJAの取り組みは…。
中家 現在、全国のJAで農業者の所得増大をさせるための取り組みを行っている。一円でも安いコストで一円でも高く買っていただけるような販売戦略を考え、肥料農薬など生産資材の低価格化等に取り組むことで、農業者の所得増大に繋げていきたいと考えている。日本の生産者は、日本の多様な地域に合った様々なものを生産しているが、どうしても自然との関わりがあるためリスクもある。リスクヘッジがきちんとなされ、安定した収入に見直せなければ、農業に従事する人が減少していくのは当然だろう。こういった生産者の状況を消費者の皆さんに理解してもらうのは簡単なことでないと思うが、食の安全性などからみても、今の日本の農畜産物を評価いただければと思う。

 

――農作物の生産にあたっては、どういった部分に一番費用がかかるのか…。 
 中家 今、生産者も生産者団体も「食の安全・安心」に非常に関心をもって取り組んでいる。それはもちろん消費者のニーズに応えるためだが、そのために検査も厳重になっている。規定外の農薬が使われていては出荷できない。各生産者は、いつ、何処に、何の農薬を、希釈何倍で使用したか等の記帳が義務付けられており、それをもとにJAの指導員がチェックしている。決められた希釈以外で農薬使用した場合、すべて出荷停止となる。大変なのは、例えば、違う作物の畑が隣り合わせになっていて、農薬が風に運ばれて隣の畑にかかってしまった場合だ。故意ではなく、風によって規定外の農薬が畑に運ばれ、それが数値として残った場合でも、それまで一生懸命作ってきた作物を出荷できなくなる可能性がある。そういった不慮の事態を防ぐため、各生産者は物凄い神経と労力、費用を使って、「食の安全・安心」を作り上げてきている。これは消費者には見えないコストになっている。

――流通コストが高すぎるという声もあるが…。
 中家 例えば、流通を簡素化する形として、生産者が直接宅配業者に頼んでネット販売する方法もあるが、その場合は生産者自身が代金回収などの販売リスクを負うことになる。また、個人販売における農作物がきちんと農薬管理などを行っていたかの証明が出来ない場合もあり、これは消費者にとってのリスクになる。JAグループは生産者・消費者双方にとってのメリットを追求しつつ、流通コスト低減に向けた取り組みをすすめていく。

――今後の日本の農業への抱負を…。
 中家 5年前、一連の農協改革により農協法が改正されたが、我々JAグループは「農業者の所得増大」、「農業生産の拡大」、「地域の活性化」を基本目標とした創造的自己改革の実践をすすめてきた。組合員の願いを実現するため、これからもJAグループ一体となって自己改革に取り組み続け、日本の農業、農村が元気になるように努めていきたい。また、今回のコロナ禍では食料の輸出規制を行う国が出てくる事態となったが、これを契機に、食料安全保障に関する課題を国民の皆さんにもっと浸透させていきたいと考えている。自国で消費するものは自国で生産するという「国消国産」の重要性を広めていきたい。この他にも、企業がテレワーク等を定着させていく中で、例えば、地方へ移住し、会社員として働きながら農業に取り組む人たちが出てくるというような、東京など大都市からの「一極集中の是正」の流れにも期待している。

――コロナ禍で金融機関の在り方も変わりつつある。今の地方銀行の役割は…。
 大矢 今回のコロナ禍で、今までの金融機関にあった「雨が降ったら傘を取り上げる」というイメージが少し払しょくされ、「有事でも役に立つ」に変化しているように感じている。同時に地方銀行も「お客様の役に立つことで収益をあげていく」或いは「事業者を守ることで地域の経済や雇用を守る」という存在意義が明確になってきている。バブル崩壊後、都市銀行と地方銀行の役割は大きく分かれ、この10年間でその役割分担がようやく定着してきていた。そこに今回のコロナ騒動が起き、我々としては、とにかく資金破たんを起こさせないよう、資金繰りを出来る限り協力するという姿勢で臨んでいる。すでに取引のあるお客様にはもちろんだが、今回初めて融資を申請されるお客様には政府の実質無利子融資制度等を活用してニーズにお応えしている。ただ、資金繰りをつけるというだけでは何の解決にもならない。コロナ後のビジネスモデルが今のままでは通用しないという事であれば、我々がビジネスモデル変更のための支援やコンサルティングを行い、最終的には返済できる体力をつけてもらうことが重要だ。デフォルトを起こさないようにするため、雇用を守るため、企業を守るための取り組みが大事だと考えている。コロナ禍がいつまで続くかわからないが、キャッシュアウトが続くとすると財務体質は毀損する。内部留保が無くなり債務超過になった時に、経営者に倒産という選択肢を選ばせるのではなく、雇用を抱え、社会的企業価値のある会社については、我々の支援で当面の資金繰りをつけ、本業に専念する時間をつくり、安定したキャッシュフローを生み出していく。今後、数年間はこういった仕事が続くと考えている。

――マイナス金利が続く中、今回のコロナ禍で産業構造自体が変わってきている。対策は…。
 大矢 マイナス金利の中では融資だけで利益を上げる事は難しいため、ファイナンスも主力だったシニアローンに加えてメザニンローンも取り入れ、エクイティやCP、SP、直接金融のアドバイスも出来るようにしてきた。同時にビジネスマッチングやM&A、事業承継のお手伝いなど非金融分野のサービスも提供してきている。特に今後は、ファイナンス面に加えて非金融の分野でお客様の価値向上につながるような取り組みをしっかり行っていくつもりだ。また、お客様への情報提供の一環として行ってきたセミナーについては、ウェブやオンラインという形で、密集を避けたサービス方法へと変更し、お客様の安心安全を第一に考えている。オンライン商談会では、テレワークを支援するシステムやサーモグラフィ等、今の時代に合わせたソリューションを提供し、大変ご好評いただいている。

――金利と手数料収入、アドバイスフィー等のバランスは…。
 大矢 銀行は一時期それらをはき違え、かなり銀行都合に寄っていた部分があったことは間違いないが、それはこの10年程でかなり軌道修正されてきた。お客様に本当に評価されるものでなければフィーも払っていただけないし、場合によってはトラブルになる事もある。そういう意識のもと、投資商品の販売にしても、適切な手数料でお客様の財産の全体のポートフォリオを作成し、環境の変化に応じて少しずつ中身を変えていくやり方に変えたり、保険商品も補償付きの付加価値を生むような、本当にお客様の役に立つ商品ばかりを揃えている。法人ビジネスについても同様に、企業にとってのファイナンスの意味を常に問いかけながら、ベストのタイミングで最も効果的な資金調達や経営アドバイスを提供していきたい。そのために、きちんとした関係性を構築し、持続的な付き合いになるよう努力している

――銀行の統合再編について…。
 大矢 日本は基本的にオーバーバンキングという認識はある。特に預貸中心の銀行は、日本国内の企業が資金余剰であることを考えると今後のニーズは少ない。さらに言えば、東京一極集中が続き、地方経済が疲弊している現実を考えると、地方銀行は非常に難しい立場に晒されている。それを少しでも挽回するために、地方創生で地域経済の活性化を試みているが、ビジネスにつなげるにはまだ時間がかかる。その間、それぞれの地方銀行がコスト削減を図る方法として、効率化のために、ある程度の規模を確保するようなことは一つの選択肢としてあるだろう。企業サイドも同様に、グローバルに戦っている日本企業の中には規模が小さいという問題がある。今回のコロナ禍では、サプライチェーンの問題で需要が激減した。そこで生産性を上げるために、ある程度の規模感が必要となり、事業承継や他企業との提携といった、これまでは喫緊とされていなかった課題がメインとなり加速していく局面になりつつある。

――地方銀行の合従連衡やネットワークを利用した取り組みについて…。
 大矢 地方銀行が色々なもの全てを一行で備えるには、費用対効果が低いという場合に、数行が協力するような取り組みはあるだろう。実際にシステムに関してはすでに相当グループ化されている。そういったことをきっかけに、バックオフィス業務を同県内で共同化したり、運用についても共同で取り組んだり、非競争分野で協力していく事は今後ますます増えていくと思う。一方で、地方銀行の統合に関して言えば、お互いの戦略が一致しているか、きちんとした相乗効果が生まれるか、そういったことをきちんと株主の皆様に説明できるかも考えたうえで行わなくてはならず、実際にそういった統合事案は少ない。全ては統合によって企業価値があがるかどうかだ。

――決済手段については、フィンテックの登場で銀行不要論も出ているが…。
 大矢 決済分野での現金の取り扱いはコストがかかるため、銀行としてもキャッシュレスの方向に進めたいと考えている。それに限らず、コロナ禍によって今後ビジネスモデルが変わり、非対面での取引が増加していくとなれば、フィンテックが持つ能力はますます重要になっていくだろう。我々にとってもそれはビジネスチャンスであると捉え、すでにそういった面でノウハウを持つフィンテック関連企業との連携を進めているところだ。

――金融検査マニュアルが廃止されたが、これにより変わったことは…。
 大矢 マニュアルの廃止は随分前から言われていた事だ。しかも、これまでもマニュアル通りの検査や行政指導が行われていた訳ではなく、実質的には合理的な判断であれば各銀行が行うことを認めるというスタンスだったため、今回の廃止によって何かが劇的に変わるとは思っていない。ただ、マーケットへの説明責任も含めて、これまで以上に自主的な判断で経営を律していくことが求められるということだろう。

――地銀に対するBIS規制について…。
 大矢 コロナ騒動が長引き、企業倒産が相次ぐという事態になれば、銀行としても資本が毀損していく局面は大いに予想される。そこで自己資本比率が低下し、銀行の弱さが露呈すると、企業を支えたくても支えることが出来なくなり、経済を回す力が無くなってしまう。それは国民経済にとって不幸なことであり、そう考えると、ある程度の規律は必要なのだと思う。金融庁はこれまでの強権な指導から伴走型へと変化し、「自己責任による経営」を基本としている。金融機関が国民経済を守り、地域経済を守るのだとすれば、金融機関が潰れないように金融システムの維持に努めるのが金融庁の役割であり、バブル崩壊時の銀行破たんによる地域経済の疲弊を繰り返さないための当然の指導だろう。ただ、足元では当局が介入するような状況にはないといえる。

――その他、金融庁への要望や提案は…。
 大矢 業務範囲の規制についてはもう少し緩和しても良いのではないかと思う。その最たる例が不動産ビジネスであり、ここはなかなか風穴があかない。銀行と事業会社のファイアーウォールの緩和が金融庁だけで解決できる問題ではないのは承知しているため、例えば、成長戦略の中の未来投資会議などでこういった銀行の規制緩和を議案として取り上げれば、企業活動や個人の生活がより便利になることにつながり、地域経済が力をつけていくのではないか。

――コロナ禍が長期化する様相となっており、金融機関には不良債権化の懸念が出始めている…。
 氷見野 緊急事態宣言時に比べれば経済は持ち直しているのだとは思うが、今後どのようになって行くかを見通すことは難しい。コロナ禍の長期化の可能性も否定できないとなると、金融機関としても悩みどころだと思うが、顧客に背を向けるという選択は無いのではないか。不良債権が怖いから資金繰りを繋がないということを一旦行うと、地域の中での信頼は二度と取り返せないだろう。今後については、長引くコロナ禍で課題が山積する顧客に対して、経営改善や事業再生支援などに取り組むことが銀行の本来の仕事だ。金融機関としての本領発揮の時であり、それをせずに放って置くことは、結局は信用コスト増にもなってしまうし、金融機関の存在意義も社会に信じてもらえないと思う。コストカットや販路拡大、業種転換、事業承継を支援するなど、様々な工夫を進める上で、政府としても出来るだけのサポートは行っていく。すでに政府系金融機関からは約6兆円の劣後ローン枠が、地域経済活性化支援機構(REVIC)等のファンドからは約6兆円の出資枠が確保されている。そういった選択肢も組み合わせて事業再生に取り組んでもらいたい。

――海外の株主の中には、金融庁の貸出し要請が株主利益に反するという意見もある…。
 氷見野 株主への対応に関して海外の当局は日本当局よりもかなり強権的だ。欧州当局では配当や自社株買いを禁じるなど、経営判断の根幹である資本政策にまで介入して貸出しを行うよう指導している。一方、日本当局の貸出し要請が株主の利益に反するかといえば、そうではないと思う。地元で資金繰りに困っている顧客を見捨てるような地域の金融機関に将来性はなく、そういった企業の在り方を株主が本当に望んでいるだろうか。東証とともに出したコーポレートガバナンスコードの冒頭では、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえたうえで経営者が果断に決断できるような仕組みをコーポレートガバナンスと呼んでいる。また、私は30年前、米国のビジネススクールで学んだが、その時の授業で、マーケティングはもちろん、生産設備、財務、人事全てにおいてカスタマーを最優先することを教わった。会社を儲けさせてくれるのはカスタマーしかいないからだ。アングロサクソン型資本主義か日本型資本主義かというイデオロギー論争に時間を費やすつもりはないが、むしろ大事なのは、株主にも顧客にも中途半端にしか向き合わない甘い資本主義か、株主との関係でも顧客との関係でも妥協を許さない厳しい資本主義かの違いだろう。

――顧客本位が基本であると…。
 氷見野 道徳や説教の類にとどまるのでは本当の顧客本位とは言えない。「売り手よし、買い手よし、世間良し」の近江商人経営が日本型資本主義の例だと言われるが、近江商人は3つをどれもいい加減に甘くするようなことはしないのではないか。例えば、「SDGsに取り組んでいるか」と追及された時に「いえ、うちは営利企業ですから」と答え、「ROEはどうか」と聞かれた時に「いえ、うちは利益のことだけを考えているわけではないので」と逃げたりしないのが本当の三方良しだと思う。

――地方銀行においては、景況感も悪く不良債権の増加も懸念される中、マイナス金利が 長期化するとなると、さらに厳しい経営状況になっていく…
 氷見野 環境が厳しいのは間違いないが、地方銀行には多くの可能性がある。例えば人口減少や高齢化による後継者難など、地域には解決すべき課題が多くある。そして、銀行は今でも人材の宝庫だ。優秀な人が沢山いて、長年培った信頼関係と地域のネットワークがある。そうしたリソースを課題の解決につなげ、さらにそれを収益に結び付けることができれば、いたずらに悲観するべきことはないと思う。

――フィンテックなどIT絡みでの活路について…。
 氷見野 コロナ禍がフィンテックを進めるチャンスになっているが、オンラインやリモート、キャッシュレスだけではフィンテックを十分に活用しているとは言えない。例えば、ご来店頂いたお客様の色々な情報は、大半が行員や店員の頭の中に経験として残るだけで、会社内で共有できる情報はわずかな量だが、コロナ禍によってオンライン上での契約が当たり前の時代になれば、いつどこでログインをして、どの部分に興味を示し、どのタイミングで飽きてログアウトしたのかという情報がすべて残る。顧客の関心事や課題、何が購入のきっかけになったのか、そういった情報にどのような対応をするのかまで可能になるのがフィンテックだ。銀行としても、お金を預かって国債を購入しているだけでは収益につながらない環境では、お客様の役に立つフロンティアを広げざるを得ない。そういった努力を進める上で何か気になる規制などがあれば、それは是非教えてほしい。当庁での手続きや金融機関に残すべき証拠書類などでは印鑑レスや簡素化を進めていく。他にも当庁で明確化した方が良いものについては、しっかりと今の時代に沿った形にしていきたい。

――積年の課題である直接金融市場の拡大について、特に社債市場や投資信託市場は米国に比べて極端に小さく、個人株主保有比率も過去最低を更新しているが…。
 氷見野 コロナ禍の影響を考えた時、まずは資金繰りを繋ぐこと、そして、その先に経営改善や事業再生と続く。事業再生では負債面をどう再構築するか、エクイティをどう発行していくかという事になる。コロナ後の社会で産業構造を転換して新しい社会をつくる必要があるとなれば、資本市場の役割はさらに大きなものになっていく。新しいリスクをとる企業にどう立ち向かっていくのか、それをどう支えていくのかはエクイティの話であり、資本市場が強くないとダイナミックな転換はできない。コロナの後始末に手間取って停滞を続けるのではなく、コロナ収束後に新しい経済を築いて成長していく国になるためには、高い機能を有する資本市場が欠かせない。銀行中心のリスク分担に代わるものが出てこなかったのが、この30年間の日本の停滞の一つの背景にある。それを放置していてはコロナ後の経済も開けない。簡単ではないが、今度こそ何とかせねばならない。

――新長官としての抱負を…。
 氷見野 これまで、遠藤前長官のもとで色々な課題について議論を重ねてきており、今の幹部メンバーは何が優先課題なのか、何をしたいのかという共通認識が出来ている。その方針を引き継ぎ実施していきたい。真面目な行政官が必要な情報を集めて検討した時に、採れる選択肢はそんなに多くない。IMFやFRBなど海外の機関で働いていた若手人材が金融庁に戻り、色々な提言を出している。国際派新長官が無理やり国際色を出さないと国際化しない金融庁では、もはやない。

――東京都医師会はPCR検査を受けられる医療機関の拡充を発表した。その狙いは…。
 尾﨑 東京都では現在1日平均5000件のPCR検査を実施しており、陽性率は7%。1日当たり都内で350人の感染者が出てもおかしくない計算ではあるが、PCR検査が十分に受けられる先進国の陽性率は2%程度となっている。そこで、日本も陽性率を2~3%に下げるために、今の倍以上のPCR検査を受けられるような体制を整える必要があると考えた。東京都の人口は約1400万人なので、1万人当たり1カ所、つまり1400カ所の診療所に置くことを目指している。1カ所につき10件のPCR検査を見込めば、現在の5000件に加えて1日総計約2万件のPCR検査が可能になる。検査数としては充分だろう。また、今のうちに診療所でPCR検査を受けられる体制を整えておくことで、秋冬にかけて流行りだすインフルエンザとの鑑別診断を容易にする狙いもある。インフルエンザと新型コロナ感染者の両方をしっかりと診療できる体制を整えておくことは重要だ。

――これまでなかなかPCR検査は拡大しなかったが、どのような方法で進めていくのか…。
 尾﨑 各地区には医師会があり、例えば世田谷には1100人の医師会員がいる。世田谷区の人口は約90万人なので90カ所の診療所で実施するとして、そこを1100人の医師で診る事はそんなに無謀なことではない。地域毎にある各医師会が、協力してくれる意思を持つ医師会員をまとめて東京都と集合契約を結んでくれれば、PCR検査の体制作りは1~2カ月もあれば完了するだろう。これまでPCR検査は、特別な場合を除いて居住している地区の保健所でしかPCR検査が受けられなかった。保健所がPCR検査を仕切っている理由は、保健所の成り立ちに関係している。元々、保健所も厚生労働省も結核を中心とした感染症を撲滅するために内務省から分離して作られた検査組織だった。そして、感染の可能性のある人たちすべてを保健所で検査し、感染者については徹底して隔離するという昔からのやり方を、政府は今回のコロナ禍でも踏襲しようとしている。しかし、結核と違って新型コロナウイルスは感染力が強く拡がりが速いため、保健所では対応出来ていないのが現実だ。そのため、医療機関で直接PCR検査が実施できるように仕組みを変えなくてはならない。少なくとも、体調の悪い人や、不安を抱えている人には早く検査を受けられるようにした方が良い。今の時代に合わせた保健所の在り方が求められているということを政府はきちんと受け止め、早く変革に取り組むべきだ。

――感染者数の増加は止まらず、経済を止めるわけにもいかない。何か対策案は…。
 尾﨑 4月の感染者ピーク時のPCR検査件数は1日当たり多くても300件で、陽性率が40%になる時もあった。当時は検査数自体が少なく、しかも、熱が数日続いて肺炎の影がなければPCR検査を受けられなかったため陽性率は高く、中でも中等症・重症者が多かった。それが今は無症状や軽症の人たちもPCR検査を受けているため、感染者数が増加するのはある意味当たり前だが、初期対応が良くなかったことも今の感染者増加につながっている。第1波の感染拡大の頃、キャバクラやホストクラブなどで集団感染が起きていたことは判明していたが、4月の休業要請の際の協力金が50万円で、そういった店を休業させるには到底足りない金額だったことから、店の経営者は感染者がいることを知りながら休業要請に応じず営業を続けていた。それがくすぶり続け、結局、緊急事態宣言を解除した時に、キャバクラやホストクラブに出入りする若者を通じて周辺の飲食店などへと感染拡大し、さらに市中に広がった。震源地から広がる感染は、震源地を強制的に休業させない限り、拡大を防ぐことは出来ない。きちんとした法律を作り、感染の源と思われるところを補償とともに一斉休業させれば、感染拡大は1~2週間で解決するだろう。そうすれば経済もすぐに戻る。

――新型コロナへの感染を気にして人々が病院に行く事を避けるようになると、病院経営も大変だ。病院に対する政府の支援状況は…。
 尾﨑 コロナ患者を診療した場合は、診療報酬が3倍になるといった仕組みや、新型コロナ2次補正予算で病院に対して2000~3000万円が支払われるといった政府の支援があるが、現実はコロナ患者を診療する病院では平均して月9000万円の赤字、コロナ患者を診ていない病院でさえ、やはり月1000万円の赤字となっている。病院経営には莫大なお金がかかるという事を世の中の人たちは理解していない。そこで東京都医師会としては、コロナ発生前の3年間の診療報酬を参考に、例えばその8割程度を補填してもらうといった仕組みを考えてほしいと日本医師会を通じて政府に要望しようと考えている。また、国は中小企業を対象に5割以上の減収となった場合、或いは3カ月平均で3割減収した場合に一定の補助金支援を行っており、それは大病院以外の中・小病院やクリニックにも適用されるのだが、2割減程度だと支援は受けられない。しかも申請手続きには非常に複雑な書類が必要だったり、OSはWindowsでなければならないというような現実があり、Macの使用率が多い医師にとっては、ただでさえ忙しい中に非常に無駄な時間が要されてしまっている。今時、OSの仕様が違うから申請が受け付けられないなど、先進国として見識を欠いた対応ではないか。

――その他、都や国への要望は…。
 尾﨑 行政との関係が上手くいっている医師会とそうではない医師会があるが、東京の場合は、都と医師会が車の両輪であるという共通認識を持ち、常に連絡を取り合いながら物事を進めることが出来ていると思う。一方で、実際に東京都が休業要請を出しても、結局そこに強制力はない。宿泊療養や自宅療養の仕組みにしても、大元の仕組みを決めるのは国の役割だ。その国が的確な政策をとっていないという事に対して、言いたいことは沢山ある。もっと本気になって最善の策を考えてほしい。例えばPCR検査にしても、診断治療の一環として行うものと、経済活動を円滑に動かすために実施するものと、一定の地域で感染している人数をはっきりさせるために行う公衆衛生上の検査の3つに分けて、そこに健康保険を適用させるのかどうかも含めて、検査体制をきちんと整えることが重要だと思う。目的に応じたPCR検査を自由に受けられる仕組みを早く作るべきだ。今は高い検査費用も、検査数が多くなれば資本主義原理で安くなっていくだろう。医療の現場では、患者や感染者を救うために日々最適な決断を迫られながら頑張っている。政府にも、もっとスピーディーに、先を見越した政策を実行してもらいたい。その意味で、早く法律を改正してインフルエンザの流行時期の前にしっかりとした体制を整えるべきだ。

――台湾は、新型コロナウィルスの封じ込めに成功した数少ない国の一つだ。具体的にどのような対策を行ったのか…。
  台湾は今日(7月20日現在)までに455人の新型コロナウィルス感染者を出したが、海外渡航歴のない台湾内感染者数はわずか55名だ。そして今日までおよそ3カ月間、国内の新規感染者を出していない。台湾では最初から感染者のルートをしっかりと把握していた。昨年12月末頃に中国武漢で新しいウィスルによる病気が発生しているという情報を掴み、12月30日から武漢から台湾への人の出入りを厳しく検査した。そして1月20日に疫病対策司令部を作り、同時にそれまで約80%を中国から輸入していたマスクも、台湾国内で製造できるように体制を整えた。これまで1日180万枚だったマスク製造量は、今では台湾内で必要な1日1800万枚を超える2000万枚近い製造が可能となっている。

――マスクを国内生産して台湾内での供給量を満たすまでには時間がかかったと思うが…。
  最初の頃は需要に供給が追いつかなかったため、マスクは配給制にしていた。1995年から実施していた「全民健康保険」のカードを利用して、国民1人当たり1週間に3枚、少し落ち着いた頃から2週間に9枚のマスクを、薬局やコンビニエンスストアでいつでも受け取れるような仕組みを作った。ITを利用することで、どこに行けばマスクの在庫があるのかという情報もすぐ分かるようにした。日本では新型コロナウィルスが流行りだした最初の頃、マスクの供給が需要に追い付かず、マスクの値段が高騰し、買いだめをするために長蛇の列を作るという大変な事態に陥っていたが、台湾では配給制にしたことで、そういった混乱はなかった。

――感染者や濃厚接触者、海外渡航履歴者の行動管理も徹底していた…。
  台湾ではロックダウンすることなく、人々はほぼ普段どおりの生活をしていたが、感染者や濃厚接触者、海外から戻った人たちには14日間の隔離を義務付けた。感染者や感染が疑われる人たちの居場所はアプリを利用して行動が分かるように徹底し、隔離指定された場所を少しでも離れれば、本人への警告はもちろんのこと、警察にもすぐに知らせるようなシステムを作り、隔離された人には1日当たり1000台湾ドル(約3600円)の補償金を支給し、一方で違反者には最高100万台湾ドル(約360万円)の罰金を科した。実際に違反して最高額の罰金支払いを命じられた感染者は、人に害を与えた罪で公表されている。このように色々な政策を駆使して新型コロナウィルスの封じ込めに成功している。

――SARS(急性重症呼吸器症候群)の教訓が生かされている…。
  2003年初めに中国でSARSが発生した際、台湾はWHO(世界保健機関)に参加出来ず、感染拡大を食い止める効果的な手を打てずに多くの犠牲者を出した。政府はその教訓から、WHO加入も中国からの情報提供も期待できない中での対策を考え、法整備を進めてきた。実際に「伝染病防治法」は2003年半ばから6回の修正を行っている。様々な感染症の封じ込めには、権限を持つ政府省庁間の協力が大変重要だ。今回の新型コロナウィルスも、台湾では多くの人が早い時点でSARSに似ていると察知したが、潜伏期が長く、無症状でも感染が拡がるという点が厄介だった。そこで「伝染病防治法」によって政府省庁間の協力体制を整え、早い段階で厳格な水際対策と隔離、接触者の特定と感染経路の把握に務め、とにかく経路が追えない市中感染が拡がらないように全力で取り組んだ。規定に基づき高リスク対象者には住宅検疫隔離を実施した。

――中国本土では経済が減速しており、その国内不満を抑えるためなのか、覇権主義的な色彩をますます強めている。台湾への影響は…。
  国内の求心力や団結力を求めるために対外挑発することは、中国の伝統的なやり方だ。インド、フィリピン、ベトナム、台湾、香港、米国等、全方位に手を出している。特に最近の中国は、米国との対立で致命的なダメージを受け、今年のGDP成長率は5%以下になると見られている。これまで中国の人民が共産党を支持してきた理由は、「自由はなくとも働いていれば収入が増えていく」という経済の発展に基づくものだったが、そこに陰りが見えている今、習近平氏は外国に対して色々なことを仕掛けることで、国内の高揚心を煽っていこうと考えているのだろう。とはいえ、ネットワークが発達している今、世論を完全に統制することは出来ない。今、中国人民の一部或いは半分の人たちが、インターネットの情報等によって中国の本当の姿を知っている。真相を知っている以上、国外逃亡や財産の移動などが行われていてもおかしくはない。

――ソ連崩壊の時は、何の前触れもなくあっという間に崩れ落ちたが、中国でも同じことが起こるのか…。
  直前まで表面的には穏やかなまま、一夜にして形成が変わるという事はこれまでの歴史をみても珍しくはない。独裁体制とはそういうものだ。実際には、今、世界の中で単独で中国に対抗できる国は米国以外にはなく、中国の覇権主義に不満を持つアジアの小国が各々で声を上げても中国の力で制圧されてしまう。対抗するためには、各国が協力し、団結して解決していくしか方法がない。台湾としては、アジアを安定させるため、自由を守るために、世界各国と協力していくつもりだ。台湾もかつて民主運動が弾圧された歴史があり、38年間の戒厳令解除後も「動員勘乱時期国家安全法」が制定され、それに対する抗議と弾圧があった。今の香港情勢を見ると、以前の台湾の様で、感慨を覚える。自由や人権は天から落ちてくるものではない。闘争するものだ。実際に台湾も闘争して、それでも自分たちの力ではどうにもならないと思った時、国際社会が助けてくれた。それは重要な力だ。

――台湾政府から日本政府に望むことは…。
  台湾と日本は共通の価値観を持っている。それは自由、民主主義、人権、法による支配という価値観だ。これら国際的な普遍価値を共有している事を重視してこれからも友好関係を続けていきたい。また、台湾と日本の国民の間には長い歴史の中で培ったお互いの信頼感がある。それを土台にして、災害時の協力や技術革新の共有など、広い意味でのお互いの安全のために、日本と台湾の間でさらなる交流が生まれることを期待している。そして最後に、日本政府から台湾の国際組織への参加に対する後押しをお願いしたい。特にWHOやCPTPPへの台湾の参加は、日本にとってもメリットがあるはずだ。現在、年間約200万人の日本人が台湾を訪ねている。台湾の貿易に支障が出れば日本にも当然影響があるだろう。台湾がなければ地理的な空白もでてくる。特に日本が主導しているCPTPPにおいては、台湾の加入を強く望んでいる。(了)

――新型コロナで、どこの大学も大変な状況だ…。
 島田 通常、4月から日本の学校は1学期に入るが、3月くらいから新型コロナが拡大し、4月からの対面での授業は難しいという流れになった。そのため、やはりオンライン授業しかないということになった。津田塾大学では1学期開始当初からはできなかったが、1カ月程度遅れて始め、今はすべてオンラインで行っている。文科省の指示があり、学校自体は封鎖している。許可のない人は入れず、学生はもちろん部活もできない。入学式さえできなかった。現時点では10月以降に入学式をやる予定で考えてはいる。オンライン授業については、当大学は比較的スムーズに進んだほうだろう。当大学には学芸学部と総合政策学部と、学部が2つある。総合政策学部は3年前にスタートし、今年4年生が入ったため、ようやく4学年揃った形だ。学芸学部は学科が5つあり、英語英文学科、国際関係学科、新設の多文化・国際協力学科それから理系で数学科と情報科学科がある。オンライン授業の導入は技術的な面で苦労したが、情報科学科の教授陣はシステムのプロが中心のため、ここが中心となってオンライン化を進めた。オンライン化では、今までの講義のやり方を変えなければならないが、教授によってはITリテラシーが十分でない方もおられるため、ここが大変だった。特に文系の学部は難しい場合も多いが、当大学は比較的規模が小さいうえ情報科学科があったことで、比較的スムーズに移行できた。当面の問題は9月からの第2学期以降だ。

――具体的には…。
 島田 9月以降もすべてオンライン授業でやっていくかどうかという点だ。今後の方針は今のところ未定だが、来年の春くらいからはおそらく徐々にリアル講義とオンライン講義と両建てで行っていくことになるだろうと考えている。例えばワクチンや治療薬が出てきて、コロナも風邪の一種のようになってくればまた違うが、それはどうもまだメドがついていないようであり、そのためいろいろと検討しているところだ。ただ両建てという形式にもそれなりに問題点がある。津田塾大学は4割近い学生が地方出身で、東京や千葉、神奈川などの首都圏から通う学生が6割くらいだ。地方出身の学生は寮や下宿などから通うことになるが、今はそういう学生たち(外国留学生も)は実家に帰り、実家でオンラインの授業を受けている。しかし、週に1、2回リアル講義をする形になると、そのためにもう一度下宿などを探さなければならない。寮も今閉めているのを再開しなければならない。例えば9月から11月はオンラインで、12月は集中的にリアル講義でやるとすると、実家から通える首都圏の学生は問題ないが、地方の学生や留学生は対応が難しい。そうなるとオンライン講義を主軸でやる必要があるのではないかと考えている。その場合、数か月に1回リアル講義を行うとすれば、短期間ならどこかの安いホテルに泊まって大学へ来るということもできるだろう。ほかの問題としては、両建てだと、授業のプログラミングが難しくなるということもある。それなら全部リアルかオンラインで統一したほうが良いということになる。

――両建ても確かに問題はある…。
 島田 ただそれでも、ある程度実地演習のようなものが必要な学科や講義はある。他の大学で言えば、医学部などだ。実際に人体の解剖をしなければ医者にはなれない。津田塾大学でも短期留学などが出来ないため、教育としては不十分だ。新型コロナが収束に向かっていれば良いが、今の状況が続くとすれば、秋になってもリアル講義を中心にすることはできない。そうするとまたいろいろな問題が表面化してくる。特に1年生はキャンパスでの授業を一度も経験していないわけだ。津田塾大学の小平キャンパスは広く自然豊かなキャンパスにもかかわらず、そういったところでキャンパス生活を送ることができず、体育館も閉鎖しているため部活もできない。大学の授業そのものはオンラインでできるとしても、やはり本来の大学教育から見ると内容が不十分だ。ディベートもテレビ会議などでできるとはいえ、会って目を見ながら対面で話すのとでは全然違う。この一学期はやむを得ずオンラインで授業はやったものの、それでも今の学生たちからキャンパスライフは失われている。大学というのは友人を作るところでもあるが、友達ともネットでしか会ってないということもある。高校生たちから自分たちが勉強できないということをきっかけに、秋入学の話も出ていた。高校は大学ほど先生たちがスキルを持っていない場合も多いため、オンライン授業が難しく、結局宿題のようなものを課すだけになってしまうなど、高校生たち自身が大学入試に心配になってしまったようだ。一時期あまり教育の仕組みをわかっていない政治家などがそれに乗っかる形で秋入学の話が出た。ただ、秋入学については文部科学省や大学のなかではもう20年来の積年のテーマとなっている。6~7年前にもやろうという取り組みがあったが、結局反対も根強く案は潰れてしまった。

――秋入学への変更はまだまだ課題が多い…。
 島田 そもそも秋入学の一番のメリットは欧米のほとんどの大学と入学・卒業時期を合わせられる点だ。日本の大学が4月に始まることになった理由については所説あるが、国立大学は全体経費の9割くらいのお金を国からもらって成り立っており、そのお金は4月~翌年3月の会計年度に合わせて出てくるため、秋入学に変えると非常に計算が難しくなる。そういった問題があることに加え、すべての教育に関するありとあらゆる習慣が、4月~翌年3月に合わせられているため(もちろん別の問題として、4月新卒入社をどうするかも大きいテーマだ)、大学だけを秋入学にすると、例えば3月に卒業した高校生は秋まで何をするのかということになってくる。遊んでいるのではないかという問題も当然あるが、ただ遊んでいるわけにはいかないから予備校に行くということもあるだろう。そうすると、予備校に行くための費用が掛かる。そういったことを考えると、小学校から大学まですべて秋入学にしなければならなくなる。以前浮上した秋入学の議論は、大学だけ、あるいは大学と高校だけといった話だったが、大学と高校だけをやったとしても、それでは3月に卒業した中学生はどうするのかという問題が出てくる。そのため、欧米では小学校からすべてが秋入学となっている。加えて、例えば今年秋入学にしたとすると、今の高校3年生は来年3月には卒業してしまうため、6カ月間どうするのかという移行時の問題も出てくる。その間また学校を続けるとすれば、高校は現在無償化されているが、私立は無償ではないため、その場合はその間の授業料をどうするのかといった話にもなる。この半年間の空白はすべての学年で起きることになる。その半年間で世界漫遊をしたり、インターンをしたりとかすればいいという説もあるが、かといってすべての学生ができるというわけでもない。また、欧米などと入学時期が異なるために、日本の大学生が留学しにくくなっている。そういったことを踏まえると、秋入学自体には大賛成だが、相当準備してお金を掛け、政府と協力して行う必要がある。少なくとも4~5年掛けた周到な準備が必要だ。コロナを理由にすぐやろうとしても難しい。とはいえ、コロナは1つの大きな転機でもあり、抜本策を考える好機でもある。

――津田塾大学の理事長としての抱負は…。
 島田 課題解決型の教育をする大学を作る目的で、総合政策学部を3年前に千駄ヶ谷に創設した。今まで日本の大学のほとんどはどちらかと言えば知識を教えるだけの大学だった。津田塾大学創設者の津田梅子さんはアメリカから1882年に帰国した際、日本の女性は社会であまりに自立してないとの思いを強く持ち、当大学の基本理念を、社会でオールラウンドに活躍できる自立した女性を育てることとした。つまり企業でも、官庁でも、あるいは国際機関や地方自治体、あるいは教育現場でも自分の力で生きていく女性を育てることだ。そういった自立した女性を育てるためには、大学で知識を吸収するだけの教育ではいけない。そのため、今の総合政策学部の課題カリキュラムのベースは、課題を自分で見つけることだ。格差問題や政治・経済のグローバリゼーション、社会保障制度、貧困問題、あるいは日本の小中学校のいじめ問題など、そういった具体のテーマを見つけ、憲法や経済政策、経済原論など自分のテーマに合う科目を取り、4年間勉強していく。そしてそのベースにあるのは、リベラルアーツはもとより、英語とICT教育だ。英語は当大学が得意としているところだ。それに加えて情報科学、ICT。英語とICTの基礎を徹底的に勉強し、そのうえで課題解決型の勉強をし、卒業論文を書いて卒業する。それでできれば、大学院にも行ってその課題解決研究を続けていくという、その基礎を作るのが総合政策学部だ。英語については、ビジネス英会話・英作文ができる程度になって全員が卒業するようにしたい。ICTはプログラミングやデータベースの基礎を学ばせる。そのうえで課題を見つけ、課題解決を後半の2年でやっていくのが総合政策学部だ。ほかの学部についても、経済学や英語のコミュニケーション能力を身に着け、国際関係学科は英語だけでなく第2外国語も履修し、国際関係問題を勉強する。数学科は情報科学だけでなく、当然英語もビジネス英語レベルにする。ビジネス英語ができるうえに女性でさらにICTの基礎ができていれば、将来社会に出ても失職することはない。さらに課題解決能力があれば、どこの組織に行ったとしても、この組織の課題は何か、どうしていけばいいか、と考えることができるということであり、日本だけではなく世界で日本の自立した女性が活躍できる基礎をつくることに当大学は貢献していきたい。

――6月にデジタル通貨勉強会を立ち上げられた…。
 山岡 日本のデジタル決済インフラの進むべき方向性について、メガバンク3行を含む日本の代表的企業や有識者からなるメンバーと、2週間に1回のペースで勉強会を行っている。皆、日本の金融インフラやデジタルエコノミーの発展に強い関心を持ち、活発な議論が行われている。論点としては、決済プラットフォーム間の相互運用性をいかに高めるかなどが挙げられる。もう一つの論点は、ブロックチェーンや分散型台帳などの新技術の活用だ。ビットコインなど従来型の暗号資産もこれらの技術に依拠しているが、価値が不安定で支払手段には使えなかった。しかし、最近では「リブラ」のように、安全資産を裏付けに持つステーブルコインが登場している。リブラは各国当局の強い警戒を受けて4月に方針変更を余儀なくされたが、新しい技術を決済インフラに応用できる可能性を示すものであることは確かだ。勉強会では9月末を目指して報告書をまとめていく予定だ。

――中央銀行のデジタル通貨発行については…。
 山岡 日銀当座預金はすでにデジタル化されており、大口決済専用のデジタル通貨を発行するのであれば、金融システム上の特段の問題は考えにくい。一方で、現金の代わりに使えるようなデジタル通貨を中央銀行が発行する場合、銀行預金からの資金流出を起こさないかが論点となる。とりわけ低金利環境の中では、信用リスクのない中央銀行デジタル通貨が預金を侵食する可能性も高まる。そうなると民間銀行を通じた資金仲介が縮小し、長い目で見た資源配分の非効率性につながる。また、危機時には預金から中央銀行デジタル通貨への急激な資金シフトが起こるおそれもある。さらに、中央銀行による情報やデータ独占といった問題もある。したがって、まずは民間主導でのインフラ提供がどこまでできるかを考えることが生産的だ。また、民間の方が新技術のビジネスへの応用などにも取り組みやすい。例えば、「スマートコントラクト」や「アトミックスワップ」などの技術により、商流や物流と金融との連携や、証券と資金とのDVP決済の自動的な実現、バックオフィス事務の合理化などを実現していくことが考えられる。いずれにしても重要なことは、「新技術を金融インフラのイノベーションに役立てていく」という視点だ。

――金融とITはほぼ一体化してきている…。
 山岡 コロナ禍を受け、金融のIT化はさらに加速していく。金融機関の店舗でもソーシャルディスタンスが求められる中、今後はますます、人々が自宅から殆どの金融取引を行えるような環境が必要となる。昨年訪れた北欧では、銀行窓口のハイカウンターが歴史的建造物になっているのを目にした。それほど金融機関店舗の整理統合やデザイン変更は進んでいる。そしてコロナ禍の下、金融機関が職員を店舗に参集させ、感染対策を講じるコストも高くなっているし、顧客側も手続きのための外出などは避けたい。さらに米欧では、現金への接触を嫌がったり、接触型のカードを避ける動きも見られる。これからの金融は、遠隔からPCやスマホでサービスを利用する顧客のUX(ユーザーエクスペリエンス)を高めていくことが求められる。これに伴い、金融業の「ITインフラ産業」としての性格も一段と強まるだろう。

――とはいえ、日本では今でも現金が主流だ…。
 山岡 世界的な決済のデジタル化にはいくつか理由があるが、まずスマホの普及が挙げられる。世界では、銀行口座は持っていないがスマホは持っているという人々も多い。中国のテンセントが提供する「ウィチャットペイ」のユーザーは約10億人にも達するなど、多くの人々がスマホを通じて金融サービスにアクセスすることが可能になった。貧しい人々への金融サービスの普及、すなわち金融包摂(financial inclusion)は長年の世界の課題であり、かつてはその解決策として、銀行の支店やATMの設置が議論された。しかし、今やスマホにどのような金融サービスを繋げるかが議論の中心になっている。これに伴い、決済などの金融サービスの担い手として、銀行だけでなくアリペイなどのネットワーク企業が大挙して参入しており、金融サービスの供給構造も多様化している。さらに、デジタル化に伴い現金関連のコストが一段と意識されていることや、経済のデジタル化に伴いデータの重要性が高まる中、決済に付随する情報やデータの有用性に多くの企業が注目していることも、デジタル決済を後押ししている。

――デジタルの支払いにおいては詳細な情報が付随してくる。半面、匿名性は保たれない…。
 山岡 デジタル決済の下では、「誰がいつ、どこで何を買ったか」といった情報やデータを収集し、処理することも可能となる。もちろんプライバシーは大事な論点であり、この点では現金の「匿名性」は利点とも言える。しかし、近年、FATF(金融活動作業部会)などの国際的な議論でも、とりわけ高額の支払いへの現金の利用は、マネロン規制の観点から問題視されやすくなっている。日本における現金のGDP比率は約20%と世界でも突出しているが、このことは今や、日本がマネロンや脱税に甘いと受け止められるリスクもある。さらに、デジタルエコノミーの発展という観点からも、決済インフラのデジタル化がある程度進むことは、日本全体にとって望ましいといえる。例えば、“MaaS(Mobility as a Service)”を考えると、乗り捨て可能なレンタルバイクのサービスを実現する上では、「誰が自転車を利用しているのか」を提供側が把握でき、また、乗り終えた時には支払いも自動的に終わっているようなデジタル決済インフラが必要不可欠になる。また、日本の配送ビジネスは、その信頼性の高さゆえに「代引き」まで行われているが、留守宅への配送や、さらにドライバーの方々を感染リスクから守る観点からは、現金を介さずにモノとマネーの同時受け渡しを実現できるインフラが重要になっていくだろう。最近のデジタル技術は、その実現を可能としている。

――デジタル金融を普及させるために必要なことは…。
 山岡 昨年、北欧諸国を訪問したが、日常の支払いにおいて、現金がほぼ使われていない実態を目の当たりにした。北欧諸国が口を揃えて言っていたのは、デジタル化に必要なのは技術よりも、むしろ強い意志と社会の理解、制度対応だということだ。例えば、電子政府化で知られるエストニアは、ソ連崩壊の中で独立を果たした小国であり、独立当時には資金もインフラもなかった。人口は今でも130万人と少なく、湖沼地帯の中にまばらに点在する集落が多い。この中で、対面・マニュアルでの行政サービス網を維持するコストを賄うことは難しく、「デジタル化しか選択肢がなかった」とのことだった。そこで彼らは、電子IDカードの保持を義務化し、行政手続きの99%を1年365日、1日24時間いつでもオンラインで可能にした。彼らは、「デジタル化を行いながら一方でマニュアル事務も残してしまうと、デジタル化のメリットは得にくい」と強調していた。この点日本は、「デジタル化の一方でマニュアルも残す」典型的な国であり、これには非常にコストがかかる。今回のコロナ禍における10万円の配布も、マイナンバーで配布手続きを完結させることは難しく、結局、市役所の方々などの大変な手作業に頼る事態になった。先程の「代引き」もそうだが、日本の人々のマニュアルでの事務水準の高さや頑張りは世界でも特筆すべきものだ。しかし、それに頼り過ぎてデジタル化が遅れてしまっては、先行き、日本の競争力にも響くことになってしまう。

――中国のデジタル通貨への取り組みは…。
 山岡 中国はなお資本規制を持つ国であり、一朝一夕で人民元が世界の基軸通貨になれるわけではない。ウィチャットペイやアリペイも基本的には国内用の決済手段であり、国際的なプレゼンスは低い。ただ、中国が4月からデジタル人民元の実験を開始していることが示すように、デジタルエコノミーの発展や人民元のプレゼンス向上を目指す中国の「本気度」は、日本もしっかり認識する必要がある。中国は14億人の人口を抱え、食料や鉱物資源などの多くを大量の輸入に頼っている。中国が中長期的な発展を遂げていく上で、貿易取引や対外調達を米国などの政策の影響を受けにくいものにしたいと考えるのは当然であり、人民元のプレゼンス向上は、経済安全保障の観点からも優先順位の高い政策となる。

――デジタル通貨は、経済社会全体のデジタル化と不可分となる…。
 山岡 FacebookのCEOザッカーバーグ氏は、昨年10月の議会証言でデジタル通貨について中国脅威論を訴えたが、日本として、技術革新が通貨を巡る競争を促す方向に働くこと、そして、決済インフラのデジタル化は「デジタルエコノミーの発展」という大きな政策課題の重要な要素であることを意識し、円の利便性向上に努める必要がある。情報技術革新により、外貨を国内で使うコストも昔に比べて下がっており、信頼度や利便性の劣る通貨はますます、他の通貨との競争に晒されやすくなっている。例えばスウェーデンは、周囲の多くの国々がユーロに移行する中、自国通貨クローナを維持するため、その利便性を高めていくことが、デジタル通貨“e-Krona”の研究を進める一つの動機となっている。日本円は、英ポンドや人民元と、米ドル、ユーロに次ぐ第3の通貨の地位を争う立場にあるわけだが、歴史あるポンドや国の経済規模の大きい人民元との競争の中、日本円を幅広い取引に使い続けてもらうためには、新技術の応用も含め、可能な取り組みを積極的に行っていく必要がある。デジタル技術の活用を通じた決済インフラのイノベーションは、日本におけるデジタルエコノミーの発展や、中長期的にみた経済安全保障にも貢献するものだ。

――陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画が停止された…。
 小川 今回の陸上イージスの停止は防衛省の怠慢でしかない。もともと山口県と秋田県の演習場内に設置すると決めた時に、ブースターの落下予測地点を含む用地をきちんと測量していれば何の問題も生じなかったのだが、担当者がGoogleEarthなどを使ったいい加減な作業をしたために大きな誤差が生じ、その失態を秋田魁新報にすっぱ抜かれてしまった。さらに、そのための説明会では担当者が居眠りをしており、その醜態がテレビで放映された。河野太郎防衛大臣は様々なデータについて再調査を命じ、その結果、ブースターを用地内に確実に落下させるには、ハード、ソフトの両面を改修する必要があり、そのためには数千億円の費用と10年ほどの期間が必要という結論を前に、計画停止の判断となった。

――しかし、今後の防衛体制をどのように整えていくのか…。
 小川 日本が時間もお金もかけず、日米同盟を強化するという前提で執りうる対応策としては、米国からイージス艦の4隻を借り、米海軍出身者で作った民間軍事会社(PMC)でそれを運営するという方法が考えられる。これなら米海軍や海上自衛隊に人員面でしわ寄せがいくことを防げる。2隻は山口県と秋田県の沖に展開し、残りの2隻は予備にして、その周りを海上自衛隊の佐世保地方隊や舞鶴地方隊の護衛艦で警備すればよい。つまり、陸上イージスが撤回された分、イージス艦を補充して防衛体制を整えるということだ。もちろんイージス艦1隻を2000億円と考えると陸上イージスのほうがはるかに安上がりで費用対効果は良い。しかもイージス艦には他の任務もありミサイル防衛にだけ貼り付けるわけにはいかないが、陸上イージスなら2カ所あれば日本列島全域をカバーできるし、施設警備も陸上自衛隊が担当できる。問題は、陸上イージスの値段が日本政府の調達能力の不足から、どんどん高額になっている点だ。過去には60機必要な戦闘ヘリコプター「アパッチ」の価格が一機110億円になり、13機で調達打ち切りとなった。最終の機体は1機二百数十億円。私がボーイングの社長に聞いたところでは、米国陸軍仕様なら38億円、富士重工にライセンス生産させても50億から60億円という事だった。日本の兵器の調達は、交渉能力を備えていない結果、すべて言い値で買わされている。メディアもそれを疑問視した報道をしない。これは嘆かわしい事だ。

――一方で、中国は軍事力を拡大し、北朝鮮は核開発を続けている。日本の防衛の現状は…。
 小川 例えば、今、米国のミサイル防衛が4枚の帽子を被っているとすれば、日本はPAC-3とSM-3の2枚しか被っていない。日本はそこに1枚ずつ帽子を増やすのと同じような取り組みが必要だ。また、米国との同盟関係を調整する中で、高度なサイバー攻撃能力を備えるべきだ。インターネットを経由しないスタックスネットのようなコンピューターワームが仕掛けられていてもおかしくない時代だ。何が起こるかわからない。電磁波パルス攻撃でも受ければ東京などは一瞬で大規模停電が発生し、生命維持装置を使う患者などを中心に数万人の犠牲が出るだろう。これは、裏を返せば北朝鮮などに対する敵基地攻撃能力の一環として位置づけることができる。そういった側面から、防衛省では3年前から核爆発を伴わない電磁波パルス兵器の研究を始めている。

――北朝鮮のミサイル発射の真意と、今後の行方は…。
 小川 北朝鮮が昨年発射したミサイルは、韓国とのミサイルのバランスを優位に持っていくためであり、日本を狙っている訳ではない。すでに日本全体を標的にしたミサイルは別に持っているが、それはイージス艦の増強で十分対処できるものだ。北朝鮮が増強中の北朝鮮版イスカンデルなどを撃つとしても、それは韓国を狙うものだ。日本で盛り上がっている敵基地攻撃能力の議論は、仮に日本が北朝鮮のミサイル発射装置を攻撃すれば、それが韓国と米国を巻き込む第二次朝鮮戦争の引き金になる点が忘れられている。その能力を米国は日本に持たせるだろうか。日本の政治家は、このような国際関係を踏まえずに、日本対北朝鮮という一対一の関係であるかのような意味不明な議論をしている。外務官僚も防衛官僚も似たようなレベルにあり、日本が自国の平和と安全のために結んだ米国との同盟関係をきちんと使いこなそうとしていない。

――日米同盟関係を使いこなせる人材が日本のトップにいないとは…。
 小川 米国にしてみれば、日本も韓国も重要な価値を持つ同盟国だ。しかし、米国から見た位置づけはまったく違う。日米同盟がなければ、米国は地球の半分の範囲における軍事力の展開能力の80%を失う。日本列島は、米国を東京本社とすれば大阪本社の位置づけにあり、その他の同盟国はイギリスもドイツも韓国も支店か営業所の位置づけだ。そうした現実を防衛省も自衛隊も外務省も知らないし、調査すらしてこなかった。さらに「日本の基地を貸している代わりに守ってもらっている」と言っている人たちは、軍艦と戦闘機が展開しているのが基地だと思っている。しかし、それは出撃機能であり、それを機能させる能力こそ重要だ。日本列島に置かれたロジスティック能力、インテリジェンス能力、出撃能力は米国本土に匹敵するレベルにあり、このような同盟国は日本以外にない。日本の安全保障の選択肢は、このような日米同盟を徹底的に活用するか、武装中立するかしかない。日本が単独で現在と同じ水準の安全を実現しようとすれば、現在の約5倍の防衛費が必要になると試算されている。そう考えると、日米同盟は日本にとって安上がりに世界最高水準の安全を実現するベストの選択であることは間違いない。また、米国にとっての日本の戦略的重要性から見て、日本が言うべきことを言っても米国はノーとは言わないことも忘れてはならない。

――政治家も官僚も、もっとしっかりと米国を活用することで日本の防衛能力を高めるべきだと…。
 小川 日米安全保障条約をみても、米国は日本を防衛する義務はあるが、日本が米国を防衛する義務は謳われていない。米国を守れないと肩身が狭いと考える人がいるが、日本に米国防衛の義務がないのは当たり前の話だ。米国は日本とドイツの軍事的自立を恐れ、再軍備の時から自立できない構造の軍事力しか持たせなかった。だから、日本やドイツの軍隊が海を渡って米国を救援してくれるなどとは、考えていない。その代わり、日本は他の国ができない戦略的根拠地としての日本列島を提供し、国防と重ねて自衛隊で守っている。この役割分担は、最も双務的、つまり最も対等に近い同盟国は日本だということを物語っている。日本の官僚や政治家などいわゆる勝ち組と言われる人たちは、大学の教科書に載っていることしか頭にないようで、現実の世界で起きていることを直視する力は弱い。世界を股にかけて日本外交を進めるのであれば、世界に通用する能力を磨かなければならない。

――最後に、中国の覇権主義については…。
 小川 中国は建国100周年にあたる2049年までに米国と肩を並べるという目標を掲げて、経済力と軍事力の増強を進めている。空母、ステルス戦闘機、米国の空母を狙う対艦弾道ミサイルなど、自分たちが技術的に可能な部分から着実に進めている。私は人民解放軍の上層部と1987年以来の付き合いがあるが、彼らは米国との差が20年開いているということも、米国にかなわないのは研究開発だという事も認識している。そのように虚勢を張らなくなった中国は、かえって侮りがたい存在になっていることを肝に銘ずべきだろう。米国は今、NCW(ネットワーク中心の戦い)によってあらゆる情報を戦力化することを進めている。人工衛星、航空機、軍艦、陸上の戦車などをネットワークでつないで戦力化し、その分野で中国や他国を圧倒している。また、中国がハイテク化した軍事力を持てば持つほどに、データ中継用の人工衛星の立ち後れは致命的な機能不全を引き起こしかねない。こうした現実を前に、米国の専門家は、2035年まで中国は軍事的に攻めの姿勢には出られないと分析している。しかし、中国が自らの劣勢を認め、背伸びをせず、他方では着実に米国の人工衛星を破壊する能力などを高めていることは、侮れない。安全保障の世界に「安心してよい」という言葉は無い。日本も中国の目に見える動きに振り回されることなく、地に足のついた防衛力整備を進めなければならない。

――世界がコロナ禍に包まれて、貿易や通商に多大な影響が出てきている…。
 馬田 米中貿易戦争に新型コロナの問題が加わり、世界経済の様子が変わってきた。企業としてはサプライチェーン(供給網)の再構築が喫緊の課題となっている。ここでのポイントは「チャイナリスク」だ。中国に依存しすぎたサプライチェーンが大きなリスクに晒されている。中国の武漢で発生した新型コロナの影響で、中国から輸入される部品や原材料が不足し、日本国内の製品の生産が支障をきたした。また、コロナへの対応をめぐり米中対立が再燃しており、米国が中国に対して制裁関税を新たに課せば、日本企業は中国で現地生産した製品を米国へ輸出できなくなり、輸出基地としての中国の役割は終わってしまう。このため、すでに生産拠点をASEANなどに移す動きが見られる。米中対立の狭間でグローバルに展開する日本企業がとばっちりを受けることのないよう、生き残りをかけた戦略を展開していく必要がある。

――新型コロナと米中対立で、貿易が制限される状況が続くと…。
 馬田 各国は内向きになり、輸入が制限され、サプライチェーンも寸断されている。もちろん、新型コロナウィルスの感染拡大はワクチンと治療薬が開発されれば収まるだろう。しかし、今後、また新たな感染症によるパンデミックが起こる可能性が高い。サプライチェーンの再構築は、貿易、安全保障、パンデミックへの対応という3つの視点が重要だ。激しい競争の中で日本企業が的確に再構築を進められるよう、政府は方向付けだけでなく、企業への支援策を打ち出すべきだ。医療機器や医薬品等に関しては、ある程度、国内自給が出来るような体制が必要であり、生産の国内回帰に対して企業が安心して取り組めるよう財政支援を政府はしっかりと打ち出さなくてはならない。これまでも「笛吹けど踊らず」という状態は幾度もあった。今回も、日本企業は中国から完全撤退すべきか、中国に踏み止まるべきかの選択を迫られている。

――となると、日本の通商戦略はどうあるべきか…。
 馬田 完全に中国を見限るわけにはいかないというのが、企業の本音だ。現実的な対応としては、中国に片足を残したまま、中国以外のところでも生産する「チャイナ・プラス・ワン」と呼ばれる2正面作戦を考えている。米国は中国を締め出すために、関税をかけるだけでなく、中国からの対米投資を規制し、米国のハイテク技術を使って生産した製品を、米国企業だけでなく日本や他国の企業が中国に輸出することも規制している。さらに、中国での現地生産も規制して、米国のハイテク技術の流出を阻止しようとしている。日本としては単独で動くのではなく、各国との国際協調の枠組みの中で米中対立がエスカレートしないようにするのが、日本の通商戦略の課題だ。米国は11月に大統領選挙を控えている。米国経済を持ち直すことが出来なければ、トランプ大統領が再選する可能性はなくなる。現在の支持率は民主党バイデン氏が50%、共和党トランプ大統領が40%程度で、過去にこれほど差がついた大統領選ではすべて現職の大統領が負けている。もちろん、バイデン氏が大統領になったとして、今までの米国の対中戦略がガラッと変わることはない。「このまま中国を好き放題にさせると足をすくわれる」というのが米国のコンセンサスだ。親中派のレッテルがついているが、したたかなバイデン氏は国内の世論を反映して、米中デカップリング(分断)の姿勢を示していくだろう。

――かつての米ソ関係の様に、西側と東側にデカップリングしていくことは、21世紀において考えられるのか…。
 馬田 米中のデカップリングは、過去の米ソ対立の時代のような包括的なものではなく、中国の覇権を許さないための重要な分野に限定した「部分的なデカップリング」ということだ。特に日本は安全保障面で米国に依存しているが、経済面では中国との密接な関係は避けられない。だからこそデカップリングの範囲をきちんと決めて、米中両国と上手に付き合っていかなくてはならない。今年5月に施行された改正外為法で絞り込んだコア12業種は、こうしたことを踏まえた日本の方針を表したものだ。何が何でも中国を完全に締め出そうという米国に追随するのではなく、部分的な米中デカップリングに重点を置いた日本独自の対中政策を進め、同時に米中対立の先鋭化を抑えることが求められている。

――仮に米大統領選挙でバイデン氏が当選すると…。
 馬田 新型コロナと人種差別の問題で米大統領選の風向きが一変し、トランプ再選が怪しくなってきた。日本は今、トランプ氏とバイデン氏のどちらが当選しても対応可能な対米外交を進めなければならない。バイデン氏が当選すれば国際協調路線に戻り、G7の立て直しも始まる。新型コロナ収束に向けたワクチン開発での国際協力も強化されるだろう。一方、トランプ氏が再選したとして、2期目に政策が変わるのは望み薄で、「米国第一主義」を掲げた一期目の政策を正当化させるため行動はさらにエスカレートするだろう。そうなれば、世界経済の秩序はさらに混迷の度を深めるかもしれない。日本は、かつてない程の密な首脳関係を安倍総理とトランプ大統領で築いてきたが、トランプ氏の暴走に振り回され続けるのはもううんざりしている。

 

――日本は米国抜きのTPP11協定の締結やEUとの経済連携協定に成功し、今は英国との通商交渉を進めている。これらの戦略と米国一国主義や米中貿易対立との絡みは…。
 馬田 日本としては、米中対立も出来れば緩和させたい。トランプ大統領は多国間主義を嫌い、二国間主義に固執している。その方が「脅しとディール(取引)」による強引な通商政策が可能だと信じ込んでいるからだ。だが、中国を追加関税で脅したが、中国は譲歩するどころか逆に報復に出たため、泥沼の米中貿易戦争に陥った。米中対立を鎮めるには、米国だけが矢面に立つような二国間主義の限界に気づくことが大事だ。多国間主義による対中包囲網の構築に向けた取り組みに米国を引きずり込むのが、日本の役割だと思う。ようやく発効に至ったTPP11(11カ国による環太平洋経済連携協定)を拡大させていくことで、米国を焦らせてTPPに復帰させようというのが日本のシナリオだ。TPP11に続き、日EU・EPA(経済連携協定)の発効を目指したのも、米国をけん制するのが狙いだ。第一段階の日米貿易協定が今年発効したが、米国はTPPや日EU・EPAに負けないような包括的内容のFTAを日米で結びたいと思っている。一方、日本としては、第一段階では物品の関税撤廃でお茶を濁し、第二段階のサービスや投資分野の交渉で議論をすり替え、米国に対し「TPPに戻った方が手っ取り早い」と説得する構えだ。包括的な日米FTAの締結か、それとも米国のTPP復帰か、日米は同床異夢、コロナの影響で延期されている日米貿易交渉の第2ラウンドの行方は予断を許さない。

――RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の交渉では、インドが離脱したが…。
 馬田 中国とインドが加盟することがRCEPの価値を高めていたのだが、2013年のRCEP交渉開始当初から、極めて保護主義的なインドの加盟については心配する声があった。しかも、RCEPではインドの得意分野であるITやサービスは蚊帳の外で、インドが得意としない物品の関税撤廃に力を入れていたため、インド国内企業の反発は大きかった。それでもモディ首相はインドの将来を考えてRCEPへの加盟に前向きだったが、その後、中国からの安い製品が大量に輸入されたり、インドの国内景気が悪化してくると、モディ首相も国内の反対を抑えきれなくなり、昨年、ついに離脱を表明した。日本としては、中国がRCEPで力を持ちすぎるのを抑えるため、インドを何としてでも入れたいと考えているが、コロナ禍で未曽有の打撃を受けているインドの現状では、見通しは厳しい。インドとの協議は別途継続することにして、遅くとも年内にはRCEP15カ国で署名を行うことで、米国を焦らせてTPPに復帰させる戦略を優先すべきだろう。

――トランプ大統領は昨年一月に、条件付きでのTPP復帰を示唆した…。
 馬田 ダボス会議でのこの発言は、日本にとってチャンスだ。日本は、「再交渉はしない。現行のTPPに米国が戻ってほしい」とコメントしたが、内々では、トランプ大統領の立場に配慮し、「TPP協定は良くなった」と支持者に言えるように、厚化粧をしてもいいと考えていたと思う。もちろん、11月の米大統領選でバイデン氏が当選すれば米国のTPP復帰はもっと容易になろう。オバマ政権の副大統領として、TPP交渉の合意に携わった人物だからだ。しかし、米国がもたもたしていると、そのすきに中国が米国抜きのTPPに参加するかもしれない。いずれにせよ、コロナ禍と米中対立で、反グローバル化や保護主義がますます高まれば、世界経済は落ち込んでしまう。WTOが4月に発表した貿易見通しによれば、楽観シナリオで13%、悲観的シナリオは32%の落ち込みを試算している。日本は出来るだけ楽観的シナリオの数値に近づけるように、コロナ後の世界を見据えたグローバルな通商戦略の一環として、TPPや日EU・EPA、RCEPを通じて米国をけん制しつつ、米国を多国間の枠組みに取り込んでいく外交努力を続けていかなくてはならない。

――反グローバル化、自国主義が新たな潮流となりそうな様相もあるが…。
 近藤 反グローバル化の流れ、米中の対立は、一朝一夕には終わらないだろう。長い戦いになるのではないかと考えている。新型コロナウイルスの流行によりワクチンや抗ウイルス薬が開発されるまでは、意識的に反グローバル化の話題が出てくるだろう。各国政府が強制的に経済を止めたことで景気は急速に悪化し、その後に一気に財政、金融ともに大量の資金を出動した。結果として、一時的に大きく下がった株価は急回復し、株式市場は非常に活況になった。ただ一方で、実体経済は相変わらず悪い状況であり、本当に苦しい状況の方もいる。そういった厳しい状況の方々がいるなかで、資産価値は急速に回復したため、二極化が大きく進んだと感じている。

――コロナ後の証券の経営環境をどう見るか…。
 近藤 我々はNTTドコモと3月に提携し、dポイントで100ポイントから投資ができる日興フロッギーというサービスを展開している。こういった取り組みをおこなって感じるのは、資産形成層の方々が、若いうちから将来への不安を感じ、将来への準備を進めているのではないかということだ。こうした点から、個人金融資産の1900兆円は、今後動くのではないかと考えている。資本主義が生き残ることを前提に考えると、マーケットにはまだ拡大余地があるだろう。企業に関しても、これまでは株主至上主義が求められていたが、今ではそういった動きは株主の間でも否定的な考え方になってきており、持続的成長を目指す企業や社会に、しっかりと還元できる企業が求められる風潮になりつつある。今までの株主至上主義、あるいはROE絶対重視のような考え方は変化していくだろう。また、景気が悪化すると、さまざまな業種でコア資産に資本を集中させる可能性があるため、収益の見えないビジネスの売却や、サプライチェーンの健全化に向けて、新たな提携先を模索するような動きも出てくるのではないか。

――ホールセール、リテール、それぞれの戦略は…。
 近藤 リテールに関しては、富裕層ビジネスの強化が先決だ。我々はSMBCグループとして、銀行、信託、そして証券と、さまざまな強みをそれぞれ持っている。資産運用ビジネスにおいて、我々証券のアドバイス業務というのは、一丁目一番地にあたるため、証券が主体となって、お客様の抱えているさまざまな課題をしっかりとヒアリングし、それぞれが強みを持つサービスを提供していく。今まではどちらかというとお客様の紹介が中心だったが、今後は高度なソリューションを提供するための機能連携を中心とする新たなステージに引き上げを行い、ビジネスを展開していきたい。

――証券は証券、銀行は銀行と、それぞれの強みを活かす…。
 近藤 顧客本位の業務運営を具現化するため、今まで推進してきたストック型のビジネスモデルをより進めなければならない。当社では、機関投資家レベルの高度なポートフォリオ分析を提供する、米ブラックロックのポートフォリオ・リスク分析プラットフォームを、国内で唯一、個人のお客様向けに提供している。当社で金融資産を1億円以上お預けいただいているお客様のうち、約30%がそのサービスを利用している。また、当社でお預かりしている商品だけではなく、他社で保有している商品も含めたポートフォリオを分析できる。加えて、本格的な資産管理型プラットフォームの構築も検討しなければならないと考えている。株、債券、投資信託などのすべての商品を一括してラッピングして運用・管理を行い、売買の都度ではなくお預かりする資産残高に応じ一定の報酬を徴収するサービスを今中計中に検討していく。

――ホールセールについては…。
 近藤 現環境下において、利回りを追求する投資家に対しては、エッジの効いた商品を提供していくことが必要になってくるのではないか。投資家にそうした商品を提供することにより、発行市場、流通市場でのビジネスマッチングができるのではないかと考えている。M&Aについてもこれからもさまざまな案件が出てくるだろう。当社では、投資機能の専担組織である投資開発部を3月に設置した。ベンチャーコミュニティへのアクセス増強、有望企業への株式直接投資を行うことで、IPOビジネスやビジネスの協働につなげたいと考えている。

――低金利環境が続くなか、証券業以外の業態を手掛け始めている証券会社もあるが…。
 近藤 証券ビジネスからは絶対に外れない。SMBCグループ傘下ということもあり、さまざまな制約がある中で、事業部門に対する投資のほか、昨年度立ち上げた、中堅・若手社員による価値創出プロジェクトであるNikko Venturesから、最新デジタル技術の活用等によって、新しく、お客様にご満足頂ける体験に繋がるサービスや商品の開発を進めている。また、インフラ面のような非競争分野で、他の証券会社と協力し、共同のプラットフォームで何かできないかというようなことも考える余地はある。

――新社長としての抱負は…。
 近藤 まずは私のモットーでもある、「変化を楽しむ」、「お客様を大切にする」ということだ。100年以上も生き残ることができたことは、本当にお客様のおかげだと考えている。そのため、お客様を大切にするという精神は忘れてはならないことであり、個人、法人にかかわらず、お客様とは、一生お取引いただきたいという想いがある。それにはまず、お客様の要望ニーズをしっかりと聞くことだ。リスクのある商品を扱っているため、お客様にご迷惑をおかけしてしまうこともあり得るが、先輩方が築いてくださったお客様との関係を崩してはいけないと考えている。目指すのは、お客様を大切にし、お客様から信頼されることで、適切かつ健全な収益をいただけるようなWin―Winの関係を築くことだ。そして、社員全員がこの会社に勤めていることを誇りに思えるような会社にしていきたいと考えている。

1/6掲載「改憲には大多数の国民の合意」
参議院議員 中川 雅治 氏
――与党が3分の2の勢力を占めているからといって、すぐに憲法改正へと踏み切れる訳ではない…。
 中川 今、衆議院は憲法改正に意欲的な自民・公明・維新で3分の2以上の議席数を占めているが、参議院は違う。昨年7月の参議院選挙でわずかに3分の2を割ってしまった。自民党が憲法改正のたたき台素案としている4テーマはまだ憲法審査会に提出していない。公明党にも日本維新の会にもそれぞれの意見があり、改憲に向けて同じく志を持ってくれている方々との十分な議論を行うことなく3分の2という数字だけを使って強行採決のような形で押し切れば、国民投票に至っては当然のごとく大きな反対運動が起こってくるだろう。そうなれば政局がらみの大混乱となろう。私は、そういう形で進めるべきではないと思っている。政局を離れて真摯な議論をし、国民の理解を得ること。3分の2や過半という数字ではなく、大多数の国民の皆さんの合意をいただくような進め方をしなくてはならない。だからこそ自民党も慎重になっていて、周りからはなかなか進まないように見えるのだろう。

1/20掲載 「金融・財政政策の反動に警鐘」
短資協会 会長 三谷 隆博 氏 
――世界的には、金融緩和から財政出動へと舵を切ろうとしている…。
 三谷 金融政策にこれ以上の効果が期待し難いとなれば、次に出てくるのは財政政策だというのはわかりやすい。ただ、財政を一旦出動させれば、そう簡単に逆方向に走ることは出来なくなる。超低金利下では財政で多少無理をしても痛くも痒くもなく、国債のマイナス金利で逆にお金を貰えてしまうともなれば、財政の歯止めは無くなってしまう。それが何かを契機に逆転し始めれば、大変な金利負担が生まれてしまう。今は、雇用環境は良く、景気も低空飛行ながら比較的安定しており、どこまで財政に負荷をかけて追加的な刺激策を講じるべきなのか。これまでも「こんなことを続けていればいずれとんでもないことになる」と警告する人たちがいたのだが、この10年間何も起きていないということで、その説得力は乏しくなっている。しかし、その反動を想像すると怖い。

2/25掲載 「米中戦争で一帯一路を強化」
日本経済大学 教授 生田 章一
――米中経済戦争が「一帯一路」の沿線国に与える影響は…。
 生田 中国共産党の幹部や経済人の多くが、米中貿易摩擦によって、米国の経済にコミットしすぎる事へのリスクを学び、一帯一路沿線国への関心をさらに強固にしている。外貨準備も米国国債にばかり偏るのではなく、もっと有用な活用方法があることに気が付いたようだ。実際に、経済戦争が始まって以降、習近平主席・李克強総理の「一帯一路沿線国」にむけたトップ外交は急激に増加しており、中国のメディアは毎週のようにそのニュースを大きく報道している。一帯一路はユーラシア大陸の勢力関係を大きく変えるだろう。ソビエト連邦の崩壊によって生じた覇権の空白地帯にも、中国がいわゆる実効支配という形で強い影響力を及ぼし始め、そこに中国を中核とした安全保障体制(上海条約機構)を敷いている。それらの地域には世界有数の資源国が含まれており、その資源やインフラ権益は次々と中国の手中に収まりつつある。そして、「一帯一路ITシルクロード」という名の下に、沿線国のITインフラは中国標準で塗りつぶされつつある。例えば、貨物列車の運行に付随する運行管理システム・通関システム・荷物の積み下ろし管理システム・人民元による決済システムが中国のIT技術を浸透させるために一体化して導入されている。

3/2掲載 「トランプ『和平案』は『戦争案』」
パレスチナ国 駐日パレスチナ常駐総代表部 大使 ワリード・アリ・シアム 氏
――米トランプ大統領が示した新中東和平案について、率直に思う事は…。
 シアム あの提案は「和平案」ではなく「戦争案」だ。トランプ大統領の娘婿で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー氏は今回の案に深く関わっており、この件で何度もテレビに出ているが、その中で繰り返し「イスラエルはこれまで一度もパレスチナが国を持つ事を認めてこなかった」と言っている。これは1993年のオスロ和平合意で締結した際の「2国間共存」という和平案ベースを全く無視した発言だ。「2024年にパレスチナは国家として認められる可能性がある」との文言もあるが、あくまでも「possibility(可能性)」に過ぎない。1993年のオスロ合意に従えば、1999年にはパレスチナ国家が出来るはずだったが全く実現していないし、冒頭で述べたクシュナー氏の発言の意味を考えても実現性は甚だ疑わしい。そもそも、1967年の第3次中東戦争の取り決めで、国連加盟の142カ国がパレスチナを国家として東エルサレムを首都にすることを認めている。パレスチナ自身、国連のオブザーバーとしてのメンバーでもある。今回の案がこういった一連の国連決議に則ったものであれば和平の道も開かれるかもしれないが、それらをまったく無視して新たにイスラエルのためだけに作られたような案を信じられる訳がない。

3/9掲載 「大麻解禁で交通事故多発」
国立精神・神経医療研究センター 依存症薬物研究室 室長 舩田 正彦 氏
――大麻については…。
 舩田 大麻はもともと日本では身近にあった植物で、麻繊維の原料として長い歴史の中で栽培されてきた。大麻の中にはTHCという幻覚症状や高揚感を引き起こす化学物質が入っているため、特定の部位だけを麻繊維の原料として利用してきた。また、日本固有の大麻は、THC含有量が比較的少ない種類に属するとされており、繊維原料として非常に有用と考えられている。大麻栽培のためには、大麻を規制する「大麻取締法」に従った栽培免許の取得が必要だ。一方、大麻が健康上に与える影響としては、依存性の問題に加え、運動機能や判断能力が低下する点が問題だ。具体的な例は、自動車運転での交通事故で、実際に米国のハイウェイにおける自動車事故の原因の多くは、大麻使用が関わっている。また、大麻使用によって幻覚や妄想を伴う大麻精神病を引き起こす危険性も懸念されている。大麻精神病の発症に対する医学的な評価は必ずしも一致していないが、疑いがある以上、安全ではないと認識する必要があろう。大麻使用は、個人的な健康被害のみならず、他者に被害を与えてしまう危険性がある点で、その取り扱いは注意しなくてはならない。

3/30掲載 「金融緩和効果は白川時代が上」
立命館大学 国際関係学部・研究科 教授 大田 英明 氏
――総じて言えば、今よりも白川総裁時代の金融政策の方が良かったということか…。
 大田 2008年頃まで銀行貸出量は増加していたが、当時のMBは増えておらず両者の関係性は低い事がわかる。実際にグレンジャー因果性検定を使って調べてみると、白川総裁時代には、日銀当座預金と鉱工業生産や実質生産の間には有意に因果性があるという結果が出ているが、QQE時代には日銀当座預金以外への因果性はほとんど無いという結果が出ている。インパルス応答関数でも同様の結果だ。そして、2008年から2013年までの累積残高をみると、やはりMBが鉱工業生産に与える影響はそれなりにあり、銀行貸出は有意に影響を与えているが、QQE時代に入ると、MBも日銀当座預金もM2ベースも、鉱工業生産に対してほぼ影響がないという事を示している。QQE第2弾の2014年11月以降もほぼ同じだ。私は以前からこうした分析結果を学会で発表しているのだが、他の方々はこのことについて何も触れようとしない。QQEに伴う大量マネーは米国をはじめ海外市場に流れており、米国経済・市場もその恩恵を受けているが、日本国内ではほとんど効果がないことを私の分析で明らかにしている。金融分野の専門家は、どうも国際的観点からの分析が欠けている人が多いようだ。

4/13掲載 「対コロナは場当たりでお粗末」
東アジア共同体研究所 理事長 鳩山 友紀夫 氏
――「アベノマスク」問題では、それが嘲笑の的になると、止める側近がいなかったのか。きちんと状況を判断する材料を持っているのか疑問だ…。
 鳩山 そもそもマスク配布は2カ月前にやるべきことであった。繰り返し使えるのかもしれないが、サージカルマスクなどと異なり、ウイルスを防ぐことに対してあまり効果がないとも言われているなかで、布マスクで良いのかどうかも疑問だ。さらに世帯に何人住んでいるかも把握せず、一律に2枚で良いのか。200億円以上かかるといわれているが、その200億円はもっと有効な使い方があるのではないかとも思う。(その後、配布費用は400億円以上になることが判明した。)本当に迅速にやってもらいたいのは、経済活動がほとんどゼロに等しいくらいになってしまうような観光業などに迅速に手当をすることだ。30万円の給付も住民税を納めていない人などに限定されるから、対象者はさほど多くない。生活保護をもらっている人も収入が減るわけではないため対象外ということだ。さらに、審査に時間が掛かり、実際に支給されるのは早くても5月となると、それまで持たない人も出てくるだろう。どの程度オンライン化できるのかを含め、申請方法や受給方法もはっきりしない。マスクにせよ、30万円の給付にせよ、大きな対コロナ戦略に基づくものと言うよりは、政権の失敗を糊塗するための場当たり的なパフォーマンスにしか見えない。しかも、その内容が信じられないほどにお粗末だ。この緊急事態を乗り切るためには、政府が国民に信用されているか否かが鍵を握っている。政府が何か手を打つたびに国民からため息が漏れる現状はとてもまずい。

5/18掲載 「コロナ検査は甲状腺がんと極似」
3・11甲状腺がん子ども基金 代表理事 崎山 比早子 氏
――国がきちんとした検査をしないという点は、現在の新型コロナウィルスにおける対応とよく似ている…。
 崎山 原発事故直後、環境放射線が非常に高くなった時期に文科省は線量測定を止めさせた。そして福島県は子どもの甲状腺被ばく線量を測定していた研究者に中止を要請した。その理由は県民を不安に陥れるからだということだったが、それは逆だ。実態を把握して、きちんと知らせる方が不安は解消される。これは今の新型コロナウィルスへの対応とよく似ていると思う。国はその気になればやれるはずの大規模PCR検査を行わなかったために感染者が掴めていない。感染者を同定して隔離することが感染拡大を防ぐ最も近道であるという事はだれもが理解できる。実際に中国、台湾、韓国はそれでウィルス感染の収束に成功した。

6/8掲載 「尖閣は日本領との強い意志を」
沖縄県石垣市長 中山 義隆 氏
――最後に、国民の皆さんに対して一言…。
 中山 コロナウィルス騒動で国民の関心はそちらに向かってしまい、尖閣諸島はニュースになりにくいが、日々、中国公船からの領海侵入を受けている。そういった事実を理解していただき、国民世論として、自国の領土は自分たちで守るということを発信してもらいたいと願っている。最近の香港状勢を見てもわかる通り、中国は国民の関心を国外に向けるため、強引な賭けに出てきており、いつ尖閣諸島で同じ様な強引さを出してくるかわからない。そうなる前に、国民が強い意志を示すことが中国に有事を起こさせない牽制になるのではないか。

6/15掲載 「経済安保が喫緊の国家課題に」
外務大臣政務官 衆議院議員 中山 展宏 氏
――国家安全保障局(NSS)に経済安保のための経済班が4月1日にようやく発足した…。
 中山 昨年3月、自民党のルール形成戦略議員連盟(甘利明会長・中山展宏事務局長)は、約70名の所属国会議員と半年間の議論を経て「国家経済会議(日本版NEC)創設」の提言を取りまとめた。そして5月、甘利会長と私で安倍総理を訪ね、膝を詰めて提言した。その際、米国と同様、国家経済会議(NEC)を創設し国家安全保障会議(NSC)とともに経済外交と安全保障政策の司令塔として車の両輪のように機能することを求めたが、同時に次善策として、14年に発足した日本版NSCの中に、我が国の安全保障に資する戦略的外交・経済政策を担う組織をまずは作るべきと申し上げた。準備の上、本年4月からNSCを補佐する国家安全保障局(NSS)で経済班がいよいよスタートした。我が国は戦後、経済発展を優先し、科学技術やものづくりを原動力に世界経済の中で魅力を放った。他方、例えば北朝鮮製の初期のスカッドミサイルには、秋葉原で誰もが購入可能な電子部品が使われていた。原始的なデュアルユース(軍民両用)だ。世界は異なる政治体制のもと、パワーバランスの変化や国家資本主義と自由主義経済の非対称な競争も繰り広げられ、軍民融合が進められる。先端技術が学術界や軍需からだけではなく、産業界からも生まれる潮流において、安全保障の視座も踏まえた経済外交に取り組む経済班の役割は重要だ。

――新型コロナウィルス(COVID-19)の影響で、証券ビジネスが変化しつつある…。
 奥田 ビジネスの進め方が大きく変わってきている。当社では緊急事態宣言が発動された時、全国内の店頭業務を一時休止し、お客様にはなるべく迷惑がかからないような形で業務を継続させてきた。第2波、第3波に備えて現在でも、在宅勤務による出社社員の制限等を行い、お客様や社員の安全を第一に考え業務を継続している。そしてこれを機に、お客様との関係がメールやウェブ、オンライン会議等を利用した非対面ビジネスへと一気に移行している。これまで接客部分では、大事な部分はお客様と膝を詰めて会話して、納得していただき契約を進めていくという形式だったが、非対面が中心となる中でどのようにビジネスを進めていくかが今後の課題になろう。

――億単位の取引では対面でなければ無理だという価値観は無くなっていくのか…。
 奥田 非対面で多額の取引を進めていくことに、まだ若干の抵抗感をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれないが、今は待ったなしの状況だ。そのため、お客様も協力的で、これまでなかなか進めることが出来なかった非対面ビジネスが比較的進めやすい環境になっている。そして、この大きな変化は不可逆的なものになろう。その中で我々が出来る事は、会わずして納得していただけるためのきちんとした説明をしていくことだと考えている。

――一方では、米トランプ大統領の自国ファーストに伴い反グローバルという流れが広がってきた。そこにコロナ禍が拍車をかけ、金融市場にも変化をもたらすという見方もあるが…。
 奥田 新型コロナウィルスの影響で、世界中が国だけでなく州や県の境目まで意識するようになってきており、反グローバル化の流れは加速している。株主ファーストを唱えていた米企業の経営者たちも、昨年あたりからステークホルダー重視へと少しずつ変わり始めており、その動きは今回のコロナ禍で少し加速しているようにも思える。基本的に金融ビジネスは市場が世界的に繋がっており、お金もグローバルに流れているため、基本的な部分は変わらないのだが、規制には影響される業種だ。昨年10月末に行われた野村財団主催のマクロ経済研究会議のテーマは「非グローバル化の経済学」というもので、すでに自国中心に物事を考える動きは数年前からあったのだが、今回のコロナ禍で各国の財政や中銀がそれぞれの政策を取り始め、規制が強化されているのを見ていると、金融市場にもグローバリゼーションという考え方ではないものが出てきている。政策が自国重視になれば企業業績にも影響が出てくるため、その辺りをしっかり注視し、それぞれの特性を持った市場とどのように繋げていくのかに注力していきたい。コロナ禍後の金融市場は、グローバルに戦う部分とそうでない部分に分かれてくるだろう。

――御社の経営方針を、パブリックからプライベートへと転換するに至った背景は…。
 奥田 これまでの当社の強みは株や債券といった伝統的な商品だったが、世界的な低金利が続く現在、しかも、今後も続くであろうコロナ禍において、どんなに運用のニーズが多くても、伝統的な商品だけでは理想どおりのパフォーマンスを出すことは難しい。プライベートエクイティ、プライベートデッド、オルタナティブ、或いは不動産といった部分でもトップのポジションに立たなければ、今後、日本のお客様にも海外の投資家にも良いサービスは出来ない。パフォーマンスやお客様のポートフォリオを考えると、どうしてもプライベートの力が必要であり、それがない限りお客様のニーズには合わないと考えてこのような経営方針を打ち立てた。プライベートには色々な意味があるが、基本的には「あなただけのために」にというような、いわゆるカスタマイズしたサービスに力を入れていくという事だ。ただ、資金調達等を見ていると、コロナ騒動前後から社債がかなり増えており、この部分についてはこれまで同様しっかりとサポートしていくつもりだ。先が不透明な今の時代において、何事にも柔軟に対応していきたい。

――営業部門の見直しやCIO(チーフ・インベストメント・オフィス)グループの活用については…。
 奥田 個別の商品を売買していただく伝統的な証券業務から、全体的な資産を預けていただくことを目指すにあたっては、全ての事においてきちんとアドバイスできる人財を揃えてサービスの質を上げていかなければならない。そこで、これまで機関投資家向けに資産運用のアドバイスに携わってきた人財を中心に再編してCIOグループを組成し、個人のお客様に対しても、機関投資家向けと同等のポートフォリオ提案や運用アドバイスが出来るようなサービス提供を目指している。また、CIOグループによる付加価値を活かして、お客様とベクトルを同じにしたいという考え方で、例えば成功報酬的なモデルを作ることも多様化の一つとして検討している。商品の取引毎に手数料を取るのではなく、レベルフィーを導入することで、お客様とのWin-Winの関係も築くことが出来るだろう。

――ホールセール部門については…。
 奥田 ホールセール部門では、これまでバランスシートを使うビジネスへの依存が大きかった。しかし、現在の我々のバランスシートのサイズとマーケットのボラティリティを見ていると、バランスシートを使うビジネスに加えて、アドバイザリーなどのオリジネーションビジネスを伸ばす必要があると考え、今はそこに取り組んでいる。また、この数年間、パフォーマンスを上げる事とコスト削減を両立させるためにAIの活用に力を入れてきた。昨年2月にはブレバン・ハワードと共同でシステムを開発し、ヨーロッパの国債でAIを利用したトレーディングを行っている。特に顧客ニーズが高いイタリア国債では高い成果を出しており、今後は米国債や日本国債へ適用することを計画している。今後もAIによるサポートを利用して、お客様に最適なサービスを提供していきたい。ただ、どんなにAIが多用されても機械が代わることのできない業務はある。例えばM&Aのアドバイザリー業務など、そういったマンパワーが必要な部分と、AIに任せられる業務を的確に判断しながら、今後の人材分配も見直していきたい。

――未来共創カンパニーの役割は…。
奥田 当社国内の特にリテール部門では、非対面ビジネスの窓口サービス向上のためにデジタル化を進めており、そのリード役となるのが未来共創カンパニーだ。例えば、情報提供や資産管理などのアプリ開発を進めたり、これまで当社独自ではアクセスが難しかった資産形成層に対して、LINE Financial株式会社との合弁会社「LINE証券」を通じたアプローチを進めたりしている。デジタル分野に関してはまだまだやるべきことが沢山あり、その部分でスピーディに結果を出してくれることをこのカンパニーには期待している。

――証券業以外の他業種への進出を目指す会社もあるが、御社では…。
 奥田 既存のビジネスの延長にはない新しい野村へ変わるための変革が必要であると考えている。当社の経営ビジョンである「社会課題の解決を通じた持続的成長の実現」を達成するために、今、私たちが立っている場所とは違うところ、違う次元に野村をもっていく。グループ内にあるあらゆるリソース、専門性、経験、そして最大の財産である人材とお客様からの信頼をもとに、「次の次元」に進んでいきたい。

――最後に、抱負を…。
 奥田 会社として「野村は金融市場を通じて社会の発展に寄与する」と言い続けているように、私自身もその気持ちを強く持ってこの会社を率いていきたい。特に、資本市場のあらゆることに関して積極的に提言するような会社として改めて確立し、そういった中でESGについてもしっかりと考えて取り組んでいくことが出来れば、当社の社員も、誇りや志をもって働いてくれると思う。そのうえで、働いていてワクワク感のあるような、そんな会社にしていきたい。

――国家安全保障局(NSS)に経済安保のための経済班が4月1日にようやく発足した…。
 中山 昨年3月、自民党のルール形成戦略議員連盟(甘利明会長・中山展宏事務局長)は、約70名の所属国会議員と半年間の議論を経て「国家経済会議(日本版NEC)創設」の提言を取りまとめた。そして5月、甘利会長と私で安倍総理を訪ね、膝を詰めて提言した。その際、米国と同様、国家経済会議(NEC)を創設し国家安全保障会議(NSC)とともに経済外交と安全保障政策の司令塔として車の両輪のように機能することを求めたが、同時に次善策として、14年に発足した日本版NSCの中に、我が国の安全保障に資する戦略的外交・経済政策を担う組織をまずは作るべきと申し上げた。準備の上、本年4月からNSCを補佐する国家安全保障局(NSS)で経済班がいよいよスタートした。我が国は戦後、経済発展を優先し、科学技術やものづくりを原動力に世界経済の中で魅力を放った。他方、例えば北朝鮮製の初期のスカッドミサイルには、秋葉原で誰もが購入可能な電子部品が使われていた。原始的なデュアルユース(軍民両用)だ。世界は異なる政治体制のもと、パワーバランスの変化や国家資本主義と自由主義経済の非対称な競争も繰り広げられ、軍民融合が進められる。先端技術が学術界や軍需からだけではなく、産業界からも生まれる潮流において、安全保障の視座も踏まえた経済外交に取り組む経済班の役割は重要だ。

――安全保障に資する経済外交の重要性が増している…。
 中山 経済安全保障という言葉は、エコノミック・ステイトクラフトの概念を和訳するなかで生まれた。安全保障を目的として経済力を駆使する外交戦術との意だ。日本政府が昨年7月から運用した韓国への半導体材料3品目の輸出管理の厳格化は、韓国企業を経由する軍事転用を防ぐ措置であり、WTO世界(貿易機関)協定においても安全保障上の貿易制限は例外として規定されている。さらに安全保障上の勢力拡大を狙い、宇宙・海洋を含むフィジカル空間とデータをはじめサイバー空間において、人的資源・科学技術・知的財産・金融・投資、そして国際ルール形成などを有機的に駆動させ、覇権していこうとする大国の世界戦略と我が国は対峙しなければならないと考える。NSS経済班と同調し、外務省でも新安全保障課題政策室が起動した。安全保障に係る外交政策のうち、経済・技術・サイバー他、新たな安全保障上の課題へ対応する。

――中国を念頭に信頼できない国と協力することは難しいという声が世界中で高まっている…。
 中山 中国は13年頃から複数の経済回廊を模索し、世界を二分する一帯一路へ繋がる経済圏構想に挑み、道路・港湾・発電所・パイプライン・通信などのインフラ投資、製造・金融・貿易・電子商取引などの対外投資を進めている。アジアインフラ投資銀行も13年に設立された。スリランカはインド洋への要衝である南部のハンバントタ港の開発を中国に依存したため債務の罠に陥り、17年に中国企業へ99年間の運用権を譲った。元来、ランドパワー(内陸勢力)に立脚する中国が、リムランド(沿岸地帯)を制しシーパワー(海上勢力)をも志向している証左と受け止める。我が国は16年、自由で開かれたインド太平洋を掲げ、法の支配、航行の自由、自由貿易の定着へ腐心している。産業政策では15年、中国が25年までに世界の製造強国入りすることを標榜し、中国製造2025を発表。イノベーション駆動、環境保全型発展、構造最適化などの方針のもと、半導体や5Gの次世代通信技術・省エネ新エネ自動車・バイオ医薬などの重点10分野、23品目で意欲を示した。あわせて、17年より国家体制の維持を目的とし、国内外の組織や個人に情報収集を強いることが可能な国家情報法が施行されている。他方、米国は中国による強制的な技術移転、知的財産権の侵害、国有企業への優遇策などを憂慮し、安全保障に関する予算や運用へ法的根拠を与える国防権限法と連動し、19年から矢継ぎ早に法体系を整え、中国の戦略分野を網羅する。人工知能やロボット、測位技術、先進監視技術など14分類47項目において流出を防ぐ措置を強めている。例えば、中国ファーウェイ・ZTE社からの通信機器や映像監視サービスの利用禁止であり、米国は殊に先端基盤技術や知財の流動について、いわゆるファイブアイズである英・加・豪・ニュージーランド、安全保障上のホワイト国、相互に信頼関係のある価値共有国との間で限定しようとする傾向が顕著になってきている。サプライチェーンのデカップリングもしくはブロック化である。しかし、東アジアで我が国と近接する中国の巨大マーケットや生産拠点としての優位性も考慮しなければならない。

――経済班として最優先事項ととらえているものは…。
 中山 NSS経済班は4月発足早々、新型コロナウイルス感染症に係る入国制限など水際対策、マスクをはじめ公衆衛生用品や医薬品原料の調達、治療薬の臨床試験のための提供先選定を統括し、奔走している。余談だが米国はトランプ大統領のもと、国家安全保障会議にあった感染症対策チームを18年に解散させてしまっていた。世界がコロナ対応で傾注する中、中国はマスク提供も外交上の戦略ツールとして捉え、さらには行動自粛による経済社会の停滞の影響を受け、資金繰りに窮している企業へ買収を持ちかける。今次のコロナ禍で顕在化したサプライチェーン・リスクや日本の社会システムの脆弱性に対応しなければならない。サプライチェーンの強靭化、再構築、最適化へ、そして先般改正した外為法にもとづき機微技術を有する企業への外資規制に注力する。そしてポストコロナ、ウィズコロナの社会変革へ経済安全保障の視点を前提に組み込むことが要諦だ。経済班は発足準備の段階からデジタル通貨、また外務省と経済班はWHO(世界保健機関)をはじめとする国連専門・関係機関のガバナンスについて論点整理をおこなってきた。22年北京冬季五輪までにはデジタル人民元が発行されるようだ。すでに中国においては、中国版プラットフォーマーであるアリババやテンセントのような民間企業がキャッシュレス決裁の市場を席巻し、個人情報はじめ消費動向を採取蓄積している。中央銀行である中国人民銀行はデジタル人民元を発行することで、すべての資金の流れを監視し、付随する商流・物流データを捕捉することが可能となる。当然、人民元のキャピタルフライトを抑える金融措置を高い精度でおこなえるようになる。さらにデジタル人民元は、一帯一路圏での決済を糸口に、抵抗力のないアフリカ諸国や太平洋島嶼国の日常生活における金融包摂を生み出すであろう。人民元を主軸とした経済圏の出現やSWIFT(国際銀行間通信協会)ネットワークを必要としない国際送金システムは、現行の米ドル基軸通貨体制を脅かし、米ドル建て取引を前提にした金融制裁の無力化を意図する。ニューノーマル(新たな日常)では、現金授受による感染を忌避しキャッシュレスは進む。デジタル通貨発行へ国際環境の起動準備を急ぐべきである。コロナ禍においても、WHOの中国による支配力が危惧された。現在、食糧農業、民間航空、電気通信、工業開発分野の国際機関のトップを中国が担う。国際機関の中立・公平・透明性、法の支配を徹底するにあたり、我が国の存在は大きい。日本政府は次回G7の議長国である米国へサプライチェーンの強靭化、デジタル通貨、国際機関のガバナンスを主要議題として盛り込むことを調整している。

――サイバーセキュリティの専門家からは、日本はもっと監視を強化し、他国の諜報活動を含め、誰が何をしているかをきちんとチェックしなければいけないとの意見がある…。
 中山 ニューノーマルの非接触型への行動変容は、デジタルトランスフォーメーションと合致し、データ駆動ネットワーク社会へと進展するであろう。サイバー空間は海底ケーブルや5G基地局、通信衛星などの電気・光信号の伝達媒体、PCやスマホといった物理層から、インターネット・プロトコル(通信規約)、近年はブロックチェーン技術によるデータベース、プラットフォーマー、AIも実装されたアプリケーションが搭載されることで実体化する。これらすべての層で信頼できるセキュアな環境を確保するため、日本政府・企業にもNIST(米国標準技術研究所)が示すサイバーセキュリティ標準と同等の対策が必要である。さらに付言すれば、前述の中国人の事務局長を擁するITU(国際電気通信連合)では中国企業がIoTに適応する新たなインターネット・プロトコルを提案した。機微な情報を扱う金融機関でもERP(基幹業務の最適化)システムへ中国企業からの浸食が見られる。経済安全保障の問題意識から反応すべきと考える。もとより我が国ではプライバシー保護と公共の安全との関係性により、デジタル化は監視や個人情報流出へ繋がると心配される向きが市民社会にあり、マイナンバーの利活用についても丁寧に議論している。デジタル監視の管理社会への疑念を払拭し、現実を超える機能性を実装した「超現実仮想」へと変貌したい。

――尖閣諸島が緊迫した状況となっている…。
 中山 尖閣諸島水域への中国公船の侵入が常態化している。今年に入ってからはさらに頻繁に領海侵入を行い、日本に対する圧力を一段と高めているように感じる。少し前までは、侵入しても尖閣諸島沖の接続水域周辺で留まっていたのだが、今では接続水域を超えて、さらに日本の領海内に入ってきている。しかも、その滞在時間は以前よりも長く、日本の警告には全く耳を貸さない。あたかも尖閣諸島を自国の領土と主張し、居座っているような状況だ。コロナウィルス騒動による中国国内の不安定さを、香港、台湾や日本といった国外へ向けさせる意図もあるのだろう。

――沖縄県や日本政府の対応は…。
 中山 5月上旬にも尖閣諸島領海内で中国公船が日本の与那国島の漁船を追尾したという事件があった。与那国町議会と石垣市議会が2度にわたって中国側に抗議したのだが、抗議決議後も再び中国による領海侵犯が行われているため、石垣・与那国を含む八重山選出の県議会議員が沖縄県知事に中国側への対応状況を問い合わせたところ、「沖縄県としては、2019年に日本政府に対して、尖閣諸島が日本の領土だということを中国側に主張するよう要請した」と言う主旨の発言で濁した。本来ならば、沖縄県として中国側に抗議したうえで、且つ日本政府に対しても中国に同様の抗議を行う様に求めるべきだと思うのだが、県からは中国に対して何の抗議もせず、しかも日本政府に対して一年前に要請をしたというだけなのは何とも残念な対応と言わざるを得ない。

――石垣島と与那国島以外の沖縄県民の尖閣諸島に対するコンセンサスは…。
 中山 こういった沖縄県の対応に対して、左派系の新聞は何も批判しない。そして、沖縄本島に流通する県紙2紙は知事と同じ主張をしているため、県民達はメディアを通してこのような尖閣の現状を知ることすら出来ない。もちろん自ら関心をもってインターネット等で情報を収集しているような人には正確な情報が伝わっているだろうが、それが県民全体の動きとはなっていない。ただ、今回の与那国漁船の追尾の件では、政府が中国側にしっかりと抗議し、当然の事ではあるが従来よりもさらに踏み込んだ対応がなされているようだ。

――日本の海上保安庁の警備状況については…。
 中山 今、尖閣諸島には海上保安庁が管理する1000トンクラスの大型船が13隻置いてある。以前は2~3隻しか置いてなかったが、中国公船と対峙する巡視船の能力の問題については強化が進み、来年までには6000トンクラスの大型船も石垣島に置かれることになっている。また、石垣島には自衛隊駐屯地の設置が要請されており、これについては、すでに市有地の売却手続きや、その他の土地の貸し付け手続き等も完了している。建設も順調に進んでおり、2年後の稼働を予定している。もちろん、駐屯地が置かれただけで尖閣問題が落ち着くということではないが、完成すれば、すでに与那国島に配備されている陸上自衛隊沿岸監視部隊と共に、南西諸島の防衛体制がさらに充実したものになり、中国船への抑止力にもなっていくだろう。

――政府に対して望むことは…。
 中山 日本としての意思を、もっと明確に国際社会にアピールしてもらいたい。尖閣諸島は現在日本が実行支配しているが、新しい施設を作るといったような、何らかの措置が必要だと思う。現状では簡易型の灯台が一つあるのだが、それも、さらにしっかりと整備すべきだと考えている。灯台を適切に設置し管理することは航海の安全管理にも繋がり、それは世界中から見ても何ら批判されるような対象にはならない筈だ。また、東京には、竹島及び尖閣諸島、北方領土等の領有権に関する博物館「領土・主権展示館」があり、そこで海外の人たちに正しい認識を持ってもらうための活動を行っているが、石垣市にもそういった尖閣資料館があれば良いと考えている。石垣市が保有する沢山の歴史的資料をしっかりとアピールすることで、国民の関心も高まり、外国から石垣島を訪れる皆様にも、尖閣が石垣市の行政区域にあるという事を理解してもらえるのではないか。外国諸国に対するこういったアピールは、尖閣諸島を日本の領土だと諸外国に知らしめるためには非常に重要なことであり、国にはその辺りの支援をお願いしたい。

――コロナウィルス騒動で習近平国家主席の訪日は延期になっているが、国賓訪日ということであれば、尖閣領土問題もしっかりと解決すべきだ…。
 中山 習近平氏の国賓来日が予定される前の日中関係は、一時期落ち着いており、4月の訪日前には尖閣問題も沈静化するだろうと考えられていた。しかし、このコロナウィルス騒動で再び両国の関係は厳しくなってきており、そういった状況の中で国賓として迎える事は相応しくないと思う。国際社会に対して、日本は尖閣問題を棚上げしたまま中国と友好関係を結ぶような国だという印象を与えても良いのだろうか。どうしても国賓として迎えたいのであれば、日本政府が「尖閣諸島は日本の領土だ」という事を明確に打ち出し、その姿勢を国際社会に示したうえで、中国側に訪日の選択を委ねるべきだ。

――尖閣周辺で漁業を営む人たちの生活の保障は…。
 中山 尖閣の南側では日本と台湾間における漁業協定のもと、マグロ漁業を行っている。丁度、今も美味しい本マグロが獲れる時期なのだが、コロナウィルスの影響から魚自体が売れなくなっており、そこで、漁師の方々は、少しでも値段の高い魚を求めて、尖閣周辺に生息するアカマチという高級魚を獲りに行っている。普段から中国船の圧力によって漁場を奪われているという漁師の皆さんの不安はもちろんあるが、今は新型コロナウィルスの影響の方が強く、漁業関係者は大打撃を受けている。そういった方々に対しても、出来る限りの国からの支援をお願いしたい。

――最後に、国民の皆さんに対して一言…。
 中山 コロナウィルス騒動で国民の関心はそちらに向かってしまい、尖閣諸島はニュースになりにくいが、日々、中国公船からの領海侵入を受けている。そういった事実を理解していただき、国民世論として、自国の領土は自分たちで守るということを発信してもらいたいと願っている。最近の香港状勢を見てもわかる通り、中国は国民の関心を国外に向けるため、強引な賭けに出てきており、いつ尖閣諸島で同じ様な強引さを出してくるかわからない。そうなる前に、国民が強い意志を示すことが中国に有事を起こさせない牽制になるのではないか。

――コロナウィルスの影響で、4~6月期のGDPは前期比年率で20%以上減少という見方がエコノミストの平均だ…。
 上野 まだ4~6月期が半分ほどしか終わっていない段階で数字を出すのには本来は無理があるのだが、20%前後の落ち込みになってもおかしくない。新型コロナウィルス感染拡大防止のために経済活動の多くをストップしている状況で、景気が悪くならない方がおかしい。ポイントは、落ち込んだ後の景気回復過程だ。有効なワクチンが開発され、それが安価で大量にグローバルに供給されて、抗体保有者が60%以上の集団免疫の状況が出来なければ、その国は安心できる状態にはならないとされている。そうなるまでの間をどのようにマネージしていくのか。イギリスは当初、ウィルスに人々が感染するのを放置して多くの人に免疫をつけさせる手法を選択したが、入院患者や死者が急増して医療崩壊のリスクが出てくるのを放置するわけにはいかず、方針転換した。一方、スウェーデンは現在、高齢者などを除いて積極的な感染防止策をとっていない。その結果、周辺国と比べて死者は圧倒的に多いが、経済成長率の落ち込みは相対的に小さく抑えられている。こうした事例も含め、新型コロナウィルスへの各国の対応を最終的にどう評価するかは、後世の判断に委ねられる。

――今後、経済はどのような形で推移していくと予想されるか…。
 上野 ワクチンの開発・普及には少なくとも1年はかかると言われている。それまでの間、感染拡大防止のために経済にブレーキをかけるのか、時々ブレーキを緩めて経済対策でアクセルを踏むのか、今は各国でその匙加減を模索している。確かなのは、ワクチンが開発されるまでは経済の本格回復はないということだ。回復し始めたとしても、それは極めて緩やかに波を打つ形での回復にとどまろう。また、ワクチンが開発され、今回のウィルスが収束したとしても、その後の社会生活がコロナ危機前と同じものに戻ることはないだろう。今回の件で企業も家庭も行動パターンを変えてきている。さらに進化したウィルスが出てくるリスクも常にあるし、企業はテレワークの推進でコスト削減を進め、家庭ではソーシャルディスタンスを考慮した新しい生活様式を取り入れ始めている。人と近づくことのリスクを痛感してしまった今、人間の価値観や社会事象の断層的変化と、先進国の高齢化が相まって、経済成長力のトレンドは低くなり、数年先まで世界のGDPが元に戻ることはあるまい。

――GDPが回復しなければ、金融機関の不良債権が増えていくのではないか…。
 上野 金融機関の中には今後そのような問題が出てくるところもあるかもしれないが、それが金融システム全体の危機につながることはないだろう。政府や中央銀行は金融機関に対する強力なサポート体制を作り上げており、資本バッファーも厚く積ませている。国の関与が強まるという意味では、経済は社会主義化している面がある。さらに、金融市場は国家管理のもとで動く人工的な色彩を強めている。経済対策として国債を大量に発行したとしても、FEDも日銀も、これを無制限に購入すると宣言している。これは事実上のマネタリゼーションなのだが、新しい危機のもとではやむを得ない策として、各国は容認している。日本ではリーマンショック後、どんなに非伝統的な手法を駆使しても経済や金融が元の状態に戻らないまま、今回のコロナウィルス問題に直面した。そして危機対応が最優先というロジックを前面に出しつつ、本来は考えておかなくてはならない出口戦略は棚上げにして、近視眼的なネット世論などを背景に、目の前の混乱を押さえ込んで表面の安定を確保しようとしている。ある意味、経済政策の限界が露呈したとも言える。中長期的なしっかりした景気回復の展望が開けない中で、国家管理主義が広まり、国債が世界中で大増発され、それを中央銀行が買い取るという構図が続いていく。日本だけでなく米欧でも債券市場は機能麻痺に陥っているのだが、世界標準となりつつあるだけに問題意識は広がりにくい。

――景気が悪い中、国債を増発することで、スタグフレーションを引き起こす可能性は…。
 上野 そうした事態に陥る可能性は全くないと見ている。供給制約よりも需要蒸発の影響の方が、今後も物価状況では影響が大きい。需要が伸び悩む状況はコロナ後も続くだろう。グローバルに需給が緩んでいる状況で、物価が一方的に上がることは考えられない。マスクの販売価格は一時急上昇したが、今では毎日のように値下がりしている。結局、需要に対して最終的には供給過多ということだ。インフレ期待もグローバルに下がってきている。

――米中対決もさらに激しさを増している。リスクシナリオとして、戦争の可能性も視野に入れておくべきなのか…。
 上野 財政赤字が膨張している中で、軍事費を大きく増やすようなことは難しいし、「核の均衡」もある。米中戦争の可能性は乏しいだろう。しかし、米中の対立関係が深刻化しているのは事実で、これは米国の大統領がトランプ氏でなくなったとしても変わらない。コロナウィルス感染拡大は中国のせいだという批判を、米国は強めている。その中で、生産拠点の自国回帰を促したり、5Gでは中国はずしを目論んだりと、一国主義或いは保護主義に向いている。米中関係がどのような形で展開していくかは21世紀の大きなテーマと言えよう。

――反グローバル化の波はますます加速し、GDPの回復も見込めないとなると、未来の姿はどうなっていくのか…。
 上野 サプライチェーンの安定性を確保するために国内生産を進めるという流れはコロナ危機以前からあった。貿易が滞れば世界経済の成長が全体として弱まることは言うまでもない。良し悪しを別にして言えば、財政赤字を気にしないなら、社会保障は手厚くできる。けれども、米国では失業給付金が多すぎるため、復職を拒んでいる人がいることが問題になっている。そうした点も含め、マクロでは先行きを悲観せざるを得ないが、私はミクロに関しては意外に楽観視している。かなり前から「経済成長率イコール人の幸福度」ではないという考え方が広がってきており、賛同できる。国の経済力が落ちたからといって、国民が必ず不幸になるわけではない。日本はここ数十年で、転職や起業を含むさまざまなキャリア設計が可能な状況に大きく変わってきており、ミクロベースの可能性は相当広がったと思う。

――生活パターンの変化に伴い新しい商機や産業が生まれてくる。その辺りの分野が今後の成長力のけん引役となっていく…。
 上野 そこまでの広がりがあるかどうかはわからないが、新たな成長分野が出てくることもあるだろうし、個人の幸福度が満たされるような分野も出てくるだろう。働き方も昔とは全く違ってきている中で、収入面でも、幸福度という面でも、個々人の知恵や努力や運次第で、その格差はさらに大きくなると思う。周囲とよく話題にするのだが、夏でも通気性があって涼しいマスクを発明してグローバルに販売できるようなことができれば、億万長者だ。そういうチャンスが今はたくさん転がっている。昔とは違って、今は大企業に勤めていれば一生安泰だということはなく、先の見えない世の中だが、その代わりに明るいシナリオを自分で描いていくことのできる可能性がはるかに大きくなっている。グローバルにGDPが再び力強く増加していくようなことは考えられないが、だから人々の幸福度が下がっていくということではなく、満足度はむしろ上がっていく可能性があるのではないか。

――沖縄科学技術大学院大学(OIST)の学長になられた経緯は…。
 グルース 私はヘッドハントをしている企業からアプローチを受けたことをきっかけに、OISTに対して興味を持った。当時は、世界トップクラスの学術研究機関であるドイツのマックス・プランク学術振興協会の会長を退いたばかりだったが、OISTのことをネットで調べられる限り調べたところ、マックス・プランクが成功している要因のほとんどのことをOISTも行っているということがわかり、OISTの学長になることを決断した。OISTの顔として、学内だけでなく、学外、地元の方々、恩納村、沖縄県、そして産業界、学術界、国内国外問わず、さまざまなステークホルダーと協力関係を築き、よりOISTを成功へと導いていきたいと考えている。

――学長に就任してから大きく変わったところは…。
 グルース 01年に提唱されて以来、OISTの理念は、OISTの価値を上げ、成功に導くために本当に必要なものであり、OIST設立の父たちが成功のための基礎を徹底してくれたと評価している。私が17年に着任して以降は、ガバナンス、それから採用・雇用のやり方、そしてその厳格さを変えてきた。OISTは着実に世界トップレベルになっていると自負している。特に今年は、20年から30年までの戦略計画を打ち立てた。

――ガバナンスで最も心がけていることなどは…。
 グルース OISTの理事会は、OISTの将来にとって非常に重要なことを議論する場だ。理事会ではさまざまなディスカッションをしており、OISTが前進するためには何が最善かという話をしている。私は着任後、2名のノーベル賞受賞者をさらに理事会に加えることを提案した。理事の方々に重要な戦略や今後のOISTが向かうべき道筋などを提案することが、私の最重要任務の1つだと考えている。また、OISTにはさまざまな諮問委員会があるが、そのうちの1つがどのような研究を進めていくべきかを諮る委員会だ。これは世界トップレベルの科学者たちで構成している。さらにOISTの現在の状況をチェックし、今後のための提案をする、そういった目的の外部評価委員会がある。委員にはOISTに実際に来ていただき、そしてOIST全体の評価をしていただいている。こうした委員のなかには多くのノーベル賞受賞者が参加しており、最高レベルの評価をされていると感じている。また、日本国民、世界中の方々、日本の政治家のOISTへの見方を変えたのが、OISTが入ったランキングだ。去年、ネイチャー誌を発行している出版社、シュプリンガー・ネイチャーから、質の高い論文の割合で日本国内では1位、世界では9位と、高い評価を得た。これが可能だったのは、OISTは世界で最も優れた科学者、そして教職員を採用することができたためだと考えている。昨年、OISTが教員の募集を世界中にかけたところ、1544名の応募があり、そのなかから優れた18人を選ぶことができた。これは世界中でOISTに対して関心が高まっていることの表れだろう。OISTの教員の60%以上は外国人であるが、世界中からトップの科学者たちを選ぶことで、OISTが最先端の科学を研究するという保証が取れていると考えている。

――日本の大学とは雰囲気がまったく異なるように感じる…。
 グルース 伝統的な日本の国立大学などとOISTとの違いというのはいくつかあるが、1つがガバナンスだ。非常に細かいことではあるが、OISTの場合、学長が、教員からではなく、理事会から選ばれることになっている。教員が選ぶ場合、自分にとって都合の良い候補を選ぶ可能性があるが、理事会が選ぶ場合にはOISTの未来のために誰がベストかということを考えて選ぶことができるため、それがまず重要なガバナンスの違いだと捉えている。そして2つ目の理由が、「ハイトラストファンディング」にあると考えている。OISTは教員に対しある程度自由に研究を進められるだけの資金を提供しているため、公的な競争的研究資金(グラント)の割合はおよそ5%~7%程度であり、グラントの申請にかける時間を短縮できる。それによって、技術と競争力のある研究が可能となっている。日本とそのほかの世界のハイテク国家を比べると、日本は大変に非効率だ。これはグラントの申請に時間が掛かるためだ。グラントの申請と研究の生産性には関連性がある。グラントを得るためには、すでに主軸と認められている研究をしなければならないため、まったく新しい研究をすることができなくなってしまう。一方OISTでは、研究プロジェクトに資金を充てるのではなく、ベストな人に資金をつけるという考え方だ。このベストな人材というのは、すばらしい研究プロジェクトを考えてくれる力がある人だ。

――研究資金について、国からの助成金が多いために良い研究ができるのではないか、といった負け惜しみのような声も聞かれるが、この点はどう受け止めておられるのか…。
 グルース そもそも日本の伝統的な大学とOISTを比べることは、まったく別のものを比べるようなものだろう。多くの日本の国立大学は助成金の割合は50~60%程度となっているが、それに加えて大学病院に来る患者の方からのお金や学部生からの学費が非常に大きな収入源となっている。しかし、OISTにはこの2つがないため、OISTと日本の伝統的な大学を単純に比較するというのは不公平だろう。

――世界的にも評価が広がって来ているが、今後の目標や抱負は…。
 グルース OISTはパフォーマンスに優れた大学だが、規模としては非常に小さい。例えば教員数で言うと80人しかいないが、東大であれば教授だけで1200人以上おり、OISTは非常に少ないということがわかる。社会にインパクトを与えていくためには、さらに成長を拡大していかなければいけないだろう。その点、我々が参考としているのが、アメリカのカリフォルニア工科大学だ。ここは教員数が約300名だが、学術界で非常に大きなインパクトを与えており、そして技術移転もアメリカ内で多く行っている。OISTはさまざまなことを組み合わせながら、すばらしい大学を作っていくことを目指しており、まずは採用の厳格性を強め、100名の教員をこれから採用していきたい。10年後に200名体制を目標としている。また、OISTが成長していけば、日本にとって重要な分野に対して科学者を採用することができるだろう。例えばサイバーセキュリティの分野に関してだが、日本では20万人のサイバーセキュリティ人材が不足していると言われている。
 そしてもう一つ、感染生物学の分野も科学者を補充することで、未来のパンデミックの影響を軽減することができるようになるだろう。 また、量子物理学の分野で、ここに補充できれば量子コンピュータの研究が進む。OISTの成長拡大に伴って、日本にとって重要な分野も強くなっていき、そして最先端の科学も強くしていけると考えている。また、OISTの目標の1つに、沖縄県の発展のために技術移転を行っていくというものがある。我々は特許の数で言うと、今はおよそ150の特許を取得しているが、今は恩納村とともに、大学のキャンパスの隣にイノベーションシティを作る計画を進めている。このイノベーションシティでは、スタートアップのなかでもハイテクに関連したスタートアップ企業を呼び込みたいと考えている。東京の政治家の方でOISTへの支援を表明してくださっている方もいらっしゃるうえ、企業との連携も進んでおり、この沖縄県内にハイテクエリアを構築する試みは成功するだろう。<br><br>
 今は国家戦略特区スーパーシティの申請も進めているところだが、このスーパーシティ、そして恩納村と共同で進めているイノベーションシティのプロジェクトを組み合わせていく。どちらもテクノロジーを中心としており、例えば、自動運転のシャトルバスがイノベーションシティと恩納村、大学のキャンパスをつなぐことを想定しているが、規制緩和が進めば、恩納村内に50ほどもあるリゾートホテルなどともつなげてはどうか。また、そこには科学のエンターテインメントもぜひ取り入れたい。科学の情報を若い人たちに楽しく伝えられる科学のミュージアムで、チームラボと協力できないか相談を進めているところだ。こうしたことが、OISTが科学を通して社会に貢献できることだと考えている。

――ぜひ大学で金融や経済も研究していただきたい…。 
 グルース 残念ながら今年はコロナの影響で始めることは難しいものの、来年にもぜひ取り入れたいと考えているのが経済やスタートアップ文化、社会科学の授業だ。我々は専門家とOISTの教員たちとともに、こうした追加カリキュラムを導入したいと考えている。単位を与えることはできないものの、学生達をトレーニングする目的の追加カリキュラムとして導入していきたい。米国では、75%の仕事は設立5年以内のスタートアップから生まれている。スタートアップを起業したり、投資したりする文化を根付かせることが大切で、そのためには規制緩和も必要だ。今後の課題としては、OISTは日本国民の税金によって資金を得ているため、日本の国民の皆様にOISTの価値を理解していただくこと、そして今後、10年間で国からの助成金を確保し、教員200名体制へとつなげていく。イノベーションシティの計画なども、助成金が増えていかなければ達成は難しいだろう。

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