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Information

 島田 ロシアとウクライナの戦争が長期化しているが、その背景にはソ連の復活を望んでいるプーチン大統領の強い願望があるとの見方がロシアの周辺国ではもっぱらだ。ロシア国境に近いEU各国は、プーチン大統領はウクライナを制圧したら、次は自分の国に攻めてくるとの警戒感を改めて強めている。同時に経済が貧しかったソ連時代には戻りたくないという思いも強い。このため、プーチン大統領が周辺国の経済を富ませる方法でソ連復活への道を作れれば良かったが、ウクライナに軍事侵攻したことで改めてロシアに対する警戒感が強まってしまった。フィンランドやスウェーデンがNATO加盟を申請したのは武力によるソ連復活への警戒心の強さを象徴している。

 木村 ロシアのウクライナへの特別軍事作戦は正当防衛という面がある。ロシアは2月24日、ウクライナ右派や米国に支援されたゼレンスキー・ネオナチ政権の攻撃からウクライナの親ロ派住民を守るために特別軍事作戦を取った。その結果、その行為は国際社会から 「侵略」と捉えられている。もちろん、主権国家に軍隊を派遣するのは一般的に「侵略」の定義に当てはまるが、この8年間に及びウクライナから親ロシア地区(ドンバス地方など)への攻撃が行われたという事実があり、プーチン大統領はゼレンスキー大統領が欲するNATOの東方拡大への防御を行ったまでだ。ロシアも外交条件を満たせば、いたずらに周辺国へ攻撃をすることはない。ワルシャワ条約機構はソ連の崩壊とともに消滅したが、それならばNATOも本来は解体しなければならないはずだが、NATOはそうしていない。多くの西側メディアはロシア悪玉論に立って、定期的にロシアが脅威である姿を報道しているが、ウクライナには140社の戦争広告代理店が入っていて、競うようにロシアの悪玉論を世界中に報道していると言われている。逆にプーチン大統領がまともなことを言ってもマス・メディアは取り上げることは少なく、ロシアは宣伝合戦で負けてしまっているかもし れない。

 島田 確かにウクライナの東部にはロシア人がたくさん住んでいて、以前からウクライナ人とロシア人の間で価値観の違いや争いがあり、紛争化してきた。現在の戦争下においてもウクライナ国内では、反ロシアが鮮明な西側地域の国民と、国外逃避を望まない多くの東側住民では戦争に対する評価も違うようだ。また、東部に住んでいるロシア人を救えという大義名分は十分にロシア国内で通用するし、ロシア人が大多数を占めているクリミアでは「平和理」に併合に成功した。

 木村 ウクライナはモザイク国家を形成しており、立国以前から親ロシア派と反ロシア派がグラデーションを描くように混在していることを理解する必要がある。現在のウクライナは、91年12月に独立に関する国民投票が行われ、独立が確定したことで建国した。その後は、クチマ政権(1994~2005年)などEUやNATOへの加盟を緩やかに目指しロシアをけん制する政権もあった一方、ロシアと穏便な関係を築き共存を目指す親ロシア派もあり、ウクライナ国内でさまざまな勢力が混在していた。全体としては、旧ソビエトの一員としてEUやNATOには加盟せず、ややロシアに近いポジションにとどまる従来通りの状況を続けようとする考えが多かった。ただ、反ロシア(反ソビエト)運動は元々存在しており、西のガルチィア地区でバンデーラという人物は、第2次世界大戦前後にソビエトに対抗してウクライナ民族解放運動を主導し、ヒトラー主義者となって戦っている。

 島田 ポーランドサイドの分析によると、ウクライナはEUに加盟したポーランドの著しい経済成長を羨ましく思い、とにかくソ連時代から収奪されてきたロシアから離れEUに加盟することを熱望した。しかし、その西側への接近がプーチン大統領の琴線に触れ、かつロシアがウクライナに侵攻できる口実を作ってしまったというわけだ。東部地区の紛争停戦合意であるミンスク合意も所詮は同床異夢であり、ロシアから離れたいウクライナのゼレンスキー政権とロシアの衛星国としておきたいロシアのプーチン大統領との現地住民を巻き込んだ紛争だった。これが大きくなったのが現在の戦争だ。

 木村 ウクライナはゼレンスキー政権でバランスを失った。遡れば2010年、親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ氏が大統領選挙で選ばれたが、2014年にキエフの「マイダン革命」というクーデターで失脚し亡命する。「マイダン革命」の非合法状態から、東部のドネツクやルハンスクで親ロシア派が独立を望むようなり、混乱状態に陥った。これを解消するため、「マイダン革命」後、オレクサンドル・トゥルチノフが臨時の大統領を務めたあと、選挙でペトロ・ポロシェンコが大統領になり、混乱を抑えながらロシアと対話を進めた。ポロシェンコは独立を望む東部の立場も尊重し、ミンスク合意ができた。その後、ポロシェンコの任期が終わり、2019年にウォロディミル・ゼレンスキーが大統領に選出された。ゼレンスキー氏はクリミアや東部すべてをロシアから取り戻すと主張し、ミンスク合意を無視し続けた。また、EUやNATOに加盟することも希望し、ウクライナが急速に西側に傾き、元々モザイク国家でバランスを崩しそうだったウクライナは、ゼレンスキー政権樹立でより脆弱になってしまった。

 島田 東部地区の地元住民の意思がどこにあるのか、仮にロシアの衛星国としてウクライナからの独立を望んでいるとしたら、それはロシアからのプロパガンダや軍事的圧力により形成されたものでは無いのか。ウクライナとロシア双方の軍事・外交政策や領土争いが絡んでなかなか第三国からは分かりにくい。しかしながら、今回のような軍事力による侵攻は国際的には評価されないし、ましてや平和主義を掲げる日本は軍事侵攻を否定しなければいけない。それは「平和理」に行われたクリミア併合とは異なる次元だ。

 木村 ウクライナ大統領府顧問であるオレクシイ・アレストビッチ氏は、ウクライナがNATOに加盟できなかったなら、「ロシアと3回も戦争をして、NATOに加盟を認めさせるしかない」と指摘し、ロシアの軍事行動以前から戦争の準備を始めていた。アレストビッチ氏によれば、ウクライナの計画として、ロシアと3回戦争するという。第1回は今現在、その後停戦を挟み第2回は2025~2026年、最後は2030~2032年ごろだ。一方、プーチン大統領としては、クリミア帰属は住民の意思を踏まえた正式な合意の元で成り立っているうえ、東のドネツクとルハンスクも独立志向にあり、ミンスク合意を壊され、ウクライナのアゾフ連隊により虐殺を受けており、ウクライナこそ合意を破って戦争を準備・画策していたとの立場だ。東部ではロシアのワグネルという民間部隊が入って親ロシア派を保護していたが、西側は欧米の訓練を受けた正規軍を動員して、また、アゾフ連隊は日本の公安調査庁もテロ組織と認めていた団体であり、ウクライナは積極的に火の粉を撒き散らしているとロシアは思っている。

 島田 まず地元住民に今の政府が悪いという思想を植え付け、それを解放するのが我々だと言ってその地方を戦争による犠牲を最大限抑え併合するやり方が、いわゆるハイブリッド戦争だ。クリミアはその成功の典型例だとも指摘されている。この手法は、北朝鮮による韓国、中国による沖縄や関西地方にも利用されている。また、プーチン大統領はKGB出身で、これまで様々な策謀をめぐらしてきた。足元では、ロシアの新興財閥のトップが次々に不審死を遂げている。そうした経歴から、クリミア大橋を爆破したのも自作自演で、それによりウクライナへの空爆の口実を作り、また近い将来は戦術核を使用する布石とも見られている。

 木村 プーチン大統領の言ってきたことを「すべて嘘つき」だとするのは、私は間違っていると思う。プーチン 大統領の発言をウクライナ側が捻じ曲げていることも見受けられる。オレクシイ・アレストビッチ氏が3回戦争すると言っているように、ウクライナは既に戦争のプランを立てていたのであり、そのプランに基づいて武器が西欧から輸入され、軍の訓練が行われているようでは、ロシアとしても見過ごすわけにはいかなくなる。一方でゼレンスキー大統領もクリミアの奪還を主張している。ゼレンスキー政権はクリミアを取り戻すと言い続けなければNATOからの武器が手に入らなくなるが、現実的にクリミアを取り戻すのは難しい。なぜならば、クリミアの住民の8割が住民投票でロシアに帰属することを支持しているからだ。ただ経済制裁によって、人々は不自由な生活を強いられている。この困難は西側のやり口だが、これがなければロシア帰属に不変はない。しかし、人間の意思を変えさせる制裁という犯罪を西側が行っているのだ。これまで、クリミアはリゾート地で海外からの観光客がお金を落とすが、ウクライナがキエフにそれをすべて吸い上げてしまっていたことがある。ウクライナは貧乏な国で、ドル箱であるクリミアを手放したくなかったが、ゼレンスキー政権とクチマ前政権の地方経済政策が良くなかったことも、クリミアの住民がウクライナではなくロシアを選択した理由の1つだ。

 島田 プーチン、ゼレンスキー両大統領ともに最早ひくに引けない状況になっている。その結果、紛争地域の住民の犠牲がますます大きくなるとすれば、どこかで折り合いをつけるのが賢明であり、この役を日本政府が買ってでるぐらいのパフォーマンスをしなければ国連の常任理事国入りなどは夢のまた夢だ。私論だが、東部4州は独立しクリミアと合わせロシアの衛星国とし、ウクライナはEUとNATOに加盟しNATOの軍事基地を設け、双方痛み分けとする。その点、4州の住民は自らの意思で4州から出て移住することを可能とする。これでプーチン大統領の野望を一時的に抑え、そのうち彼が高齢で死ねばロシアの脅威は去る。

 木村 現実的な解決方法は、第3国が間に入って仲裁することだと思う。ウクライナはロシアからのミサイル攻撃で甚大な被害を受けているが、ゼレンスキー氏は親ロシア地区の主権を放棄できず、ロシアも損害がひどく、プーチン大統領の面目にかけて兵を引くに引けない状況だ。本当なら米国が仲裁に立つべきだが、米国産の武器を使ってほしいがために、外野から呼び掛けるのみに留まっており、ヨーロッパの主要国も様子見を決め込んでいる。第3国の候補として、トルコやスウェーデン、ノルウェーなどが仲裁に入る可能性がある。双方が受け入れられる停戦の条件は、ゼレンスキー氏が提案している、2022年2月24日以前の状態に戻し、矛を収め、領土問題について15年間の交渉をすることだ。ドネツクとルハンスク、クリミア、ヘルソンは、国際的には認められないだろうが、一時的にロシアが認める独立国家として成立し、ウクライナも主権を放棄したわけではないものの独自の地位を認め、その後15年間の交渉を行うということであれば、プーチン大統領の顔も立つだろう。ウクライナは表向きにはロシアとEUのどちらにも与しない中立が成立し、表面上はNATOとの関係がなくなることでプーチン氏の面目も立つ。ウクライナは裏では軍事や貿易でEUとの関係を維持することになるため、ゼレンスキー氏もウクライナの安全保障を保ち国土復興を大義として認めるだろう。ただ、ウクライナ側に3つの戦争計画プランがあるとすれば、第1期は来年ごろ終わる。第2期は2025年ごろにまた始まることになる。国際社会にはロシア側が侵攻を止めないという、一方的な見方があるが、西側諸国の報道に左右されず、侵攻はウクライナ側によって仕組まれ画策されているという認識も必要だ。

――RCEP(地域的な包括的経済連携)が今年1月に発効した…。

 清水 RCEPはASEAN10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)、日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランドが参加する、東アジアで初のメガFTAだ。ASEANを含めた広域の東アジアは、現代の世界経済の成長センターとなり、RCEPの発効は世界経済に非常に大きな意義がある。RCEPは全世界のGDP、人口、貿易総額の約30%を占め、日本の貿易総額のうち約50%を占めることとなった。

――昨年10月に米国は中国抜きでIPEF(インド太平洋経済枠組み)を提案し、その前の18年末からは米国抜きでCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)も発効している…。

 清水 IPEFは米国が主導し、デジタルを含む貿易、サプライチェーンの強靭化、クリーンエネルギー・脱炭素・インフラ、税と腐敗防止――の4本柱が提案されている。サプライチェーンの強化やデジタル貿易の通商ルール化に貢献しそうだが、経済の枠組みとして重要な関税の引き下げが含まれず、アジアにとって実利は薄くなりそうだ。ただ、米国がアジアの経済枠組みから離れていたので、米国がアジアに関与しようとしていることは意義深い。TPP(環太平洋パートナーシップ)はトランプ大統領時代の米国が離脱し、日本が主導してCPTPPという形になった。CPTPPもインパクトがあるが、規模だけを見ると東アジアすべてを覆うRCEPの方が大きい。

――日本はRCEP、CPTPP、IPEFの3つのFTAに加盟している唯一の国だ…。

 清水 まさに、日本はこれら3つをすべて活用することが重要だ。RCEPは東アジアのメガFTAで一番インパクトがある。CPTPPもかなり水準の高いFTAなので積極的に活用する意義がある。IPEFもサプライチェーンの強化やデジタル経済に大きな影響を与え、アジアに米国を引き込むという思惑もある。日本はこれらFTAに積極的に関わり、かつ、日本が相互補完させていくことが大切だ。民間分野でも、日本企業はRCEPの枠組みに大きく関わりがある。RCEP地域に進出している日系企業の輸出の約8割がRCEP域内だ。日系企業にとっても大きな意義があり、同時にRCEPやCPTPPを補完しながら活用するのが重要だ。また、日本はASEANと連携し、かつ支援することが重要だと思う。RCEPはASEANが提案して交渉をリードしてきた。日本が積極的にASEANを支援し、RCEPでASEANが中心に位置し続けることで、中国の影響力が拡大するなかでも、RCEPの中でのバランスがうまく保たれると思う。

――RCEPをどのように活用すべきか…。

 清水 RCEPは東アジアの経済を発展させるために重要な意味がある。貿易や投資を拡大させながら、東アジア全体をまとめる新たなルールを確立することができる。また、RCEPは日中と日韓の初めてのFTAとなる。日本のどの産業にもメリットがあるが、主要産業の1つである自動車分野では、日中と日韓のFTAにより日本企業の輸出が加速する。RCEPにより日本の工業製品に対する中国の関税撤廃率が最終的に8%から86%に、韓国の関税撤廃率も19%から92%へ拡大する。日本の自動車部品に対する中国の関税撤廃の割合も最終的に87%まで拡大する。さらに、関税撤廃される自動車部品のなかには、電気自動車用の重要部品も含まれ、日中間の貿易はますます活発になることが期待できる。実際に、RCEPの利用が急速に拡大している。日本商工会議所がRCEPの原産地証明書の発行をしており、これが企業のRCEPの利用を示す。1月に671件だったものが、半年後の6月には9132件と10倍以上拡大した。これまでは、日本とアジア諸国との経済連携協定において日本タイ経済連携協定(JTEPA)の原産地証明書の発行数が最大だったが、6月にJTEPAは7811件にとどまり、これをRCEPは上回った。

――米中のデカップリングが進むなか、日本のサプライチェーンに中国を組み入れない方が良いのではないか…。

 清水 RCEPはASEANや中国を含めた広域連携が目玉で、米国と中国でデカップリングが進むなかでも、日本としてRCEPを活用しない手はない。懸念されている米国と中国のデカップリングも全面的ではなく、一部のハイテク分野や機微分野に限られると考えている。米国にとっても中国との貿易関係と投資関係は重要なので、すぐにすべてをデカップリングすることはないだろう。また、日本は複数のFTAに加盟していることで、経済安全保障上の重要分野においては中国が参加しないCPTPPやIPEFを活用するなど、目的によって使い分けることが可能となった。貿易とサプライチェーンは密接につながっている。経済安保の問題はいくつかの重要分野で存在するのは確かだ。しかし、日本を含む世界中のサプライチェーンが中国と相互依存しているなかでは、サプライチェーンを活かして貿易を行っていくことが重要だ。経済安保も行き過ぎると経済に大きな打撃を与えることとなり、各国の政策担当者にはバランス感覚が求められる。また、RCEPといったメガFTAに中国が参加することは、中国を貿易や通商の国際的枠組みに組み込ませる意義がある。RCEPは多国間の枠組みで、中国と交渉するときも、1対1ではなく多国間で話ができることがメリットとなる。中国という大国に対して1対1で交渉を進めると、どうしても中国有利となってしまうが、多国間で交渉することでフェアな話し合いに持ち込みやすいというメリットも大きい。

――RCEPの今後の問題点は…。

 清水 RCEPはいわゆる生きた協定と言われ、時代に合わせ質の高いFTAに改善することが求められる。第一には、現行の関税撤廃率をさらに拡大することが重要だ。今は全体で91%の最終的な品目ベースの関税撤廃率となっているが、それをさらに引き上げたい。第2に、各章の内容を充実させる必要がある。例えば、電子商取引において,CPTPPで規定されるがRCEPには含まれていないソースコード開示要求の禁止を含めることや、原産地規則に生産行為の累積を含めること、紛争解決においてその対象分野を拡大することなど、より踏み込んだ内容を加えるべきだ。第3に、インドや南アジアの国々の参加を促すことだ。RCEPの規模がアジア全体に拡大すれば、世界のGDPの半分くらいの規模に成長することができる。こうした貿易協定の発展とその組み合わせによって、経済安全保障とのバランスを保ちながら、世界経済を一層発展させていく推進力を今の日本が持っている重要性を忘れてはならない。(了)

――金融監督上の問題意識は…。

 伊藤 金融機関も一(いち)事業会社であり、その点他の業態にも言えることだが、とりわけ金融機関にとって重要だと考えているのは、どういう経営戦略やビジネスモデルを展開し、その経営戦略やビジネスモデルを展開していくための経営基盤や営業基盤、財務基盤、人的な基盤およびしっかりとしたリスク管理体制を有し、そしてこれらすべてが一体として機能しているかどうかという点だ。高いビジネスモデルを掲げてもそれを実現できる基盤がなければならず、またリスクが過大になれば当然経営は困難となる。また忘れがちとなりやすいが人的な基盤を有しているかは非常に重要で、人的な基盤がないのに理想を実現することはできない。一方で、リスク管理においては、よく営業が先行してしまい、リスク管理ができていなかった、チェックができていなかったケースをこれまでたくさん見てきた。このように各要素は相互に連携している。逆を言えば、基盤がしっかりしていれば高度な経営戦略を立てることは可能で、背伸びもできる。基盤自体は可変的であり、外部人材の採用や提携も戦略や展望に含まれる。つまりビジネスモデル高度化を目指すならば、並行して基盤を整えなければ難しい。織田信長は桶狭間で勝利したが、兵がついてこなければ、今川義元に1人でやられていた。後続部隊はいるのか、補給船はいるのかどうかを考えて攻め込まなければならず、そうした点を我々はチェックしている。

――監督のやり方は…。

 伊藤 これらすべてを監督することは大変だ。ただ、経営戦略や基盤についてトップがどのように考えているかはとても大事だと考えている。またトップが考えていることが部下にも伝わっているか、さらに顧客や取引先にも支持されているかも大事だ。これらが成立していなければ経営戦略は上手くいかないためだ。こうした要素について我々はトップとのコミュニケーションを通じて聞いているし、最近では現場を対象としたアンケート調査も実施しており、しっかりと意思疎通が図れているかもチェックしている。もちろん綺麗にすべてできている金融機関は少なく、評価は必ずしも優(ゆう)でなくてもよい。しかし、不可だと危うい。そうした金融機関に対しては、モニタリングレポートやフィードバックレターなどのコミュニケーションツールを通じてメッセージを発信している。

――金融育成庁を掲げている…。

 伊藤 とくに地銀関係では、制度的に統合を促進したり、システムのオープン化、人材マッチングなど支援施策を進めている。また顧客本位の業務運営の原則についても、ある意味、経営者をサポートしている。昔は検査に入り、不備を指摘すると、どこまで本音かはわからないものの、頭取からお礼を言われることがあった。銀行自らが気が付かない不備を指摘するコンサルティングとしての機能を有しているためだ。今は不備を見つけて是正するだけではなく、金融機関が発展してもらわないと困る。そのため、産業育成、事業者支援の側面がより強くなっている。ただ、基本的には金融機関がいかに健全に基盤を整備し、良いサービスを提供し、顧客にとっても地域社会においても良しとされ、サステナブルにビジネスを発展していくことを望んでいるし、そうすれば我々も安んじていられる。

――業態別の課題は…。

 伊藤 主要行は地域金融機関と比べて事業範囲が広い。海外に進出していれば、海外当局や海外マーケットにおける課題もある。そうした課題に対し、日本本社が全体をどうやってガバナンスしているのか、リスクを関知しているのかといった体制面を確認している。海外については、リーマンショック以降進めてきた海外当局との連携もさらに進めていかなければならない。どの国が発火点になり、世界的な危機を招くかわからない。それぞれのマーケットで何が行われているかを把握すべく、海外当局との情報交換を密にしている。また銀行だけではなく、保険会社も証券会社も同様のことが言えるが、業態を跨がっていたりする。その点、全体をマネジメントできているかどうかが我々の関心事項だ。

――地域金融機関の課題は…。

 伊藤 地域金融機関におけるビジネスモデルは一様ではない。メガバンクグループより複雑さは小さいが、それぞれに応じた経営戦略、基盤の確認が必要だ。また、地域金融機関は地元の取引先と成長していくことが必要だ。近年、急速な規制緩和を図った。これによって、地域金融機関は地域商社や人材仲介も営めるようになり、いろいろな経営戦略を立てることが可能となっている。また合併の補助金も提供し始めている。どれを使い、どうやって顧客や周辺に貢献し、リターンを得るかが今後の勝負となる。ただ、本当に経営が危うい地域金融機関に対しては我々が出て行かざるを得ない。そうしたことが起こらないことを期待したい。また、金利の上昇を受けた運用リスクについても監督を強化していく。

――証券会社の課題は…。

 伊藤 社会のデジタル化で環境が変化し、昔ながらの証券会社のビジネスモデルは薄れてきているが、各社とも試行錯誤の状態が続いている印象を受ける。環境が変わり、顧客のニーズが変化しているため仕方の無いことだ。ただ、基本的にはどうやったら顧客が満足するかを中心に据えなければサステナブルとはならない。焼き畑農業のような真似をすれば顧客の支持は得られない。やはり顧客が満足するようなサービスを提供し、良い関係を構築する、もしくはデジタルで使いやすいサービスを提供することなどが考えられる。手数料を取ること自体が悪いわけではない。ただ、顧客を満足させることができなければ、証券会社のみならず証券市場全体の参加者が減少することとなる。

――保険会社の課題は…。

 伊藤 基本的には同様で顧客の満足に尽きる。ただ、節税保険は保険会社の仕事ではない。保険商品ではないのに保険の免許を取った者が保険会社のふりをして販売しないでいただきたい。顧客は満足するのだろうが、国税庁が入ったら継続はできない商品を販売すべきではない。そのコストを払う価値があるのか、その責任を持てるのか。保険の免許を取り、保険販売のフリをしている者は、保険の免許を返上してからそうした行為をすべきだ。本当に顧客のためになっているのかを真剣に考えていただきたい。また外貨建て保険については我々としては運用商品として位置付け、投資信託と同様にKPIの公表を求め、運用商品らしく販売すべきとしている。他方で25年を目処にソルベンシーマージン比率を経済価値ベースとする。これは各社がこれまでやっていたものをルール化するものだが、システム対応など大変な面もあるかと思う。ただ、保険会社の健全性をよく見るという観点でやるものであるため、ぜひ協力していただきたい。

――デジタル化については…。

 伊藤 デジタル分野における発展は、金融との親和性が高い。そのため、今後も影響は拡大していくと考えている。金融庁としても様々な部署を設置して対応している。また国際的な議論にも参加し、遅れを取らず、むしろリードしていこうとも考えている。ただ、暗号資産から始まり、メタバースやWeb3.0など様々なことが加速し、かつ国境がなくなっており、対応は難しくなっている。そうしたなか、とりわけデジタル分野における課題として、マネーローンダリング、本人確認を意識している。例えば、メタバースにおいて本人確認が不十分なまま、アバター同士でお金のやり取りが行われた場合、国境を越えて悪いことに使われたりする可能性はある。こうしたことが起こらないように、どのように技術的に解決できるのか、規制を設けるべきかが課題となっている。

――コロナや地政学的リスクなどこれまでにない不安定な局面にある…。

 伊藤 コロナは資金繰り支援から始まり、債務過多の事業者への前向きな投資資金の調達やアフターコロナに合うビジネスモデルへの転換支援に変わり、また金利上昇や円安進展で事業環境が大きく変化しているなか、今後のビジネス展開や防衛策も検討していかなければならないが、ここに金融機関の役割がある。一方では、3年間据え置きのゼロゼロ融資の返済が23年の春から本格化するため、返済期限の延長や借り換えなどの対応も必要となる。アフターコロナに向けては、ゾンビ企業を淘汰するということではないが、生産性を上げれば賃金も上がる。コロナを大きなきっかけとして、日本経済の転換点とすることが金融機関の役目だ。(了)

――3年前に「宗教はなぜ人を殺すのか(さくら舎出版)」という本を執筆されている…。

 正木 今起きているロシア・ウクライナ戦争について、ロシア正教会の総主教キリル1世は「邪悪な勢力との戦いだ」と宣言し、ウクライナやウクライナを支援する西側諸国を「Evil Forces」と呼んでいる。一方で、ウクライナ正教会のトップは、今回の戦争は旧約聖書で最初に勃発した、アダムとイブの息子たち、つまりカインとアベルによる兄弟同士の殺し合いの再来だと言っている。もともと同系統のロシア正教とウクライナ正教がお互いを非難し合うようになっており、双方が戦争のために宗教を利用するようになってきている。ロシア正教は基本的にLGBDなど、いわゆるマイノリティの人たちを認めようとしない古典的な宗教だ。キリスト教系の新聞によればロシア側は今回の侵攻を「宗教戦争」と論じ、さらにはキリスト教が想定してきた世界最終戦争である「黙示録的な戦い」とも主張している。

――宗教を使って、戦争に突入した自分たちを正当化しようとしている…。

 正木 キリスト教やイスラム教徒などの一神教には「殲滅(せんめつ)」という言葉があり、異端とされるものは殺されるか追放されるかの二択だ。十字軍もそのような思想のもとに結成された。一方で、日本では戦国時代に浄土真宗本願寺教団の教徒たちが権力に抵抗して起こした「一向一揆」がある。一神教と多神教では平和や宗教に対する考え方が違うが、日本仏教でも浄土真宗を開いた親鸞聖人の思想の中には「正しい法を犯すものには暴力をもって立ち向かえ」という教えもあり、一向一揆は浄土真宗の教えを護るために発動された。開祖の意向はさておき、宗教の歴史を振り返ると、程度の差はあれ、自分たちの信仰を誹謗中傷したり弾圧したりする相手に対しては、暴力をもって立ち向かう面がある。宗教の持っている功罪を冷静に判断しておかなければ、のちに大きな問題になる危険性を孕んでいる。

――宗教は人の心を癒し、困っている人を救うという面もあるが、一方で自分の宗教を守るために人を殺すという面もある…。

 正木 宗教には二つの機能がある。一つは個人の精神を救済するという機能、もう一つは集団に規範を提供するという機能だ。そして世界の宗教の大部分は後者の要素が大きい。現在日本に普及しているキリスト教は明治維新以降に広がったものだが、戦国時代の宣教師たちにはキリシタンを利用して日本を制圧する目論見があったとか、日本国民をキリスト教徒としたうえで中国を侵略しようとしていたという説もある。江戸時代初期の島原の乱も、近年の研究では世俗的な一揆ではなく宗教戦争という面がやはりあったとされている。キリシタンが既存の宗教(仏教・神道)に対して極めて過酷な対応をしていたことも事実だ。例えば カトリック教会の福者として尊敬されているキリシタン大名の高山右近が、戦国末期に統治していた現在の大阪府茨木市周辺には、古代や中世から祀られていた神社仏閣が見当たらない。高山右近がすべて壊してしまったからだ。人間は集団になると権力を拡大させていきたいという心理が働く。そして、その集団に規範を与える事が、良くも悪くも宗教の持つ最大の機能だ。

――旧統一教会の問題もそのような機能によって引き起こされたのか…。

 正木 反社会的な性格の濃い宗教団体が主なターゲットにしてきたのは、とても真面目で、しかも精神的にやや弱いところや偏りがあったりする人だ。あるいは病苦などに追い詰められて、助かるのであれば、藁をもすがるという心境にある人だ。また、本気で「悟り」を求める人も、実はターゲットになりやすい傾向がある。「旧統一教会」の信者も、根拠のない足裏診断で多額の金銭を騙し取っていた「法の華三法行」の信者も、凶悪なサリン事件を引き起こした「オウム真理教」の信者も、入信した人たちの多くは当時、皆、本気で救いを求めていたのだと思う。かつて、オウム真理教の信者は「日本の寺は風景でしかなかった」と語っていたが、実際に現実の伝統仏教界は本当の意味で人を救う力を持っていない。そこにオウム真理教が台頭できる余地があった。現に、オウム真理教の麻原彰晃は桁違いなヨガの能力を持ち、仏教には欠かせない瞑想修行を非常に高い次元で実践しているとされたこともあって、自分の潜在能力を引き出してくれるかもしれない教祖として崇めるには申し分なかったのだろう。仏教では「輪廻転生」と言って、人は生老病死を繰り返しながら永遠に生まれ変わり続けるとされている。しかし、老いや病といった苦しみを二度と味わいたくない、繰り返したくないと思うならば、生まれ変わらなければよい。このため、仏教の開祖、ゴータマ・ブッダは、瞑想をして悟りを開くことで、完全にこの世から消滅して生まれ変わらないことを願ってきた。その後、仏教は時代とともに大きく変容し、目的も完全な消滅ではなくなっていったが、修行の中心に瞑想が位置付けられる点は、今もなお変わらない。それは、坐禅と呼ばれる瞑想法を実践する禅宗が、日本はもとより、アメリカでもアップルのジョブズの帰依を得たように、人気を博している事実からも証明できる。したがって瞑想指導の達人は、インドのラジニーシをはじめ、特別な存在として崇められてきた。それを思えば、麻原が尊崇されたのは無理もなかったと言える。

――日本では「八百万の神」という文化の中で、仏教もキリスト教もイスラム教も迎え入れているが…。

 正木 人類の起源をミトコンドリアDNAで辿ってみると、日本人のミトコンドリアDNAは約16種類あるという。欧州で約15種類、世界中で約55種類という事を考えれば、日本人の遺伝的形質は非常にバリエーションが多く、様々な遺伝子が混ざり合って現在の日本人を形成してきたことがわかる。そして、このバリエーションの多さが、「八百万の神」を信じる文化や、多神教の精神を生み出しているのかもしれない。他方で、反発を恐れずに言うならば、日本は「負け犬連合」という面もある。数万年前に人類がアフリカから初めて出て他の地に移住したのは5~6000人。そこから様々な大陸へと拡大していった訳だが、どんなに冒険心や開拓欲があっても、わざわざ危ないところには行かないはずだ。何らかの理由でそこに居られなくなり、行き場の無くなった人たちが、最終的に日本という場末の島国に辿り着いた。そう考えた方が自然科学的な次元で正しい説だと思う。そして、そのような背景から生まれた日本人は、他の地域の人々に比べれば、戦うということに関して、積極的だったとはとても言えない。戦乱の世とされる戦国時代でさえ、日本人自身は最高に悲惨な時代だと思っているが、世界水準からすれば、むしろ平穏だった。それは、当時欧州から来日した宣教師は「こんなに平和なところがあるのか」という手記を残しているほどだ。例えば、16~17世紀のヨーロッパに勃発したカトリック対プロテスタントの宗教戦争で最大の被害地域となったドイツでは、人口が戦前の3分の1に激減した。19世紀の初頭、ナポレオンは20年間に85回も戦争をした。そのような歴史を持つ欧州に住む人たちの感覚と、敵対者も徹底的に殲滅することなど思いもよらない島国に住む日本人では、戦いに関する意識は全く違う。そして、私たちの考える「平和」と、キリスト教徒やイスラム教徒が考える「平和」も違うのかもしれない。

――戦争時のカオス状態を治めるのも、宗教の役割なのか…。

 正木 宗教には、戦争を正当化しようとする役割と、何とか緩和しようとする役割の両面がある。イエス・キリストは暴力反対を主張し、戦うことを拒否していた。ただし、イエスの出現はすべて旧約聖書において予言されているというのが基本的な教義なので、暴力肯定の旧約聖書を無視できない。そのため、キリスト教は、カインとアベルの物語から始まって、モーセによる他民族の虐殺を正当な行為として描き出す旧約聖書に準じて、戦争や人殺しの正当化を繰り返してきた歴史がある。つまり、旧約聖書が道標の根底となっているキリスト教においては、人殺しは容認されるべきものになっているということだ。また、イスラム教については「世界中がイスラム教徒にならなければ幸せにはならない」という教えがあり、聖典コーランには「異教徒を皆殺しにせよ」という言葉もある。実際の歴史では、ある時点で、世界中の人々をイスラム教徒にする事など出来ないとわかり、そこで妥協することになった。ところが、近年、イスラム世界の衰退や矛盾の露呈から、穏健なイスラム教ではもうだめだ!コーランに書かれている文言をそのまま実行して何が悪い!と主張するイスラム原理主義が台頭してきている。これは非常に危険かつ複雑な問題を孕んでいる。

――宗教によって「平和」の形が違うとなると、今後の世界はどうなっていくのか…。

 正木 今の世の中は政治と経済の力が非常に大きくなっており、それが宗教を担ぐような形で展開し、宗教もそれに便乗して、お互いに利用し合う関係になっている。もともと欧州では中世末期に起こったカトリックとプロテスタントの宗教戦争において、イスラム教徒の多いオスマントルコが、キリスト教であることではカトリックと変わらないはずのプロテスタントを支援していたように、「敵の敵は味方」という利害関係の論理だけで動いている部分がある。そのような考え方は今後も簡単に変わるものではないだろう。一方で、日本には「強い国が弱い国を支配することは当然だ」という意識はあまりなく、そういった意味では世界のスタンダードな考え方からは少し外れている。それは多神教と一神教の違いなのかもしれないが、もしかしたら日本も、近い将来には「力がすべて」というような意識になっていくのかもしれない。宗教は微妙な問題が複雑に絡み合っている為、簡単にその仕組みを変える事は出来ないが、事態を単純化せず、解決は難しいという認識を前提に、少しでもお互いの違いを認めて協力し合うという考え方が、今の世の中には必要なのではないか。(了)

――政府は、脱炭素社会に向けた新たな国債の発行を検討している。そのポイントは…。

 齋藤 欧州では、政府が発行するグリーン国債をグリーンボンド市場のベンチマークとするような取り組みも始まっている。世界各国で環境分野への取り組みが加速する中、日本でも、「GX経済移行債(仮称)」が新たな国債として検討されている。しかし、具体的には未だ殆ど白紙状態だ。というのは、その資金使途によって、グリーン国債として発行できるのか、トランジション国債になるのか、或いはそもそもそのような国債として認証されないかもしれないからだ。それは予算編成プロセスに大きく関わってくる。理財局としては、その辺りを横目で見ながら、この新たな国債をどのような形で出せるのかを考えているところだ。また、「GX経済移行債」の償還財源は別途議論されていく予定になっている。その償還財源が何年後にどれくらいの金額なのかといった議論の成り行き次第で、何年物の国債が発行できるのかが決まってくる。我々としてはその議論を見守りながら考えていくしかない。「GX経済移行債」をどのような形で発行しうるのかは、資金使途と償還財源次第だ。

――今後の国債管理政策について…。

 齋藤 先ず、日本銀行の金融政策のこれからについて、我々が何か具体的なスケジュールやシナリオを想定しているというようなことは一切ない。一方で、今の日銀の金融政策が未来永劫続いていくことは無く、いずれ長期金利は、昔のように市場の動きによって決まっていく世界に戻っていくだろう。そうなった時に、国債発行当局としての課題は、いかに安定的に低コストで資金調達できるかだ。それは私がかつて国債課で課長補佐や課長を務めていた時代に行ってきたことと大きな違いはない。橋本内閣から小渕内閣に変わった時には国債の発行額が急激に増えたが、それを安定的に消化していくために、発行当局として出来る事を行い、しっかり管理してきた。そういった、これまでの経験の中で積み重ねてきたものは、きちんと整理されている。

――低コストで安定的な資金調達を行うために必要な事は…。

 齋藤 近年は日銀の金融政策によって低コストで発行出来ているが、その分、今の市場関係者の多くは「動かないマーケット」に慣れてしまっている。マーケットが再び金利の動く世界に戻った時に安心して取引できるようにするためには、流動性と厚みのあるマーケットが必要だ。それをもう一度きちんと育てていかなければならない。そのために、今、国債両課が一丸となって海外の国債管理政策の研究などを進めているところだ。特にトレジャリー(米国債)は私が課長補佐を務めていた時代にも参考としていたものであり、米国の発行当局がどのように国債を発行しているのか、円滑な資金調達のために何を行っているのかを見ながら、日本の制度改革を行ってきた歴史がある。そういったものを改めて研究することで、今後に役立てていきたい。

――今後の国債市場は「動くマーケット」を経験している人たちの力が必要になってくる…。

 齋藤 再び到来し得る国債市場の「動くマーケット」に備えて、昔を経験した人材を確保するのか、若い人たちの勉強の場として経験させるのかは別の話として、マーケットが金利の動く世界に戻っていくとなると、割安なのか割高なのかなどきちんと相場観を持って、押し目買いに入ったり逆張りしたりする人が必要になる。順張りする人ばかりでは市場が一方通行になってしまうからだ。しかし、そういう人材をどのように確保していくのかは、我々発行当局だけでどうにかできるものでもない。市場関係者の方々と情報交換・意見交換しながら、民間でもそういった体制を整えてもらう必要があると考えている。

――「GX経済移行債」とは別に、50年国債など新たな国債を発行する可能性は…。

 齋藤 長い目線で見て、それなりのニーズが期待でき、流動性と厚みのあるマーケットを作り上げることが出来るものでなければ新商品として導入することは難しい。そういった観点で、今直ちに期待できそうな新商品はなかなか見当たらない。また、50年債については、日本では超長期ゾーンは20年、30年、40年の3本建てと既に品揃えが豊富にある。国債の入札スケジュールもかなり過密になっている。そんな中で単純に新商品を追加して入札スケジュールがさらに込み合う事になると、それはそれで、また大変なことになる。来年度の国債発行計画については、発行額もこれからの予算編成の過程次第であり、財投債やGX経済移行債についてもどうなるかわからないため、今の段階で話せるようなことは殆ど無いが、需要と供給を見ながら安定的に消化できるように、厚みと流動性のあるマーケットにしていくという事に尽きる。そして、それは毎年やってきた事とあまり変わらない。

――マイナス金利政策の影響で、第二非価格競争入札限度は15%から10%に引き下げられた。コロナ禍の今、これを再び戻す予定は…。

 齋藤 マイナス金利であるにもかかわらず利付国債として発行するためにクーポンを付けると、オーバーパーでの発行となり発行収入金が増え、国債発行による資金調達は計画での想定以上に増えてしまう。そこで、第二非価格競争入札限度を一旦下げるとともに、最低クーポンを下げることでオーバーパーの度合いも減らした訳だが、もともと、第二非価格競争入札は、プライマリーディーラー向けの特典という性質を持つものでもある。市場関係者のニーズによって変えていくことはあり得ると思うが、今の段階では、第二非価格競争入札限度の割合を元に戻してほしいという声はそれほど届いていない。

――超長期国債はスティープ化している。この需給関係をどのように見ているのか…。

 齋藤 イールドカーブの形状や長短金利差についてはコメントする立場にないが、超長期国債の需給については、発行する立場としては、入札結果が大きな参考となる。札が集まらなければ発行のロットが多すぎるという事を意味する。その観点で言えば、今の超長期債の入札が弱いとか、札が流れているとか、そういう感じは受けておらず、足元の状況において超長期が発行過多とは言えないと考えている。

――最後に、局長としての抱負を…。

 齋藤 先ずは、今の時点での国債管理政策の総点検を実施しておきたいと考えている。というのは、私は長い間この国債関係に携わりながら、これまでのキャリアを築いてきた。しかし、私の後にこのポジションに就く人物が、私の様な経歴を持っているとは限らない。総点検してまとめ上げたものを、私の時代に実行に移せるかどうかはわからないが、これまで長く国債関係を歩んできたものとして、その経験をしっかりと後任に引き継いでいきたい。それが私の責務だと思っている。(了)
※8月29日に伺いました。

アセアンは世界経済のトップランナー

――アセアン経済の現状は…。

  アセアンの直近の経済動向は、かなり回復しつつある。4~6月期のGDPも軒並み改善が見られる。一部で物価高の影響などから足踏みも見られるが、全般的には上向きの方向だ。主要国の4~6月期の前年同期比でのGDPは、タイで2.5%、マレーシアで8.9%、インドネシアで5.4%、ベトナムで7.0%となっている。

 B 低成長の先進国やほぼゼロ成長となっている中国経済をしり目に、いまやアセアンが突出している感じだ。アセアンでもたついている国はタイぐらいか。

 A 観光がひとつの主要産業であるタイが戻り切れていない。自動車産業も、需要はあるが半導体など部品不足が生産の足かせとなっている。物流などのコスト高も逆風だ。タイはアセアンのなかでは先進国だから、世界の先進国に引きずられている面もある。しかし、いまやアセアンが世界経済のトップランナーのような感じだ。

 B アセアン各国の内需が強いことが経済を下支えしている。各国政府の消費者や企業向けの積極的な景気刺激策もプラスだろう。インドネシアでは自動車の優遇税制により販売が好調となっている。輸出も、資源価格が高いことからインドネシアやマレーシアでは非常に良い。ブルネイは統計が明らかでないが、産油国であるため相当儲かっているだろう。

 C アセアンへの日本企業の進出も、件数でみるとコロナ前を回復してきている。本紙集計では8月の進出件数がコロナ前を上回った。シンガポールやタイといった主要国への進出が堅調だ。とくにシンガポールは昨年に続いてかなり回復してきた印象が強い。ただ、コロナ前に最も多かったベトナムへの進出は鈍化して、タイやシンガポールと同程度になってきた。ベトナムは市場がまだ小さく発展途上であり、進出に一巡感も出てきている。

 B ベトナムは人口が拡大中で9000万人を超えた。近い将来1億人市場となる見通しで、経済成長が著しい。ただ、このところは成長の勢いがやや鈍化している印象だ。

――ベトナムの賃金動向は…。

  引き続き上昇してはいるがかつてほどの伸びではない。工場の労働者の賃金は、1カ月に200~300ドル程度ではないか。つまり日本円だと3万~4万円ほどでまだ安い。中国では地域にもよるが、もう10万円を超えている。ただ、縫製業など企業進出の初期段階の業種はベトナムから、ミャンマーやバングラデシュなどに以前からシフトしてきている。

 C アセアン進出を業種別にみると、引き続きサービス業や情報・通信業が多い。卸売業も含め、上位の業種は従来と変わらない。製造業はすでに一巡感が出ている。製造業は進出に歴史のある企業が、例えば第1工場に加えて第2工場を建設するといった動きが見られる。マレーシアでは半導体関連の企業が生産を拡大しており、直近ではシンフォニアテクノやフェローテック、JCUなどが新たなプロジェクトを立ち上げている。

高まる中国リスク

――インドでも脱中国の動きが活発化しているが、アセアン進出の日本企業は10年以上前からチャイナプラスワンといわれ中国からシフトしている。最近の状況はどうか…。

  従来からあったことだが、ここ数年は米中貿易摩擦やコロナの問題で脱中国が加速している印象だ。企業の発表などでは表に出てこないが、内部的には生産移管や、海外生産の割合を中国で減らしてアセアンを増やしている企業は少なくないだろう。政府機関や自治体の調査などでも、将来の有望国として従来トップだった中国の勢いが落ちアセアンが逆転するような結果も出ている。中国は依然として有望視されているが、相対的な支持率は落ちた。

 B 中国は米国とのデカップリングや、中国当局の企業に対する強権的な動きなど様々な問題を抱えている。それにもっとも大きな脱中国の原因は、賃金を含めたコスト競争力が落ちてしまった。そもそも親日国ではないことや政治的に日本と対立することも大きな問題だ。

 A コスト高や製造拠点のリスクを勘案すると、中国で生産して海外に輸出するようなビジネスはメリットがなくなってきた。一方で、ユニクロなどモノを売るビジネスはいい。むしろ東南アジアで作って中国で売る方はメリットがある。あるいは中国で作って中国国内で売る。輸出するためにわざわざ中国で作る必要はなくなってきた。先般も日本の自動車メーカーが「ゼロコロナ」のあおりを受け、中国生産の部品が供給できないため自動車を生産できないという事態も起こっている。結局、中国にいるリスクが高くなりすぎている。

 B その他さまざまな要因を含め、中国経済自体がかなり構造的な問題を抱え始めており、今度は国内の購買力も低下してくる。中国市場の内需を当て込んでいた企業もメリットが薄れてくる。輸出産業と国内消費を当て込んだ企業のいずれもメリットがなくなってしまう。それであれば中国にいないで購買力の高まるアセアンに行った方が良いということになる。そういう意味で、いよいよアセアンの時代になってきた。

シンガポール進出が依然人気

 C 企業進出の点ではシンガポールとタイ、ベトナムが堅調に推移していて、なかでもシンガポールは強いと感じる。アセアン地域統括拠点としての役割を担いやすいことが背景にあり、一時コロナで出張が滞って地域統括の役割がなくなるのではとも言われたが、やはり引き続き地域統括拠点を設ける企業はでている。また、最近ではWEB3.0(ウェブスリー、次世代の分散型インターネット)に関するトピックがシンガポールで多い。

 B 確かに、日本人がシンガポールに行っても生活がしやすい。タイも生活はしやすいが、まだ発展途上国の雰囲気があり日本並みの生活を求めるのは難しい。その点、シンガポールに地域統括拠点を置くというのは理解できる。

 C シンガポールでは税制面でもメリットがある。タイは税金が35%くらいと高い。シンガポールは最高でも20%だ。このため、アセアンのスタートアップも、インドネシアなどで活動していても本社はシンガポールにあるケースが少なくない。

――その他のアセアンで注目の国は…。

  マレーシアへの進出が増えている。生産拠点として活用している企業があるほか、域内では比較的経済発展していること、言語の多様性があることなどに注目する企業もある。マレーシアは電機・電子産業が集積していて、輸出の大部分も電機・電子が大部分を占めている。そうした産業基盤があるうえ、シンガポールほどではないがインフラがかなり整備されている。世界的に電子部品や半導体へのニーズが高まるなか、生産増強や工場拡張をしようという企業が目立つ。また、所得水準も高いため、消費関連の企業の関心も高い。

 A マレーシアは半導体産業の集積地で、ロックダウンの際には半導体の供給が滞って自動車工場が操業停止したケースもあった。欧米系をはじめ、中国から電子部品の生産をマレーシアに移管しようという企業が増えているようだ。

 C 台湾企業も中国に攻められたら工場が止まってしまうリスクから、生産移管する可能性がある。半導体大手のTSMCは日本側の要請もあり熊本に工場を建設する一方で、中国の影響の強いミャンマーやカンボジア、ラオスに関しては外国企業の進出であまり前向きな話は聞かない。その3カ国はそもそも経済規模が小さく、日本企業の進出も目立たない。政治に関わらなければ市民生活は守られているが、民主主義国家でない危うさがある。

アウンサンスーチーの失敗

 B ミャンマーでは企業の操業停止状態が目立つ。アウンサンスーチー氏は大失敗した。トップに就任後、すぐに訪問したのが中国だったことは間違いで、まず日本と仲良くすべきだった。西側にしっかりと顔を向けるべきだった。結局政権を奪われたうえに、中国が背後にいる軍事政権になり、自分自身は監獄に入れられてしまった。ラオスとカンボジアを含め、経済発展はしているが中国に近い国はあまり良い話は聞かない。

 A その点でベトナムは立派だと思う。過去、中国軍を撃退した歴史もあり、現在も中国と一線を画して経済成長している。同じ社会主義国という形を取りながら。ハノイなどでは気候的に寒い時期もあり、知的レベルの高い人々が多い。ミャンマーやラオス、カンボジアは暖かいからのんびりしたところがある。カンボジアではポルポト時代に多くの知識人が抹殺されたという歴史も影響しているだろう。

 C アセアン諸国は対外的に特定の国・地域に偏らないことが特徴で、外資も欧州や中国、韓国、日本などを広く受け入れている。中国は落ち目になっているが、アセアンが中国と交流を断絶するといった状況ではなく、引き続き中国経済を利用したいという考えで、米国のデカップリング論には組みしないというスタンスだ。アセアンは対外的に巧みにふるまっている。例えばタイではコロナ前に中国人観光客が年1000万人も訪れていたこともあり、中国をむげにできない。

 B ただ、今後20年くらいは中国経済がどんどん右肩下がりになってきて、その後の状況は変わってくる。今の中国は、日本の1990年代前半頃のイメージだ。中国の技術力は西側のものを模倣したもので、それをもとに経済発展してきた。しかし米国や日本などが距離を置くにつれて、今後は自主独立でやっていかなければならないが、すぐに対応できるものではない。当然、半導体などの技術を持っている台湾は吸収合併しなければならない、自国に取り込まなければ経済発展はできないと考えるだろう。そうしたリスクがアセアンにはないこともアセアンの魅力の一つだ。(了)

――「参政党」が結成されたのは2020年4月。その注目はネットから始まった…。

 松田 昨年12月、「参政党」は今夏の参議院選挙のため初の記者会見を行った。しかし、政党要件を満たさない政党はマスコミが報道しないため、情報源がテレビや新聞だけという人達の間ではあまり知られていなかった。参院選後に政党要件を満たしたことでようやく新聞やテレビが取り上げるようになり、「突然出てきた党」というイメージをお持ちの方も多いようだが、既に2年4カ月以上も前から活動している。参院選に向けて「参政党現象」が起こったが、これだけの熱量で人々が集う現象は日本社会で何かが起こっている証しでもある。それについての報道を封じていたマスメディアは、国民の知る権利を邪魔していたとすら言えるのではないか。ネット世代の若手記者たちの間では関心が高かったようだが、新聞もテレビも既得権益を守ろうとする圧力のもとに置かれているのかもしれない。当初、参政党の認知度向上で力を発揮してくれたのは、街頭演説で実際に我々の演説を聞いて、その熱量に注目し、街頭演説の様子を拡散してくれたユーチューバーたちだった。SNSで共鳴と感動が広がる過程を通じて、参政党は知る人ぞ知る存在となっていった。今年5月の政治資金パーティでは5000人以上の人が集まり、今夏の参議院選挙最終日には芝公園に1万人を超える人たちが街頭演説に集まった。選挙後も8月のパーティは7000人規模で盛り上がった。もはや選挙活動を超えて、歴史を変える瞬間に起こる一種の国民運動のようなものを感じている。

――結党の目的は…。

 松田 結党時に我々が掲げたキャッチコピーは「投票したい政党がないから自分たちで作ってみた」だ。今の日本で国民の政治離れが進み、投票率が低下しているのは、既存の政党に魅力がないからだ。そこで、ごく普通の一般国民が当たり前のように政治に参加できる、手作りの政党を作ろうと考えた。政治とは決して特殊な世界でもいかがわしいものでもない。成熟した民主主義社会では、日常の中に政治がある。新しい参加型の民主主義を日本に生み出すために、我々は結党した。もともと私は大学卒業後に大蔵省に入省した財務官僚だったが、グローバリズム勢力のもとで衰退の道を辿る日本国家の危機を痛感し、石原慎太郎氏や平沼武夫氏たちが立ち上げた「たちあがれ日本」の結党に加わって政界へ足を踏み入れた。この党は「太陽の党」への改名を経て日本維新の会と合流し、私も衆議院議員に当選したが、2014年の分党で「次世代の党」に移ることになる。結局、同党が結党してすぐに行われた同年12月の衆議院選挙で、党名の知名度の低さからほぼ全員が落選し、私も議席を失うことになったが、当時から感じていたのは、日本の国に立脚した国民国家を軸とする政治勢力と、党員たちが主体となって運営され、選挙も党員が担う、そして政治家は国政に専念するという形で営まれる「近代型政党」の必要性だった。

――維新の会との違いは…。

 松田 私が「維新の会」にいた頃からそうだったが、自治体の事業に外資を呼び込んででも効率を優先する姿勢は「国民国家」を軸とする考え方とは相容れないものを感じた。小泉構造改革もそうだが、多くの政治家たちが唱えた「改革」という言葉は何をもたらしたか。日本国民の賃金が上がらず、主要国の中で最も経済成長できなかったのが平成の30年ではなかったか。あたかもグローバリズムの手先のような政治を未だに指向しているのが維新ではないか。日本維新の会は保守だと誤解している人は多いが、次世代の党へと分党が起こったのも、憲法に対する考え方を始めとする国家観の欠如だった。そこは我々「参政党」とは根本的に異なる点だ。また、橋下氏は「近畿や名古屋は独立した方が良い」といった趣旨の発言をしたとも聞くが、「サイレント・インベージョン」という言葉が知られるようになっている現在の国際情勢のもとでは、安易な地方の自立が中国への身売りに繋がっていくという様な発想が維新の会にはない。実際にオーストラリアでは一つの州が勝手に中国と外交を行い、一帯一路に組み込まれそうになったという例もある。結局、オーストラリア国家はそれによって目覚めて、反中国になっていった。

――「自国に立脚した国民国家」とは…。

 松田 これからの政治の対立軸は、もはや「右か左か」ではない。世界を席巻している「グローバリズム全体主義」に対抗して、「自由社会を守る国民国家」という軸を打ち立てなければならない。これは世界的な潮流でもあり、健全なナショナリズムの台頭が各国でも起こっている。欧州ではEUグローバリズムに対抗して英国のEU離脱が起こり、米国ではトランプ現象が見られた。コロナパンデミックやウクライナ戦争も、各国の国民を苦しめているのはグローバルな利権であるという認識を広げている。日本でいち早く、こうした気付きを有権者に促したのが参政党だ。米国では、バイデン・グローバリスト勢力に対抗するかのように、次期中間選挙では共和党の勝利が予想されている。欧州ではイタリアで「五つ星運動」が政界の主流となっており、フランスでは今年の大統領選挙では「国民連合」のル・ペン党首が40%以上の得票率を獲得、ドイツに至っては「ドイツのための選択肢」が多数の議席を獲得している。いずれも、グローバリストが支配するマスメディアからは極右とのレッテル貼りがなされてきたが、各国の国民はそうではないことに気付き始めている。日本においてこの位置にあるのが我々の「参政党」だ。新しい国づくりの立脚点を、世界一の歴史を誇る日本国に置き、日本の建国理念である八紘一宇の「一つの家族世界の実現」の考え方に基づきながら、排外主義とは全く異なる「世界に大調和を生む国」を党の理念に掲げている。

――中国に対しては…。

 松田 今、日本では北海道ニセコや山形県蔵王などにもみられるように、あちこちで国土が中国系資本によって買い荒されている。選挙に向けて全国を回ってみて、このことへの危機感が国民の間に広がっていることを実感した。普通の主婦の方やお母さんたちが、このままでは子どもたちに日本を残せないという思いから、主体的に参政党に参画してくれている。自民党は、中国寄りとされる公明党と連立を組んでいるためか、中国利権におかされているからか、こうした国民の危機感に十分に応えられていない。もちろん自民党の中には我々と同じような国益重視の立場に立つ保守派の方々もいるが、党内では少数派であるため自民党全体の意思決定には反映されにくい。このままでは中国の属国になってしまうという危機感を持つ自民・公明の党員や支持者の中には、今回の選挙では参政党を支持したという人も多かった。

――経済政策についての考え方は…。

 松田 中国がデジタル人民元を開始し、世界共通のブロックチェーンの共通基盤を運営し始めた。これは、あまり注目されていないようだが、中国の世界覇権の切り札となるだろう。デジタル通貨は、スマートフォンは持っているが預金口座を持たないという、新興国や発展途上国の人たちにとって非常に便利なものになる。中国の影響力の強い国々から始まって、デジタル人民元を使用する人口が世界的に増えていく可能性がある。インターネット革命の次はブロックチェーン革命だと言われるように、近く、世界中のあらゆるサービスがブロックチェーンを使って展開される時代が来るだろう。そのとき、私たちは中国が運営する基盤の上で様々なサービスの提供を受け、お金の支払いまで行うことになっていいのか。当然、そこで懸念されることになるのが、デジタル通貨の発行元となる共通基盤を持つ中国に多くの個人情報が集中してしまうことだ。これはグローバリズム全体主義による究極のサイレント・インベージョンだともいえる。この点において参政党では、日本独自の国産ブロックチェーン基盤を創るべきだと主張しており、新たな財政や通貨の基盤として考えている「松田プラン」も、このことを前提にしている。米国でも、2020年の大統領選挙の不正を指摘する共和党系が、GAFAと言われる現在のグローバリストプラットフォーマーが支配するIT基盤とは異なる、信頼度の高いブロックチェーン基盤の開発に強い関心を示しているようだ。その辺りとの連携も考えられる。

――「松田プラン」とは、具体的に…。

 松田 今の日本では、供給面からインフレが起きたとしても需要面はデフレのままであるため、他国の様には利上げが出来ず、結局、デフレ体質からの脱却まで日銀が国債を買い続けなければならないだろう。金融政策に限界があることが見えた以上、市中マネーを増やすためには財政出動しか選択肢がないが、財務省が積極財政に踏み切り、日銀が国債購入を継続していくためには、別途、国債残高が減っていく道筋を作り、出口を示す必要がある。そこで、日銀が保有する五百数十兆円の国債が、政府が発行する「デジタル円」に転換されていく仕組みを創るのが「松田プラン」だ。このデジタル円は銀行が預金通貨や現金と両替して国民のスマホに入金する形で市中に流通していく。銀行は、このデジタル円を日銀から購入する。日銀は、これに応じて、自らが保有する国債を、政府から政府発行のデジタル円をもって償還してもらう形で取得する。こうして、日銀の資産として計上されていた国債はデジタル円に転換し、これを日銀が銀行に売却すれば、日銀のバランスシートは資産と負債(日銀当座預金)の両建てで縮小する。これは日銀にとっては、これまでの金融緩和策の円滑な出口にもなる。政府から見れば、これによって国債が税金で返済すべき借金ではなく、通貨に転換されるのであるから、その分、国債を増発して積極財政を行う道が開かれることになる。デジタル円を政府が発行すれば、政府はマイナンバーで個人情報のビッグデータを管理しているのであるから、このデジタル円は様々なプッシュ型行政サービスと結びつけられることになる。民間のサービスとも結びつければ、さらに便利なお金ということで、国民からのニーズも高まるだろう。急速に発展する情報技術を活用することで、これまでの通貨の概念自体が大きく変わっていくことになる。これを日本が先導することで、財政を立て直し、マネーの循環で経済を活性化するとともに、日本の国のまもりにも資するというのが「松田プラン」だ。

――今後、参政党をどのように発展させていくのか…。

 松田 参政党はすでに、全国の全ての都道府県に支部を置き、党員党友が10万人にのぼる組織を備えた政党になっている。今年7月の参院選挙では全選挙区に候補者を立てることができた。それも一般国民からの寄付金によってだった。今後は各支部が自発的に色々な活動を展開し、来年の統一地方選挙で多くの地方議員を生み出し、次の国政選挙に向けて党勢をさらに拡大させていきたい。現在のほとんどの政治家たちは、選挙に勝つことが仕事の「職業政治家」だ。そうではなく、前述の近代型政党としての参政党を発展させることによって、国政に専念する真の政治家を生み出すとともに、国民が投票だけでなく、国の政策形成にも参加できる新しい民主主義を日本に創っていきたい。(了)

――現在の世界情勢は…。

 渡辺 今の世界に対する影響度合いは、1番目に米国のインフレと金利引き上げ、2番目にロシアによるウクライナ侵攻、3番目にコロナだ。米国のインフレによる高金利は日本や他のアジアの国にも影響を与えている。他のアジアの国では国外にマネーがシフトしていることもあり、金利が上がっている。米国の利上げは去年の7月ごろから始めるべきだったが、FRBが判断を間違えたと言って良いだろう。FRBは昨年、インフレは一時的なもの(transitory)と判断していたが、最近でもインフレは高騰し続けており、うなぎ登り(rocket sky-high)の状態だ。今は逆にきつめの金融引き締め(overkill)を行っている。さらに、ロシアのウクライナ侵攻により、EUなどへのエネルギーの供給が大幅に細り、インフレに拍車を掛けている。コロナもなかなか終息の道筋が見えてこない。

――ロシアの対制裁対応から見てドイツのエネルギー源は大丈夫なのか…。

 渡辺 現在、ドイツではエネルギー供給が2割程度足りていない。国内備蓄が冬まで持つか、更に積み上げられるかが焦点だ。燃料が来ないからと言って、再びロシア頼みするのは不可能だ。そのため、色々な国・地域から、国境を越えて電力を集めなければならない。ヨーロッパは、サハラ砂漠の太陽光発電からジブラルタル海峡を越えてスペイン経由での供給やフランスの原発から供給できるなど、周辺国の間で電力の融通が利く。しかし、日本の場合は島国であり、他国からの電力供給策を造る場合、例えば朝鮮半島経由で電力線を引くことになる。とはいえ、北朝鮮がその構想に乗るとは思えないし、韓国も電力に余力があるわけではないので多国間供給網は現実的ではない。過去には、ロシアのハバロフスクやウラジオストクから海底ケーブルを通して北海道に繋げる話もあった。しかし、サハリン2プロジェクトの件からも分かるように、ロシアから電力供給を受けるのは厳しい。

――ヨーロッパのエネルギー供給縮減が経済に与える影響は…。

 渡辺 ヨーロッパでは、エネルギーの供給減少により、インフレが起こり、成長率も下がる可能性が出てきた。しかし、現時点で、ドイツもオランダも日本よりは成長率や生産性が高いので何とかなるかもしれない。別の話になるが、あと2年くらいで日本とドイツのGDPが並ぶ見通しだ。特に、対ドルではユーロの下落率より円の下落率のほうが大きいので、日本のGDPの下げが顕著になるだろう。もし今後、円安がストップすれば、ドイツに抜かれることはないが…。一時勢いのあったブラジルやメキシコも失速していることから、今までの計算では、2050年にはインドに抜かれるだけで、日本はGDP世界ランキングでベスト5に残る計算だった。しかし、為替の変動が大きく、将来の順位は分からなくなっている。

――黒田総裁は為替の状況にかかわらず、金利を上げないとしているが…。

 渡辺 これは、影響の配分と分配の認識の問題だ。日本経済全体を見たときと、消費者あるいは中小企業の視点から見たときでは、日銀と政府の対応が異なってくる。日銀は日本経済全体を見ており、円安によりプラスの影響を受ける人のほうがマイナスの影響を受ける人より多かったら、金利を上げない。一方、円安は輸入品の高騰により、消費者の生活に影響を及ぼす。しかし、あくまで日銀は、日本経済全体を見ており、貧しい人への所得の再分配は政府が対応することとして、経済を優先する。現段階では、日本経済全体で見れば円安の効果が高いと判断したことになる。日銀は、金利を上げてGDPの伸び率がゼロになる可能性を恐れているが、実際に今の経済実態だとそれは起こり得るだろう。経団連やトヨタなど産業界が明確に円安に否定的にならないと日銀の意見は変わらないと思う。

――今後、円高に戻ることは考えられるか…。

 渡辺 米国の金利引き締めが落ち着いても1ドル=120円より円高にならないだろう。1ドル=100円から135円への円安のうち、FRBと日銀の政策金利差も10~15円分ほど影響しているが、半分以上は日本経済に対する世界の評価が下がっているためだ。今、世界を主導する日本の産業はない。東芝などの、かつて世界に誇ることができた白物家電は崩壊の一途をたどっている。また、自動車もトヨタが頑張っているが、EVで米国と中国に先を取られている。為替はその国の経済状況を表す。円安は経済力の弱さを表しており、悪いことなのに日本人のほとんどが錯覚して円安がいいと言ってきた。プラザ合意などにより急激な円高を経験したことから、多くの日本人は円高に対して恐怖を持っているが、時代は変わった。

――日本の現状を打破するためには…。

 渡辺 技術革新と賃上げが必須だ。まず、技術革新に関しては、民間企業が主導的に進めなくてはいけない。しかし、日本の民間企業は困ったらすぐ政府頼みになる癖がある。イノベーションや技術革新について、政府の役人や政治家に知恵があるわけではないのに、政府に頼ろうとしていること自体が問題だ。また、現状ではまず先に賃金を上げなくてはいけない。本来なら長期的視点から基本給を上げるべきだが、賃金を一度上げると下げることが難しくなる。現在、インフレボーナスと称して臨時で数万円程度支給している企業がある。賃金を一度上げたら下げることは難しいが、ボーナスだったら業績に応じて変えることができる。このほか、最低賃金を全国平均で1000円以上に上げる案もある。ただ、そうすると多くの中小企業が倒産すると言っており、実現が難しい。ステークホルダー主義か、ストックホルダー主義かが問題となる。BtoCの分野では値上がりが良く話題になり、値上げが起こり始めたと見られているが、問題なのはBtoBだ。ネジなどの最終製品に組み込まれる部品・中間財のコストアップを最終製品メーカーは受け入れなければいけないが、価格転嫁はなかなか進んでいない。そのため多くの製造業では単位当たりの利益が減少し、人件費を上げることが難しくなっている。

――雇用の流動性と賃金の値上げのジレンマは…。

 渡辺 雇用の安定化は日本の近代化に大きな役割をもたらしたが、現在では雇用の安定化と賃金の値上げは二律背反になっている。どちらかを選ばなくてはいけないが、クビにしやすい雇用環境を創り出すという、国民に辛いことを求める政治家はいない。そこで、ベースを上げることになるが、仕事ができない人の給与も上げることになり、後が大変になる。評価の高い人には給与を上げるボーナス制か、雇用の流動性を高めてクビにしやすくするか、臨時給でインフレ対応するか、さまざまな選択肢が考えられる。この点、日本労働組合総連合会(連合)のこれまでの間違いは、雇用の確保に重点を置いたことだ。そのせいで、賃金の値上げがほとんど議論されなかった。連合は、雇用がある程度確保されている大企業の集まりで、中小企業の状況を連合の方針は受け止めていない。

――世界大恐慌になるとの予想もちらほら出てきている…。

 渡辺 大恐慌にはならないと思うが、ゼロ%成長が続く可能性がある。リーマンショック時には、欧米などの先進国は打撃を受けたものの、中国などアジアの成長率が高かった。しかし、現在では中国なども伸び悩んでおり、4~6月期の3か月はほぼゼロ成長と軟調だった。日本も1%くらいの成長で、米国もインフレを本気で押さえれば3~4%の成長が予想される。今までは中国や東南アジアを含めて世界全体の成長率が5%を超えることが多かったが、今年は世界全体の成長率が3%に達しない見通しで、これはリーマンショック時の成長率と同じだ。平均が5%だと、成長率が低い国であってもゼロ%程度で済むが、平均が3%になると、マイナス成長の国が出てくる。

――日本が今後やるべきことは…。

 渡辺 エネルギー供給のために、原発を動かすかどうかを早く決める必要がある。準クリーンエネルギーに位置付けられるLNGの供給がひっ迫し、価格が高騰するなかでも、日本は石炭を燃やし続けると言えるほど石炭発電の経過的正当性を世界にアピールする力はない。そのため、原発を動かすか、ヨーロッパが行っているように15%の節約を国民に求めるかのどちらかになる。ただ、後者は我慢の必要性など辛いことであるがこれは誰も言い出さないだろう。加えて、日本はエネルギー源の90%以上を輸入しているため、原発の是非を議論することに加えて、使用する電力をいかに減らすかの議論をしなくてはいけない。足元でも停電が起こるくらい電力状況がひっ迫しているが、先進国でそんな国はありえない。日本の場合、海底がすぐ深くなるので洋上風力が簡単では無く、太陽光も雨が降るので上手くいかない。コストの問題では無く、供給量確保の可能性の問題である。このため、ベース電源が必要になってくる。日本の主要な工業地帯である中京工業地帯には、中部電力が電力を供給している。中部電力が使用する大部分のLNGはカタール産であるが、今後ヨーロッパからの需要も強くなっていくため、値上がりは必至で、中京工業地帯の電力価格は上がるだろう。このため、トヨタなどの工場の電力コストが上がり、日本の競争力低下につながることが懸念される。この点も含めて、例えば静岡にある浜岡原子力発電所を再稼働するかどうか議論することが求められている。(了、収録日:2022年7月27日)

――そもそもESGとはどのような概念か…。

 髙木 ESGは、投資家が投資判断においてリターンだけではなく企業の社会的責任も考慮するという、いわゆる責任投資の視点から生まれた概念で、企業経営には環境(Environment)や社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点が必要だという考え方である。現在では、環境問題や社会問題が深刻化するなかで、さまざまな文脈で使われている。厳密に定義すれば、サステナビリティという大きな枠組みのなかに投資家主導のESGと国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)がある。環境問題や社会問題に対する投融資を指す場合には、国際的にはサステナブル・ファイナンスと呼ぶのが正しい。

――ESGの観点から投資家が具体的に注目しているのはどのようなポイントか…。

 髙木 サステナブル・ファイナンスが急拡大するなか、第三者評価や信用格付けに関連して、市場が関心を持っているポイントが3つある。1つ目はESGが信用格付けにどのような影響を与えるか、ESGと信用格付けの関係性についてだ。信用格付けではこれまでもESGの要素が織り込まれていたと考えられるが、今後はいかにシステマティックに信用格付けに織り込むかという観点が重要である。2つ目は、ESGをうたう金融商品の信頼性だ。乱立するサステナブル・ファイナンス商品に対して、国際的な基準に合致しているかを第三者の視点から専門的・かつ一貫性を持った評価をすることだ。3つ目に、企業がESGに対する全般的な取り組みをスコアリングするESG格付けがある。JCRは当該商品に対応していないが、企業の公開情報だけで企業のESGへの取り組みに点数を付けることが主となるため、情報の品質の問題、ESG評価各社の評価の適切性に未だ課題があると思っている。

――JCRではどのような取り組みを行っているのか…。

 髙木 JCRは信用格付会社であるので、信用格付けにESGがどのように影響しているのかを分析することが重要だ。JCRは、ESGの要素を格付けにシステマティックにできるだけ織り込むような取り組みを行っているほか、信用格付けのリリースとは別に、「ESGクレジットアウトルック」という新たなレポートを国内の格付会社では初めて提供を開始した。このレポートでは、ESG要素がそれぞれの信用格付けにどのような影響を与えるか、詳細を開示している。具体的には、環境や社会の要素において、多くの企業で共通して重視している項目を選定し、事業基盤や財務基盤への影響度を数値化して示している。

 信用格付業とは別に、企業が資金調達する際にグリーンやソーシャルといったESGのラベルを付けるいわゆるサステナブル・ファイナンスに対する第三者評価のリクエストも増えている。この要請に応えるため、JCRは2017年から独立した部門を設置し、サービスを開始している。また、より組織立った対応を可能とするため、個別に企画機能や広報機能も持たせた本部制を2021年から採用している。案件として代表的なものは、グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティボンドなど、資金使途を環境・社会に資するものに限定する金融商品がある。他にも、サステナビリティリンクファイナンス、トランジションファイナンスやインパクトファイナンスなど年々金融商品の種類が増え、多岐にわたっている。マーケットがまだ発展段階にあるため、JCRが提供する第三者評価を活用していただくことにより、投資家が安心して投資できる仕組みづくりに貢献できていると自負している。金融商品も公募債、長期借入金、証券化商品とさまざまな商品に対応している。例えば、発行体は起債時に、自身の信用リスクに関連して信用格付けを取得し、資金使途や中長期戦略におけるESGの取り組みを訴えたい場合には、JCRのサステナブル・ファイナンス評価も取得するといった活用をしていただいている。

――信用格付機関の業務範囲が拡大している…。

 髙木 ESGをめぐり世界的な潮流が形作られるなか、信用格付機関の間でもこの大きな変化に対応できるかが問われている。JCRは21年のサステナブル・ファイナンスに関する社債の評価件数で、日本でトップ、世界でも上位に位置しているという公表データもある。サステナブル・ファイナンス評価本部には、十数名が所属している。現状では、信用格付けによる収益を上回る段階ではないが、今後急速に伸びていくだろう。業容拡大に伴い新たな人材も募集している。信用格付けなら発行体の財務状況や経営状況を専門とするアナリストが対応するが、サステナブル・ファイナンス評価では多様な人材が必要で、環境や社会問題に対する専門的な知識を持つ人を採用したいと思っている。従来の金融の枠にとどまらず、グローバルな基準に合致する資質も求められ、専門性とグローバル性を持ち合わせた人材が必要だ。

――ESGの概念には一致するものの、経済安全保障の観点から見ると問題があるケースが出てくる可能性がある…。

 髙木 国際的な議論のなかで、グリーン性やソーシャル性について本質的な議論をしなければならない。例えば、エネルギーにおけるカーボンニュートラルが一例として挙げられる。ドイツでは、エネルギーミックスにおける天然ガスの比率を増やし、石炭の比率を減らしたが、ロシアから天然ガスの供給を止められてしまった途端に、石炭火力の稼働を増やさざるを得なくなった。そして、EUでは原子力発電をサステナブル・ファイナンスのタクソノミーに加えるという方向性が打ち出された。日本でも、エネルギー基本計画を基にエネルギーの安全保障の観点から電力・ガスについて経済産業省が移行ロードマップを策定していて、これらは重視されるべきだ。グローバルで2050年までにカーボンニュートラルを達成するという大きな目標を見据えていれば、その過程で一時的に化石燃料が残るのは、地理的特性や産業構造・資源の制約を考慮すればやむを得ない側面があると考えている。どの時点で化石燃料から次世代燃料に移行するのかといった、2030、2050年を見据えたロードマップがしっかりしていれば、その過程にはある程度企業の自由な経営判断があっていいはずだ。

――今後のJCRの経営については…。

 髙木 サステナブル・ファイナンスをめぐる大きな市場の変化に対応して、新しい業務とあわせて信用格付けの方にも好影響が出るように努力して発展したい。財務上の計数だけではなく、信用格付けにもESG要素を取り入れないと、社会的に評価されなくなっている。この点、信用格付けは3年の単位を基本としているが、サステナブル評価は2050年のカーボンニュートラルといった長く広い視点で企業を評価することが求められる。JCRでも考え方や意識を変え、さまざまな視点を取り入れた業務運営を行っていきたい。(了)

――北総鉄道のこれまでの歩みと、現状について…。

 室谷 北総鉄道は千葉ニュータウンと都心を結ぶ通勤通学路線だ。そのため定期券購入のお客様が太宗を占めている。昭和40年代当初に計画された千葉ニュータウンの入居人口は34万人で、その足を担うべく設立されたのが当社だ。しかし、ニュータウン事業は10年経っても20年経っても上手くいかず、40年経ってようやく入居者が10万人と、我々の事業計画は最初から需要面での目論見が大きく外れてしまっていた。同時に当時のバブルによる不動産価格の高騰で、鉄道建設コストは予定を大幅に上回り、公的資金の注入もない中でそれらの費用を運賃に反映させて借金を返済しなくてはならなかった。そういった背景から、北総鉄道は日本一高い運賃だと言われ続けてきた。振り返ると、建設コストとして必要となった有利子負債額は約1500億円。当時は7~8%という高金利だったため、例えば40億円の収入で60億円の利払いが迫られるというような状態だった。それらの赤字額が累積して450億円となった2000年に、ようやく単年度での黒字化が実現した。そこから22年間、毎年少しずつ過去の累損を返済し続け、ようやく今年度、累積赤字解消の目途が立った。それでもまだ612億円という通常の有利子負債は残っているが、設立50周年を迎える今年に累積赤字をゼロに出来るのは喜ばしいことだと思っている。

――空港へのアクセスなど、いわば国家的機能を担っているにもかかわらず公的資金も入らず、行政から放置されていた理由は…。

 室谷 私は元々、国土交通省に勤務していたため分かるが、例えば道路への予算は以前は、ガソリン税や重量税など特定財源として潤沢にあり、全国津々浦々、立派な道路が整備できたし、受益者負担の面でも受け入れられやすかった。一方で鉄道は独立採算が基本で、予算は、ゼロサムゲームの中で新幹線に費用が掛かれば他のところは削らなくてはならず、とてもではないが当社の様な鉄道には予算は回ってこない。高齢化が進む中でテレワークも増え、我々のような専業の鉄道会社は本当に大変だ。先日発表した当社の決算では、売上げが前年度比5%増となり利益も増えたが、これはコロナ禍の影響が大きく出た昨年度との比較であり、コロナ以前と比べると未だ鉄道収入は全然回復していない。4~6月の第1四半期の定期券収入はコロナ以前よりも20%程度落ち込んだままの状態で、これはコロナ禍によって相当程度が在宅勤務のままだということを表している。コロナ禍によってテレワークが一定程度浸透することは予想していが、2割という数字は我々の予想を上回るものであり、それが鉄道事業の経営に大きな影響を及ぼしている。

――そんな状況の中で、今年10月から運賃値下げを決定した…。

 室谷 運賃を下げることによって当然収入は減るだろう。債権回収会社や株主など色々な関係者からは、何故この時期に運賃値下げを行うのかというような批判や心配の声もいただいた。特に当社の一番大きな債権回収会社であるJRTT(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)には「正気の沙汰とは思えない」とまで言われた。国に運賃改定の相談に行った時は「また値上げですか?」と言われる程、周りからは予想外のことだったと思う。そんな声がある中で値下げを決断した理由は二つある。一つは、運賃が高いことが積年の大きな課題だったことだ。ようやく累損がゼロに近づくなかで、利用者の身になって、長年の高運賃問題にどのように対応するかということ。もう一つは、単なる宿題返しにとどまらず、会社にとって将来を見据えた経営戦略にまで昇華(アウフヘーベン)したいと考えたからだ。沿線は何もしなければ高齢化が進んでいく。千葉ニュータウンも、多摩ニュータウンと同様に高齢者の1人住まいや2人住まいが増え、そういった方々の外出機会が少なくなれば、鉄道等も使ってくれなくなるだろう。沿線はどんどん先細っていく。そうなる前に、若い人たちに北総沿線に移り住んでもらうというのが我々の事業戦略だ。北総沿線地域は開発があまり進まなかった事もあり、緑が多く地盤は安定している。羽田空港と成田空港までともに直通もあり、かつ居住環境は良い。コロナによるテレワークの浸透は一時打撃となったが、むしろ毎日会社に通う必要がなければ都内に住む必要もなくなるだろう。そうであれば物件の安いこの辺りに住み、子どもは都内の学校に通わせるという考えもあってよいのではないか。そういった戦略から通学定期券をこれまでの約3分の1に引き下げた。100%家計の負担となる通学定期券の値下げを決定した効果は既に現れており、運賃改定が10月からにもかかわらず、既に通学定期券の購入数がコロナ前よりも増えてきている。4月からの新学期にあわせて引っ越しを済ませた人もいるのだろう。印西や白井市など沿線は自治体が子育て支援に力を入れていることもあり、我々の通学定期料金の大幅な引き下げはそういった自治体の施策にも沿っている。

――市と連携して、子育て世帯を北総エリアに呼び込む事業戦略を遂行していく…。

 室谷 コロナ以降、沿線の物件は確実に売れている。そこに、これまで「高い運賃」というイメージだった北総線の運賃を下げることで、北総エリアに居住を考えている人たちの後押しになれば良いと思う。ローカル線は負の連鎖だ。赤字になれば本数を減らしたり値上げしたりする。そうすると不便になり、ますます人は利用しなくなる。特に今はコロナのこともあり、他社鉄道会社では本数を減らす方向に動いている。しかし、我々はもっと路線を利用していただくために運賃を下げると同時に、運行本数を増やすことを決めた。これは一種の賭けだが、放っておけば減少の一途しかない。利用者に便利だと思っていただけるように、通学定期ほどではないが通勤定期や普通運賃も下げている。こうしたこともあって、まだ完成前の沿線のマンションが予約の段階で完売といった嬉しい話も聞いている。

――「小林一三モデル」については…。

 室谷 伝統的な鉄道会社のビジネスモデルは、沿線の土地を買い取って鉄道を通し、沿線周辺の不動産価値を上げて、そこにマンションやデパートを建築する「小林一三モデル」だったが、我々の現在の収入源は鉄道収入だけだ。もともと脆弱な経営基盤の上に開発可能性の乏しい鉄道だけをつくった。設立当初から資金面で苦しい状況が続き、ようやく累損をゼロに出来るという今のような段階で、沿線開発を主体的に進めていけるような見通しも体力もまだない。開発利益の還元方法については今後視野に入れていくべき事だとは思うが、今のところは沿線の自治体と一緒になって沿線の魅力の発信や駅前のにぎわい創りを進めていくことや、駅中の店舗や駅高架下の資産活用に注力し、駅周辺の不動産活用や開発事業などに取り掛かるのはもう少し後になりそうだ。

――上場についての考えは…。

 室谷 ようやく450億円の累損を解消する目途が立った中で、今、上場を考えるのは余りにも気の早いことだ。先ずは運賃を値下げした分、お客様を増やしていくことが重要だと考えている。そのために、現在、親子での車両基地体験や、各駅を巡りながらの謎解きラリーイベント、また夜中に行うレール交換の一般公開など、色々なイベントで北総の露出を増やし、存在を大きくアピールしているところだ。将来的には大学や魅力的な集客施設が沿線にあればよいとも考えているが、今は、そのための準備段階として、自治体や色々な方々にご協力を頂きながら沿線のPRや活性化をすすめていく。先ずは地域のインフラとしてのプレゼンスを向上させ地域の人たちに最大限の還元をしていきたい。

――社長としての抱負は…。

 室谷 会社創設から50年、鉄道が始動してから43年。「安全・安心の北総」「サービスの北総」をモットーに、長期にわたり維持していくべき地域の公共インフラとして、メンテナンスコストやリュニューアルコストも考えながら、これまで職員300名、総動員体制で取り組んできた。社員達には創設から長い間、赤字経営状態で色々なコスト制限が敷かれていることも理解してもらって、ここまでやってきた。ようやく累積赤字がなくなる中で、先ずは地域の皆様に還元するということで今回値下げを決定したが、次こそは、これまで一緒に頑張ってきてくれた社員の方々にも還元できればと考えている。そのためにもトップラインをさらに上げていく精一杯の努力を続けていきたい。(了)

――最近のインド経済の状況はどうか…。

  評価しづらいというのが現状だ。生産に関してはほぼ回復していると見て良い。例えば、工業生産などは既にコロナ前の水準を回復している。成長率に関しても当初の予想よりはかなり下方修正されているが、今年度(22年4月~23年3月)は世界銀行の予測で7.5%上昇とある程度の回復を見込んでいる。ただ、他の記者とも話しているが、その割にはあまり好調というイメージを持てない。

――好調のイメージが出てこない理由は…。

  やはりインフレが加速していることが大きい。例えば5月の卸売物価が15.8%上昇で、10年ぐらい同じ形式で記録を取り始めてから最高だ。消費者物価も7%でかなり危険なレベルだ。インドの中央銀行に当たるインド準備銀行(RBI)が大体4%から上下2%の枠で目標を立てているが、それを上回っている状態が続いている。インドはインフレが非常に重要視される。庶民のレベルで何が経済の良し悪しかを見るかというと物価高で、彼らの生活がかかっている。各種生産が回復する一方、物価上昇が続いており、庶民の暮らし向きは良くならないが、これらがアンバランスなため、経済全体として好調とは言いがたい。

――コロナ禍は終了したのか…。

  そうだ。インドでは、コロナはもう終わったと考えて良い。最近、数の上では少し増えているが、インドではあまり気にしないような雰囲気になっている。7月末時点の新規感染者数は1日2万人ほどだ。人口が日本の約10倍いることを考えると少ないと思う。インドの感染者のピークは一日40万人という数字が出たこともあるが、一時期1万人弱まで減少し、再び増加し始めた。なぜ感染者数が減少したかというと、自然免疫がついたということや、インドで生産するワクチンの接種が進んだことが考えられる。

――自然の摂理みたいなところかな…。

  そうかもしれない。自然免疫は相当普及したという話だが、正確な医者や科学者の回答としてはまだ不明ということにはなっている。以前から言われているが、なぜあんなに増えたのかがまだ分からないのと同様に、なぜここまで急に減ったのかというのもはっきりとわかっていない。

――そんななかで、インド経済というのはどういう展開だったのか…。

  コロナ禍の最初期は、世界で最も厳しいと言われるロックダウン(都市封鎖)の体制にインド政府が踏み切った。例えば、鉄道は臨時に数本の電車を動かすことはあっても半年間運行がストップしていたし、航空も対外的には完全に鎖国状態で、国内線も全面的に停止が3カ月間続き、完全に経済活動がストップしていた。

――庶民の生活は大丈夫だったのか…。

  政府がかなり支援をし、また国民相互で助け合って乗り切った感じだ。とにかく経済活動ができなかったわけなので、隣人同士の助け合いが基本となり、経済は大幅に落ち込んだ。ただ、2年ほど経って、鉄道など社会インフラが回復したなかで、実際コロナの影響がインド経済にどれほどの影響を与えたのか、今のところまだ明確な答えはない。長期にわたる厳格なロックダウンをしたのに経済の回復は意外と早いため、どこが影響を吸収したのか、あるいは、吸収せずどこかに皺寄せがいっていて、それがまだ明らかになっていないだけなのか、なかなか見えてこない。感覚的には、影響がないということはあり得ないと思っている。

――実際に足元の4~6月期も7%成長で推移している…。

  そうだ。今年の成長率に関してはほぼその7%の成長を達成できるだろう。ニューデリー事務所で見ていても、街の景気は戻り、企業も全面的に動いている。一部、ITなどはリモート勤務をしているが、その他の産業はもう対面の経済活動を行っている。

――コロナ禍の2年間に多くの日本人は日本に帰ってしまった…。

  もちろん、最初のロックダウンは、政府の命令で企業の活動にかかわらず全て止めなければならなかったが、他のインド企業が復活するのに合わせて、日本企業も復活していた。ただし、日本の駐在員はロックダウン初期から日本に帰ってしまったので、企業活動の回復期には、ほとんどインド人のスタッフで業務を行っていた。日本からリモートで参加したという会社もあると聞いているが、基本的には現地のスタッフでやりくりして回復を進めてきた。

――現状はどうか…。

  コロナで2年以上戻らなかったということもあって、インド人中心で人事の体制を構築してしまい、日本人のスタッフをコロナ前より減らした企業は結構ある。インド人中心にインドの企業を運営していくということだ。コロナ前からこのような兆しはあったのだが、コロナ禍によりさらに現地化率を高める流れになっている。

――そのなかで日系企業の進出状況は…。

  元々インドに進出していた企業は戻ってきて回復しているが、新規のインド進出はやや鈍っているという感じはある。特に、コロナ前に検討中だった企業が計画を躊躇して一旦延期などの判断もしたのだろう。このため、今はポツポツという感じであり、コロナ終了で日本企業が一斉に雪崩を切って進出を進めてきているという感じはない。コロナ前に比べるとその辺は落ちている。また、コロナとウクライナの問題で世界的にサプライチェーンを見直そうという話になっている一環で日本に回帰する企業もある一方で、もう一回インドを見直そうという動きもある。

――コロナ過に続いて、ロシアがウクライナに侵攻した関係で、インドはロシア産のエネルギーを大量に輸入しているという話を聞くが、ウクライナ侵攻によってインド経済に何か変化はあるか…。

  まず、日本でのウクライナ問題に関してのインドの立場の報道というのが多少偏っていると思う。政治的・国際関係的な側面から見た際、インドが国際社会の対ロシア制裁に参加していないというところが強調されすぎている。一方で、インドはロシアからの原油を安く輸入して、輸入量が増えているというのは確かにある。ただ元々ロシアから多くの原油を輸入していたわけではないので、おそらく現在の数字でも、インドが輸入している数字よりもEUがロシアから輸入している原油の方が多いはずだ。EU自体も輸入を中止しようと決めたのが5月末だから、インドがかなり批判されていた時には、まだはるかにEUの方が原油を輸入していた。それから、確かにロシアから値引きを受けて輸入しているが、なぜそういうことをしているのかというと、国際的な原油価格が大幅に上がって、インドは85%の原油を輸入に頼っているという状況なので、原油価格の値上がりというのは経済にとって打撃となることが背景にあるためだ。ロシアから安い原油が買えたと言っても輸入量と価格の上昇を考えると、インド経済にとってないよりはマシという程度なので、インド経済を大きく伸ばすという意図があるわけではない。

――インドとロシアの関係については、中国との三角関係でうまくやっていかなければいけないため、アメリカから「西側にいらっしゃい」と言われてもなかなか「はい」と言えない…。

  インドがロシアの戦争に反対というのは確かだと思うが、それだけを理由にアメリカやヨーロッパの陣営に与してしまうことはインドはやりたがらない。いずれ、経済的や政治的に対峙する可能性まで見据えて、安易に西側陣営に協力しないだろう。あくまで、中立的な立場に身を置くというのが基本的なインド政府のスタンスだ。一方で明らかに中国経済が斜陽になっているため、この中国との関係も見直す必要もある。

――インド経済に中国経済が斜陽になっている影響は出ているか…。

  インドと中国は戦争状態に入った。国境付近で衝突が起きて、それで国内の反中の雰囲気が非常に高まったこともあり、中国に大きく依存していた経済や大幅な赤字の対中貿易を是正していこうというのがコロナより前から始まっていた。そこに加えて中国は今落ち目ということで、貿易格差を改善はもちろん中国からの企業進出に逆風を吹かせ、中国からの企業を受け入れない、進出をやりづらい形にしている。例えば、中国のグレートウォールモーター(長城汽車)と言う自動車会社がインドに進出する大規模な計画があったのだが、それもついこの間に中止にさせた。中国がおそらく1番進出しているのがスマートフォンだが、それについてもインド政府の政策に従ってインド国内で製造するという約束の下なんとか許されている。中国が幅をきかせないようになってきている。

――インドも中国依存を下げようとしていると…。

  もともと中国との貿易で中国への依存度が高すぎるというのは問題だという考えがインド政府にあった。インドにとって中国は従来からリスク要因で、関係が深すぎるのは良くないと考えていたところに戦争が始まって、一層反中姿勢が強まった。動画配信のTikTokをインドは世界で真っ先に排除して、インドではTikTokは見られない状況になっている。中国を完全に排除ということはないが、徐々に排除していこうという動きが表面化している。

――戦争をやっている国だから当然デカップリングしてもおかしくない…。

  そうだ。ただ、インドという国の特徴だが、中国が落ち目になってきたというのを見て、インドが中国に取って代わろうというような動きはあまり見えない。インドはやはりコロナ禍を経て、むしろきっちりインド政府の政策で自立したインドというスローガンを掲げて、やや自給自足的な経済の方向に舵を取り始めていている。中国に取って代わって世界の工場を目指すというような姿勢はない。ここがやはりインドと中国の差だ。

――モディ政権は長期政権となっているが、目下最大の課題はインフレか…。

  インフレが最大の課題というのは間違いなく、インフレのために次の策が打ち出せないというのが今の大きなジレンマになっている。「インドの玉ねぎの値段が上がると政府が倒れる」ということわざ的なものがあるくらいで、かなりインフレが落ち着くまで迂闊なことはできないという雰囲気がある。このため、なかなか次へ進めないのだが、現在は自立したインドを打ち出し、サプライチェーンまで含めて国内で賄うことを目指している。特に中国がサプライチェーンの中心になっている分野、例えば自動車などについて、インドの企業と、日本企業も含めてインドに進出している自動車企業に呼びかけて、サプライチェーンまで含めた現地での生産を進めている。これは、従来からインド政府が推進している「make in India」政策の延長とも言えるが、近年さらに加速して、韓国も含めて中国離れを加速させている。

――モディ首相は現在2期目だが、インドはもう3期目もできるのか…。

  法的には3期目は可能。次の総選挙まであと2年しかなく、当初はそれまでに後継者を準備する話もあったが、やはり、モディ首相の人気によるところがかなり大きいので、代理を立てた時に勝負できるのかという不安が与党側にもある。インフレをうまく乗り越えて国民の怒りがあまり大きくなくなれば3期目の可能性もある。首相選挙までの2年間は、インフレ対策などの国民向け・選挙向けの政策が中心になって、大幅な改革などは少し減速すると予想している。

――日本企業がこれからインドに進出する場合に留意すべき点は…。

  インドの状況としては、以前と比べると外国企業は進出しやすくなっているが、やはり他国と比べるとインドに行ってからの過酷さは健在だ。厳しい規制など、表面に出ている規制だけでなく、現地での役人との付き合い方とか、労働組合などインドの独特の進出のしづらさがある。それに、現地の企業との競争も思いのほか強かったと感じる企業も多く、簡単ではない。ただ、反対に、やる気があればなんとかなってしまうというのも、インドの特徴だ。精神論になってしまうが、中途半端にインドを目指すよりも、インドは絶対取るというくらいの意気込みで行かないと、インド進出は難しいと思う。

――進出に当たっては現地企業との合弁は不可避か…。

  最近はそうでもなくなっている。かつてはそうしなければならないという規制がある分野もあったが、現在はほとんどの分野で合弁義務は廃止されているので、仕方なく合弁したのを解消するという日本企業も結構出てきている。また、インド企業との合弁には、技術を盗まれたり、無理難題を吹っかけられたり、色々なトラブルがある。もちろん現地につながりを持てるというメリットもあるが、デメリットもやはり多かったので、単独も含めた進出の仕方を進出前に検討して、しっかり意思を固めて進出することが必要だ。(了)

――太陽光や風力は発電効率が悪いと…。

 掛谷 福島第一原子力発電所の事故が起きて以降も、日本でなぜ自然エネルギーの普及が進まないのかというと、政府が推し進めている太陽光発電や風力発電のような自然エネルギーによる発電は、同時に自然破壊を引き起こすためだ。エネルギーの話は、基本的に高校で習う物理と化学で説明できる。例えば、化石燃料である重油1立方メートルを燃やすのと同じエネルギーを、高さ100メートルのダムを使った水力発電で得ようとすると、約4万立方メートルの水が必要になる。水力発電で得られるエネルギー量は高校物理で最初に習う、位置エネルギー=高さ×重力加速度×質量の公式で求められる。この公式に当てはめると、水1立方メートル当たりの質量は1000キログラムで、重力加速度は約9.8メートル毎秒毎秒(m/s²)、ダムの高さは100メートルなので、98万ジュール=0.98メガジュールとなる。一方、重油1立方メートルを燃やしたときに得られるエネルギーは化学の燃焼熱(反応熱)の考えを使い、熱化学方程式を立てると3万9000メガジュールと求められる。つまり、重油1立方メートルを燃やしたときと同じエネルギーを得るには、約4万立方メートルの水が必要になる。高校で理系だった人の大半は、物理と化学を学んでいるはずなので、水力発電の大変さがすぐわかると思う。また、風力発電も高校の物理で計算できる。1立方メートルの空気は1.3キログラムしかないが、同量の水は1000キログラムだ。運動エネルギーは2分の1×質量×速度の2乗で求められる。水力発電のためにダムを建設すると、大規模な自然破壊につながると言われているが、水力発電と同じエネルギーを風力発電で取り出すには、約5倍の土地面積を開発する必要がある。単位面積・体積当たりに取り出すことができるエネルギーをエネルギー密度というが、火力に比べて、水力、さらには風力がいかに密度が低いかが分かるだろう。

――なぜ政府は効率の悪い自然エネルギーを推進するのか…。

 掛谷 風力と同様に太陽光もエネルギー密度が小さく、気象に左右されるため不安定だ。エネルギー密度が低い自然エネルギーの中でも、風力や太陽光の密度は水力以下だ。一方で、日本ではあまり一般的ではないが、地熱発電はエネルギー密度が比較的高く、出力も安定している。カーボンニュートラルを目指して自然エネルギーを活用するのであれば、地熱や水力を推進すべきだが、政府は密度が低く不安定な太陽光や風力を推進している。この理由の1つに、外資系企業が参入しやすいことが挙げられる。太陽光は中国のシェアが高く、風力も中国政府主導で市場を拡大している。しかし、地熱や水力は国内での土木建設工事が必要であるため、外資系企業が参入しにくい。国内の企業の利益や雇用確保を考えれば、太陽光や風力より水力や地熱を推進すべきだ。ところが、自然エネルギー推進派は世界的に左翼色が強く、国境の破壊を目指して動くことが多い。ロシアのウクライナ侵攻でも、ドイツが脱炭素を標榜してロシア産天然ガスにエネルギー源を依存する状態になったことが、ロシアの軍事行動を後押しした。冷戦終結時、表向きには共産主義勢力は弱体化したように見えたが、彼らはその思想的根幹を変えないまま環境運動に流れたというのはよく言われる話だ。

――小池都知事は新築住宅へ太陽光パネルの設置を義務付けようとしている…。

 掛谷 実は、私も自宅に太陽光パネルを設置している。人間の居住するエリアは既に自然破壊をして作られているので、そこに太陽光発電設備を導入しても新たな自然破壊は起きない。ただ、東京をはじめ大都市圏は日照条件が悪いところが多いから、義務化するのはやりすぎだ。高層ビルの屋上など、都市部でも日照条件がいいところに設置するのは良いと思う。しかし、森を切り開くメガソーラーには大反対で、自然を破壊しているうえ不安定な電源が増えて制御が難しくなる。これ以上不安定な電源が拡大すると停電のリスクも増すので、出力が安定している水力や地熱に転換すべきだ。石炭火力でもエネルギー変換効率が高くて排出した温室効果ガスを回収するタイプのものが開発されている。最近では、太陽光発電の自然破壊と不安定性に世間が気づき始め、今度は風力と言い出したが、太陽光と同じように環境破壊につながり、出力も不安定なので使い物にならない。

――世の中に流布している「真実」は作られたものが多いと…。

 掛谷 新型コロナウイルスの起源をめぐる議論が巻き起こったとき、私はおそらく日本の科学界で唯一、新型コロナウイルスは武漢のウイルス研究所起源の可能性が高いと公言した。生物兵器などの意図的な流出ではなく、実験中のウイルスが漏れたのが起源だと考えている。欧米でも研究所起源説は約一年前まで少数派で陰謀論扱いされていたが、今では多数派になっている。一時期、それが陰謀論扱いされたのはなぜか。米国立衛生研究所(NIH)傘下の米国立アレルギー感染症研究所の所長で、バイデン米大統領の首席医療顧問を務めるアンソニー・ファウチ氏という人物がカギだ。米国の新型コロナ対策のトップで、日本で言う政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長のような立ち位置にいる。ファウチ氏は米国内の研究機関の権力を握っていて、米国のエコヘルス・アライアンスという非営利組織にNIHのファンドを出し、そこから中国の武漢ウイルス研究所に研究費が流れていた。新型コロナウイルスはその研究費で生み出された可能性が高い。よって、研究所起源となればファウチ氏も責任追及されるので、箝口令を敷いたと考えられる。裏付けも取れている。米国は情報公開が徹底しており、ファウチ氏と仲間の研究者がどのようなメールのやり取りをしていたかという情報も公開されている。ファウチ氏と話す前は、ウイルス学者たちも研究所起源だろうとメールに書いていた。ところがファウチ氏と打ち合わせをした2020年2月以降、研究者たちの意見がころっと変わってしまった。その後、ファウチ氏に近い研究者はNIHの研究費を多く獲得している。一方、ファウチ氏の影響下にない欧州の研究者からは、研究所起源ではないかという声が上がり始めた。WHOが6月に公表した報告書でも実験室からの流出の可能性も含め、さらなる調査が必要と結論付けている。この点、断定はできないが、塩基配列を見れば99・9%研究所起源としか思えない。公的機関がこれを結論付けるために2年半も掛かったということは、利害関係をめぐり多くの人が隠ぺいを試みたということだ。

――科学者も平気で嘘をつくと…。

 掛谷 エネルギーにしろ新型コロナにしろ、利権が絡むと科学者は嘘をつく。自然エネルギー研究で予算がとれると分かると、できないことをできるかのように語って研究者は予算をとる。地震予知はできないと分かっているのに、それができるようになると語って長年巨額の予算をとり続けた地震学者と同じだ。新型コロナが研究所起源と分かって、研究予算削減や規制強化されると都合が悪い研究者は少なくない。だから、彼らは徹底的に真実を隠し通そうとする。世間一般では、研究者はみんな純粋で真面目にやっている人だと考えられているが、政治家や官僚やマスコミと同じくらい「金目当て」なのだということを知ってほしい。マスコミを「マスゴミ」や「外国の傀儡」などと称し、スポンサーとの関係を勘ぐり、マスコミのことを信じていない人は多いだろう。政治家や官僚も昔から信じられてはいないが、なぜか学者だけは人々の絶大な信頼を勝ち得ている。学者であっても政治家、官僚、マスコミ関係者と同じような高校・大学に行って、机を並べて勉強している。だから、彼らの人間性は似たり寄ったりだ。学問を盾にして嘘をつく学者に対しては、その言動に対して責任の所在をはっきりさせる必要がある。私は2004年から言論責任保証を提案している。これは、正当性がすぐには確認できない主張を行って収入を得る場合、得た収入の一部を預託金として仲介機関に預け、主張の真偽が確定した段階で預託金の返還の有無を決定する仕組みだ。これであれば、言論の自由を担保しつつ、故意に誤った学説を流布する学者に経済的責任を取らせることができる。学問を利用し利権や政治的影響力を与えようとする学者がいることを一般市民が理解し、自分の言動に責任を持つ、オープンな科学的議論の場の構築が喫緊の課題だと思う。(了)

――「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」という報告書を発表された…。

 永濱 この報告書で一番伝えたかったことは「高圧経済政策と労働市場改革」の必要性だ。高圧経済とは、金融政策と財政政策に特化して需要不足の状態から需要超過の状況にする事だ。普通の国であれば高圧経済を行えば経済は過熱し、給料も上がっていく。今の米国がそうだ。しかし、日本の場合は高圧経済だけでは賃金まで波及しない。海外に比べてメンバーシップ型雇用が多いため労働市場の流動性が低く、企業が賃金を上げなくても従業員が辞めにくい仕組みになっているからだ。そのため、日本では高圧経済と労働市場改革の二本立てで経済の好循環を作り出す必要がある。

――日本でこれ以上の金融政策が可能なのか…。

 永濱 確かに日本の場合、マクロ経済学的にはほぼすべての金融政策をやりつくしている。そのため、財政をもう少し放出しなくてはならない。米国のように経済が過熱している国では、これ以上財政を放出するとインフレがさらに進むため注意が必要だが、日本の場合は現在需要不足という状況にあるため、もう一段の財政支出が可能だ。しかし、日本のように消費性向が低い国で給付金などをばらまいても消費には回りにくい。今は感染症や戦争といった100年に一度起こるような事態に直面している。これを、経済構造を変える契機だと捉え、例えば、環境やデジタル分野、軍事、食料、エネルギー、戦略物資など安全保障分野の規制を緩和して、官主導による長期的視点で大規模な財政支出を行い、需要を喚起すればよいのではないか。食料やエネルギーの自給率を上げ、生産拠点を国内回帰させるとともに、労働市場改革に取り組めば、物価上昇も抑制することが出来て、消費を促すような環境が整ってくるだろう。

――この20年で、日本の政府債務残高は1.8倍に増えているが…。

 永濱 確かに増えているが、拡大ペースはG7諸国の中で最低だ。米国と英国が5倍以上、フランス、カナダが3倍。ドイツとイタリアと日本など第二次世界大戦の敗戦国はあまり増えておらず、ドイツ2倍、イタリア1.9倍となっている。日本は支出傾向の高まる財政政策にはアレルギーがあるようだ。しかし、政府が国債発行をしてお金を使えば、国内で使われた分は民間資産となる。つまり、米英はこの20年間で政府債務を5倍に増やし、その分民間資産を増やしたことになる。一方で、日本は1.8倍しか政府支出を増やしていないため、相対的に民間資産も増えていない。また、財政を使うのであれば出来るだけ需要喚起効果を高めるために、お金を使った人が得をするような減税政策を取り入れるべきなのだが、日本政府は減税をやりたがらない。当局者にその理由を聞くと「一回下げると再び上げるのが大変だから」だという。

――日本が「財政均衡主義」であることも一つの要因だ…。

 永濱 日本は「財政均衡主義」だが、他方、グローバルスタンダードでは「機能的財政主義」という「政府債務は減らすことが是とは限らない」という考え方が一般的だ。つまり、政府債務はマクロ経済の物価や雇用を安定させるために適切な水準にコントロールすべきものとされている。そう考えると、需要不足が続いている今の日本には政府債務が足りていないことになる。日本以外の国では企業が投資超過主体としてお金を使うため、政府債務をそこまで増やさなくてもある程度経済は安定するのだが、日本はバブル崩壊後、マクロ経済政策を誤ったために、民間部門がお金を溜め込むようになった。そんな中で経済を安定化させるには、政府が呼び水となって民間部門の経済を回すしかない。経済が冷え込んで金融政策も限界にある国は政府債務を増やさなくてはならないという事だ。ただ、日本には他の国と違って国債償還60年ルールがある。戦後のGHQ傘下で日本が再び戦争を起こすようなことがないように作られたとの説があるが、このルールがあることによって、政府は財政均衡主義を何としてでも貫こうとしている。この財政法第4条にこだわり続ければ、日本経済の正常化は難しいだろう。

――今の日本では、企業に潤沢なお金があっても上手く民間に流れず、国債ばかりに回っている。そして、実質賃金も増えていない…。

 永濱 マイナス金利なのにお金が流れないのは、需要に期待できるものが乏しいからだろう。さらに、日本では企業も国民もお金を使わずにため込んでおり、中立金利が大幅にマイナスとなっているため、金融緩和によって今より金利を下げるような事はマクロ経済学的に困難となっている。そういう停滞時には財政政策で底上げするしかないのが世界標準の考え方だ。また、そもそも経済が成長していない中で賃金を上げるのは難しい。加えて、冒頭に述べたように、日本的雇用慣行で労働市場の流動性が低いことも賃金が上がらない原因だ。端的に言うと、日本は賃金よりも雇用の安定を重視しており、新卒一括採用や年功序列、退職金の優遇などもあって、同じ会社に長くいるほど恩恵を受けやすい仕組みになっている。そうなると企業側は釣った魚にエサをあげなくても逃げられにくい。それが、日本が高圧経済だけでは賃金が上がりにくい理由だ。労働市場の流動性を上げるためには、解雇規制の緩和と公的職業訓練の充実が必要だ。また、海外のようにジョブ型雇用を拡大していくことも重要な鍵となろう。

――日本で働く人の賃金を上げる事を要請されるなら、賃金の安い海外の工場ですべての生産を完結させようという流れもあるが…。

 永濱 一昔前までは、出来るだけ低い賃金で質の高い製品を作るために、工場を海外移転させグローバル展開をしてきたが、今は経済安全保障を考える必要性が高まっており、サプライチェーンの再構築が進められている。技術流出問題も考慮すると、日本の賃金が非常に安くなってきている今、このタイミングで生産拠点を国内回帰させるのは良い機会なのではないか。それをやることによって国内の雇用も確保できるようになるだろう。一方で、日本は海外で安く製品を作っているから国内の物価が上がらないという声があるが、米国や英国も海外でモノを作って輸入している。それでもインフレ率は日本と全く違う。特に違うのは、サービスの値段だ。サービスはモノのやり取りがない分値段に占める人件費の比率が高いため、賃金が上がらない中でサービスの値段が上がらないのは当然の事と言えよう。

――MMT(現代貨幣理論)に異を唱えておられるが、同じような財政出動でもどのような点が違うのか…。

 永濱 MMTを端的に「マクロ経済をコントロールするのは財政政策主導」という理論とするならば、私が賛同出来ないのは「金融政策は無効であり、すべては財政政策でコントロールできる」という点だ。MMTが主張する理論は主に「信用貨幣論」「機能的財政論」「内生的貨幣供給論」の3つだ。「信用貨幣論」は説明するまでもなく正しく、「機能的財政論」も基本的には正しい。しかし「内生的貨幣供給論」は「貨幣量は実体経済の状況によって内生的に決まり、金融政策は無効」という理論であり、一方で、私が正しいと考えるのは「外生的貨幣供給論」という「実際の経済状況に応じて金利をコントロールすることで金融政策は機能する」という理論だ。この点がMMTと私の考えでは決定的に異なっている。(了)

――中国を念頭に米国の企業買収をめぐる制度が大きく変わった…。

 平井 トランプ氏が米国大統領に就任し、2017年ごろから、米国から「これから、米国の企業買収をめぐる外資規制が大きく変わる」という情報が来るようになった。当時読んでいた米国の法律事務所発行のニュースレターには、「米国対米投資委員会の審査範囲が大幅に拡大する見通し」と書かれていた。2019年度米国防権限法と同時に、外国投資リスク審査現代化法と輸出管理改革法が成立して、中国による米国の機微技術(重要技術、重要インフラ、機微個人情報)を持つ企業などへの投資への審査が厳格化された。米国議会は、民主党への政権交代後も、世論を反映し、対中強硬政策を継続している。金融では、トランプ政権の時にできた外国企業説明責任法に基づき、米公開会社会計監査委員会(PCAOB)の検査を3年連続で受けない中国企業を米国国内で上場廃止にしようとしている。

――中国人は平気で人をだますという姿勢が背景にある…。

 平井 AがBにウソをついて騙したとしよう。日本人は、「ウソをついたAが悪い」とするが、中国人は、「ウソを信じて騙されたBがバカだ」と考える。日中では文化が違う。中国には、会計規則はあるが、これを守る文化はない。中国企業には、本物の帳簿の他に税務署に提出する粉飾帳簿など数種類の帳簿があると言われる。米国に上場する中国企業が粉飾決算書を使うことが問題になった。一例を挙げると、中国のスターバックスと呼ばれていたラッキンコーヒー事件だ。同社は、米ナスダック市場に上場していたが、内部告発で、架空売上などの粉飾決算を行っていることが明らかになり、ナスダックを上場廃止になった。この事件を契機に外国企業説明責任法が作られた。PCAOBは、米国に上場する企業を担当する監査法人を検査し、適切な会計監査が行われているか確認する組織だ。外国企業説明責任法は、米国の証券取引所に上場する外国企業を対象に、外国政府の支配・管理下にないことの立証義務を課すとともに、3年連続でPCAOBが米国に上場する企業を担当する監査法人を検査できない場合、米国の証券取引所から退場させることを定める法律だ。同法に従い、米証券取引委員会は、2021年12月に上場規則を改定し、規則を順守していない海外企業を公表している。2022年6月時点で、上場廃止リスク警告対象は150社になり、ほとんどが、中国や香港に本拠を置く企業だ。米中間で中国企業の米国上場を維持するための協議が続いているが、妥協点を見いだせる見通しは立っていない。

――進出リスクが大きくなっている中国から日本企業が撤退する方法は…。

 平井 法律上は、日本企業が中国から撤退することは可能だが、実際には、撤退すれば、中国に投資した設備類などをすべてタダ同然で置いてくることになる。日本企業にとっては、特別損失を計上することになり、このことが、脱中国が遅れる一因となっている。脱中国を推進するため、脱中国をする企業に中国撤退で生じる損失と同額の補助金を出すべきだ。例えば、1億円の特損が出る企業に、政府が1億円の補助金を出せばよい。2020年、安倍首相(当時)は、中国から撤退する企業に対する補助として、2200億円を準備し、申し込みは1兆7000億円にもなった。同時期に、米国政府が準備した脱中国補助金は5兆5000億円。わが国の経済規模からして、2兆円は準備する必要があった。経済安全保障の観点からは、日本企業の脱中国、国内回帰や、中国から東南アジアへのサプライチェーン変更に補助金を準備し、サプライチェーンの中国外しを進めることが必要だ。上場企業の場合、利害関係者も多く、簡単にサプライチェーンの変更も決められないが、オーナー経営の中堅・中小企業は迅速に撤退を決断できる。有価証券投資などを含めると、中国には既に50兆円規模の日本の資産があるとの見方もある。中国には国防動員法がある。台湾有事や同時に起きる沖縄侵略時、いわゆる有事に、中国政府が日本企業の在中資産を接収できるとする法律だ。中国政府にすれば、日本企業の50兆円の在中資産をタダで中国のものにできるおいしい話だ。ロシアのサハリン2の例を見れば、中国の国防動員法発動リスクを過小評価するべきではない。

――半導体をめぐるサプライチェーンが大きく変わろうとしている…。

 平井 米国では、上下両院で競争法2022の調整を進めている。同法が成立すれば、米国の半導体のサプライチェーンが、法律で変更される。半導体は兵器の頭脳だ。中国を半導体のサプライチェーンから排除することになる。米国議会、米国政府は本気だ。日本も米国と足並みを揃えることになるだろう。日本の企業経営者は、中国には14億人の市場があると言い、中国市場に固執する。中国には中国製造2025、2035、2049という産業政策があり、2049年までに、世界最強の製造強国になるつもりだ。中国が世界一の製造強国になった時に何が起きるか。中国企業が生産する電気自動車の方がトヨタやホンダの電気自動車よりも安く高品質になる。14億人の中国人は、中国メーカーの車を買い、トヨタやホンダは売れなくなる。14億人はいるが、日本企業の製品は売れないのでは意味がない。中国に進出している日本企業は、自分たちの技術を競合相手に教えて、30年後に競合相手に市場で負けて撤退することになる。だから、競合相手に技術を教えず、盗まれず、工場を中国国外に移転することが必要だ。日本企業の経営者は、米国市場と中国市場は全く異質なものだと理解する必要がある。

――ドイツは中国にインフラを握られてしまった…。

 平井 メルケル前政権は、中国によるドイツ企業へのM&Aに寛容だった。ドイツでは、中国企業によるフランクフルト郊外のハーン空港の買収や、ドイツ最大のハンブルク港の運営権の一部が買収されるなど、国の根幹とも言えるインフラを中国に売却した。ありえないことだ。ドイツのダイムラー(メルセデス・ベンツ)の筆頭株主は、発行済株式の10%を保有している中国人。ドイツ経済が中国に過度に依存するようになり何が起きたか。メルケル首相(当時)が北京を訪れた際、「ドイツが5Gネットワークからファーウェイを排除したら、中国にあるドイツの自動車会社がどうなるかわからない」と脅された。いまだにドイツは5Gネットワークからファーウェイを排除できずにいる。米国や日本はファーウェイを5Gから排除した。通信は軍事に直結している。中国共産党の強い影響下にあるファーウェイを5Gネットワークに使うと、利用者が気づかない内に、通信内容が勝手に中国に転送される(バックドア)リスクを抱え、通信内容が中国に筒抜けになる。ドイツの例を見れば判るが、中国に依存すればするほど、中国に逆らえなくなる。日本は、中国を宗主国と崇める属国に墜ちたくなければ、中国ビジネスを希薄化するしかない。

――日本の喫緊の課題は…。

 平井 日本からの機微技術流出を防止することが必要だ。われわれが使う製品に使われる技術が進歩し、軍事技術との差がなくなった。例えば、家電量販店で販売されているカメラが軍事ドローンに組み込まれ、武器の一部になっている。ウクライナで撃墜されたロシア軍のドローンを分解したら、日本製カメラなどが使われていた。政府は、日本の軍民両用技術の流出防止にすぐに取り組まなければならない。スパイ取締法のない日本のサイバー空間では、サイバー泥棒(ハッカー)が跳梁跋扈している。サイバー空間の安全性を強化し、日本から先端技術を盗み出せなくすることが必要だ。

――この度、中国リスクを詳解した本を上梓された…。

 平井 以前、米中対立の現状を話したところ、国会議員の方から反響があり、出版の声に押されて、米中対立を受けた日本企業のリスクを解説した『経済安全保障リスク 米中対立が突き付けたビジネスの課題』(育鵬社)を2021年に出版した。出版当時はあまり世間の関心を集めなかったが、経済安全保障をめぐる議論が活発化して本が売れた。今年の5月に出版した、『トヨタが中国に接収される日 この恐るべき「チャイナリスク」』(ワック出版)では、状況をアップデートし、わかりやすく説明した。プライム市場に上場する会社であれば法務機能が充実しているだろうが、日本から中国に進出する1万3000社の中には、中堅・中小企業も多く中国リスクを認識していない。中国と取引する中堅・中小企業を含むすべての企業経営者に本書を通じて中国リスクを強く認識してもらいたい。(了)

――16歳から29歳の若者が予算権を持つ「若者議会」とは…。

 下江 若者議会は、前市長の穂積亮次氏が第2期市長選の際にマニフェストとして掲げ、2015年度に第1期新城市若者議会が開かれて以降、今年度で8期目となる。若者が普段感じている身近な課題や新城のためにできることを考え、課題解決のための政策立案を軸に、情報発信やワークショップ、市外団体との交流などの活動も行っている。政策立案では予算提案権を持ち、市長への答申と市議会の承認を得たうえで、実際に市の事業として実現することができる。新城市は市町村合併して今の市になる前の1998年から、世界各地にあるニューキャッスルシティと「ニューキャッスルアライアンス」という同盟を結び、交流を続けてきた。その2012年にイギリスで行われたニューキャッスルアライアンスの会議に新城市の若者が参加した時に、世界各国のニューキャッスルシティに住む若者と交流をして、それぞれの参加国の若者が自分たちの街(まち)について行動を起こしており、どういう街にしたいのかについて自らの意見をしっかり持っていたことに刺激を受けた。自分たちはまだ堂々と発言できなかったことにショックを受け、帰ってきた若者が新城ユースの会を作り、若者が街づくりについて考える活動が始まった。前市長の穂積氏はその様子を見ていて、若者議会という仕組みを作り、条例化し予算を確保した上で、若者の提案を事業化する政策を開始した。若者議会の定員は20人で、公募によって応募者から選ぶ。今年は定員を超えて全員を受け入れられなかった。若者議会議員の半数以上が女性で、また今年は高校生の方が多い。そうした高校生の方が街づくり活動に積極的に関わってくれることを期待している。

――若者議会の具体的な成果は出ているのか…。

 下江 若者議会の活動に1年間参加した若者議員は、1年間を振り返る発表の場で、私たちから見ても1年前の所信表明の時から成長したように感じられ、また自らも成長したと自信を持って言う人が多い。新城市は愛知県にある38の市の中で最も人口減少と少子・高齢化が進んでいる。そのため、若者の流失が多いことが市の課題だったが、若者議会に参加した高校生のうち、これまで7名が市役所の職員になった。市の職員になることだけを肯定するわけではないが、若者議会に参加した学生が、公共の意識をしっかり高校の時から育んで成長したことが示された。民間の会社に就職する場合でも、都市部の企業に就職するのではなく、市内の製造業中心の企業など、地元に就職してくれた方も若者議会の参加者の中にいる。まだ十分な市外への流出を留めている段階に至っているわけではないが、地元の新城市のことを考える機会が増えて、一定の成果が出ていると思っている。

――若者議会から生まれてきた主な政策は…。

 下江 今年度も上限1000万円の枠内で379万円の予算を付け、若者議会という先進的な取り組みを全国に発信するPR活動や観光関係の取り組み、文化団体やスポーツ団体のマッチングなど市民との交流を深める活動を実施していく。観光関係では、観光客が少ない冬の時期にお客さんを増やすためのプランを若者議会で作成した。市民との交流を深める事業では、市内のスポーツ団体等と中学生・高校生のスポーツ、文化活動など部活動とのマッチングを進めていく。文化事業の担い手を作っていく上でも高齢化対策が課題だったが、文化部に所属する若者と高齢者がマッチングすることでその課題解決を目指している。

――若者議会の今後の課題は…。

 下江 予算ありきではなく、予算を付けなくてもできる事業を考えてもらうことが求められる。また、若者「議会」なので、地方自治法に基づく市議会のことを理解してもらいたい。若者議会第1期の卒業生の委員が、20代で市議会議員になり、現在も議員を務めている。そういった地方議会への道も目指してもらえるし、若者に地方自治法を学んでもらえることを行政ではなく市議会に主導してほしいと思っている。これは今後の課題ではなく、若者議会の発展系に位置付けられる。行政ではなく市議会が若者を教育するという展開が理想で、これは市議会にとっても刺激になるだろう。また、新城市の人口は4万4000人と比較的少ないが、人口37万人で中核都市の豊橋市でも若者議会に近い活動を取り入れている。大きな都市でもやり方次第で若者議会の活動は可能なので、他の地方自治体にも若者議会の活動を広げるよう、働きかけていきたい。

――地方自治体の財政は難しい局面だが…。

 下江 新城市は県内でも最も高齢化が進んでいる地域であるため、自治体の財政力を示す指数は0・6と非常に厳しい中、何とかやり繰りしている。市町村合併を行った後の15年間ずっと、財政は厳しいままだ。地方債を発行して歳入を得ているが、歳出を抑制し財政の健全性を保つため、当初予算を組む際には、地方債の借入を元本の返済額以内に収めている。一方、税収を増加させるために企業用地を分譲している。平成28年に新東名高速道路が開通して、新城市役所から10分程のところにインターチェンジができた。そこで、1期事業としてインターチェンジ周辺に約4ヘクタールの企業用地を売り出し、完売となった。現在、1期事業の土地の近くに2期事業として同規模の土地を所有しており、今年度は企業用地として売り出す計画を進める。ただ、企業誘致は税収増に繋がるが、高度経済成長期の時代とは異なり、必ずしも街の活性化に寄与するかは分からない。とはいえ、新しいインフラ、新東名高速道路のインターチェンジという立地的優位性は十分に活かしたいと思っている。

――新城市は森林面積が広いが、森林業はどうか…。

 下江 現状では、林業従事者が圧倒的に不足している。その要因には、危険を伴う仕事だが賃金が低いことが挙げられ、仕事はあるが従事者がいない。森林環境譲与税や愛知県の森林、里山林、都市の緑を整備、保全する「あいち森と緑づくり税」を活用した森林整備の事業をこれまで以上に強化していく必要がある。市の総合計画で林業を成長産業にする方針を掲げている。都会にはない森林資源を活用しない手はない。まずは、林業従事者の確保を目指している。しかし現時点では、林業従事者を増やす決定打となるような妙案は持っておらず、林業従事者確保へ試行錯誤している途上だ。

――人口増加を目指した取り組みは…。

 下江 移住定住促進策として、今年度、市の移住定住ポータルサイトを立ち上げる準備を始めた。これまでは移住に関するプラットフォームがなかったが、東京の交通会館にあるふるさと回帰支援センターに常駐している愛知県の相談員と連携しながら移住や定住に向けた手順を確認し、新城市へ住んでもらうための取り組みを開始した。また、子どもへの投資を積極的に行っている。こども園の給食費の無償化を愛知県東三河地域の中で唯一行うなど、こども園制度を充実させた。ほかにも、国の制度による保育料の無償化の前に新城市は市費で平日の基本保育料無償化を導入している。また、中学生までの医療費と高校生の入院医療費を無料にしたりしている。

――外国籍の方は増えているか…。

 下江 外国籍の方は増えている。日本語教育が必要な子どもがここ6年で約2.5倍に増え、60人弱になった。全体では1000人ほどの外国籍の方が居住している。ブラジル国籍の方が最も多く、ベトナム、フィリピン、中国と続く。現在、ブラジル国籍の相談員を市役所の職員として採用して、外国籍の方の相談役をしてもらっている。また、日本語教育が必要なお子さんが増えている現状に対して、日本語初期指導教室を前年度から開設して、今年はさらにそこに予算を上乗せして、より多くの生徒を受け入れられるようにした。

――新市長としての抱負は…。

 下江 昨年11月、2年間以上続いているコロナ禍の最中に市長に就任した。コロナで経済や社会活動が停滞したが、今年はウィズコロナに転換したい。今年度は中止していた花火大会を再開するなど積極的に事業を行いながら、20代前半の若い世代の転出を少しでも抑止するため、子育て支援や居住開始資金の補助などを通して、若者層の転出入の均衡を保ちたい。転出が目立つ一方で転勤、就職などで若い人が転入していることも事実だ。そのため、転入してくる人達に気に入ってもらえる街にしていきたい。そして、来年、嵐の松本潤さんが徳川家康を演じるNHKの大河ドラマ「どうする家康」で新城市が取り上げられる。新城市は「長篠・設楽原の戦い」の地で、新城市役所はお城の跡地だ。初代城主が徳川家康の娘、亀姫の夫だった。徳川家康にゆかりのある地として積極的にPRをしていくことでも、市の発展につなげていきたい。(了)

――ウクライナから日本に避難してきた経緯は…。

 オレナ 2月24日にロシアとウクライナの戦争が始まった。私は当初避難することは全く考えず、姉夫婦と一緒に3月5日までキーウに留まっていた。しかしその後、ウクライナ全土で激しい爆撃が続き、義兄の父親がマリウポリで戦渦に巻き込まれて亡くなってしまった。そこでキーウを離れ、ウクライナ西部を経由してリビウに移動することを決めた。キーウからリビウまではわずか500Kmだが、渋滞や夜間外出禁止令のため、移動には5日間を要した。リビウ近郊では軍事演習場への攻撃が一週間も続いており、私は姉と姉の子どもたちと一緒にポーランドへ移った。そこから私だけ3月20日に息子夫婦が住む日本へと向かった。難民体験は本当に辛いものだ。私は義娘が日本人だったため日本に来ることが出来たが、日本に来ることの出来なかった姉夫婦やキーウに留まっている夫、そして今もマリウポリにいる私の実母や夫の両親が今どのような状況にあるか、連絡を取る事すらままならない。親戚が殺されるかもしれないという恐怖感や、居場所が確定しないことによる不安感で鬱状態になってしまう。日本に着いてからも、私の心はずっとウクライナにあり、気が休まる日はない。

――ウクライナにいる親族の様子は…。

 オレナ 私の夫はキーウにいるため、他の都市よりも安全だ。しかし、激しい爆撃が続くマリウポリにいた私の母親は、4月20日に体調を崩して亡くなったという連絡がきた。マリウポリの病院は閉鎖されており医師を呼ぶことも出来なかったため、本当の死因はわからない。葬儀の手配も大変で、敵対行為のために十字架はなく庭に埋葬せざるを得ない状況だったが、善良な隣人達が手伝ってくれたお陰で、母を父の隣に眠らせてあげることが出来た。きっと母は天国で喜んでくれているだろう。私の妹は子どもと一緒に難民としてドイツに向かったが、故郷であるウクライナに戻りたいと言っている。夫の両親は一時避難していたが、やはり自分たちの家に住みたいとマリウポリに戻ったようだ。マリウポリはロシア軍に制圧され人の出入りも禁止されているため、ガスや水、食料等の調達が困難だ。唯一電波は繋がっているため電話での安否確認は出来るが、人が出入り出来ないマリウポリのアパートで義両親がどのように暮らしているのか、どうしたら救い出すことが出来るのか、それが今の私の最大の懸念だ。

――ロシアとウクライナが戦争になった原因は…。

 オレナ ロシアの帝国としての野心や政治的計画、その他、私が知らない理由もあるだろう。私が事実として知っていることは、ロシアがウクライナを何度も攻撃し、ウクライナの人々を大量虐殺しているという真実だ。ロシアはキーウが欧州で最初に設立された国家「キエフ大公国」であるという歴史を塗り替え、ロシア率いるソビエト連邦を再び作り上げたいと考えているのだろう。その計画を虎視眈々と進め、ロシア国民の中にプロパガンダを広めることに成功した。しかし、世界の人々にはそういったプロパガンダに洗脳された人たちの発言や、ロシアという国が発信する情報を信じないでほしい。また、ウクライナは30年前に核を放棄したが、それは、前提としてロシアや米国や英国からの支援が保障され、侵略者からの安全も保障されると約束されたからだ。しかし実際にはウクライナの安全は保障されず、核を持っていれば今回のようにロシアから攻撃されることもなかっただろう。核兵器を持たない国は強力なパートナーと協定を結ぶ必要があるが、一方で、ウクライナの経験が示すように、そのパートナーが全ての協定に違反する可能性もあるということを知っておくべきだ。

――日本での避難生活について、そして今後は…。

 オレナ ロシアによるウクライナ侵攻の日以来、私の人生は止まり、何も計画することが出来ず、ただ戦争のことを考えるだけの毎日を送っていた。今は息子の家族と一緒に住み、愛する孫娘2人とも一緒に過ごせているが、戦渦のウクライナにいる親や親戚のことを考えると、どうしても人生を楽しむことはできない。そんな中で、私は日本で仕事を得るという機会に恵まれた。驚きと感謝の気持ちでいっぱいだ。戦争のニュースを見て気分が沈んでいても、仕事に行くために朝起きて、顔を洗って、服を着替えて、外に出る。それは私に生きている意味を与えてくれる。これまでも、私は家族写真やポートレート、ファッションなど様々なジャンルの写真を撮ってきた。今まだ、心に余裕がなくクリエイティブな仕事をするのは難しいが、少なくともカメラを持って仕事をしている時間は戦争のことを忘れられる。日本で年間ビザを取得することも出来た。これから写真家としてのキャリアを積み上げていく事も可能なのではないかと思っている。今後も好きな写真を撮りながら日本で仕事を続けられたら嬉しい。

――最近の戦争状況は…。

 ユーリ 2月24日、ロシアは不当で違法なウクライナ侵略をあらゆる方面から開始した。来る日も来る日もミサイルや爆弾の攻撃、空襲、戦車等によって罪のないウクライナ人を殺し、ウクライナの土地を破壊した。4カ月以上もの間、私たちに平穏な日々はない。ロシアは我々の日常を致命的に変えてしまった。一方で、ウクライナでは既に31,000人以上のロシア軍人が死亡しており、2月24日以降ロシアは1日に30人近くの命を犠牲にしている。ウクライナに対して使用された様々なロシアのミサイルの総数はすでに2500発以上だ。ロシア軍の爆撃と砲撃によってウクライナの文化的・歴史的遺産や社会インフラ、住宅、そして普通の生活に必要なあらゆるものが破壊された。6月10日現在でウクライナの1,971の教育機関と113の教会が被害を受け、750人以上の子供たちが犠牲となった。6月5日に開始されたキーウへのミサイル攻撃ではダルニツァ自動車修理工場の作業場を破壊され、他の工場も被害を受けた。幸いなことに死亡者はいなかったが、日曜日の朝のキーウに対するロシアのミサイル攻撃は、欧米の軍事装備品の供給を妨害する試みだったのだろう。しかも、ミサイルは南ウクライナ原子力発電所の上空を極めて低く飛んだ。ミサイルの小さな破片によって原子力事故や放射線漏れを引き起こす可能性もあるのに、ロシアの攻撃は悪質極まりなく、本当に非人道的な行為だ。

――欧米諸国による武器供与はウクライナにとって有益なのか…。

 ユーリ ゼレンスキー大統領が「ウクライナが侵略者からの攻撃に打ち勝つには、人々の団結だけでなく、武器や制裁といった西側諸国やアジア諸国のパートナーによる政治的支援が欠かせない」と言っているように、武器供与は間違いなくウクライナ人がロシア軍から身を守るのに役立っている。銃がなければ、ウクライナ兵士も民間人も自衛できないからだ。ロシアが土地を略奪し、制空権を確立するのを妨げるためには国際的な軍事支援が欠かせない。残念ながら今のウクライナの軍事装備がロシアの重砲に劣っているのは事実であり、ロシアをウクライナ領土から追い出すためには、NATO基準の近代兵器と弾薬が必要だ。同時に燃料と財政を含む絶え間ない兵站支援も必要としている。

――停戦合意の可能性はあるのか。また、戦争を終わらせる鍵となるものは…。

 ユーリ 一部の政治家がロシアとのビジネスを再開するために、我々に停戦や紛争の凍結、一部領土の降伏といった議論を持ち掛けているが、ウクライナ大統領府は「市民、領土、主権をロシアに明け渡すような取引はしない」という意思を明確に表明し、ロシア軍が占領地に留まることを可能にするモスクワとの停戦協定を受け入れなかった。つまり、我々が勝利することだけがウクライナ領土の完全回復への唯一の道だ。ロシア軍が我々の領土にいる限りこの戦争は続くだろう。これは、自由のため、主権のため、国際法の原則のため、民主主義のための戦争だ。ミンスク合意のようなロシアとのいかなる合意も、今やウクライナに多大な犠牲者と危険をもたらすものでしかない。こういった安全保障協定を終わらせる事こそが現在の欧州の混乱を終焉させる鍵となるのではないか。

――ユーリさんの現在の状況、そして今後の活動は…。

 ユーリ 私が住んでいるキーウはここ数週間、比較的落ち着いているが、長距離ロケット弾による攻撃の脅威は続いている。私の職場はキーウのイゴール・シコルスキー・キーウ工科大学(KPI)国際教育センターで、普段は教育プロセスの管理部門や教師の外国人採用を担当しているのだが、この戦争の為、2022年4月以降は、教師や学生、卒業生達を様々なプロジェクトのボランティアとして参加させ、団結させる「イゴール・シコルスキーKPIボランティア運動」を進めている。ボランティアはキーウの軍隊に生活必需品を届けたり、戦争の解決策を見出すための新しいアイデアを提供する大規模組織だ。他にも衣服を縫ったり、食事を調理したり、領土防衛軍の学生のためにヘルメットを送るなど、ロシア軍と戦うためのあらゆる支援を提供している。ウクライナ人は、誰もがそれぞれの場所で、自分たちの土地を守り抜くために出来る限りのことをしながら必死に生きている。

――日本へのメッセージを…。

 ユーリ 今年5月、英国を訪問した岸田文雄内閣総理大臣は「今日ウクライナで起きていることは、明日、東アジアで再び起こるかもしれない。ロシアの侵略はヨーロッパだけの問題ではない。インド太平洋地域の国際秩序も脅かされている」と述べた。この戦争は全世界に大きな経済的影響を及ぼすとともに、各国の安全保障問題に対する危機意識を高まらせた。仮にロシアがこの戦争に勝てば、日本が直面する安全保障上のリスクは高まるだろう。そうならないように、日本にも他の国々と同じように「ロシアのウクライナ侵略はウクライナ国民に対するジェノサイド行為だ」という事を認めてほしい。そして一刻も早く、この一方的で非人道的な戦争が終わることを願っている。(了)

――ロシア・ウクライナ戦争が世界経済に色々な影響を及ぼしている…。

 古澤 ロシアのウクライナ侵攻前の今年1月にIMFが発表した2022年の世界経済の見通しは4.4%成長だったが、4月の見直しで3.6%成長となり、相当下振れた。もちろん当事国が一番大きな影響を受けており、ウクライナに至っては、今年1月の予想ではプラス成長だったものが、4月見直しでマイナス35%となり、来年の見通しは立てられない状況にある。またロシアにおいては、今年はマイナス8.5%、来年はマイナス2.3%と2年連続でのマイナス成長が予想されている。ロシアとの関係が深い欧州は1月発表の3.9%から4月の見直しで2.8%成長となっている。日本や米国、中国の成長率は欧州ほどではないものの、資源価格高騰や世界経済全体の減速の影響から下方修正された。コロナ禍からの回復過程で昨年夏頃から物価高騰は始まっておりサプライチェーンも混乱していたが、それが改善する前に、ロシア・ウクライナ戦争によって新たなサプライチェーンの混乱が引き起こされている。これによって世界経済は全体的に減速していくと見られている。

――資源や穀物の価格高騰による食料不足で、飢餓に陥っている国もある…。

 古澤 例えば、エジプトでは小麦の約8割をロシアやウクライナから輸入していたため、パン価格が高騰して国内が混乱に陥り、現在IMFに支援を求めている。また、スリランカは主に観光収入で成り立っていた国だが、コロナ禍で観光産業が大きく落ち込み、そこに今回の物価高騰で遂にデフォルトとなった。もともと途上国の財政状況はコロナの影響でかなり逼迫していた。そこにロシア・ウクライナ戦争が拍車をかけ更なる窮地に追い込まれている。資源も食糧もなく外国から外貨建てで借金をしているような国にとっては、米国の金利が上がれば自国通貨が下がり大打撃を受けることになる。そういった国はこれからも出てくるだろう。IMFが予想する今年のリスクは第1にウクライナの行方、そして2番目は社会不安だ。食料やエネルギー価格の上昇で社会不安が生じて政権が揺らぐような国には注意が必要だ。

――ロシア・ウクライナ戦争で穀物の輸入が厳しい中、自国通貨が安くなれば、穀物の購入自体が出来なくなり、国内不安はさらに広がっていく。今後の米国金利の動向は…。

 古澤 米国の5月のインフレ率は8.6%と前月を上回り、まだ暫く高止まりの可能性があり、インフレに対処するため金利を上げる必要がある。IMFは来年にはインフレは落ち着くという見通しだが、暫くは高止まりの状況が続く。FRBのパウエル議長の話しぶりからすると、データを見つつ、7月も金利を引き続き上げることになるのだろう。新興国では自国通貨の防衛策として金利を上げている国は多いが、金利をあげると国内経済にはマイナスに働くため、ジレンマに陥ることもある。日本は欧州に比べればロシア・ウクライナ戦争の直接の影響は小さいが、資源価格上昇や世界経済全体の減速の影響を受けている。英米ほどではないが、物価も徐々に上がっている。世界経済全体が落ち込めば輸出も落ち込むだろう。安穏としてはいられない。

――ECB(欧州中央銀行)はマイナス金利からの脱却を宣言した。一方で日本では金利引き上げの動きは見えず海外との金利差は拡大し、さらに円安も進んでいる…。

 古澤 欧州でもインフレ率が上昇し、早めに対処したいという事なのだろう。一方で日本経済はインフレ率も米・欧ほど高くはなく、英米ほど賃金が上がっている訳でもない。経済の状況が違うため、日本では今の金融緩和をまだ続けた方が良いということだろう。米国について言えば、コロナ禍によって仕事を辞めて財政支援を受けた人たちが増大し、それがなかなか戻らず労働力が不足し、賃金を上げざるを得なくなったという状況だ。日本は物価上昇も米・欧ほどではなく、賃金も上昇しておらず、状況は異なる。現在の円安を止めるために金利政策を変えるべきだという声もあるが、為替はファンダメンタルズを反映して動いている。金利や物価といった経済のファンダメンタルズが違うため金融政策の方向性が違い、そこで日米の金利差が出てくる。それは当然のことだ。現在の円安はなるべくしてなっている訳で、為替のために金融政策を変えるという考え方は妥当ではない。

――国連はロシア・ウクライナ問題によって機能しなくなっているが、IMFによるロシア制裁は…。

 古澤 今のロシアへの制裁はそれぞれの国が行っているものであり、IMFとしては、ロシアがIMFのメンバー国として、IMF協定に違反するといったようなことがない限り制裁を行う理由はない。世銀やEBRDはロシアやベラルーシに対して支援を見合わせているが、今のところロシアがIMFに支援を要請するという話はなく、仮にロシアが支援を要請したとしても、理事会が承認するかどうかは疑問だ。IMFの意思決定プロセスは、加盟190カ国の出資比率に応じた発言力を持つ24人の理事で構成される理事会で議論される。融資等の通常案件は過半数で決定されるが、重要な事柄については85%の賛成が必要となる。この点、米国が16%の発言権を持っているため実質的には拒否権を持つが、機能不全に陥っているということは無い。少なくとも今の段階ではきちんと機能している。

――ロシアと同様に、今度は中国が覇権主義を掲げて暴走する危険性もある…。

 古澤 中国が、商業ベースの金利で相手国に融資し、負債を返せなければ港湾等の利用権を得るといった手法が相手国の経済発展に資するのかという疑問が呈されている。中国に多額の債務を負う国がIMFに支援を要請するというケースも出てきている。この問題についてIMFのシェアホルダーは当事国の中国に対する債務がきちんと整理されていないままお金を貸すことはできないというスタンスだ。公的債務の再編を行ってきたパリクラブのメンバーではない中国等を含めて債務再編を行う枠組みは一昨年11月にG20で合意されたが、中国の協力が不十分で、まだ期待された成果をあげられていない。

――日本は今後どのように国際協調を進め、如何に中国と付き合っていくべきなのか…。

 古澤 中国が巨大なマーケットであり、世界第2位のGDPを持つ国だという認識を持ちつつも、日本は今後、如何にサプライチェーンを構築していくのかをもっとしっかり考えなくてはならない。政府の指針を待ち従うだけでなく、それぞれの経済主体が各々でリスクに備える必要がある。これまでの企業行動はグローバリゼーションの中で経済の最適化という観点からサプライチェーンを構築してきた。しかし、今回のロシア・ウクライナ戦争で我々が学んだ事は、経済の最適化だけに頼っていくのはリスクがあるという事だ。実際に国連安保理は機能不全に陥り、G20での国際協調も進んでいない。それをグローバリゼーションの終焉というのか、新たな局面に入ってきたというのかわからないが、今後暫くの間はG7を核にしてQUADやIPEF、TPPといった様々な枠組みの中で協調を模索するという状況が続くのではないか。日本としてはそれぞれの枠組みで、自国の利益に合致するものをうまく利用していくということではないか。

――IMFは今年5月にSDR通貨バスケットの見直しを行い、人民元の構成比率を引き上げた。この意味するところは…。

 古澤 SDR(特別引出権)の5つの通貨の構成比は5年毎に見直しを行い、基本的に米ドルの割合が一番大きいが、今回の見直しで人民元とドルが上昇し、一方でユーロと円とポンドは低下した。2016年に人民元がSDRに正式採用された際にはかなり議論になったが、貿易量や立地優位条件などからバスケットの割合が判断される中で、中国経済がさらに大きくなれば通貨バスケットの人民元の割合がさらに大きくなってくる可能性は否めない。もちろんSDRは個人が保有するものではなく、国家間の取引や国際機関で使用されるものだが、外貨流動性を供給するという意味合いはある。ドルの基軸通貨としてのポジションは、近い将来変わることはないと思うが、外貨準備の構成が調整される可能性はある。IMFにはコロナ禍から世界経済を立ち直らせるという課題に加えて、ロシア・ウクライナ戦争に起因する経済の減速への対応という難題がのしかかってきた。戦争の終結が最も重要だが影響を受けている国々を支援し、世界経済全体の回復を図っていかなければならない。(了)

――コロナ禍で鉄道事業は厳しい状況にあったと思うが、御社では22年3月期で黒字転換となった。その理由は…。

 古宮 JR九州の連結営業収益に占める鉄道旅客運輸収入の割合は3割程度であり、不動産事業や流通・外食事業をはじめとした、その他の事業の収益が大きなウエイトを占めている。22年3月期は、鉄道旅客運輸収入の緩やかな回復とマンション販売の好調な推移、私募REITへの当社保有資産の売却等により、連結営業利益は黒字となった。もともと当社の鉄道事業は、昭和62年の会社発足時から赤字で、発足時の営業赤字は280億円にも上っていた。その後、九州内では高速道路の整備が急速に進み、平成8年には鹿児島、長崎、大分など、九州内の主要都市を巡る高速道路が完成した。我々はその頃を在来線の鉄道収入のピークと考え、鉄道以外の事業展開に急ピッチで取り掛かった。そういった背景から現在のような多角的経営となっており、それが今に活きている。

――現在、一番大きな収益となっている事業は…。

 古宮 賃貸・分譲を含むマンション事業や駅ビル事業だ。すでに九州の主要な駅では、駅ビルの開発を終えつつあるため、今後は、主要駅周辺でのマンション開発、あるいは主要駅から少しエリアを広げたところでの商業施設の開発や新駅の設置など、新規開拓に力を入れていきたい。ただし、九州ではローカルエリアでの人口減少が著しく、都市部を中心に不動産開発は進めていく考えだ。また、JR九州のフラッグシップトレインとも言える「ななつ星?九州」のチケットの売れ行きは好調だ。2022年10月からの新コースにおいて最高級の部屋は3泊4日2名様の御利用で340万円と高額だが、申し込みは殺到している。長時間の飛行を強いられる海外旅行ではなく、国内でゆっくり贅沢に旅行を楽しみたいという方が沢山いらっしゃる。私自身この列車の開発には責任者として携わっており、乗車料金の設定には色々な意見があったことを記憶しているが、販売から1~2年の平均抽選倍率は30倍という程の人気を博した。中でも1部屋しかない最高級の部屋への申し込みは一番多く、その抽選倍率は200倍や300倍という時もあったほどだ。

――今秋に開業予定の西九州新幹線について…。

 古宮 西九州新幹線の開業は今年度の最大イベントだ。車両は現在東海道・山陽新幹線で運行されている「N700S」を6両編成にしたもので、内装や外装に力を入れて独自性を出している。長崎県や佐賀県の方々にとっては待望の新幹線だ。特に、有名な温泉があるにもかかわらずこれまで鉄道がなかった佐賀県嬉野市は初めて通った鉄道が新幹線という事で大いに盛り上がっている。これまで在来線で約2時間かかっていた博多-長崎間は、西九州新幹線の開通によって最速1時間20分にまで短縮される。また、九州の新幹線は駅間の距離が短く通勤や通学に利用する乗客も多いため、隣接特定の自由席の乗車料金は870円と設定し、利用しやすいようにしている。

――SDGsに対する取り組みや、IR活動については…。

 古宮 公共交通機関である鉄道の利用はCO2排出量の削減、環境負荷の低減につながるということで、鉄道は「人と地球環境に優しい乗り物」として社会的に注目されている。実際、当社グループは、2050年CO2排出量実質ゼロを目指しており、資金調達の面においては、昨年からグリーンボンドを活用するなど取り組みを強化している。コロナ禍の影響で、21年3月期の営業収益はコロナ前の6割程度にとどまり、200億円強の赤字も出したが、22年3月期でようやく92億円の経常利益を上げることができた。今期は300億円の経常利益を見込んでいる。今後、鉄道旅客運輸収入が想定通りに回復していけば、資金調達にもそれほど大きな問題はないだろう。現在、四半期報告書を廃止する案が議論されているが、これまで同様、IR等を通じて積極的な情報開示を行っていく姿勢は変わらない。

――今後、注力していくビジネスは…。

 古宮 コロナ禍で鉄道の利用が減少し、駅に人が集まらなくなると、駅中のコンビニや商業施設への立ち寄りも減り、ほぼ全ての事業が共倒れとなった。そこで、昨年、人流に依存しないビジネスを強化するために、物流事業へ参入した。現在は物流施設の保有と賃貸の事業を中心に行っているが、九州でも宅配の需要は急増しており、将来的に良い運送会社との巡り合わせなどがあれば事業提携や合併などで、さらに新しいビジネスを広げていきたい。実際に今、ドローンで鉄橋の検査などを行っていることもあり、ドローンを活用したビジネスなども考えている。

――今後の抱負は…。

 古宮 これまで鉄道事業は基本的に大きな浮き沈みがないビジネスであったが、コロナ禍では50%の減収というこれまでに経験したことのない落ち込みを見せた。これを乗り切るために、我々はこれまで経費削減などに取り組んできた。今後は、会社全体で新しい発想を生み出し、メンテナンスコストを下げられるようにしていきたいと考えている。例えば、これまで線路をひたすら歩きながら目視で行っていた検査を、営業列車にカメラをつけてチェックするような取り組みも始めている。新しい技術を使う事で、人間の負担を減らしていくことはこれからのビジネスには欠かせない。こういった取り組みをもっと色々な分野に広げ、メンテナンスコストを下げていきたい。我々の会社の規模は鉄道会社の中ではそれほど大きくない。そのため、機動的な運営が可能だ。この規模のメリットを十分に活用して、かっちりと固めすぎることなく柔軟な経営を心掛けていきたい。

――新社長として投資家の皆様へ伝えたいことは…。

 古宮 本年3月に2022年度~2024年度の新たな中期経営計画を発表し、国内外の投資家に対してIR・SR活動を実施した。海外の投資家は九州の地理感はあまりないと思うが、鉄道沿線に都市が並んでいて、鉄道沿線の開発余地が大きいということを我々の強みとしてアピールしている。新たな中期経営計画では、2019~2021年度の前中期経営計画で実現できなかった570億円の営業利益を、何としても実現させたい。そして、我々のフィールドが九州全体であるというメリットを大いに活用して、人の集まるところや、これから活性化しそうな地域に投資を行い、それぞれの地元の産業振興にも貢献できるようなビジネスを展開していきたい。(了)

――原油価格の高騰が続いているが、エネルギー価格高騰が御社の業績に与える影響は…。

 黒岩 燃料価格の高騰は物流業界への影響は非常に大きいが、70年代のオイルショックに比べ、今回は燃料の値段が上がっているだけで、供給難に至っているわけではない。トラックというものは動かさなければただの鉄くずだ。業績に与える影響は、燃料単価1円当りで月に400万円程度で、2021年度は10億円程度のコスト上昇があった。ただ燃料価格については、多少のタイムラグはあるが、主要取引はサーチャージ制により価格調整され、その他の取引先についても荷主との交渉により価格の適正化を図っており、次第に緩和されると期待している。

――米中デカップリングを受けて国際分業から自国生産の動きが出てきている…。

 黒岩 米中のデカップリングについては、顧客のサプライチェーンの変更等により当社が間接的に影響を受ける可能性はあるが、今のところ大きな変化はない。物流は以前に比べ構造が複雑になり、ビジネスモデルが日々大きく変化していることから、一概に自国生産に回帰する動きがあるとも言えない。ただ、コロナ禍が物流業界に与えた影響は大きく、海外都市でのロックダウン、コンテナ不足もあり、需給がひっ迫した。当社の業績にも間接的な影響が相当あり、自動車産業や住宅建材、精密機器の輸送などが中心の当社は一時的に業務量が減っているのは事実だ。一方で、物流というのは半導体やコンテナが不足すると、逆に仕掛品が積み上がったり、部品の一定程度の物量をストックしておこうという動きになり、業績面ではプラスに働いた。全てが悪い方向に行くわけではなく、どこかが悪ければ、別の点で良い面もある。需給バランスは競争市場の経済法則で、あまりにも物価が高騰するなら需要が先細りするだろう。最終的に運ぶ・運ばないは顧客荷主が判断することだが、物流に対する需要自体がなくなることは決してないので、コンテナが不足しているならば、コストを掛けてでも空輸ケースもある。それ以外にも生産や販売自体を取りやめる、生産地を変えるといったことも考えられる。そうした刻々と変化する物流の状況を読んで経営をしている。

――物流における省力化を進め、コストカットに取り組んでいる…。

 黒岩 省力化はソフトとハードの両面から積極的に進めている。コストカットの定番として人件費削減が挙げられるが、そもそも私どもは人手不足にあり、今以上に人員を減らす余地はない。ソフト面でいうと、作業の効率化によるタイム・パフォーマンスの改善に努めている。当社の取組として、一人の人間に複数の職務を兼務させることにより、迅速な意思疎通や重複作業の削減など、生産性を向上させることに成功している。また電子稟議書の導入・印鑑レスなど、システムによる効率化を進めている。さらに、優秀な人材を確保するためには賃上げが喫緊の課題だ。バブル期は例外としても、高度経済成長の時のように給料が毎年10%くらい上昇しなければ、今いる優秀な人材も他の企業に流出してしまうだろう。一方、ハード面では、ロボットによるピッキングなど、物流施設内の省力化を積極的に進めていく。ただ、私どもが扱う貨物は多岐にわたり、メーカーの物流子会社のように決まった物のみを扱うわけではない。どんな貨物にも対応できる汎用性の高いロボットが求められるが、そのようなロボットを導入するには莫大なコストが掛かる。人間の手で行った方が安く済む場合もあり、人件費とロボット導入を天秤にかけることになる。

――海外への進出については…。

 黒岩 海外に進出して顧客から言われることは、「日本並みのサービス品質で、現地並みの価格」でやってくれということだ。逆であればいくらでもできる。また「日本並みのサービス品質で、日本並みの価格」で海外へ進出していく場合も、米国やヨーロッパなどの先進国でないと価格的に成り立たない。東南アジアでも既に現地の業者のレベルが高くなってきたため、私どもが出て行く余地はそれほど大きくない。あくまで日本をビジネスのベースに考えており、日本の顧客の事業戦略に応じて必要なら海外にも展開していく。海外は1987年に米国に進出して以降、現在9カ国、29の現地法人がある。2022年3月期の海外ビジネスの連結売上は267億円で、全体に占める比率は13.5%。フォワーディング業務は国内売上に計上しているので、国際業務という観点ではもう少し割合が大きい。当社の海外展開の考え方は、主要拠点が東京にある企業が国内の他の地方へ進出していく場合と同じ理屈だ。例えば、東京の工場を、賃料の高騰などを理由に地方に移すといった場合に、私どもは地方の物流についてもお手伝いするが、それが海外になっただけだと考える。もともと、当社の事業戦略は、総合物流事業者としてワンストップであらゆるサービスを提供するというもので、海外事業を単独で伸ばすというより、当社の業界別、顧客別の事業戦略の中で、日本メーカーの海外進出に合わせて日本の品質を提供していくのが我々の仕事。現地の物流のみならず、流通加工や通関業務など、国内と海外のロジスティクスの流れの中で付加価値をつけていく。

――「物流は経済の鏡」とも言われる。現在の経済をどう見ているか…。

 黒岩 モノの動きで日本経済を見ても、今のままでは厳しい状況にある。まず、そもそも日本でモノを製造していない。さらに、少子化で需要が細っていく。高度経済成長を支えたように、輸出産業を育てていかなければならない。少子高齢化は先進国共通の課題だ。日本は物質的に豊かになり、既にあるモノの代替需要はあっても新規の追加需要がない。社会が便利になりすぎてしまったので、現状ではこれ以上の成長が見込みづらくなっている。

――今後取り組んでいく事業は…。

 黒岩 今後も従来と同様、顧客のニーズに機動的に対応し、付加価値を上げていくだけだ。他の企業がやらないことに需要がある。例えば、産業廃棄物のリサイクルなど静脈物流だ。儲けは後から付いてくるだろう。巣ごもり需要で宅配業界が活発になっているが、元々BtoBを得意としているので、極端にBtoCに舵を切ることはない。仮にEC業務を手掛ける場合も最終消費者に1件1件宅配していくことは考えておらず、あくまで取引先が問屋から通販業者の大規模倉庫に変わるだけだ。また、現在は連結売上の半分を自動車産業に依存しているが、自動車産業の売上を減らすことなく、新規荷主を拡大することで他の業種の取り扱い比率を上げていく。付加価値の高い医薬品や流通加工を伴うメーカーの製品など、利益にこだわった事業展開をしていきたい。重要なのは、物流業界の先行きを見通した場合、2024年問題による労働力不足への対応、ESG経営による環境対応や人材投資が成長のカギになる。これらの問題に対処できない企業は淘汰され、イノベーションによる変化を続ける企業のみが生き残ることができるということだろう。

――M&Aを活用した事業拡大は…。

 黒岩 自社で一から展開すれば10年掛かる事業も、既存の事業を手に入れられれば、すぐに展開できるように、時間を短縮するための手段としてM&Aを活用している。それが金額に見合うか見合わないかだ。案件があれば積極的に進めていきたいが、買収先あってのことなので、簡単にはできないだろう。当社のM&A戦略は、運輸事業をコア事業として、枝葉の事業を拡大させるというのが基本で、全国ネットワークの空白地域に対する輸送基地の拡大、メーカーの物流子会社など新規荷主の拡大につながる案件をターゲットとしている。また事業の多角化についても、運輸事業を中心とした川上・川下への事業展開を考えている。

――今後の抱負は…。

 黒岩 会社を発展させるにはさまざまな手段があるが、最終的には地道に一歩ずつ進んでいくしかない。第12次中期経営計画では、23年3月期に売上高2300億円、営業利益230億円という目標を掲げたが、コロナ禍の景気低迷、半導体不足、海上コンテナ不足、燃料高と矢継ぎ早に課題が出てきたため、計画の進捗は約1年遅れとなっている。当社はもちろん将来的に日本一、世界一の物流会社を目指しているが、道筋を描くのは簡単ではなく、必ずしも規模ではなく質を重視していきたい。ここでいう経営の質というのは、交通安全、仕事の品質、環境投資など社会とサステイナブルに共存していくなかで、従業員が活き活きと活躍できる環境を整え、会社を発展させるということだ。ただ、忘れてはいけないのは、営利企業として利益を上げ続けるということが大事だ。当社自身と従業員、株主が求めているものは全く同一だと考えており、今後もそれぞれのステークホルダーが豊かさを享受できるよう積極的に事業を展開し利益を極大化していく。(了)

――JMOOCとは…。

 白井 われわれは現在、オンラインで大学の授業を無料で公開する事業を行っている。先進各国の大学がインターネット上で講義を公開する試みを行っているなか、国際的な流れに日本が取り残されていることに危機感を持ったためだ。米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)は2000年から大学の授業を開放している。インターネットの発達により、途上国の人々もインターネットにアクセスさえできれば多くのコンテンツに無料で接することができるようになった。さらに、この潮流は2010年ごろから米国で活発になったうえ、エデュケーションリソースの開放は米国に限らずヨーロッパ諸国でも行われるようになり、大学のほかに銀行などがスポンサーになっている例もある。アジアの大学もこれに続き、授業のオンライン化が進んでいる。日本では、古くから放送大学があるがインターネットで大学の講義を公開する団体としてはMITのプログラムを日本版にしたOCW(オープンコースウェア)があった。このままでは世界標準に乗り遅れてしまうという危機感から、各大学に協賛を呼び掛け、2013年にJMOOCを立ち上げた。

――日本政府の支援はないのか…。

 白井 現在、われわれに対する国からの一定の支援はないため、参加している大学や企業から会費を集めて運営せざるを得ない状況だ。企業と大学、合わせて80団体ほどから年会費50万円ずついただき、運営費として使っている。ただ、当初の年間1億円という目標には届いていないうえ、中身をよくしようとすればコストもかさむため経営状況は非常に厳しい。そもそも、教育研究にはお金がかかり、どの大学も余裕のある経営状況とは言えない。東大をはじめ上位大学にはある程度お金が集まり、自由な研究活動があるものの、欧米の名門大学やアジアの優秀な大学に比べ、政府や企業などからの教育や研究に投資している金額が違いすぎるため、世界大学ランキングでは東京大学が30位にランクインしたものの、その他の大学は苦戦しているのが現状だ。文部科学省はどうにかしてこの状況を打破したいと工夫しており、大学発のベンチャーファンドや岸田政権の目玉政策である10兆円ファンドなどの計画がある。大学が自力で行う資金調達も多様化してきたが、資金力の差で世界の大学には後れを取ってしまっている。

――日本の教育のどこに問題意識をもっているか…。

 白井 JMOOCは社会人も自由に受講できるようにコンテンツを開放しているが、日本人全体として、あまり意欲が高くないように感じている。社会人に限らず日本の教育や社会活動への参加の意思が他の諸国に比べても、極端に下がっていることが背景にある。例えば、高校生を対象としたあるアンケートでは、「自分が社会的に貢献できると思っている」と回答した人はほとんどいなかった。多くの人は社会の役に立とうと思わないし、役に立つとも思っていないのが現状だ。社会貢献性という倫理観を初等教育から自然と身につかせることができたら良いが、現実はかなり厳しいところにある。高校や大学を卒業後、社会人になった際も、しっかりとした社内教育はほとんどなく、会社での人間教育もあまり期待できない。若者の意識も変わってきており、昔は大きな会社に入ったり官僚になったりして社会に貢献するのが成功であったが、今はお金を稼いで自分のやりたいことをやれば成功とされる。われわれは事業を通じて学ぶ機会を作ろうとしているものの、内容も不十分でもあるが、残念ながらまだ十分利用されているとも言えない。

――今後の事業展開は…。

 白井 今、文部科学省はスーパーグローバル大学創成支援事業を行っており、各大学の共有するオープンリソースを作ろうとしている。まずは、このような活動と協力することで、より完成度の高い大学の講義を発信していきたい。現在われわれが提供している授業の多くは、大学の単位では1単位分に相当するが、普通の大学で行われている授業にそろえ2単位分とする。大学はコロナ禍によってオンライン化された授業を電子データとして蓄積している。そのなかでも質の良い授業、特に教養系のものを中心に配信していきたい。大学間で互いに利用できるが、大学に進学していない人も授業を受けられるようになる。実際の大学の授業を配信する際には、受講生のやる気を引き出すために有料にすることも考えている。また、オンライン上で受けた講義を卒業単位に組み込む制度も作りたい。例えば米国のアリゾナ大学では、1年目の講義の大半を公開しており、単位を取得すれば証明書を発行することができる。この証明書を大学入学時に提示するとその単位は卒業単位に組み込んでもらえるという仕組みがある。日本でもこれを導入すれば、勉強の費用負担を軽減することができるし、留学生など国外にいる生徒のためにもなる。新型コロナによって、アジアを中心に訪れる留学生の半数が入国できない状況になった。留学生に学んでもらうためには、アジア向けに質の高い講義を配信しなければならない。日本語だけではなく自動翻訳技術も使ってさまざまな言葉で配信することができれば、彼らは現地で勉強することができる。大学や文部科学省の力を集めれば、事業化できるだろう。

――これからの大学はどうなっていくのか…。

 白井 2つの方向が見える。1つ目は横での連携を強める大学像だ。以前よりも単位互換など大学間の横のつながりは強まった。制度上は、卒業に必要な単位の半分まではeラーニングで可能とされている。海外の大学との連携もできるようになっている。以前は、自分の大学の生徒に他大学の講義を受けさせる大学はなく、囲い込むパターンが大半であった。しかし、これから大学は教育に掛けるコストを下げなければいけないし、学生のアクティビティとして他大学との交流は有効だ。特に海外留学などを通じ、学生は成長できる。これからはオープン化が進んでいくのではないか。もう1つは、もっと極端だが、学生が特定の大学に所属しないシステムの構築だ。学生がインターネット上に公開された授業を受講し、さまざまな単位のなかから自分に必要なものだけを取得する。各大学が連携し、オンライン上でシステムを構築し、オープンバッチ(知識や能力の習得を証明する改ざんできないデジタル認証)として各大学が認証する。この仕組みは世界的にはできあがっており、日本でも急速にその普及が進んでいる。このシステムでは自分の好きなことだけを選んで勉強でき、体系化も自分で行うことができるし、個人が自分のやりたいことだけをゆっくりと積み上げていくこともできる。大学時代は限られており、勉強以外にもさまざまなことをしていく学生が増えてきている。学習の自由度が高ければ学業と他の活動の両立もできるだろう。ある程度たくさんの学生が在籍していることを前提に、ゼミでの討論などを通じて教育をしていく、従来の大学モデルとは別の大学教育が展開する時代が来るのかもしれない。(了)

――日本労働組合総連合会(連合)が自民党寄りになってきていると報道されているが…。

 芳野 先日、自民党政務調査会の「人生100年時代戦略本部」に出席したことをマスコミ等では「異例」とし、連合が自民党寄りになってきていると報道している。しかし、過去にも連合は自民党に呼ばれてこのような意見交換を行ったり、連合会長が自民党の党大会で挨拶をしたこともある。「人生100年時代戦略本部」への出席についても、私が連合会長に就任した当初から依頼を受けていたものであり、騒がれるようなことは何もない。連合の方針は変わらず、組織内議員がいる立憲民主党と国民民主党の2党と連携を取っていく。また、統一戦線を掲げる綱領や、安全保障や社会保障、経済対策といった基本政策が連合とは全く異なる共産党と手を携えることはない。

――労働組合の組織率は低下してきている。その背景は…。

 芳野 現在、組織率は17%を下回っている。理由の一つに働き方や雇用形態が変わってきたことが挙げられる。正社員が減少し、非正規雇用やフリーランスが急増してきた中で、組織化の取り組みが追い付いていない。また、分社化や業務のアウトソーシングといった企業モデルの変革への対応が遅れている部分もある。近年、「曖昧な雇用」によって労働基準法で保護されない人は確実に増加しており、連合としてはそのような方々を如何に組織化していくかを考えているところだ。この点において昨年、「Wor-Q(ワーク)」という連合ネットワーク会員制度を新設した。労働組合の枠組みではなく、フリーランスや「曖昧な雇用」で働く人たちと緩やかにつながるしくみで、共済制度も導入した。これは年会費3000円でフリーランスの方々も共済の保障が受けられるサポートシステムだ。現在400名程度が加入しているが、認知度はまだまだ低い。もともとフリーランスという働き方を選ぶ方々は個人で動くことを好み連帯を煩わしいと感じる人が多いのかもしれない。しかし、制度的には良いものなので、口コミやSNSなどを通じてもっとこの輪が広がってほしい。そして、将来的にはこのようなネットワーク会員も、きちんとした法律の下で安心して働くことが出来るよう、政策制度の策定に取り組んでいきたい。

――非正規雇用の方々への対応は…。

 芳野 正規、非正規といった雇用形態にかかわらず、すべての働く人に労働組合に入ってもらいたいと考えており、労働組合がある企業では、その企業の組合が非正規雇用で働く仲間の組織化に取り組んでいる。具体的には現在、連合の構成組織と全国47都道府県に所在する地方連合会が2025年までの組織拡大対象を定め、それぞれの目標に向かって、同じ職場で働く仲間の組合加入を進めている。一方、労働組合がない企業で働く方々に関しては、フリーダイヤルやメールによる労働相談で、困り事や組合づくりの相談に乗っている。相談は、地方連合会や構成組織でも受け付けているので、ぜひ利用してほしい。

――男女平等参画への対応について…。

 芳野 連合にはジェンダー平等推進計画があり、2030年までに意思決定レベルにおける女性の参画率を50%にすることをめざしている。女性役員の多い組織のほうが、新しい視点が入り幅広い課題に対応できているという調査結果があり、女性の声が反映しやすくなるという強みもある。50%という目標は国際組織ではすでに達成できている数字だが、連合では現在34.5%だ。百貨店やスーパーマーケットを組織しているUAゼンセンや日本教職員組合などは女性役員の比率が高いが、製造業や運輸業等では圧倒的に男性の比率が高い。そもそも従業員全体における女性の割合が低ければ女性役員の数も少なくて当然なのだが、それには歴史的な背景がある。これまで女性は長期雇用の対象ではなく、採用者数自体が男性よりも少なかった。なぜなら女性が結婚や妊娠・出産によって休職や退職していく可能性が高かったからだ。それが良い悪いにかかわらず、社員の教育投資というコスト面から考えて、長期で働いてくれるかどうかわからない女性に会社として活躍の場を設けるという考え方が昔は弱かった。その後1992年に育児休業法が施行され、女性が働き続けることが出来るようになったが、この法制度が浸透するには時間を要し、全体的に女性の採用者数も少ないままだった。そのため、女性は有期・パートなど非正規雇用の仕事に就かざるを得ず、職場における男女平等参画が遅れたという経緯がある。

――今では政府の補助金などもあり、育児休業制度を取り入れやすくなっている…。

 芳野 コロナ禍となり在宅勤務が普及することで、男性も家事育児にかかわるようになるだろうと期待していたが、ふたを開けてみると、男性の家事育児時間が増えたのと同じくらい女性の家事育児時間も増えていて、女性に負担が偏っている状況は変わらない。日本には性別役割分業意識が根強く、簡単には払しょくできないのだろう。ただ、歩みは遅いが確かに男性の育児休業取得者も増えてきている。例えば子育てのために1年間の休業期間が必要だとして、母親と父親で半年ずつ休業したり、職種によって一年間の長期休業が難しい場合は、休業期間を短くして短時間勤務で働くといった制度もあり、今は色々な働き方が可能になってきている。少子化による人手不足感を補うためにも、企業は人材を大事に育てていくことが求められており、女性が働き続けられる環境が整ってきた。働き続ける女性が増えたことの延長線上として、今、女性の組合役員が増えてきているのだろう。また、男女間の賃金格差は、女性の勤続年数と女性管理職の数が少ないことが理由だとされている。したがって、長期に亘って働くことの出来る環境を整えていくことが重要だ。労働組合のある会社では、常に組合が会社と協議しながら職場環境の改善を進めているが、特に労働組合のない会社では、女性は出産を機に退職せざるを得ないケースも多く、実際に第一子出産を機に約半数の女性が退職している。また、会社を辞めると次は非正規雇用として働かざるを得ないような実態もある。そのため、育児休業制度の周知に加え、いったん退職しても正規雇用で働けるような政策が必要だ。

――ベーシックインカムと解雇の自由化を組み合わせて導入するような政策や、解雇の金銭解決も議論されているが…。

 芳野 連合はこの両方について断固反対している。ベーシックインカムの導入については、全国民に同額の現金給付を行う案や、最低限の給付を行いつつ個別の制度による給付を行う案などがあり、共通認識が図られているとは言い難い。他方で、障がいや傷病、高齢や一人親家庭などそれぞれに対応した支援は連合でも引き続き重要だと考えている。また、解雇の金銭解決について、労働契約法第16条には「客観的に合理的な理由を欠き、社会的通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と明記されている。労働契約の解消を金銭で解決するような制度には断固反対だ。労働条件は公正にあるべきものであり、労働組合は一人一人の雇用をしっかりと守っていく。

――最後に、抱負を…。

 芳野 コロナ禍となったことで、弱い立場の人たちがより明確になった。それは非正規雇用で働く方や曖昧な雇用で働くフリーランスの方や一人親家庭など、とりわけ女性が非常に多い。昨年は生活に困窮して自殺する女性が増えたというショッキングな調査結果も発表された。私たち労働組合は本当に弱い立場で働く人たちの処遇改善に力を注いでいかなければならない。各加盟組合がそれぞれの会社の中で日々労使で話し合って改善を進めていくとともに、連合は、労働組合のない企業で働いている皆さんのために活動をしていく必要がある。労働者としてはもちろん生活者の立場で運動を展開していきたい。(了)

――「大峯千日回峰行」「四無行」「八千枚大護摩供」と、数々の難行を成し遂げられた。行を志された理由は…。

 塩沼 何故と理由を問われても、その答えは見つからない。小学校5年生の時にテレビで酒井雄哉大阿闍梨の比叡山千日回峰行を偶然見て、何かリンクするものを感じ、「これをやってみたい」と思った。本当に純粋な憧れから入った道だ。そして目の前に起こる現象に一生懸命向き合い、ひたすらそれを積み上げてきて、今がある。ただ、その過程で想いが肉付けされてくる感覚はあり、「僧侶になって世の中の人たちが明るく幸せに過ごせるようなお手伝いが出来ることは良いものだ」と考えるようになった。その世界を実現させるための仕組みづくりを試行錯誤して考え、そこに自分の修行も重ねていった。最初から千日回峰行に挑戦したいとか、大阿闍梨になりたいとか、偉くなりたいとか、そういうものが全く無く、ピュアな憧れから修行したいと思った事が良かったのかもしれない。

――修行すれば誰もが「千日回峰行」を成し遂げられるという訳ではない…。

 塩沼 先ず一生懸命修行するかしないか、次に利己的なのか利他的なのか、そこに意志の強さが加味されて、日々の修行の成果となる。自身の人格を磨いていこうという想いを持たずに「千日回峰行」だけを行っても意味がない。いかに修行して自分を成長させ、磨きをかけるかだ。私はこれまで一度も修行を止めたいと思った事はない。これは自分でも素晴らしいことだと感じており、それがまたゆるぎない自信へと繋がっている。「自分はこれまでひたすら努力して頑張ってきた」という自信と経験が、目の前の壁を乗り越える力をくれる。適当に修行をしていたら、今、私はここに立っていないだろう。眼には見えなくとも私の中から感じ取れるエネルギーは、これまでの修行から生まれているものだ。

――「千日回峰行」を行っている時、一体何を考えているのか…。

 塩沼 基本的には何も考えていない。ただ、人間が生きていく中で思い通りになる現象とならない現象があり、そこで悩みや葛藤が生まれるのは何故なのかという事は常に心に置いている。答えは既にあり、「理想にとらわれている自分があるから」だ。そして、その悩みをなくすには、どの経典にも記してあるように「生かされている今の自分を楽しむ」ことに尽きる。このことを実際に腑に落ちさせるために修行を積んでいる。僧侶は寺院という樽の中で、規律という重しを載せられて、悟りを開いた美味しい漬物になる。一刻も早く師と仰がれ、人々を幸せな人生に導くことの出来る存在になるために、人生をかけて修行する。それは社会のひとつの役割だ。

――「悟り」とは具体的にどのような境地なのか…。

 塩沼 私が小僧の頃は「悟り」という言葉とは程遠く、人生の意味も分からないまま生きていた。そして色々な書物から、成層圏、大気圏、宇宙という境界線を突き抜ければ悟りの世界に入るという図を目にするようになった。そういった図を見ながら、悟りを開けばいわゆる僧侶としての学校を卒業した証明書をもらえるような気になっていた。しかし、今感じているのは、人生は終わりのない階段であり、次から次に自ら高みを目指して上っていくものだということだ。そこに卒業はない。当然、昔の私と今の私は全く違う。そして今は「ありのままを楽しむ」という方向にブラッシュアップできていると感じている。

――布教活動について…。

 塩沼 52歳を過ぎた頃から一般的な布教活動をあまりしなくなり、最近は朝起きてから夜寝るまで、ご縁のあった方と、そのコミュニティの中で話をしたり、お茶を飲んだり、機会があれば一緒に食事をして楽しく過ごすようになった。私が楽しくしていることで周りも楽しくなるのであれば、それで良いと思っている。昔は年間70回程の講演依頼を受け、慈眼寺でも年70回の説法を行い、年2回程自著を出版したり、各種メディア取材を受けるなど、かなり精力的に布教活動に努めていた時期もあったが、徐々にその数を減らし、最近では講演も年3回程度に絞っている。講演料やメディア出演料は、ほぼ全額を塩沼亮潤大阿闍梨基金に直接寄付してくださるようお願いしている。また、仙台でのラジオ番組2本の出演料に関しては、その8割ほどをフードバンクや子ども食堂等に直接寄付してくださるようにお願いしている。50歳を過ぎて在りのままにいながら、敢えて伝える活動をしなくても「伝わる」ようになったのは、これまでの修行があってこそだと思う。

――コロナ禍やウクライナ紛争で世の中が混沌としている中、人々はどのような心の持ち方をすべきなのか…。

 塩沼 ウクライナ紛争に関して私には祈るしかなく、改めて自分の無力さを感じさせられた。日本から遠く離れたウクライナで起きている紛争は日本人の衣食住に影響を及ぼすことはなく、桜が咲いていればお花見をする日本人は沢山いる。コロナ禍にあっても会食をしている人はいる。それを批判するつもりはなく、現実の姿として受け入れているが、私自身は、現在大変な思いをしている人に思いを馳せて、浮かれた行動はせずに粛々と日々を過ごしたいと考えている。阪神淡路大震災と東日本大震災という2度の大災害は、当時、丁度近くに住んでいた私にとって非常に身近に感じるものだったが、その記憶が自然と薄れてきていたという反省もある。今、自分の力ではどうしようもない難題に直面している方々の気持ちに寄り添って、自分の行動に責任をもって律していきたい。

――平和で物質的にも豊かな生活を送っている日本人に足りない「心」とは…。

 塩沼 日本では戦争を知らない世代が多くなってきており、危機に対する意識が低くなってきていることは否めない。生活のことを真剣に考えなくても食べるものには困らず、何となく生きている人も多いのではないか。食と精神面は密接につながっている。毎日大量の食品ロスを出すほどの飽食生活を送っている日本人は、精神面でも緩んできているのかもしれない。最近では「人への気遣いは無用」とか、「人に迷惑をかけないという教えは間違っている」というような書物も多く見かけるようになり、それほど日本人の考え方は変化してきている。人を思い遣り、気遣うという事がなくなってきているのは悲しいことだ。東京よりも煩雑なイメージのあるニューヨークでさえ、例えばドアを次の人のために開けて待っていてくれたり、人とぶつかった時にきちんと謝るようなマナーを持っている。それは、親が子供に対して、そういった礼儀や相手を尊重する心を幼少期にしっかり教えているからだろう。

――「四無行」では、飲まず食わずで9日間過ごすということだが、それで死に至るようなことはないのか…。

 塩沼 「四無行」を行う前に、しっかりと「千日回峰行」を修行していた為、耐えられたのだと思う。その段階を踏まずにいきなり「四無行」を行えば、私でさえ命を落とすだろう。私の師匠の教えは「歴史と伝統のある修行は理にかなったものだ。それで死ぬことはない」というものだった。その言葉だけを道しるべに、理にかなった修行で自分のぎりぎりのところを体感しながら、今もこうして生きている。色々な情報がネット上で飛び交う現代では、水を飲まなければ血液がドロドロになって血管を詰まらせるといった知識がすぐに得られる。そんなことがわかっていれば「四無行」など怖くてできなくて当然だ。何のためにそれをやるのかと問われれば、生死の狭間を体験し、死生観を変えるためだ。

――「死生観が変わる」とは、具体的に…。

 塩沼 私は20代の頃、命は永遠に続くものという感覚で「死」を意識することはなかった。しかし、厳しい修行で自身を極限状態まで追い込み、一瞬、魂と肉体が別物だという感覚を得た時に、ようやく理解することが出来た。本で読むのではなく、話で聞くのではなく、テレビで見るものでもなく、自分の魂が抜けていく感覚を実際に体験して、「死ぬという事はこういう事なのだな」と理解する。「生と死の間を人として存在する」、それが人間であり、その道のりを如何に体験し、どのように豊かなものにしていくかが判ってくる。それが、死生観が変わるという事なのではないか。(了)

※大峯千日回峰行…金峯山寺から大峰山寺まで往復48㎞の山道を1000日間歩き続ける行
※四無行    …9日間、食わず、飲まず、寝ず、横にならずの状態を貫く行
※八千枚大護摩供…100日間五穀と塩を断ち、その後24時間、食わず、飲まず、寝ず、横にならず、8千枚の護摩を焚き続ける行

――出産保険を作られたと…。

 中林 太陽生命保険と提携して作った出産保険は、保険期間が2年間で、妊娠うつや産後うつ、妊娠や出産に伴う疾患など、妊娠中や出産間もない女性が直面するリスクをカバーするものだ。出産の時は政府から一時金が支給されるが、妊娠や出産に伴う疾患への保障はなく、産後に必要なお金も国からは支給されない。そこで、太陽生命の副島直樹社長に、妊娠してから掛け金を支払い、リスクに備えながら、産後ケアを受けるときに保険会社からお金が出るようにしたらどうかと提案したら、素晴らしい商品を作ってくれた。女性が安心して妊娠・出産を行うためには、母親になる女性自身が経済的に安定している必要がある。妊娠・出産に備えるために保険を掛けることが一般的になれば、女性は出産しやすくなるだろう。

――産後ケアは重要だ…。

 中林 産後ケアには、出産後数日から1週間程度宿泊する「短期入所型」、退院したあと朝から夕方まで子育てのサポートをする「デイサービス型(デイケア)」、助産師さんが家庭を訪問する「アウトリーチ型」の3つがある。2年前、野田聖子こども政策担当大臣らが中心となって母子保健法を改正し、産後ケアが市町村の努力義務となった。私ども母子愛育会総合母子保健センターの愛育病院・愛育クリニックでは来年の4月までに、これら3つの形の産後ケア施設をそれぞれ整備していく。まず、母親と子どもが宿泊できる「短期入所型」は15部屋程度を予定しているが、1部屋当たりの面積を従来の施設に比べ広く取ってある。母親と赤ちゃんだけでなく、父親や他の兄弟など、家族全体が宿泊できるようする。産後1週間は病院に宿泊し、その後の1週間は産後ケア施設に宿泊すれば、母親になった女性の負担はかなり軽減されると思う。「デイサービス型」では、母親同士が悩みを交換したり、助産師さんと話をしたり、離乳食の作り方を習ったりと、昔は実家や地域全体で行ってきたことを日帰りで提供していく。総合母子保健センターが所在する港区は、幸いにして産後1週間は1日3万円の補助金が出る。区からの補助金で産後ケア施設に宿泊することができるので、本人の負担は1割ほどで済むが、出産保険が一般的になればより利用しやすくなるだろう。

――産後ケアが重視されるようになった背景は…。

 中林 昔は出産時に実家のお母さんが面倒を見てくれていたが、高齢出産が増えるなか、40歳の女性の母親は高齢になってしまい、赤ちゃんのケアまでできないことが多い。さらに、核家族化が進んでおり、そもそも同居している世帯が珍しくなっている。父親は仕事で子育てどころではないため、母親はワンオペ子育てになってしまう。さらに、最近の女性はキャリアを築き上げる方も多いため、「私の部下は言うことを聞くのに、なぜ赤ちゃんは言うことを聞かないの」とストレスを溜め、産後うつになってしまうケースも多い。さらに、若いうちであれば家庭内に子どもという新生物が入ってきても受け入れられるが、結婚生活が長くなり、夫婦2人でいることに慣れてしまうと、新生物がきっかけで家庭が崩れてしまうこともある。社会全体で子育てをしようという風潮ではなくなったうえ、家庭内にも変化が起きているとなれば、出産後の女性に対する負担がかなり増していることになる。また、母親になる女性も高齢になっていくに連れ体力的な問題が生じ、自分の理想とする子育てができないなど、昔なら考えられなかった悩みも出てきてしまう。こうしたことからできるだけ「ワンオペ育児」をなくすことが急務であり、産後ケアの重要性はより高まっていくだろう。

――産後ケアについて全国的な取り組みはまだ見られない…。

 中林 産婦人科の個人病院で、少子化のため空いたベッドを活用して「短期入所型」の取り組みをしているところはあるが、本格的に「デイサービス型」や「アウトリーチ型」に力を入れている病院はまだないと思う。これらをシステム化して全国で提供できるようにすることが重要だ。厚生労働省も今後3年ほどかけて全国に広げることを考えている。来春開設されるこども家庭庁のキックオフの仕事では、産後ケアの拡充が目玉事業になることを期待している。

――コロナ禍も妊産婦に負担が掛かる…。

 中林 コロナ禍で妊婦さん達の悩みが非常に多いことが厚生労働省の調査で明らかになった。このところ男性の自殺は徐々に減ってきているが、逆に女性の自殺は増えている。妊娠・出産の前後はホルモンバランスが急激に変わるので、マタニティブルーや産後うつになりやすい。私たちのデータでは、出産後の女性のうち、10~15%程度は産後うつを抱えている。産後うつでは、子どもを可愛く思うことが出来ない「愛着形成不全」になることが多く、一部は虐待に発展することもある。ゼロ歳児の虐待死のうち、半分以上が生後数日以内に起きた実母によるものだ。産後間もなく母親の精神状態が通常ではなくなってしまったことに起因し、助産師さんや周囲のサポートがあるだけで随分状況は変わるはずだ。産後に潜むリスクとして私が危ぐしているのは、①未熟児や低体重児、または双子などの多胎児、②相談する人が周囲にいないこと、③経済的な不安や生活苦、④愛着形成不全、⑤高齢出産などで育児の負担が大きいこと――などがある。

――アプリを通じて母親のケアを行うといった試みは…。

 中林 マタニティブルーや産後うつでは、「何も楽しくない」、「自分を責めたくなる」、「不安感」、「なんとなく悲しい」といった気分がずっと続く。さらに、自分を不幸に感じ、自分を傷つけたくなる状態に達すると、医療機関は急いで対応しなければならない。今後計画しているのは、スマートフォンのアプリを使った電子母子手帳を開発して、母親の状態をモニタリングすると同時に、双方向で母親のケアを行う取り組みだ。愛育病院で蓄積した子育ての情報を盛り込むほか、母親に今の自分の気分を書いて送ってもらったり、子育てについての相談を行ったりする機能である。「なんとなく悲しい」気分だけで病院に行くのはハードルが高くても、ネット相談であれば気軽に利用できる。母親の孤独を防ぎ、早期に自治体や医療機関が対応できるようにする。さらに、愛育病院だけでなく、行政と連携して新しい電子母子手帳を作りたいと思っている。行政でも電子母子手帳を開発しているところはあるが、十分には広がっておらず、民間医療機関と提携することが必要だ。個々の自治体が行っている電子母子手帳は3割~4割程度の普及にとどまっている。核家族化や妊娠時の高齢化、地域社会の変化など、妊娠・出産をめぐる環境が大きく変化しているなか、愛育病院がモデルになって、充実した産後ケアや電子母子手帳を全国に広げていきたい。(了)

――今回で4期目の市長当選となった…。

 中山 前回2018年の3期目就任を目指した選挙の際は、私の対立候補として反中山の自民党現職県議と革新系現職ベテラン市議の2候補が立ち、彼らを破り私が当選したものの、対立候補2人の獲得票を単純に足すと私が負けているという状況だった。そのため、今回の選挙に向け相手側は、2つの陣営が手を結び対立候補を1本化する図式が生まれた。これは、2014年11月の沖縄県知事選で、連敗していた革新陣営が保守系那覇市長の翁長さんを候補者とし、共産党など革新派がそれを後押しする形で翁長知事を誕生させた「オール沖縄」の構図と同じだ。実際に石垣市長選よりも先に行われた宮古島市長選では、この図式がうまく成立し「オール沖縄」系が勝利した。ただ、石垣市に関しては中途で候補の保守系前県議が病気で亡くなってしまい、新たな候補として、保守系市議が擁立されたが、彼の保守思想が強いために一部の革新派が離反。最終的に候補者と革新派が協定を結ぶことになったものの、この協定は革新派の支持を得るため革新寄りの主張となり、対立候補の保守色が薄れ、元保守で革新系といった形の候補となった。結果として、今回の市長選は、これまでで一番厳しい戦いとなったが2454票差で勝利し、前回の選挙での相手側の得票を合計した票数よりも上回ることができ、4期目再選させていただいた。

――3期目の実績が評価された…。

 中山 今回の選挙は2月に実施され、多くの高校3年生が18歳となり選挙権を持っている状況だったため、高校生ボランティアを募るなど工夫をし、選挙に行ってもらおうと考えた。生まれて初めて選挙をする高校生に対して恥じない選挙戦にしようと、地方の選挙でよくある誹謗中傷ネタをばらまくような相手を攻撃することを行わないようにした。また、実績についてはコロナ前まで観光客を増やし地元経済を伸ばしてきたことに加え、3期目のコロナ対策を評価してもらったと考えている。観光が中心で回っている石垣市においてコロナの影響は大きかったが、ワクチン接種を沖縄県全体と比べて2倍以上のペースで進めたほか、PCR検査を市独自に整備するなど、しっかりとコロナ対策を実施してきた。今回の選挙の最大の公約として、3回目のワクチン接種を迅速に終わらせて観光客を呼び戻し、5月のゴールデンウイークにはコロナ前まで経済を回復させると宣言した。こうしたコロナ対策の実績が経済界、観光業界の方をはじめ、市民にご理解いただき、4期目もお任せいただいたのだと思う。

――コロナ禍の収束の兆しが見えないなか、観光客の足は戻ってきている…。

 中山 石垣市への客足は、3月に入りコロナ前の6割ほどまで回復した。石垣市民の70%が3回目の接種まで済んでいるため、受け入れる側としてはコロナの重症化の心配をする必要がなくなってきている。さらに、石垣市では陽性者が確認されたときに、接触者すべてを無料で検査する体制を整えた。積極検査を行っているので新たな陽性者が出てはいるが、小規模にとどまっており、大規模なクラスターに発展することはない。感染が確認された人のほとんどが沖縄本島や本州へ旅行に行った方で、市中感染で拡大しているものではなく、それにより病床がひっ迫していることもない。このため、ぜひ石垣島へ観光に来て欲しいと思っている。

――石垣市の人口も増えている…。

 中山 地方創生に力を入れていて、全国の離島でも珍しく人口が増えている自治体となった。石垣島は生活環境が整っており、観光をはじめとした経済も発展しつつある。コロナの影響はあるものの、元々は出生率も高く、再び観光産業が伸びれば人口の社会増も見込めるだろう。また、子育てをしやすい環境を整えるなかで去年4月に待機児童をゼロにできた。これは沖縄県内の市では初の実績だ。

――世界的に安全保障への関心が高まっている…。

 中山 中国機による台湾領空侵犯などもあり、自衛隊の配備について市民の中では容認する意見が多数を占めるようになった。われわれは、4期目の選挙運動をしながら現職市長として尖閣諸島を訪れた。野党からは、外交への影響を心配した反対の声もあったが、現職の今しかできないと思って決行した。妨害が入らないように極秘に準備を行い、東海大学の海洋調査船を使った。これは外洋を自由に航行できる船で、法的に問題はなく、海上保安庁とも密に連携をとり、非上陸を条件に行った。石原都知事時代に東京都が行った10年前の調査を引き継ぐ形で、漁場としての可能性や海洋汚染の程度などを調査し、とても価値ある調査となった。選挙戦で対立候補からは、政治の私物化だと批判され、「中国の領海侵入が月に1回ほどと落ち着いているのに中国を刺激するな」と抗議された。ただ、中国の領海侵入などは年に1回であっても許せるものではなく、そうした批判を行うこと自体が中国を利することになる。このため、選挙で信任を得たこともあり、次回は夏に同様の調査を実施すると宣言をしている。

――ロシアによるウクライナ侵攻に呼応し、新たな中国の動きはあるのか…。

 中山 尖閣に関しては、新たな動きは見られていない。ただ、ロシアのウクライナ侵攻に連動して台湾方面では動きが出てきたようだ。ロシアの要求通りにウクライナ情勢が解決するのを国際社会が認めてしまうと、次は中国が台湾に侵攻していくだろう。そして、台湾侵攻の際には、台湾を挟み撃ちにするため、尖閣諸島が利用されると考えられる。台湾は国土を大きな山が縦断しているので、尖閣諸島から山の東側を、大陸本土から西側を攻撃すると見ている。さらに、侵攻が実際に行われれば、台湾にいる2300万人をこえる人口の多くが漁船などを利用してでも避難民として日本の沖縄県、石垣市へ流れてくることは間違いない。人口5万人の島でそれだけの避難民をどう受け入れられるのか。また、パスポートがない方が入国した場合、中国の工作員が紛れ込んでいても区別がつけられない。石垣市では4年前、台風による光ファイバーケーブル断線により、大規模な通信障害が起きた。石垣島の海底ケーブルは沖縄本島から宮古島などを経由して周りの島々をループ状につないでおり、1本が断線しても別の1本で、最低限の通信はできるようになっているはずだった。ただ、そのときは通信できるはずのケーブルが与那国島の土木工事の事故で切られており、2本のケーブルが切れ、固定電話を含め一切の通信が取れなくなった。これは後からわかったことで、当時は状況がわからなかったので、台風を利用した工作員によるテロの可能性も考えた。結果的には不慮の事故だったが、これが台湾進攻の際に避難民に紛れ込んだ工作員により意図的に行われたら、島外との通信は一切取れなくなり、国家安全保障上の大きな脅威になる。

――国は何をすべきなのか…。

 中山 国に対して、尖閣諸島の実効支配を示すことができる施設を作って欲しいと伝えている。例えば灯台や無線の中継局などで、自民党の勉強会などで話すと多くの国会議員の皆さんが賛同されている。石垣市では独自に、石垣市尖閣諸島情報発信センターという資料館を作った。石垣港離島ターミナルにあり、無料で開放しているので、離島へ訪れる際に立ち寄ってくださる方も多い。ただ、これも国が動かないために石垣市が作ったが、本来ならもっと大きな資料館を国の予算で作るべきだ。とにかく、ロシアのウクライナ侵攻で多くの国民の皆さまが理解されたように、日本周辺でも安全保障や政治リスクは確実に高まっている。そうした危機意識を持って政府は迅速に対応してもらいたい。(了)

――今の横浜をどう見るか…。

 北村 今の横浜も素晴らしい街だと思っているが、それを放っておくだけでは横浜が良くなっていくとは限らず、何もしなければ成長が止まってしまう。横浜市民はIR誘致というビッグチャンスを得て、5年間いろいろな形でIRを推し進めてきたにもかかわらず、IR推進派の市長候補が敗れたことで残念な結果になってしまった。これはIR誘致で我々推進派が浮かれてしまったことが原因だと反省している。私は、IRがダメなら他のことをやろうと、横浜港開港200周年に向け、151周年から毎年開催している「Y151~Y200」という市内最大級の「ハマフェス」により注力している。同様に15団体で立ち上げた関内・関外地区活性化協議会は今や参加団体は55団体まで拡大した。

――IRをどう評価するか…。

 北村 IRは、今まで横浜で積み重ねてきたイベントのほんの一部分であるにもかかわらず、仕掛けてきたすべての街づくりのなかでIRだけが突出してしまったことが失敗の原因だ。しかし、横浜は東京と違う発展をしなくてはならないし、横浜だけで発展するわけではなく、川崎や東京、湘南、小田原、箱根など近隣都市と一緒になって発展していくべきだ。民間事業者に同じようなことを言ったら、なぜ横浜以外のことを考えているのだと言われるが、横浜だけで客を呼べるはずがない。横浜活性化の志を持つ私の仲間、15~20歳下の若い世代が、10年後、20年後の横浜の未来を考え、今着々と進めている。横浜は伸びしろのある街だから、東京や他の大都市と同じことをやってはいけないし、グローバルな特色をどんどん出していくべきだ。地方から来た学生の声を聞くと、横浜市のIRには賛成する声が多い。それだけ横浜を真剣に見ているということだ。心強いと思う。

――現在の市政については…。

 北村 近年の12年間は素晴らしかった。積極的に企業の誘致が行われ、多くのイベントも開催されてきた。長い目で見て次の世代を考えたときに、多少苦しくても、市政として進めなければならないことがある。子育て世代をいかに呼んで、子育てをしやすい街に変えていくべきだし、横浜市単体ではなく、神奈川県全体で考える必要がある。今以上にいろいろな意見をこれから取り込み、横浜の経済人が横浜市の活性化のために動くようなスローガンが求められる。

――街づくりで重要なことは…。

 北村 どんな事業でも時代とともに進歩する必要がある。街やブランドは磨いていかなければ光らず、時代に合わせて変化していかなければならない。例えば、横浜市に約2700の公園があるが、子育て世代に目を当てて、きれいでバリアフリーなトイレを整備すべきだ。ハンディギャップを持つ人達にも配慮したまちづくりが求められる。それやこれや街づくりの積み重ねも1つの地域貢献につながっていくし、それがまた活性化につながっていく。

――一方、社業の小売業はオンライン展開が主流になりつつある…。

 北村 現在、キタムラは全国に35店舗。これまでは自社の店舗とスタッフで丁寧に売っていくマーチャンダイジング(MD)を中心に展開してきたが、例えば高速道路のサービスエリアでの店舗展開など、時代によってMDは急激に変化し、店舗設計や売り方も変わってきている。また、時代はオンライン展開がベースとなったMDに変わった。このため、現在はアナログとデジタルの両方を攻める必要があり、私はよく「アナログとデジタルの間のカオスを嗅げ」と言っている。いたずらにオンライン展開させただけで商品が売れることはなく、実店舗などのアナログな手法によりブランドを浸透させ、そのブランド力をベースにオンラインを展開していくことが求められている。従来の日本の商人は客に気に入られようと常に研究を重ねてきたが、そういったモノづくりだけではなく、売り方も常に進化していかなければならない。

――コロナ禍でよりオンライン展開が求められるようになった…。

 北村 コロナ禍で、緊急事態宣言により店舗の営業停止をせざるを得ない時期もあり、厳しい状況もあった。そんな状況下で、先ほど述べたようにオンライン事業を徹底して強化したことが奏功した。またコロナ禍により、オンライン上で下見をしてから来店されるお客様の増加など、買い物の仕方にも変化が見られ、SNSの強化も合わせて行っている。こういったなかで、今まで培ってきたノウハウに、若い世代の新しい発想力をプラスして、キタムラも常に進化し続けなければならないと考えている。また、キタムラではエコバッグの展開拡大やエコ素材を使用した商品づくりなどを通して、SDGsに取り組んでいる。なかでも、横浜市がごみ削減の為に行っている「ヨコハマ3R夢(スリム)」プランに賛同し、オリジナルエコバッグを製作している。今後もキタムラらしいモノづくりを通して、SDGsへの取り組みにも注力していく。

――キタムラの将来像は…。

 北村 将来像は、キタムラの名前さえ残っていれば何をやっても良いと考えている。数十年前、スターウォーズの1作目を初めて見たとき、「遠い昔、遥か彼方の銀河系」の登場人物たちはバッグを持っておらず、いずれバッグ屋は廃れるだろうと気が付いた。しかし、服と靴はまだ利用されていると思い、バッグ以外のアパレルも手掛け始めた。新しいアイディアを取り入れ、商売の軸を変えていかないと商売は劣化していく。だから若手には、新しいチャレンジをし、いろいろなことに携わることが大切だと常に伝えている。片方だけに重心を置きすぎると、人間は崩れてしまう。時代の流れに素早く対応できる柔軟さが必要だ。同様に横浜市の活性化についても、時代の先を読み、かつ横浜市のことだけを考えるのではなく、大きな広い視野で前進させていくことが望まれる。(了)

――日本の農業が危機的状況にあると…。

 鈴木 日本の農業は、あと10年もすれば消滅しかねない。農家関係者が高齢化し個人経営が難しくなっている中で、集落の仲間と協力し合う「集落営農」も広まっているが、そのような組織の優良事例でさえ平均年齢が70歳で後継者もほぼいない状況にある。また、外注している機械オペレーターも年間200万円程度の低い報酬であることから、仕事を引き受けてくれる人さえいなくなっている。そこに輪をかけて、ここ数年のコロナ禍による外食需要などの低下で米の在庫量は増加し、米取引価格は1俵(60kg)7000円まで暴落している。20年前の米価2万円から半分以下のレベルにまで下落しているにもかかわらず、政策として農家に差額補填を行うような動きもない。このコロナ禍において、他国では政府が農家から食料を調達し、困窮世帯に届けるような人道支援を行っているのに、日本では米の在庫増に対して生産量を減らすように指示しているだけだ。これでは生産者も困窮者も救えない。その背景には、財務省が現行の法律上で買い取り可能な備蓄米の量を、このコロナ禍にもかかわらず、一向に変えようとしないことにある。コロナ禍で職を失い、日々の食料に困っている国民がいるのであれば、国としては法律の解釈を柔軟にするなり新たな法律を作るなりして、国民を助けるために財政政策を動かすべきなのに、この有事においても何も変えようとしないとは、本当にあきれるばかりだ。昨年10月には、岸田総理大臣が米価暴落対策として「政府が米15万トンの販売支援を行うことで需給を安定化せる」と発言したが、それは「米15万トンを農協が2年間長期保管すれば、その保管料は全額国が負担し、2年後以降の古古米はこども食堂など生活弱者に提供する」という内容だ。それが現行法解釈で出る最善策という事であり、何の解決にもなっていない酷い話であきれるばかりだ。

――備蓄米を国内の支援物資として活用できない理由は、他にもあると…。

 鈴木 もう一つの理由は、米国からの圧力だ。備蓄米を国内の援助物資にすれば、それは海外への支援物資としても利用できるのではないかという声が出てくる。しかし、日本の米や乳製品の海外援助が米国にとって自国の市場を奪う脅威となれば、米国は容赦なくその政策を進める日本の担当者を攻撃するだろう。過去には故中川昭一元農水大臣が乳製品を援助として海外に出したことがあった。当時、米国からどれだけの圧力がかかっていたかは計り知れないが、実際に政治家の間では、そのようなことで自身に危険が及ぶことは避けたいと考え、国内の援助物資に関して積極的な働きかけをしない。一方で、輸出を拡大すれば日本の農業はうまくいくと考え、2030年までの農作物の輸出目標額を5兆円と設定し、国民や農家にバラ色の未来を見せようとしている、しかし実際の2021年の食品輸出額1兆円の中身は、その約90%が輸入した農産物を加工して再輸出したものであり、最初から国内で生産された農産物輸出額は約10%しかない。政府は農作物の輸出拡大や農業のデジタル化等というアドバルーンで虚構の未来を描くのではなく、食料安全保障の根幹となる農作物をもっと農家に作ってもらい、国内の困窮者や有事の食糧危機に備えるという発想が必要ではないか。残念ながら今の政府には「足りない食料はお金を出せば買える」という程度の意識しかない。

――自民党は地方にも票田があり、農家からの意見も反映されやすいと思うが…。

 鈴木 現在の政策決定においては官邸の力が強く、省庁間では経済産業省や財務省の勢力に比べて農林水産省の勢力は弱い。さらに、官邸は米国政府からの要請を強く受けて動く傾向がある。自民党の先生方の中には本音では「これではいけない」と思っていらっしゃる方も多いが、政府官邸で役職についてしまうとなかなか本音が言えなくなる。小選挙区で公認をもらうためには官邸の方針に逆らえないという実情があるからだ。とはいえ、今の高齢化した農家と、気候によって収入が変動する不安定な農家の後継者不足を根本的に変えていくためは、欧米の政府が行っているように、農家が一定の所得水準を下回った場合に、その赤字を補填する仕組みを充実させなければならない。しかし実際には、日本は輸出産業として自動車の利益を増やしたかったため、農業を開放して海外の農産物を受け入れる代わりに海外から日本の自動車を買ってもらうという政策をとった。そして、日本の農業が過保護な産業であると国民を洗脳し、農業の規制緩和を進めて貿易を自由化させた。ただ、他国の農業が競争力を駆使して頑張っているというのは間違った認識だ。米国には本来1俵1万2000円の生産コストがかかるが、1俵4000円程度という安価で農家に販売してもらい、不足分は全て政府が補償するという仕組みがあるので、農家は安心して生産に励むことができる。輸出向けの米国の補助金は、穀物だけで1兆円も支出している。それでも米国にとって食料は戦略物資であるという考えのもと、食料を輸出することで武器よりも安く他国をコントロールしやすくしている。それが政治だ。

――欧州の農業政策については…。

 鈴木 例えばフランスで小麦経営が大赤字だった場合には補助金が出る。その補助金で肥料や農薬の支払いを行い、差額分は所得になるため、所得に占める補助金の割合が235%になることもある。一方で日本では、所得に占める補助金の割合は平均でわずか30%だ。欧州が100%超の補填でそれが産業といえるのかと考える人もいるかもしれないが、欧米では食こそが国民の命、国土、環境、コミュニティ、国境を守る安全保障の要であるという意識が高い。日本は安全保障という名目でF35の購入だけでも6.6兆円を費やしているが、食料こそが防衛の基本だ。武器があっても食料がなければ戦う事はできない。しかし、日本の国会で経済安保についての議論がされる中で食料安全保障という言葉は出てこない。食料自給率も問題視されず、貿易自由化を進めれば調達先が増え、それで良いという程度の認識だ。もっと大局観をもって、安全保障として軍事力を装備するのと同じように、国内の食料体制をしっかり装備すべきではないか。そこにいくらかかっても、兵糧攻めで皆が命を失う事に比べれば安いものだ。米国からの圧力で踏み出せない面があるのかもしれないが、食料自給率が37%という史上最低の数字になり、兵糧攻めに遭えば6割以上の国民が死ぬことにもなりかねないといった今の状況で、国会で食料安保の議論がなされないのは世も末だ。米の代わりに小麦やトウモロコシ、豆、そば粉などの生産に補助金を出すという政策も4月には打ち切りとなることが発表された。振り回された農家は「もはや何も作れない」と途方に暮れ、農業自体を辞める選択をする農家も出てきている。農村現場が青息吐息となり、そこに米価が追い打ちをかければ、来年にも潰れかねない農家が続出するだろう。財務省は歳出削減ばかりを考えるのではなく、また、法律も杓子定規な解釈ばかりするのではなく、大局的に物事を考え、どのように物事を動かせば国のためになるかという事をしっかり考えてほしい。そうしなければ有事の時に国民を苦しめることになってしまう。

――日本の農作物の価格が低い理由のひとつには、日本の流通構造の問題もある…。

 鈴木 日本では小売業者の力が強い。仲卸業者は小売業者が設定した価格に合わせて買い取るため、農家は希望価格を主張することもできない。普通の製品であれば、生産コストに流通マージンを足して価格を設定するが、農業では卸売市場が形骸化しており、小売価格から逆算して農家を買い叩くという構造になっている。この構造自体、完全に独占禁止法違反だが、日本では独禁法は証拠がなければ罪に問われず、経済活動として買い叩かれているというだけでは取り締まることが出来ない。そればかりか、今、規制改革推進会議で議論されているのは、農家が農協に集結して共同販売を行う事で両者が不当な利益を得ているとし、世界的には独禁法の対象外となっている共同販売を取り締まろうとしている。本来は買い手側の小売業者が独禁法に適用されるべきなのに、買い叩かれている農家側が独禁法に抵触するかのように扱われ、さらに買い叩かれるような仕組みにしようとしている。農家としては、既存の大手流通で買い叩かれてしまうのであれば、ネット販売などで余計な流通経路を通さない販売方法を模索するのも一つの方法だろう。自分たちの食料を守りたいのであれば、直接ルートを広げて、消費者自身も農家を支えるような仕組みを作り上げればよい。生産者と消費者が支え合う事で命を守っていく、それが今後の日本の農業が目指すべき姿ではないか。この点、今の新しい形態として「自給家族」という考え方がある。農家と契約を結び、農作業を手伝う代わりに優先的に供給を受けるというものだ。企業の中にもそういったグループを作って農業支援を行い、栽培された食料を社員食堂で消費しているところもある。民間レベルでこのような動きを進めるとともに、政府には抜本的な安全保障対策としての農業政策を実施してもらいたい。

――農機具が高すぎるという問題点については…。

 鈴木 農機具は昔から高く、今も変わってはいない。しかも、そこに政府からの半額補助金が出ており、それが、農機具がなかなか安くならない理由にもなっている。多くの利益を得ているのは関連業界で、最終的に農家には借金が残るという構造だ。補助金を付けるのであれば、関連業界の利益も必要だが、もっと農家が直接助かるような工夫をすべきだ。農家がなくなってしまえば農機具ビジネスも食品流通ビジネスもなくなってしまう。日本のリーダー達には「今だけ、金だけ、自分だけ」というような、目先の事や自分だけの利益を求めるのではなく、長期的かつ大局的な視点を持った行動をしてもらいたい。日本の食料を担ってくれる人々を蔑ろにし、その人たちがこれ以上苦しくなれば、全てのビジネスも、日本の食料もなくなるということを、今こそ考えなければならない。(了)

――世界が目まぐるしく変動している…。

 中尾 長く俯瞰すれば、1978年の中国における改革開放の開始、1980年代の日本の直接投資にも支えられた東アジアにおけるサプライチェーンの発展、1991年のソ連崩壊と東側諸国の市場経済への移行、そして、2001年には中国がWTOに加盟するなど、グローバル化、市場経済化という波が世界を覆ってきた。さらに、デジタルテクノロジーを始めとする目覚ましい技術革新のもと、新興国の発展も加速度を増した。しかし、一方で、近年は各国における所得格差の拡大、中国と西側諸国の摩擦、経済安全保障の考え方、人権や地球環境への配慮などから、国境があたかも存在しないとするようなグローバル化に対する修正の動きは出てきていた。コロナパンデミックとロシアのウクライナ侵攻問題が加わったことで、世界が逆流し始めたように感じている。それは、自由主義や市場経済の下で世界全体が良くなっていくという見方に対して、確信が持てなくなってきたということだ。ドイツをはじめとする欧州各国がエネルギーをロシアに依存するなど、世界的な経済の結びつきは以前より強くなっているが、地政学的には、最近の世界の各地域での動きは、冷戦以前の帝国主義の時代に戻っているように思えるぐらいだ。

――国境がなくなっていくグローバル社会は幻想なのか…。

 中尾 私は基本的に国境がない世界は成り立たないと考えている。社会保障、医療、教育や研究など国が果たす役割が増えていく中で、負担と便益は国単位で行われる。民主主義の立場からも、国民、すなわち選挙民と納税者の意向は大事だ。通貨や金融政策が一つになったユーロでさえ、社会保障や税金はそれぞれの国で異なっている。どんなに投資や貿易などで世界経済が統合される方向に動いたとしても、「国境のない世界」にはならない。だからこそ国民国家、主権国家の枠組みを基礎としつつ、各国がお互いの文化や歴史を尊重してナショナリズムを抑制し、競争しながらも紛争を避け、貿易や投資の結びつきを大事にし、気候変動や各種規制など他国に波及する国際的な問題について協力していく必要がある。

――ロシアのウクライナ侵攻がきっかけとなり、デカップリングが進んでいくのか…。

 中尾 今や世界経済と結びついていない国はない。ロシアにしても石油や天然ガスの輸出で国の経済が成り立っている。中国もこれまでの発展の糧となってきたのは貿易と投資を通じた世界との結びつきだ。しかし、世界第2位の経済規模を持ち、世界最大の貿易国である中国の今後の動きにもよるが、デカップリングは、当面進んでいくと考えざるをえない。日本は貿易、なかでもエネルギーの依存度が高いため大きな影響を受けるだろう。ただ、今回のウクライナ危機で一番影響を受けるのは欧州だ。ドイツを代表とする欧州は脱炭素化の流れの中で石炭から再生可能エネルギーに加え天然ガスへのシフトを進めていたが、ロシアがウクライナに侵攻したことで、ノルドストリーム2の稼働は延期となった。しかし、ノルドストリーム1は今なお稼働しており、その支払いの為にロシア最大の銀行ズベルバンクはスイフトの制裁の対象外とされている。ロシアの行動は許されることではなく、日本もロシアに利するようなことは行わないという基本が大事だ。同時に、戦争の今後の展開にもよるが、よく状況を分析し、一定の現実主義、したたかさを持って対応していくことが必要だろう。中国と米国の間をみても、対立が深まる部分がある一方、お互いの貿易額は過去最高となっているし、米国の投資銀行は今でも対外開放が進む中国の金融セクターへの投資を増やしている。

――日本で円安が進んでいることについては…。

 中尾 日本製品を輸出する際に高く売れた方がよいし、外国のものを買うときに購買力が強いほうがよい。極端な円高も困るが、通貨がある程度高い水準にあることは決して悪いことではない。米国もドル安政策を志向したことはない。為替が安ければ海外の企業に日本企業は簡単に買収されてしまう。現在のようにエネルギー価格や資材価格が上昇している時に円安になれば輸入物価はさらに高くなり、いずれCPIに跳ね返ってくる。日銀が目指しているデフレ脱却モデルは、自国の生産の価格が高くなっていく、つまりGDPデフレーターが上がってCPIも上がっていくことを期待している。今は輸入物価が上がる過程でそれが転嫁できずに実質賃金や利潤を抑えるという流れになっており、その結果GDPデフレーターはマイナスの方向に動く。CPIは上がるが、実質的な経済活動には下押しの圧力が加わるので、金融政策のかじ取りは難しい。

――日本の財政の持続可能性は…。

 中尾 日本は財政の不均衡が非常に大きく、GDPに対する国債残高の比率は増え続けている。コロナやウクライナ危機もさらに不均衡を拡大させるだろう。いつの頃からか民間需要を補うという理由で借金が当たり前のようになり、赤字国債は増え続けてきた。将来への投資ならともかく、少子高齢化の中で社会保障などの経常的な支出を赤字国債で賄う不正常な状態が続いている。国民は国債を資産として考えているが、その裏には膨大な国の借金がある。リカルド効果と呼ばれるように、国民の将来への不安を生んで、かえって民間の消費や投資を抑制している可能性がある。また、日本という国への信認に関わってくる問題だ。信認が揺らげば国債が売られ、株が売られ、円も売られてしまう。デフレ下なので国債を日銀が買い支え続ければ問題がないという議論もあるが、円はそうはいかない。どんなに外貨準備高が大きくても限界があり、急速な円売り、ドル買いを止めることはできず、円が急落すれば、輸入物価の高騰を通じて結局インフレにならざるを得ない。これまで大丈夫だったから、今後も大丈夫ということではない。

――今、政府がやるべきことは…。

 中尾 政府が行うべきことは、民間のやる気を引き出す政策を考えることだ。経常的な支出に対応する税収をきちんと確保して財政への信認を高めるとともに、高齢者への社会保障費や医療費を可能なかぎり抑制し、将来への投資となる研究開発や教育に資金を回していくべきだ。日本では米国でトランプ氏が大統領に選ばれた時のような過激で、排外主義的なポピュリズムはあまり見られないが、財政面での放漫をもたらすポピュリズムは強い。「国がどうにかしてくれるだろう」というような国頼みの意識が強すぎる。しかし、それが結局民間の活力をそぎ、成長力を弱めてしまっている。米国にもドイツにも英国にも見られるような、財政保守主義に立つ勢力もほとんどいない。金融政策についても、危機時において流動性を供給することは、今では当然の事になっているが、それがあまり長く続くと金利の市場機能がなくなってしまう。財政規律が緩む一つの原因ともなりかねない。福澤諭吉は『学問のすすめ』の中で、人民が「国の食客」のようになることを戒め、国の発展は西欧の例を見ても民間すなわち「私立の人民」によるとして、「人民の独立の気力」を求めている。もちろん、明治初年とは違い、現代社会では国の役割は大きく、国が責任を果たさないわけにはいかないが、今一度諭吉先生の言葉をかみしめてみる必要があるのではないか。(了)

――2年前の政府のコロナ対応はとてつもなく初動が遅かった…。

 岡田 2019年の暮れに、新型コロナウイルスが武漢で患者発生が報告され、2020年2月に日本に感染者を乗せたダイヤモンド・プリンセス号が寄港した当時には、国の専門家にリスク評価の上で楽観視があった。それは、2002年に中国広東省で報告され、2003年3月初め世界中に1週間で飛び火したSARS(重症急性呼吸器症候群)や、2014~2015年に韓国で拡大したMERS(中東呼吸器症候群)が直近の新しいコロナウイルスの流行であったが、日本にはウイルスが侵入することなくニアミスで感染が広がらなかった。近隣諸国は感染や流行で大変ではあったが、日本国内の感染拡大はなかった。たまたま幸運であったことによるこの「成功経験」が、「今回も同様に大したことにはならないであろう」というリスク評価の甘さ、楽観視に繋がった。日本のコロナ禍の問題は政治問題とみられがちだが、新型コロナの感染拡大もそもそもが感染症の専門家らのこのリスク評価の躓きに端を発していると思う。政治家は感染症、ウイルス学にも素人であるので、最悪の事態までを想定したリスクを彼らにわかるようにきちんと伝えていたかが問題だ。私の経験上、政治家、特に所轄の大臣以上の方々は皆、その道の専門家に詳細な説明を受ける。今回の新型コロナ対応では、後に新型コロナウイルス感染症対策分科会長となった尾身茂氏や内閣官房参与となり総理に直接話ができる川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦氏らがその責務を担ったであろう。尾身氏や岡部氏はSARSとMERS、さらに2009年の病原性の低かった新型インフルエンザの対応をまさに経験している。このコロナがSARSやMERSと異なる性質のウイルスで、世界的大流行となり、日本でも拡大、緊急事態宣言を出す事態となり得ることを想定できたであろうか。

――尾身氏らの成功体験がコロナ楽観視につながったと…。

 岡田 2020年の1月、国の新型コロナの専門家委員会ができる以前にこの新型コロナウイルス感染症は「指定感染症」、「2類相当」と決められている。これはどんなエビデンスで誰がどういう経緯で決めたのか、未だ不明だ。結核と同じ2類に指定されるということは、感染者は全員が隔離措置となるが、その病床数は全国でも限りがある。つまり、新型コロナウイルスはそんなには広がらないと踏んだことになる。さらに感染症法という厚労省で対応するレベルの感染症に落とし込んでいる。私にはそれは政治家の意見で決めたとは到底思えない。そもそも、2012年に制定された「新型インフルエンザ等特別措置法」は、この新型コロナウイルスのような未知の感染症が発生した場合に備えるための法律だ。これに従い、本来であれば新型コロナは即座に「新感染症」とし、「新型インフルエンザ特別措置法」を運用すべきであった。そうすれば、危機管理として全省庁横断でこの事態に速やかに、かつ臨機応変に対応できたはずであった。この初期対応を見誤ったことによる時間のロスと、リスク評価の甘さが対策の遅れに繋がったのではないか。

――特措法を運用するまでに時間が掛かってしまった…。

 岡田 結局、政府は新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)を改正し、特措法を運用することになるのだが、この段階で2ヵ月の貴重な初期対応の時間が失われている。最初から「新感染症」とすれば、わざわざ法律を改正せず、既にある特措法のまま運用することができていた。また、特措法が運用できていれば、各所に事前に策定されている「行動計画」に従い、円滑に対応ができたはずだ。たとえば、クルーズ船の対応は紆余曲折があったが、港湾での新型ウイルスに対応する「行動計画」を運用できたはずだ。全員検査、全員下船という選択肢も速やかにとれたのだ。また、この同時期にPCR検査の絞り込みがあった。「37.5℃以上4日」を経過してからではないと検査が受けられないという検査しばりであった。SARS(急性重症呼吸器症候群)は発症約5日後からウイルスを出し、重症であることから感染者が見つかりやすい。おそらく、SARSのこの性質と同じであろうと考えて決めたのであろう。しかし、すでに2020年1月の段階で、この新型コロナウイルスは「無症状の感染が他者に感染させる」ことが海外で報告されていた。さらには潜伏期の発症前からも感染力があり、発症前後にウイルスの排出がピークとなることなどもわかってきた。この37.5℃以上4日を待つことで、感染拡大を招くことは自明であった。このようにサイレントキャリアがおり、その人たちが感染を広げるという性質がわかった段階で、速やかに検査の拡充に対策の舵切をすべきだったであろう。このように初期の判断ミスやリスク評価の甘さが続くことで、その後の感染の拡大に繋がったように思える。これは、政治家ではなく、感染症学、ウイルス学的な判断、専門家の問題だ。

――第5波、6波と続く前に専門家が対策を代えることはできなかったのか…。

 岡田 「これまでの対策はこうだったが、それを検証したところ、こう間違いがあった。だから、今後は新たにこういう政策に訂正します」という検証と説明、さらに反省に基づいた政策の転換が出来ていない。これを日本の組織でやろうとすると、誰かが責任を取ることになる。専門家は自身のキャリアに傷がつく。だから、今でも、コロナ検査を絞ってきたことで医療崩壊を免れたという立場をとっている専門家の方々もいる。しかし、当時、安倍総理はむしろ検査を増やそうとしていた。その後、感染状況が変わり検査拡充が必要となり、田村憲久厚労大臣らが検査を増やした。しかし、第5波、6波でも感染者が増大して検査が追い付かず、陽性率が非常に高い状況となった。これは、検査が足りていないということだ。第6波は検査せずに「見なし陽性」ということもあった。検査の遅れは診断の遅れとなり、治療開始の遅れになって、国民が速やかに治療を受けられないという重大な問題も発生した。政策決定、国家の意思決定のあり方に専門家がどうかかわるのか。最悪の事態までを想定して政治家に説明し、そこからは政治の判断だ。専門家が政治家の役割をしてはいけない。また、最悪の事態までを想定せずに、起こってほしくないことは無かったことにしたリスク評価の結果がこの事態に繋がっていると考える。

――日本のコロナ対応は逐次投入になってしまった…。

 岡田 感染症対応で重要なことは「強く、早く、短くする」だ。先手を打って強い対策を講じ、感染を拡大させないことで、健康被害はもちろん、経済損失を最小限にすることができる。しかし、政府のコロナ対応は、感染拡大や医療逼迫が確認された後にようやく新たな対応を取っていく、逐次投入の連続だった。新型コロナウイルスのような感染力の強いウイルスの場合、逐次投入では絶対にウイルスに負ける。なぜ専門家はその提言をもっと明確にしなかったのか。たとえば初期の感染拡大が起こらない段階で強い対策を打ったなら、大きな問題なく済んだかもしれない。しかし、起こっていないこと、前例のないことに強い対策を打つことは現実には難しい。日本社会、特に組織においては、やって失敗するよりもやらないで失敗する方が、批判されず、地位を守ることができる。だから政府に助言する専門家もそのリスクをとらない。感染が拡大し問題が顕在化してきたから、それに対応ということになる。今回のコロナ対応では、対策分科会や諮問委員会、厚労省のアドバイザリーボードといった公に国が起用した専門家の方々は、公の立場にいながら自分自身のリスクヘッジを優先したのではないか。公の立場に立った人は、個人、私のリスクを捨てて、公を取って欲しかった。そして、政治と専門家は分離しなくてはいけない。

――オミクロン株以降の対応については…。

 岡田 緊急事態宣言に至るような特措法運用時には、一般医療を圧迫しないために、医療者を効率的に配置した大規模集約診療施設を設置すべきで、これは特措法にも書かれてある。大規模医療施設には酸素配管を行い、普段は体育館などとして使えばよいが、感染拡大時は病院としての備えができるようにすべきだ。中等症患者に対しては、ここで重症化を阻止する。変異を繰り返すコロナにはワクチン効果だけでは限界があり、大規模診療施設やコロナ専門病院を作り、一般医療を圧迫しない体制も求められる。オミクロンが最後の変異ウイルスではない。検査を増やして、陰性の人で経済を回すという選択肢も経済を救う。こうして、次なるパンデミックに備え医療体制と経済を維持していくことが必要だ。(了)

岡田氏は昨年12月、尾身分科会会長、田村前厚労大臣などコロナ対応の中心人物とのやり取りなどを記録した著書『秘闘』(新潮社)を上梓されました。

――IPCCの試算は全くのデタラメだという…。

 丸山 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は大気中の温室効果ガスの増加が温暖化と異常気象を引き起こす原因であると断定しているが、それは誤りだ。IPCCは全球気候モデル(GCM)を使って気候変動を定量的に予測したと言っているが、これはでっちあげである。気候変動に関与する変数は極めて多く、全ての変数を定量化してモデルに組み込むことは不可能だ。そのためIPCCは、過去1300年間の樹木(中緯度だけ)の年輪幅(気温との相関関係)のデータだけを扱った。それらのデータは年代依存の規則性がないことから、彼らは、地球の平均気温は過去1300年間一定だったと見なした。一方、年輪幅以外の各種同位体や花粉学を駆使して、IPCCよりも遥かに精度良く再現してみせた古気候学の常識は、彼らからは明らかに無視されている。IPCCは、自分たちが導き出した、過去の気温は一定であるという話に一致するように、各種の変数を調整した。例えば、過去1300年間のCO₂、CH₄、N₂、H₂Oなどの温暖化ガス、あるいは雲量など寒冷化の要素を気温が一定になるように操作した。その上で、過去約130年間の要素のうち変化しているのはCO₂濃度だけだから、気温が0.8℃上昇したのはCO₂濃度が原因であると説明した。見かけは、たくさんの要素を入れた複雑な気候モデルに見えるが、中身はでたらめだ。これがGCMの実体だ。

――つまり、IPCCの予測はねつ造だと…。

 丸山 そもそも、過去約130年間の気温測定の結果、0.8℃上昇しているとしたことにも大きな問題がある。なぜなら大気気温の測定場所は、陸上の6000か所で測定したものだ。しかも測定場所は、ヒートアイランド効果の影響が強い大陸内部の都市内部にほぼ限られ、地球の3分の2を占める海上の気温は、わずかしか測定されていない。つまり、IPCCが示す地球平均気温自体に根本的な問題がある。しかも、IPCCは、過去約130年間で地球平均気温が0.8℃上昇したと主張する。もしそうであれば、海水準はいくらか上昇するはずだ。人工衛星による測定では、海水準が20cm上昇したとIPCCは主張しているが、1日2回の海面のメートル規模の潮汐変化を考えると、20cmというのは推定誤差の範囲だ。過去40万年間の海水準変化を解説すると、過去40万年間は、氷期・間氷期が4回繰り返した時代だ。氷期から間氷期になると、全球的に海水準は200mも上昇したことが分かっている。この時の気温は、大気上層(5~10km上空付近)で雲の凝結核ができた時の温度として、全球平均温度が北極と南極の氷床の酸素同位体から求められる。これは原理的には、赤道上空でも中緯度でも極域でも同じ温度だ。氷期(1万2千年前)から間氷期(1万年前)に移行した時期の気温は、約8℃上昇したことがわかっている。この気温変化によって、海水準は、海面下200mから現在の海水準レベル、つまり0mまで上昇した。このデータから、1℃当たりの気温上昇は25mの海水準上昇に対応することがわかる。IPCCは、過去130年間の0.8℃の気温上昇で海水準が20cm上昇したと説明したが、これは地球に残された記録とは全く異なっている。更に化石燃料消費を続けると、海抜ゼロメートル地帯にある世界の大都市、例えば、ニューヨークやロンドン、水の都ベネチアや東京などが水没すると言うが、そうした異常事態は見られない。大気中のCO2濃度に関して言えば、現在の400ppmに対し、白亜紀(8000万年前)は4000ppm(1ppm=0.0001%)、古生代石炭紀(3~4億年前)には2万ppm、更に6億年前には20万ppmだった時代がある。しかし、どの時代においても地球が金星のように高温化して全生物が消滅したという事実はない。にもかかわらず、気象学会が主張する異様な仮説を、何故、日本学術会議や世界科学者会議が異を唱えないのか。国民の税金で守られている科学者は、科学者としての社会的責任に何故答えられないのか、大きな問題だ。

――地球の気温を決めるのはCO₂ではないと…。

 丸山 デンマークの物理学者であるスベンスマルク(M.Svensmark)は、人工衛星による雲量のデータ(1980年~1995年)と地球平均気温、宇宙線照射量の3者の関係から低層雲と宇宙線量の間に明瞭な相関関係が見られることから、気温が雲の量で決まり、雲は宇宙線と太陽活動の比で決まるとする作業仮説を提案した。彼の人工衛星観測期間は、たった15年間だったので、我々は名古屋大学の研究グループ(北川氏)と、縄文杉の年輪毎の炭素同位体比を再測定して、過去2000年間の気温変化(¹³C)と宇宙線照射量(¹⁴C)、ガリレオの時代以降の太陽の黒点数観測からスベンスマルクの気候変動原理を検証し、それが正しいことを実証した。さらに、地球規模での深海掘削計画のコア(2000か所以上)に残された海洋表層の有孔虫の酸素同位体記録から全地球の海洋表層の気温変化を過去260万年に渡って追跡した。その結果、過去60万年間に渡って本格的な長い氷期と短い間氷期(1~2万年間)が繰り返していることが明白になった。かつて、氷期と間氷期の繰り返しは、ミランコビッチサイクルと呼ばれた天文学的なサイクルが原因であると説明されたことがあるが、ミランコビッチサイクルが存在しないことは近年の地質学の常識となっている。これは、後1万年間は寒冷化しないという考えが迷信だということを意味している。現在は間氷期にあるが、本格的寒冷化が目前に迫っている。異常気象はその前兆現象だ。そして、氷期と間氷期の繰り返しが宇宙線量の増減にあるとすれば、銀河の内部に散在する暗黒星雲に260万年前に太陽系が突入したとする作業仮説(天文学者によって提案されている)と調和する。暗黒星雲の中に存在する、宇宙線を吸収するダストと呼ばれる物質にムラがあることが原因で、地球に飛来する宇宙線量が増減し、地球温暖化と寒冷化が繰り返すと説明できるからだ。この仮説を検証することによって、気候変動予測が可能になるはずだ。科学の最前線は着実に進みつつあるが、その手法の鍵となっているのは、天文学から地球表層、さらにバイオスフェア(生物圏)までを包含する超学際科学だ。

――異常気象は本格的な寒冷化の前兆現象だ…。

 丸山 人類の過去の歴史においては、化石燃料を全く消費しなかった時代がある。つまり、人為起源の温室効果ガスの排出がほぼゼロだった時代だ。日本においては江戸時代に、干ばつなどの異常気象や寒冷化を背景に、寛永、元禄、亨保の時代に饑饉が頻発した。さらに時代を遡ると、中国では4~5世紀の五胡十六国の時代に、飢饉が頻発して政権が目まぐるしく交代した。そして、地球規模で民族大移動が起きた。ヨーロッパのゲルマン民族の大移動と西ローマ帝国の崩壊なども、その出発原因は異常気象だ。今日、異常気象は偏西風の蛇行や降雨量の増加によっても起きることが明らかになった。その原因は、温暖化ではなく寒冷化だ。寒冷化の予兆は異常気象であることも判明して久しい。

――異常気象の原因は温暖化ではないと…。

 丸山 寒冷化が本格化すると、最終的には、1万年前の気候に戻る。ただし、これは、たった1年で起きる変化ではない。過去1万2千年間の記録の精密な解読によると、段階的だが、急激な気温低下が間もなく起きるだろう。おそらく、地球平均気温が1~2℃低下するということが、約5回に渡って起きる。すると、平均して約40mの海水準低下が段階的に進行する筈だ。そして最終的にニューヨーク、サンフランシスコ、北海道、東京、北京、ヒマラヤ、イスタンブール、パリ、ロンドン以北は巨大な氷床に覆われる。カナダやロシアは厚い氷床に覆われるだろう。そしてこれらの地域の近代文明は崩壊する。このため、これを避けるには、どのような対策が必要になるだろうか。近代文明の驚異的な発展は化石燃料の指数関数的消費に依存している。化石燃料とは、全て生物の遺骸が半熟成したもので、地中に埋没している。それを掘り出したものが石油・石炭・天然ガスだ。これを使って、電気を造り、岩石から鉄とセメントを取り出して、鉄道、船、飛行機などの輸送システムを張り巡らせて、莫大な人口を収容する建造物を人類は大急ぎでつくった。

――近代文明は化石燃料を消費して発展した…。

 丸山 その起源となった化石燃料の起源はシンプルだ。独立栄養生物である植物が太陽エネルギーを利用して、水とCO₂、N₂から炭水化物をつくる。そして、遊離酸素を大気に出す。動物は大気の酸素を使って、食べた炭水化物を分解して無機的なCO₂やN₂、H₂Oに戻し、その時にでてくるエネルギーを運動エネルギーとして利用し活動しているが、もとを返せば、それは「太陽エネルギー」だ。ヒトの脳はそのエネルギーの3分の1を消費している。こうして、太陽エネルギーの関与だけで、炭素が無機CO₂と有機物の間で循環する。このような炭素循環は、極めて早く進行している。例えば、現在の大気中の400ppmの炭素は7年半で植物が全部を消費するほどの速度である。従って、大気中のCO₂濃度がコンスタントに400ppmあるということは、炭素を消費するとともに、新しく供給されているということになる。産業革命が始まった頃には、大気中のCO₂濃度は280ppmであり、植物が消費し炭水化物としたものを動物が消費する炭素循環であった。現在では、産業革命当時よりは大量に化石燃料を消費し、大気CO₂の濃度が少しずつ上昇してはいるが、炭素循環そのものは整然と機能し、地球システムの維持においては何ら問題がない。

――持続可能な社会の実現方法は…。

 丸山 近代文明の発明の原点は生物に学ぶことであった。生物は有機物の組み合わせで光、電気、鉱物を生み出し、Ca₂⁺イオンで情報伝達をする。生物は生態系を創り、宇宙からの強制力である宇宙線に応答して、バイオマスのサイズを膨縮させて地球環境を維持してきた。ヒトは、化石燃料消費によって新たな文明を構築して、グローバルなIoT社会を構築した。そして、全世界が地表のヒト1人の動きまで観察できるシステムを手にいれ、今ではロシアのウソのプロパガンダが丸見えの時代になった。ところが、頼みの化石燃料は無尽蔵にあるわけではない。やがて減少し始める。さらに、気候は寒冷化に向かう。寒冷化した世界では、地球全体のバイオマスが大きく縮小する「大量絶滅」が訪れる。このため、将来に向けて、化石燃料に替わるエネルギーを利用した、持続可能文明の構築が急がれる。政府は、2050年までに人工光合成によって全人類のエネルギー消費の3分の1を賄える水素社会を提案している。ところが政府は天然ガスや石炭から水素を分離して、残る莫大な炭素を地下貯留するという危険な技術を開発しようとしている。しかも、このやり方には莫大なエネルギーロスがある。日本ではIoT社会の完成に向けて、2030年までに発電量を現在の10倍にする必要がある。エネルギーロスを最小にとどめ、理想的な脱炭素社会を構築するには、新たな発想が必要だ。私は、生命の起源研究を通して、自然エネルギーだけを利用して水素を大量生産する方法を発見した。この水素と東工大の細野氏が発明した触媒を利用すればNH₃の現地合成工場ができる。これは人工光合成による高エネルギー有機物の第一次原料の生産に他ならない。このことは、ここから、第二次産業革命が新たな局面を迎えることを示している。(了)

丸山氏は、米スタンフォード大学などを経て1989年に東京大学助教授、1993年より東京工業大学教授などを務め現職。2000年に米国科学振興協会フェロー選出、2006年紫綬褒章受章、2014年には米国地質学会名誉フェローに選出された。

――明石市の人口は9年連続で増加し、特に子育て世帯の増加が目立つ。好循環の秘訣は…。

  端的に言えば、市民から預かっている税金を市民のために使うだけだ。まさに市民に必要な施策のために税金を使う。市民の税金で雇われている市長を含めて公務員は、知恵を出し、汗をかいて市民にお戻しする。よく市役所で言っているが、預かっている税金に、知恵と汗の付加価値をつけて戻せば、市民はもっと税金を預けたくなる。そういった街には人が住み続けるし、さらに人が集まってくる。それぞれの市民に安心が生まれれば地域経済が回り、市民のための政治をすれば市が発展するのは当然のことだ。市長や県知事は国会と違って独任制であるため、議会の承認次第ではあるものの、預かっている税金の使い道はトップである市長や県知事が決めることができる。

――その考えに沿って市長になって行ったことは…。

  まず、子どもや高齢者、障害者、犯罪の被害者といった、支援を必要とする方々に対してお金をシフトしていった。明石市は、人口30万人、一般会計1000億から1200億円ほどの中核市だ。私が市長に就任した当初の子ども関連予算は100億円程度だったが、250億円に倍増させた。この予算の使い道は大きく2つあり、1つは子育て層の負担軽減、もう1つは安心の提供だ。1つ目の負担軽減については、①高校生までの医療費②中学生の給食費③第2子以降の保育料④公共施設の入場料⑤満1歳までのおむつ――の5つを無条件で無料化している。また、駅前に一時預かり保育を作り、いつでも子どもを預かることができる。つまり明石市という行政が、かつての大家族のおじさん、おばさん代わりをするということだ。その結果、私が市長に就任してから、人口はV字回復し9年連続で増加している。人口増加率は全国の中核市で1位になり、全国で最も人口が増加している街の1つと言えるだろう。

――人口が増加するに連れて税収も増加する…。

  明石市の特徴は、特に中間層、つまり小さなお子さんのいる共働きの世代が引っ越していることだ。明石に引っ越してくるのは、ローンを組んで家を買ったりする世帯で、ある意味一定の収入がある優良納税者だ。さらに共働きでダブルインカムなので2人とも納税者となる。そういった方々が入ってくると、マンションを買ったり一戸建てを建てたりして建設業が潤うので、明石市は建設業バブルとなった。明石市の人気が高まると地価もどんどん上がり、固定資産税も土地計画税の収入も上がる。明石市で子育ての負担を軽減しているが、さらに子どものためにお金を落とし、駅前の店々も過去最高益につながった。子育てが安心してできる街にすることで教育熱心な中間層が転入し、市民税収が増え、法人税収や固定資産税収も増え、さらに地域にお金が落ちるので、地域経済が活性化していくという好循環が生まれている。

――税収増をねらって工場を誘致する自治体はオールドモデルだ…。

  明石市では工場誘致をする気は全くなく、工場誘致をして街が良くなるわけがない。工場は、高速道路沿いのインターチェンジ付近など一定の利便性の高いところに、集まって位置付くのが本来の姿だ。明石のような密集的な街に工場があること自体が望ましくない。「わが街にも工場誘致」などは皆が言うことではないにもかかわらず、多くの政治家は間違ったことを言っている。そもそも、江戸時代の大家族、大コミュニティ、村社会といった古き良き日本をベースに、明治維新を通過し、近代化を進めていくなかで、上から目線の全国一律政策や殖産興業が誕生した。今は昔と違って大家族でもなく、殖産興業で国が発展する時代ではないため、時代に即したような政策転換ができていないのが今の日本の課題だ。

――国民健康保険料の増額を求められているが、据え置く方針か…。

  これから議論を進めていくが、基本的に明石市は、支援に必要な弱いところにこそ光をという方針だ。特に国民健康保険の場合は、公務員や大企業のサラリーマンは所属先も負担するので自己負担は少ないが、そうではない方々には支払いが難しい方も多い。保険料を払えないから病院に来にくくなってしまっては意味がない。明石市はなんとか踏みとどまって、他市に比べれば明らかに安い額で押さえてきた。ただ、市が国民健康保険を一般財源で補填すると、国が市への交付金を減らす仕組みになっているため、国との調整が必要だ。同じことは子どもの医療費でも起きており、明石市は18才まで完全に医療費を無料化したが、その結果、国から1800万円の財源を減らされた。政府は子育て支援と言いながら、嫌がらせや制裁をしている。政府には「子どもは国の宝」という考え方がなく、家族の問題を家族で解決しなさいと言っている限り、出生率の低下は進んでいくだろう。残念ながら多くの学者やマスコミは貧乏な子どもだけを救済するという発想だ。しかし、貧乏であろうがなかろうが、子どもそのものをしっかり応援しないと中間層が2人目、3人目を生めない。貧乏人だけを助ける発想ではなく、社会の未来を作っていくという発想で子ども子育て支援を行う必要がある。

――国と地方自治体の関係を見直す必要がある…。

  そもそも、国の下に都道府県があり、都道府県を経由して市町村に命令するという、いわゆる上から目線の全国一律施策が時代に即していない。当然だが、それぞれの地域には地域ごとに特性があり、新型コロナウイルス感染症1つとっても全国同じ感染状況ではない。国が全国一律に命令するのではなく、地方に行政運営を任せる時代だ。現状では、地方の財源を国が勝手に取り上げ、交付金として地方自治体に交付するというひどい形になっている。国が地方にしっかり権限を委譲し、併せて財源も国が没収するのではなく、地方のお金は地方に任せるべきだ。

――明石市はコロナ禍でも医師不足などの問題を乗り越えている…。

  医療権限は都道府県と政令指定都市が持つ。明石市は中核市なので、残念ながら医療権限はないが、中核市は保健所を持つことができる。明石市は「官民連携」をキーワードに、保健所を新設し、そこに医師を集約する形をとった。地元の医師会と連携し、家庭を訪れ診療する往診を20名超の体制で行うなど、民間との連携がうまくいったことが医療崩壊を防いだ要因だ。さらに、医師との連携には、官民の信頼関係に加えて、しっかり財源の裏付けをした。お願いベースの綺麗事では物事は進まず、お金の裏付けが必要だ。もちろん、医師がワクチン接種や感染者の診療をしやすい体制を作ることも重要で、医師会と相談もしながら、明石市が支援をした。また、明石市はコロナ禍以前から医師会とさまざまなテーマについて協定を結んでいる。例えば、認知症についての協議会やLGBT関連の協定などで、日頃から信頼関係が構築されていることが、このコロナ禍でも成功した背景にある。

――今後の課題や抱負は…。

  私自身はずっと「やさしい社会を明石から」作りたいと思っている。子どものころから自分のふるさとである明石の市長になりたいと思って、実際になることができた。過去には市長選に勝てずすぐには市長になれない状況もあったので、国会議員なども経験したが、本来は市長になりたかった。念願の市長になって、明石をやさしい社会に変えている途中だ。さらに、明石市だけではなく、明石市の政策を他の市町村でも参考にしてもらい、国単位でもやっていただきたい。「やさしい社会を明石から」のスローガンを掲げ、これを全国に広げていく段階に入った。そこで最近は個人のSNSも始め、明石のことを発信し、他の自治体や国のご参考にしていただきたいと思っている。(了)

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