金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

Information

――民主党代表となられて…。 

海江田 昨年末の選挙では、国民の皆様の民主党に対する怒りを肌で感じた。まずは昨年末の選挙で民主党が大敗した理由をきちんと分析することが、今の民主党には一番大事なことだと思う。また、選挙結果だけに限らず、与党民主党としての3年3カ月間にそれぞれの局面で行ってきたひとつひとつの判断が、果たして全体として適切だったのか、きちんと振り返り評価する必要がある。党首就任当初、私は1月の通常国会が始まる前に党大会を開き総括を出そうと考えていたが、それは時期尚早だと考え直し、3月に党大会を開くことを決めた。その時に、この3年3カ月間の総括を述べたい。

――民主党の大きな軸は「社会的公正を目指す」ことと、「日本を改革する」ことではないか…。

海江田 「社会的公正」については、子ども手当てや高校授業料の無償化など、いくつかのことを成し遂げることが出来たと思う。一方で、与党として行政の指揮を執っていく中で、官僚の厚い壁もあって、「日本を改革する」という、改革政党としてのイメージはあまりなくなってしまった。この部分について、もう一度野党に戻った今、何を改革すべきなのかしっかりと考えていきたい。公正性だけを唱えるのではなく、同時にもっと既得権益に切り込み、規制緩和に注力していくのが本来の民主党だ。

――与党になると、官僚と一緒に作業をする過程で国民の声が聞こえなくなってしまうということか…。

海江田 そうかもしれない。我々は「政治主導」という言葉を盛んに使っていたが、その言葉にはそれぞれの受け取り方があり、個別具体的な問題の中で言葉だけが空回りして、結局、実を挙げられなかった。私は経済産業大臣にも就任し、多くの重大事に直面した時にはっきりと感じたのだが、例えば、特別会計に切り込もうとしても、実際に話を聞いてみると実現不可能なことが多かった。可能性があっても原発対応に追われて実現させるまでの時間的余裕がなかったというのが事実だ。また、大臣を沢山作りすぎたことも反省すべき点だと言えよう。政権与党になれば、4年間は内閣を変えずに腰を据えて取り組むべきだったのに、総理は度々代わり、内閣改造はそれ以上に頻繁に行われた。それは4年間がっちり固めていくという気構えがなかったということであり、大いに反省すべきことだ。

――日本のトップに立つ人間はマクロ経済の知識が必要だ…。

海江田 米国発のリーマンショック、欧州の経済危機など世界情勢が常に変化している中で、日本は今回の金融緩和で世界に随分と遅れを取ってしまった。これは与党民主党としての反省材料の一つでもあるが、だからこそ私は、この問題の今後にしっかりと注意を払っていきたい。そういう意味では、安倍首相が舵を切り、金融政策面で日銀との協力体制を強化していくことはとても良いことだと思う。もちろん金融政策だけでデフレが解決するということはなく、そういう変化に対していたずらに円安方向にもっていっても良い効果ばかりをもたらすとは限らない。原子力発電所事故があったことで、日本には、これまで以上に大量の天然ガスや石油エネルギーの輸入が必要になっているため、いたずらな円高はむしろ問題になる。その半面、中国を始めとして新興国のエンジンがおかしくなり始めたこともあり、日本製品を世界のどの市場で拡大させていくかもしっかりと考えておく必要がある。このように、世界経済が立ち直っていくスピードと状況をしっかりと見据えた適切な判断が政府や政界トップには求められている。

――尖閣諸島問題を抱える中国との関係について…。

海江田 小泉政権時代に中国経済が発展段階にある時、日中関係は「政冷経熱」と言われていたが、現在では「政冷経冷」になってしまっている。これでは駄目だ。お互いに譲れないものがあっても、せめて「経温」くらいにはならないと。中国自身、周辺国がどんどん中国から離れており舵取りは非常に難しい。そこで日本としては、インド、オーストラリア、ニュージーランドを含めたASEANプラス6を上手く機能させていく必要がある。中国は昔から一対一の外交は得意だが、多くの国とマルチな関係を築くのは苦手としている。その中国を敢えてマルチな関係に巻き込んでいくことが日本の外交上で重要ではないか。

――野党の役割で大切なことは…。

海江田 副作用や落とし穴を的確に指摘していくことだ。金融緩和にしても、例えば米国では金融機関を救うために金融緩和を行ったが、今の日本で金融機関を救う必要性はない。むしろ緩和したお金をどのように実体経済に流していくのか、その仕組みがきちんと整っていなければ日本で金融緩和をしても意味が無い。そういった部分をしっかりと指摘していきたい。失われた10年、20年といわれ続け、富は減り、借金は積みあがり、国民所得も減っている日本経済を立て直すための最後のチャンスだ。もはや実験としてチャレンジして、そして失敗するようなことは許されない。そういう意味でも、落とし穴に対してきちんと注意を喚起しておくことが重要だと考えている。

――米国と日本の関係について…。

海江田 この3年3カ月で米国との関係が損なわれたとは思っていないが、総理大臣が頻繁に変わっていては、信頼以前の問題として信用されなくなるのは当然だろう。まずは信用を取り戻すことだ。また、「中国との尖閣問題が悪化しているのは日米関係が希薄になったからだ」という意見があり、中国親日派の中には「尖閣諸島問題は米国が仕掛けた罠であり、そうすることによって中国資本と日本資本を米国に呼び込もうとしている」という説があることも聞いたが、彼らの意図するところは「だからこそ中国と日本が協力することが重要だ」ということだ。また、民主党の基本的な精神は、どこの国とも争いのないことが一番ということであり、1996年に作った民主党綱領の中にもはっきりと「友愛精神に基づいた世界の平和外交」と記して、新たな日米関係、日中関係の構築を目指している。

――今回の選挙で離党議員も多く出たようだが、今後の党内融和策についての考えは…。

海江田 中道リベラル、民主リベラルなど、民主党を表す言葉は色々あり、確かに民主党内には色々な考えの人達がいる。しかし、そういう言葉で分け隔てを作るのではなく、「社会的公正を目指す」、「日本を改革する」という民主党の2つの大きな柱を軸に、今後も改革を進める党であるというところに寄って立ち、もう一度皆で再結集したいと考えている。よく「解党的出直し」と言うが、もう解党は済んでいる。3月までに基本綱領をまとめて、離党した議員との融和を含め、党を再結成させていきたい。(了)

――積年のインフレターゲット導入がようやく実現されつつある…。

 山本 日本で最初にインフレターゲットを唱え始めたのは伊藤隆俊さんだと思うが、私も95年頃に伊藤さんからインフレターゲットという言葉を聞いて以来、これは絶対に導入すべきだと思い、国会では毎回のように日銀への追求を重ねてきた。最初は孤軍奮闘で、唯一賛同してくれていたのは、当時は自民党で今はみんなの党の党首である、渡辺喜美さんくらいだった。金融庁の中にも一人や二人はこの考えを面白いと思ってくれる人がいて、細々と日銀法改正を目指して活動していた。かれこれ15年になる。それが、一昨年の東日本大震災の後に、私が日銀の国債引受けで20兆円規模の財源を作り出し、それを復興財源にあてるような提案をしたことがきっかけとなり、増税することなく、迅速に、さらにデフレ対策にもなる「日銀の国債引受」という財源確保の考え方があるということが、ようやく議員の間にも広まってきた。

――一時は官邸でも日銀の国債引受を検討したこともあったようだが…。

 山本 当時の財務大臣は野田佳彦前総理だったが、彼は日銀に国債を引き受けさせるなど乱暴すぎると言うような発言をして承認しなかった。私はその後行われた財務金融委員会で野田さんを追及したのだが、彼は特別会計で毎年行われている日銀の国債引受の存在すら知らなかったようだ。一方で、安倍総理は06~07年に総理大臣を経験し、金融政策の重要性をよくご存知だ。総理の資質として、教育や防衛だけでなく経済の知識が大切だという問題意識を持ち、私とともに1年半前くらいからインフレターゲットの勉強会を重ね、彼の中にあった色々な疑問が解消されるにつれて、これは日銀を変えなければいけないと考え始めたようだ。

――米FRBがインフレターゲットの導入に踏み切る姿勢に変えたことも、追い風になっている…。

 山本 FRBのバーナンキ議長はインフレターゲット論の第一人者だ。緊急時には金融緩和でお金を出さなくては駄目だという考えが基本にあり、日銀の失敗も批判している。FRBのそういう姿勢に対して日銀がお金を出さなければ円が高くなるのは当然だろう。それなのに、日銀は、デフレでも何でも構わず、金融システムさえ安定していれば良いと考え、自分たちの権限を守ることだけに必死になっている。マクロ経済のことなど全く気にしていないという極めておかしな状況が長く続いてきた。

――バブル時の国の借金は300兆円で税収が60兆円。それが今では借金1000兆円で税収は40兆円。企業の経営者であればとっくに辞めさせられている…。

 山本 日銀の問題点は責任を取るシステムがないことだ。例えばインフレターゲットにしても、期限を決めずに「中長期の目標」という言い方をしていては何の意味もなく、責任感もまったくない。このため、期限は最大1年半と決めることが政策の実現性にとっては重要だ。また、それにはグロスの数字だけでなく、ネットでバランスシートがどれだけ増えるのかをきちんと証明させることも必要だ。期限を決め、責任の所在を明らかにすることによって初めて政策に透明性が出てくる。さらに、例えば党の総裁が代わったり、日銀総裁が代わったりした場合にこういった決め事が再びあやふやになるような事態を避けるために、きちんと日銀法を改正して、法律上のシステムとして作り上げることが大切だ。

――自民党はインフレ目標値の公約を2%としたが、この数字の妥当性については…。

 山本 インフレ目標値は、理論的には雇用の最大化と矛盾しない数字が最適とされている。ここで、過去の消費者物価と失業率のトレードオフ関係を示す日本のフィリップス曲線を見ると、日本ではインフレ率が2.5%を下回ると失業率が急激に上がっており、この理論では2.5%以上のインフレ率が必要ということになる。個人的にはデフレが長く続いたため当面3~4%でも良いと思うが、諸外国は大体2%程度を目指しており、それに合わせれば最低2%ということになろう。学習院大学教授で経済学者の岩田規久男さんが作ったシュミレーションによると、リーマンショック以降ではインフレ率が2%になれば株価は11300円、為替は1ドル98円になるという。そうなると日本経済は随分楽になる。日銀はよく、バブル時のインフレ率は平均1.3%だったというデータを持ち出して議論を始めるが、1%という数字は有り得ない。バブル最後の89~91年のインフレ率は2~3%あったはずだ。この3年間を無視して平均数字を出して低めに見せるところはいかにも日銀らしい誤魔化し方だ。このため、インフレターゲットに上限と下限を決めるとすれば、2~4%程度が一番良いのではないか。

――失業率に関しても、日銀の目標数値として盛り込むべきではないか…。

 山本 日銀はこれまで実体経済のことには何も配慮してこなかったが、フィリップス曲線を見れば物価上昇率と雇用が直接的に関係していることは明らかだ。FRBのように、物価の安定と雇用の最大化という二つを日銀が手がけることは現実問題として直ぐにはなかなか難しいが、雇用に配慮することは必要だろう。このため、日銀法改正をする段階で、日銀の金融政策の目的の中に、雇用に関する一言を加えて「物価の安定を図ることを通じて(雇用を含む)国民経済の健全な発展に資すること」という文言にすれば、自ら雇用についても配慮するようになるだろう。

――日銀の中にもインフレターゲット論者はいる。そういった人達と連携して変えていかなければ…。

 山本 ただ、日銀の中で若い時はそう考えていても、段々と宗旨替えせざるをえなくなるというのが現実だ。白川総裁自身、もともとはマネタリーアプローチを唱えており、為替もお金の量で決まると言っていたのに、今では180度変わってしまった。上司と同じ考えにしなければ外部に出されてしまうというおかしな組織が日銀というところだ。

――日銀の一番の問題点は、昔の理論で頭が凝り固まり、現場を見ていないことだ…。

 山本 政治家である我々は、様々なところから色々な相談を受け、個人の家も一軒一軒訪ねて歩くことで、実際に何に困っているのかを痛切に感じることが出来るが、日銀の幹部役員などは、何ひとつ不自由のないところに住み、良い給料をもらって、年金もしっかりして心配事などない。また、相手にしているのは資本金2000万円以上の企業ばかりで、デフレになっても誰も困らない。むしろデフレ下で現金の価値が増え、得をしているかもしれない。そういった環境にいるのが日銀の人達だ。そういう現実を考えると、もっと日銀の中に、きちんと現場を知っていて、日銀の組織を壊すことが出来る人間を増やしていかなくてはならない。例えば日銀総裁・副総裁にはプロパーを入れないというようなことも必要であろうし、インフレターゲッティングを確実なものとするように日銀審議委員にも同じ考えを持った人を送り込む必要がある。

――2%の物価上昇が公約倒れになったら、自民党が民主党の二の舞になる恐れがある…。

 山本 そうならないように、日銀法改正を始め、様々なことをしていかなければならないと考えている。例えば、市場から批判されている、無記名、無責任な物価見通しや、「ある審義委員」という表現が使われている議事録の審議委員名を開示するなどの工夫も必要だろう。頭脳明晰かつ自分の島しか守らず、責任逃れの上手な日銀を相手にして金融政策を大きく変えていくには、それなりの戦略や工夫が不可欠だと考えている。(了)

▲TOP