金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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革新技術を高齢化対策に活用

日本経済団体連合会 審議員会議長  野村ホールディングス 会長  古賀 信行 氏

――経団連が掲げているSociety 5.0についてうかがいたい…。
 古賀 Society 5.0とはデジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、社会の課題を解決し、価値を創造する社会だ。デジタル革新をきっかけに社会の在り方が根本から変わることを見据えて、経団連が旗振り役となり、その実現に向けた取り組みを進めている。ドイツではIndustrie 4.0、中国では中国製造2025など、国によって言い方は異なるが、イノベーションを奨励し、よりスマートな社会の実現を目指している。日本には少子高齢化を始め、地方衰退、財政悪化、エネルギー問題など社会的な課題が沢山ある。そういった課題をむしろチャンスと捉え新しい創造社会をつくることを目指すという意味でSociety 5.0の実現を掲げている。これは、国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成にも貢献できる取り組みだ。SDGsでは世界を変えるための17の目標が掲げられており、その変革の方向はSociety 5.0と軌を一にしている。深刻な課題を多く抱える日本は課題解決先進国としてSDGsの国際標準化をリードすべきであり、そういった意識をもって「Society 5.0 for SDGs」と称した戦略的な変革を主導している。

――Society 5.0が目指す未来とは…。
 古賀 Society 5.0では、最先端の技術や意思をもって、誰もが、いつでもどこでも、安心して、自然と共生しながら、価値を生み出す社会を目指していく。これまでのSociety 1.0からSociety 4.0までを順にみていくと、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会という形で発展してきた。獲物を手に入れなければ生きていけなかった狩猟社会から農耕社会に移り、人々の生活は安定し、定住が可能となった。それから工業社会になり、農地を持たない人も労働を対価に給料を得れば食には困らない社会になった。そして、情報社会へと移る。昔は足で稼いでいた情報も、今では物理的に現地に行かずとも地域を超えて自由に獲得できるようになった。また、溢れる情報で混乱しないように、ビッグデータをAIが処理してくれる時代が到来しつつある。つまり、人間の頭で考え分析する力が無くても、コンピューターが自動的に答えを出してくれるのが今の世の中であり、その先にSociety 5.0の創造社会がある。創造社会は、上手く使えば便益溢れる新しい社会が形成されるだろう。しかし一方で、人間の中には成すべきことを見つけられない人が出てくるかもしれないし、或いは、それを使って人間が成すべきことは何なのかをひたすら考えるだけの人ばかりになるかもしれないといった悩みも出てくる。Society 5.0時代において、何が価値を生むのか、価値創造のためには組織とそこで働く人々の関係性がどうあるべきか等、必要に応じて雇用の在り方を見直すことも考えなくてはならない。

――これからの社会に対応していくために、日本の産業や企業も大幅に変化していかなくてはならない…。
 古賀 そういった課題に一番晒されているのが銀行、証券、保険といった金融だといえよう。もともと日本の金融は規制業種だが、フィンテックという技術革新によって金融の世界はもっと便利になるはずだ。どの業界も同じだと思うが、変化に晒されたほうが産業は強くなる。日本の金融界も、世の中の動きに晒されることで、生き抜く力や世界と渡り合う力がついてくる。そして、イノベーションはそれを後押しするものだ。金融界としてのSociety 5.0像を考えると、革新技術を高齢化対策に活用していくことが理想だ。例えば、人生100年時代の到来により、元気な高齢者が増えている。しかし、一概に年齢や見た目では投資家の判断能力を見極めることは難しい。加齢による判断能力の低下速度は人それぞれ、千差万別だ。そこで、投資家の日常生活における行動に関するビッグデータを分析することによって、金融取引に十分な判断能力を備えているかを判定してくれるような時代になれば良いと考えている。経団連の提言「Society 5.0~ともに創造する未来~」においても、資産運用の高度化による各人のライフスタイルに合わせた安定的な資産形成や、保険の最適化・個別化を通じた病気・ケガ・事故などのリスクのさらなる軽減の実現を金融分野の具体的な未来像として提唱している。

――既存の企業が革新的な新規事業を起こすために、企業内にファンドや小さな別組織を作るといった取り組みも進められている…。
 古賀 野村の場合もそうだが、昔に比べて企業に多様な人材が集うようになった。イノベーションを起こすためには、「金太郎飴」のように社長から新入社員まで同じ発言、同じ行動をとる組織ではなく、異質なものが混ざり合い、お互いを刺激する場が必要である。企業内に別組織やファンドを作る、或いは異業種への社員派遣等、ダイバーシティを推進し、内包させる方策が必要だ。多様性を尊重し、多様な才能を積極的に活用していくことで、新たな価値が生み出される。それは持続的な発展へとつながるだろう。国籍、年齢、性別など多様性を推奨し、多様な人材が活躍できる環境づくりが求められている。

――今後のアクションプランは…。
 古賀 Society 5.0を世の中の人たちにもっと理解してもらう仕組みづくりが喫緊の課題であり、国民や世界に向け積極的に発信していく必要がある。その意味で、2025年に開催される大阪万博は、Society 5.0の実現した社会を見せる良い機会になるのではないか。また、Society 5.0実現のために、国民や企業、行政が協働して、社会受容、企業活動、法制度を共に変えていくことが重要だ。経団連は、その旗振り役として、日本の経済社会の変革を主導していく。多様な人々が活躍し、イノベーションが創出され、その新しいサービスや製品をどこでも安全に利用できるシステムが構築されれば、多様な価値観を内包する社会が自ずと創造されていくだろう。それがSociety 5.0「創造社会」の時代だ。(了)

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