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「トランプ報道に騙されるな」

外交戦略研究家
本紙特別顧問
貞岡義幸 氏

――米国で第2次トランプ政権が始動した…。

 貞岡 大統領就任式では、トランプ新大統領が選挙時の公約をそのまま実現に移す事で、ドナルド・トランプという人物が実行力のある男だという事を米国民全員に明確に伝えたいという意志が感じられた。就任式での発表内容は、性別問題や不法移民問題等、国内の事に重点が置かれ、WHOやパリ協定からの脱退についても、「WHOが機能していないからコロナが蔓延した」という国民世論や、「CO2が地球温暖化の原因ではない」と考える米国民の半数以上の声に耳を傾けたという形で、どちらも国内に対するアプローチだった。国際面では中国やロシア、ウクライナ問題等についての言及は特段無かったが、バックグラウンドでは実はすでに各国と交渉を行っている最中だ。

――日本が第2次トランプ政権とうまく付き合っていくために注意すべき点は…。

 貞岡 「マスコミの報道に騙されない」という事だ。トランプ新大統領がメキシコやカナダに25%の関税を課すという報道も、数字の事実だけでなく、その理由や背景を考えてみると、米国と国境を接しているカナダやメキシコが、軍事力や貿易面では米国の陰に隠れて恩恵を享受し、それぞれが果たすべき義務である国境管理を怠っている事がわかる。トランプ大統領は、その義務を果たさないのであれば「51番目の州になるしかない」と言ったり、「柵を作る」と言ったりしているのだが、トランプ大統領に批判的なマスコミは、彼が発した言葉尻だけを捉えてセンセーショナルに報道するだけで、その真意を伝えようとしない。或いはメディアが真意を汲み取れていないのかもしれないが、いずれにしても、トランプ新大統領にとってメキシコやカナダに対する関税は、交渉のための一つの手段でしかない。「パナマ運河を取り戻す」という発言も、パナマとコロンビアの地峡にあるダリエン地峡が米国への不法移民の通り道になっているからだ。ダリエン地峡はコロンビア側が沼地で、パナマ側が過酷な密林地帯となっており、管理するのが非常に難しい。メキシコやカナダへの高関税と同様に、米国がパナマとの交渉材料にしたのが運河だったのだろう。そこに「領土を増やしたい」という意図はなく、全てのベースにあるのは「米国民が困っている不法移民問題と麻薬問題を解決したい」という意志だ。日本がトランプ新大統領とより良く付き合っていくために一番重要な事は、「マスコミの報道に騙されることなく、その真意をきちんと理解する」という事に尽きる。

――石破総理大臣の訪米計画については…。

 貞岡 私は、敢えて訪米しないという選択をした方が良いのではないかと考えている。その理由は、トランプ政権下における日米関係は、安倍元総理大臣の遺産と、足元ではソフトバンクの孫正義社長の巨額の投資による側面が大きく影響しており、トランプ新大統領の頭の中に日本に対する悪いイメージは殆どない。そこに、わざわざ石破総理大臣が訪米して日米安保問題やUSスチール問題を取り上げて回りくどい説明などを始めれば、せっかくの日本に対する良い印象が壊れかねないからだ。特にUSスチール買収問題については、日本製鉄が一企業だけでは米国と戦えないために、経団連を巻き込んで日本全体の問題にし、日米の経済関係の悪化につながると主張しているわけだが、あれは、あくまでも民間企業同士の問題だ。また、バイデン前大統領の禁止命令に対して日本製鉄が放棄手続きを終える期限は2月2日から6月18日に延長されたが、それは、その間に日本製鉄の交渉相手がトランプ新大統領に変わる事を見据えたバイデン前大統領が、それに対応するトランプ新大統領を罠にかけたかったという見方もある。もちろんトランプ新大統領はそれに気づいていると思うが、果たして日本のマスコミはどうだろうか。

――USスチール買収阻止の失敗は、大統領選の最中に米の国民感情を刺激してしまったことだ…。

 貞岡 昨年中、日本企業が米国企業を買収した大型案件で、例えば日本生命保険による米レゾリューションライフ買収がこれほどまで問題になったかと言えば、なっていない。今回の買収がこれほどまでに大きな問題となったのは、USスチールが対象だったからだ。米国は来年ようやく建国250年を迎える。その短い歴史の中で、米国の鉄鋼王とされる偉大なる人物カーネギーが創設し、エンパイアステイトビルディングやゴールデンゲートブリッジなど米国を象徴する建造物を手掛けた会社を買収して日本の傘下に収めようとすることに対して米国民がどのような感情を持つのか、日本製鉄はもっと慎重になるべきだった。そして、そういった一民間企業の企みに日本の総理大臣が口を出すべきではない。せめて岩屋外務大臣とルビオ米国務長官との間で治めておくべきレベルの問題だろう。或いは、トランプ新大統領がイーロン・マスク氏を片腕に置いたように、孫正義氏を日米外交の担当として任せるのも良いかもしれない。

――第2次トランプ政権が韓国や北朝鮮、ロシアや中国に与える影響は…。

 貞岡 トランプ新大統領は北朝鮮の核兵器保有を認めながら、自分の大統領任期中にはそれを一切使用させることなく、隣国韓国との友好的な経済関係を北朝鮮に勧めていく方針なのだろう。また、現在混迷を極めている韓国で仮に政権が変わり左翼政権に変われば、それはトランプ新大統領にとっても喜ばしい事だ。米国では大統領就任後に海外勤務の軍隊に直接電話をし、激励の言葉を伝える習わしがあるのだが、今回は在韓米軍に電話したそうだ。トランプ新大統領が韓国に対して不安を覚えているのか、或いは北朝鮮が自分の意に反するような行動に出た場合に在韓米軍を頼りに備えているのかわからないが、世界中に駐留する米軍の中から韓国が選ばれたというのはなかなか興味深く、注目すべき事だと思う。ロシアに関して言えば、経済制裁によってロシア国民の生活はかなり苦しくなっており、一刻も早い経済制裁解除が望まれている。そこで、トランプ政権がウクライナとの停戦を、経済制裁を材料に交渉していくという構図だろう。就任後24時間以内のロシア・ウクライナ停戦は選挙時の公約であり、それを実現させるためにトランプ新大統領は中国に対してもロシアに説得することを求めているのであろう。ただ、プーチン大統領と習近平国家主席はトランプ大統領の就任日に電話会談を行っている。恐らく、トランプ氏の思惑通りにはならないという両国の意志の確認だったのではないか。

――日本のマスコミは早くも米国の次期中間選挙の心配をしているようだが…。

 貞岡 米国では大統領就任後100日間はハネムーン期間とされ、あまり批判的な意見は出てこないのだが、日本では早くもトランプ新大統領の悪口を並べ立てている。実際の米国を見てみると、米国史上最悪のロサンゼルス山火事で民主党政府が迅速に対策を講じなかった事や、治安や教育面において、民主党支配下のNY州よりも共和党支配下のフロリダ州などが格段に良い事などから、共和党の評価が高くなっており、トランプ新大統領に関して「なかなか良いのではないか」という声が多くなっているのだが、そういった現実はテレビでは全く報道されず、流されるのは少人数のトランプ反対集会の映像や、米国のパリ協定脱退に反対しているロンドン市民の映像だ。そうしてトランプ新政権に対する世論をテレビ局側の意図する反トランプの方向に導こうとしているのだろう。

――トランプ新政権はトリプル・レッドで、今後、強力な政策が推進される…。

 貞岡 確かに米国は大統領職と上下両院を共和党が多数を占めるトリプル・レッド状態になったが、上下院ともに差は1桁台であり、それが政策推進において大きな違いを生むわけではない。ただ、第一次トランプ政権と違って現共和党員の多くが「トランプ党」に変化を遂げており、造反する共和党員は少ないとみられている。今期トランプ新大統領が公約通りに実績を残せば、次の中間選挙では共和党が議席をさらに伸ばすだろう。その可能性が高いからこそ、世界のマスメディアはトランプ王朝の誕生を心配している訳だ。現行の米国憲法では大統領職に2回を超えて選出されてはならないという「3選禁止」が明記されているが、それも今後どうなるかはわからない。先の読めない第2次トランプ政権だが、トランプ新大統領が高齢であることは間違いなく、ここで今後の日米関係において注視しておくべき人物を挙げるとするならば、ヴァンス米副大統領だと思う。トランプ新大統領とイーロン・マスク氏の関係がどこでどうなるかわからないが、ヴァンス氏は憲法で保障された「副大統領」という地位を持ち、頭もよく、政治的なカンも鋭く、演説も上手い。日本政府も今のうちからヴァンス米副大統領との人脈をしっかり築いておくことが重要だ。[B]

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