国民民主党
玉木雄一郎 氏
――国民民主党の政治力で「103万円の壁」が123万円まで引き上げられたが、178万円までは距離がある…。
玉木 石破内閣の延命に協力しているわけではないため、約束が守られないなら来年度予算に賛成しないだけだ。もし実現できなかったら反対したうえで、「実現のためさらなる議席をお願いします」と、夏の参議院選挙を戦うつもりだ。今回の補正予算案に反対しても良かったが、一定の約束を果たしてくれるなら賛成しようと思い、「178万円を目指して、来年から引き上げる」との3党合意に至った。今回合意した内容が誠実に履行されるかどうかは、来年2月末までに協議の具体的な進展を見定めて判断していく。また、同じく3党で合意したガソリンの「暫定税率」廃止も、時期こそ未定だが、1974年から50年続いた税制を見直す決定が行われたことは大きな前進だ。自公がこれを飲んだのは、税調の現場はともかく、幹事長クラスが強い危機感を持っているためだろう。
――先の衆議院議員選挙では議席を4倍に増やした…。
玉木 要因は大きく3つあると考える。1つは「手取りを増やす」というメッセージが明確だったことだ。「103万円の壁」引き上げや、学生のいる親の税負担を減らす「特定扶養控除」について学生の年収上限の引き上げによって「手取りを増やす」と繰り返し訴えた。2つ目に、現役世代、若者向けの政策に振り切った。今まで自民党も立憲民主党も人口が多く投票率の高い高齢者向けの政策を中心としてきた。そのことによって、現役世代、若者の負担が増えていることに着目した。3つ目はSNS戦略だ。われわれのような小さな政党はSNSを使わざるを得なかったとも言える。これまでもYouTubeやX(旧Twitter)は活用してきたが、その成果が花開く時代になってきた。特に1つめについては、消費税減税などは他の党も掲げていたが、基礎控除引き上げによる所得税減税を訴える党はなかった。なぜ他の党も言わないのか疑問に感じたくらいだが、やはり与野党ともに国民生活から遠くなっていたのではないか。われわれの選挙演説は、「政治とカネ」の問題も重要なテーマではあるものの、最終的に経済政策に8割程度の重心を置いていた。「国民のふところ」をどのように豊かにするかを考えることが政治家の仕事だと考えている。
――インフレによって各国の選挙で与党が負けている…。
玉木 今、インフレで物価や賃金の伸び以上に所得税の負担が増える「ブラケットクリープ現象」が世界中で起きている。これに対応していないのは日本だけだ。例えば米国では、23年度と24年度の標準控除を比較すると、1年間で750ドル、日本円で約11万円も控除額を増やしている。一方日本では、超えると所得税が発生する年収のラインが103万円というのは95年から1円も変わってこなかった。「これはおかしい。取りすぎた税金を返しましょう」ということで、所得税の非課税枠の引き上げ、住民税の非課税枠の引き上げを訴えてきた。税収減を懸念する声も上がっているが、報道などで伝えられているほど日本の財政は悪くない。地方財政について言えば、この数年間は5兆円以上の黒字。基金も増え、税収も毎年数兆円単位で上振れている。そもそも、仮に地方の税収が減っても、地方交付税や特例加算など色々な形で対応する仕組みがある。国の財政についても、補正予算の使い残しは多く、例えば22年度の補正予算は約11兆円も年度内に使われずに残されている一方で、税収は上振れ、24年度補正予算案では3.8兆円上方修正されている。これらの現状の制度や数字を冷静に見て議論してほしい。われわれは特段変わったことを言っているわけではない。むしろ日本の予算の組み方が世界的には異例であることを認識するべきだ。
――所得税の防衛増税は開始時期が先送りされた…。
玉木 所得税減税を進めるなか、所得税増税に賛成するわけにはいかない。増税は必要ない。自民党の茂木前幹事長も、総裁選の時に1兆円の増税がなくても「防衛力の増強ができなくなることはない」と言っている。代わりの財源としては、外国為替資金特別会計(外為特会)の運用益を活用することなどが考えられる。外為特会はほとんどの運用が米国債で、オルタナティブ投資を拡大すれば相当もうかるはずだ。今外貨準備高は約180兆円あるが、変動相場制では為替介入のための資金をこれほど大量に持つ必要もない。
――岸田前首相が進めてきた資産運用立国については…。
玉木 基本的に賛成している。私は財務省にいた時から「貯蓄から投資へ」と言い続けてきた。ただ、懸念もある。新NISAでは全世界型株式などが選ばれやすく、円を売ってドルを調達して海外に投資するインセンティブがあることで円安要因になっている。これは「売国政策」とも言えるのではないか。確かに外国の債券や株の方が高いリターンがあるが、それとは別に、税制優遇を付けて円を外に持ち出すのを促すことが良いことなのかは議論した方が良い。せっかく投資を促進するなら国内にお金が集まるようにするべきで、例えばグロース株ファンドを作って育てるようなことができると良い。
――国民民主党は暗号資産投資を推進している…。
玉木 日本こそビットコイン大国にならなければいけない。かつて日本は「ビットコイン大国」で、世界のビットコインの取り扱いの半分が日本円だったが、今では数%に落ちている。これは、仮想通貨は雑所得として最大55%の税率がかかるという、厳しすぎる税制のためだ。このままだと世界に取り残されてしまう。これを解消するには、他の金融商品と同じように20%の申告分離課税にする、レバレッジ倍率を10倍以上に戻す、暗号資産ETF導入、コイン同士のやり取りを非課税とするなど、いくらでもやれることがある。ほかの党にはまだこれらの政策の重要性があまり理解されていないが、暗号資産における税制改正は国民民主党が引っ張っていきたい。
――外交政策に対しての考えは…。
玉木 米中対立が高まるなか、日本の役割がより高まってきている。米国については、安倍元首相はトランプ氏と非常に親しかったが、個人的な親しさを超えた関係構築が重要だろう。東アジアの安定は日米韓が連携して対中国、対北朝鮮、対ロシアに対する防波堤をつくることで維持されてきたが、韓国が揺らいでいる以上、日本の役割が大きくなる。一方、中国は、第1次トランプ政権の時と同様に日本に接近してきている。アジア全体として米国に対抗したいという思いが背景にあるだろう。このように、日本は中国から見ても米国から見ても貴重な存在になってきている。外交安全保障においても与党過半数割れで自公だけでは決められなくなっており、国民民主党も責任ある野党として役割を果たしていきたい。関連して、われわれは「アクティブ・サイバー・ディフェンス」(能動的サイバー防御)に関する法案を提出した。ミサイルが飛んでくる前にサイバー攻撃が行われる時代だが、日本はサイバー防御が弱く、サイバー安全保障において必要な法体系がない。米国をはじめ同盟国間の連携強化のためにも極めて重要なテーマだ。
――今後の抱負は…。
玉木 選挙によってある意味で影響力を高める結果になったことは、国民の皆さんの選択の結果だということで、重く受け止めたい。自公過半数割れという結果は、「国民の意見を柔軟に聞け」「勝手にいろいろ進めるのはやめろ」という与党に対する国民のメッセージだと思う。一方で野党は、これに乗じて予算、法案など何にでも反対すれば、これも反発を受けるだろう。その点、国民民主党は「対決より解決」、「政策本位」でやっていくと訴えて議席を増やしており、丁寧な合意形成の役割を果たす責任がある。建設的な国会を作っていくうえで主導的な役割を果たしていきたい。[B][L]