大和証券グループ本社
代表執行役社長CEO
荻野明彦 氏

――この度、御社の格付けが引き上げられた…。
荻野 今回、当社がR&Iから格上げされた理由は、当社が長年かけて取り組んできたウェルスマネジメント部門における資産管理型ビジネスモデルが着実に進展してきたことと、運用資産残高を着実に積みあげ、安定収益を拡大させてきたアセットマネジメントビジネスが評価されたものと認識している。また、グローバル・マーケッツはマーケットによって収益ボラティリティが高まるが、当社では上手くリスクをコントロールしながら、より経営の安定化を進めてきた。これも大きな格上げ要因になったと考えている。
――女性の活躍という面でも、長い間一貫した取り組みを進めている…。
荻野 2004年に社長に就任した鈴木茂晴現名誉顧問から、当時人事課長だった私は「女性が辞めない会社にしてもらいたい」という相談を受けた。そこで女性活躍推進チームを立ち上げ、色々な制度を導入しながら、女性が働きやすい職場環境を作り上げていった。それから20年間、一貫して働きやすい環境づくりを追求し、その流れが今ではダイバーシティ&インクルージョンの推進へと繋がっている。当社のダイバーシティ&インクルージョンの取組みについては、学生の間にも浸透しており、就職人気ランキングではありがたいことに毎年上位企業となっている。
――ウェルスマネジメント部門が着実に伸びている。その背景には…。
荻野 ウェルスマネジメント部門では地道な積み上げが重要だ。かつての証券会社は商品を売買する際の「手数料」が収益の主体だったが、現在では、しっかりと残高を積み上げ、その残高に対する「フィー」を頂くビジネスが主流となっている。マーケットが大きく動いた時にも、慌てず常にお客様に寄り添い、実直に資産管理型営業を続けてきたことが、今の当社のウェルスマネジメント部門の強みになっている。実際に、2007年に販売を開始したファンドラップの残高は、足元では業界トップクラスに成長している。しかし、ウェルスマネジメント部門においては、まだまだ効率化できることが沢山ある。特にコンサルティングを行う上で、お客様の多様なニーズに対応するとなると、足りないパーツも多くなってくる。その辺りを自前、或いは提携や買収するなどして補強していきたいと考えている。
――多様化も着実に進めている…。
荻野 中田誠司現会長は「クオリティNo.1」と「ハイブリッド戦略」を基本方針として経営を進めてきた。当時の私は企画担当としてハイブリッド戦略の遂行・実務を担当していた。証券会社は、マーケットが下がればどんなに頑張っても利益を出すことは難しく、業績のボラティリティが高い。当社はリーマンショックも経験してきた中で、マーケットに左右されない強靭な経営体制を構築するためには、証券業務で得られる収益のさらなる拡大と収益源の多様化が欠かせないという考えのもと、ハイブリッド戦略として、証券業務による利益との連動性と相関関係が低い業種で、且つ証券業務が強みとなって活かせる不動産アセットマネジメント事業や再生可能エネルギー事業を手掛けてきた。不動産相場は株価と比べると値動きは安定しており、安定的なキャッシュフローを裏付けとして証券化し、投資家に販売することもできる。再生可能エネルギーも同様に、多少景気が悪くなってもエネルギー消費量が突然半分になるということは無く、証券化して販売することもできる。すでに再生可能エネルギー事業では、一部を私募ファンド化して投資家に販売した実績もあり、こういった伝統的な証券業務以外で得られる収益の比率を大きくすることで経営の安定性を高めている。他にも、子会社の大和フード&アグリが農園経営を行っており、パプリカやトマトの生産・販売を行っている。こちらはまだ「種」の段階ではあるが、今後証券化していくことを検討している。
――グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門(以下、GM&IB部門)の具体的な目標について…。
荻野 今回の新中期経営計画では、2026年までにウェルスマネジメント部門で840億円、アセットマネジメント部門で910億円、GM&IB部門で605億円、これにインオーガニック戦略を加えて、総額2400億円以上の経常利益を目指している。GM&IB部門については使用する資本が大きい一方で業績のボラティリティが高い。実際にここ3年間平均の使用資本比率は52%に対してROEは5%にも満たないため、全体に対する使用資本構成比率を減らしつつリターンを拡大させたい。資本対比のパフォーマンスを上げるために、ウェルスマネジメン部門とアセットマネジメント部門の使用資本を大きくして、相対的にGM&IB部門の使用資本の構成比が減少してくるという形で、利益水準は車の両輪のような形できちんと確保していきたいと考えている。日経平均株価が34年ぶりにバブル期の高値を超え、いよいよ日本もデッドガバナンスからエクイティガバナンスへとシフトしてきている今、企業経営者には資本効率を重視したチャレンジングな経営が求められてくる。アクティビストの声に応えて自社株買いを行うといった保守的な運営だけでは縮小均衡になってしまう。そうならないように、リスクマネーをしっかりと成長分野に投入し、日本経済を発展させていくことが大切だ。もちろん自社株買いも一つの戦略として資本効率を高める手立てではあるが、日本が30年余り過去の株価高値を超えられなかった間に、米国等の一部海外は着実に成長を遂げて、当時の株価から10倍にも15倍にもなっているという事実を忘れてはならない。日本経済の成長のために資本を効率的に活用することを考えると、GM&IB部門ではM&AやPO、MBOなど色々なコーポレートアクションが想定され、我々が提案出来る材料も格段に増えている。これらの機会を取りこぼすことなく、しっかりと掴んでいきたい。
――あおぞら銀行との資本提携については…。
荻野 あおぞら銀行とは、同行が債券を発行する際に当社が主幹事を務めたり、過去には、大和あおぞらファイナンスという合弁会社を作っていたこともあり、長年懇意にさせていただいている。我々はグループ内に100%子会社の大和ネクスト銀行を有しているが、大和証券のお客様の利便性を高めるための銀行で、ローン機能がなかったため、ローン機能を持つあおぞら銀行との提携は機能強化につながる。提携発表当初はウェルスマネジメント部門、不動産関連ビジネス、M&A関連業務、スタートアップ支援の4項目での協力体制を考えていたが、その後、現場から様々なアイデアが出ており、この他にも何か新しいビジネスが出来ないかを検討している。ただ、当社が保有するあおぞら銀行の株式は現在23.95%で、基本的にはお互いの独立性を尊重しながら、一緒に出来る部分で協力していこうというスタンスにある。
――最後に、新社長としての抱負を…。
荻野 お客様から最も信頼してもらえる会社にしたい。一言で言えば、「大和が好きだ」と思ってもらえるお客様や株主の方を一人でも多く増やしていきたい。今まで中田現会長が進めてきたビジネスは極めて正しいものだと考えており、私はそれをさらに加速させて邁進していきたい。社長就任時の社内放送では、社員に向けて、スピードを意識する事、現場のリーダーシップを大事にする事、そして適正なリスクを取る事の3つの重要性を伝えた。かつての証券会社は狩猟民族だと言われて貪欲なイメージがあったが、この30年間、マーケットが停滞する中で、ある意味上品な感じになってきた。我々のビジネスは、お客様にリスクを取っていただいて初めて成り立つもの。だからこそ、自らも適正なリスクを取らなくてはならない。「リスク」と言うとすぐに財務的な話をイメージする人が多いが、オペレーションのやり方を少し変えるだけでも、それはリスクと言える。何かを変えて、不都合が起こるかもしれないが、メリットもある。何かを変える事が「リスクを取る」事であると考えている。その一歩として、私は先ず社長就任とともに、あおぞら銀行やかんぽ生命との提携、新TVCM作成、オフィスカジュアル導入等を、スピード感をもって進めてきた。これからも出来る範囲でステークホルダーの皆さまに喜んでいただけるような事をやっていきたい。[B]