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「若者議会で地方都市を活性化」

新城市長
下江 洋行 氏

――16歳から29歳の若者が予算権を持つ「若者議会」とは…。

 下江 若者議会は、前市長の穂積亮次氏が第2期市長選の際にマニフェストとして掲げ、2015年度に第1期新城市若者議会が開かれて以降、今年度で8期目となる。若者が普段感じている身近な課題や新城のためにできることを考え、課題解決のための政策立案を軸に、情報発信やワークショップ、市外団体との交流などの活動も行っている。政策立案では予算提案権を持ち、市長への答申と市議会の承認を得たうえで、実際に市の事業として実現することができる。新城市は市町村合併して今の市になる前の1998年から、世界各地にあるニューキャッスルシティと「ニューキャッスルアライアンス」という同盟を結び、交流を続けてきた。その2012年にイギリスで行われたニューキャッスルアライアンスの会議に新城市の若者が参加した時に、世界各国のニューキャッスルシティに住む若者と交流をして、それぞれの参加国の若者が自分たちの街(まち)について行動を起こしており、どういう街にしたいのかについて自らの意見をしっかり持っていたことに刺激を受けた。自分たちはまだ堂々と発言できなかったことにショックを受け、帰ってきた若者が新城ユースの会を作り、若者が街づくりについて考える活動が始まった。前市長の穂積氏はその様子を見ていて、若者議会という仕組みを作り、条例化し予算を確保した上で、若者の提案を事業化する政策を開始した。若者議会の定員は20人で、公募によって応募者から選ぶ。今年は定員を超えて全員を受け入れられなかった。若者議会議員の半数以上が女性で、また今年は高校生の方が多い。そうした高校生の方が街づくり活動に積極的に関わってくれることを期待している。

――若者議会の具体的な成果は出ているのか…。

 下江 若者議会の活動に1年間参加した若者議員は、1年間を振り返る発表の場で、私たちから見ても1年前の所信表明の時から成長したように感じられ、また自らも成長したと自信を持って言う人が多い。新城市は愛知県にある38の市の中で最も人口減少と少子・高齢化が進んでいる。そのため、若者の流失が多いことが市の課題だったが、若者議会に参加した高校生のうち、これまで7名が市役所の職員になった。市の職員になることだけを肯定するわけではないが、若者議会に参加した学生が、公共の意識をしっかり高校の時から育んで成長したことが示された。民間の会社に就職する場合でも、都市部の企業に就職するのではなく、市内の製造業中心の企業など、地元に就職してくれた方も若者議会の参加者の中にいる。まだ十分な市外への流出を留めている段階に至っているわけではないが、地元の新城市のことを考える機会が増えて、一定の成果が出ていると思っている。

――若者議会から生まれてきた主な政策は…。

 下江 今年度も上限1000万円の枠内で379万円の予算を付け、若者議会という先進的な取り組みを全国に発信するPR活動や観光関係の取り組み、文化団体やスポーツ団体のマッチングなど市民との交流を深める活動を実施していく。観光関係では、観光客が少ない冬の時期にお客さんを増やすためのプランを若者議会で作成した。市民との交流を深める事業では、市内のスポーツ団体等と中学生・高校生のスポーツ、文化活動など部活動とのマッチングを進めていく。文化事業の担い手を作っていく上でも高齢化対策が課題だったが、文化部に所属する若者と高齢者がマッチングすることでその課題解決を目指している。

――若者議会の今後の課題は…。

 下江 予算ありきではなく、予算を付けなくてもできる事業を考えてもらうことが求められる。また、若者「議会」なので、地方自治法に基づく市議会のことを理解してもらいたい。若者議会第1期の卒業生の委員が、20代で市議会議員になり、現在も議員を務めている。そういった地方議会への道も目指してもらえるし、若者に地方自治法を学んでもらえることを行政ではなく市議会に主導してほしいと思っている。これは今後の課題ではなく、若者議会の発展系に位置付けられる。行政ではなく市議会が若者を教育するという展開が理想で、これは市議会にとっても刺激になるだろう。また、新城市の人口は4万4000人と比較的少ないが、人口37万人で中核都市の豊橋市でも若者議会に近い活動を取り入れている。大きな都市でもやり方次第で若者議会の活動は可能なので、他の地方自治体にも若者議会の活動を広げるよう、働きかけていきたい。

――地方自治体の財政は難しい局面だが…。

 下江 新城市は県内でも最も高齢化が進んでいる地域であるため、自治体の財政力を示す指数は0・6と非常に厳しい中、何とかやり繰りしている。市町村合併を行った後の15年間ずっと、財政は厳しいままだ。地方債を発行して歳入を得ているが、歳出を抑制し財政の健全性を保つため、当初予算を組む際には、地方債の借入を元本の返済額以内に収めている。一方、税収を増加させるために企業用地を分譲している。平成28年に新東名高速道路が開通して、新城市役所から10分程のところにインターチェンジができた。そこで、1期事業としてインターチェンジ周辺に約4ヘクタールの企業用地を売り出し、完売となった。現在、1期事業の土地の近くに2期事業として同規模の土地を所有しており、今年度は企業用地として売り出す計画を進める。ただ、企業誘致は税収増に繋がるが、高度経済成長期の時代とは異なり、必ずしも街の活性化に寄与するかは分からない。とはいえ、新しいインフラ、新東名高速道路のインターチェンジという立地的優位性は十分に活かしたいと思っている。

――新城市は森林面積が広いが、森林業はどうか…。

 下江 現状では、林業従事者が圧倒的に不足している。その要因には、危険を伴う仕事だが賃金が低いことが挙げられ、仕事はあるが従事者がいない。森林環境譲与税や愛知県の森林、里山林、都市の緑を整備、保全する「あいち森と緑づくり税」を活用した森林整備の事業をこれまで以上に強化していく必要がある。市の総合計画で林業を成長産業にする方針を掲げている。都会にはない森林資源を活用しない手はない。まずは、林業従事者の確保を目指している。しかし現時点では、林業従事者を増やす決定打となるような妙案は持っておらず、林業従事者確保へ試行錯誤している途上だ。

――人口増加を目指した取り組みは…。

 下江 移住定住促進策として、今年度、市の移住定住ポータルサイトを立ち上げる準備を始めた。これまでは移住に関するプラットフォームがなかったが、東京の交通会館にあるふるさと回帰支援センターに常駐している愛知県の相談員と連携しながら移住や定住に向けた手順を確認し、新城市へ住んでもらうための取り組みを開始した。また、子どもへの投資を積極的に行っている。こども園の給食費の無償化を愛知県東三河地域の中で唯一行うなど、こども園制度を充実させた。ほかにも、国の制度による保育料の無償化の前に新城市は市費で平日の基本保育料無償化を導入している。また、中学生までの医療費と高校生の入院医療費を無料にしたりしている。

――外国籍の方は増えているか…。

 下江 外国籍の方は増えている。日本語教育が必要な子どもがここ6年で約2.5倍に増え、60人弱になった。全体では1000人ほどの外国籍の方が居住している。ブラジル国籍の方が最も多く、ベトナム、フィリピン、中国と続く。現在、ブラジル国籍の相談員を市役所の職員として採用して、外国籍の方の相談役をしてもらっている。また、日本語教育が必要なお子さんが増えている現状に対して、日本語初期指導教室を前年度から開設して、今年はさらにそこに予算を上乗せして、より多くの生徒を受け入れられるようにした。

――新市長としての抱負は…。

 下江 昨年11月、2年間以上続いているコロナ禍の最中に市長に就任した。コロナで経済や社会活動が停滞したが、今年はウィズコロナに転換したい。今年度は中止していた花火大会を再開するなど積極的に事業を行いながら、20代前半の若い世代の転出を少しでも抑止するため、子育て支援や居住開始資金の補助などを通して、若者層の転出入の均衡を保ちたい。転出が目立つ一方で転勤、就職などで若い人が転入していることも事実だ。そのため、転入してくる人達に気に入ってもらえる街にしていきたい。そして、来年、嵐の松本潤さんが徳川家康を演じるNHKの大河ドラマ「どうする家康」で新城市が取り上げられる。新城市は「長篠・設楽原の戦い」の地で、新城市役所はお城の跡地だ。初代城主が徳川家康の娘、亀姫の夫だった。徳川家康にゆかりのある地として積極的にPRをしていくことでも、市の発展につなげていきたい。(了)

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