金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「顧客の資産形成が最重要課題」

楽天証券
代表取締役社長
楠 雄治 氏

――投資信託販売が順調だ。理由は…。

  3~4年ほど前から楽天グループとの連携を強めて、楽天のクレジットカードや楽天ポイントを有効活用できるようにした。それが利用者増加の最大の理由だ。さらにいえば、従来、投資信託を始める人はもともと投資をしているような人が中心だったが、2019年に「老後資金として年金とは別に2000万円が必要」という金融庁の報告書が話題となったことで、世の中の人々が老後資金の必要性を真剣に考え始め、1億を超える楽天会員IDも一気に動き始めたという感じだ。楽天カードを始めとする楽天グループとの連携は、他の証券会社には出来ない我々の強みとなっている。資産形成層の一人当たりの取引額はそれほど大きくないが、人数の効果がある。投資信託の積立利用者は現在約200万人。その約3分の2が40歳以下で、今一番の売れ筋サービスだ。この2年程、コロナ禍でマーケットは不安定だったが、積立というものはあまりマーケットのアップダウンを気にしなくてもよく、短期的なことで動揺する必要もない。専門的なマーケット情報に興味がある訳ではない若者達が、定期的に一定の金額が引き落とされる定期購入商品というような感覚で投信を始めている。もともと日本人はコツコツと積み立てていくようなことが好きな傾向がある。そういった事を踏まえて、当社では投資信託以外にも、米国株の積立を昨年12月に開始した。楽天グループのオンラインサービスはコロナ禍の巣ごもり需要で追い風を受けており、同様に2020年は世界的にオンライン証券が好調だった。家にいて時間的余裕もあり、一旦下がった株価も盛り上がりを見せている中で、これを機に投資を始めようと考える人が多かったのだろう。

――債券や外貨建て商品は…。

  債券に関しては、預金の代替としてある程度確定利回りを求められる商品になり得るため、優良企業の社債を含めた取り扱いを増やしていきたいと考えている。ただ、世の中的にネットを通じた債券販売の認知度がまだ低く、個人向けの社債自体も少ないため、個人向け国債程度にとどまっているというのが現状だ。現在、一番人気があるのは米国株取引で、ここ1年で取引は3倍になっている。特にコロナ禍になってからの米国株の売買はものすごい勢いで伸びており、そのプレーヤーは若年層が多い。日本人は昔からホームカントリーバイアスが強いと言われていたが、グローバルベースでの見方をする若者達にはそれがあまり当てはまらない。当社では米国株を購入する際に円ベースで直接購入することも可能にしているため、為替に対する抵抗感もなく乗り出せているのだろう。米国株は今、完全に世界のマーケットの中心になっている。そして成長企業は米国にあるという中で、今年は米国株の信用取引が日本で解禁される。この辺りは米国株ビジネス拡大のための大きなチャンスになると捉え、今後しっかりと力を入れていきたい。また、つみたてNISAやイデコ等を活用した投資で始めてS&P500インデックスファンドへと流れる若年投資家も多いため、そういった層がさらに幅広いポートフォリオできちんとリスク分散投資出来るように、お客様に有用な投資の考え方や資産形成の方法をアドバイスするようなサービスも考案中だ。そうすることで、我々のサービスをより安心して、より長く利用していただけるだろう。

――IFAビジネスや地域金融機関との連携については…。

  楽天証券では2008年からIFAビジネスを始めており、契約IFAの増加とともにIFA経由の預かり資産もかなり増加している。対象者となるお客様は富裕層が中心となるため、きちんとコンサルティングが出来るIFAの裾野を広げるべく、ファイナンシャル・アドバイザー協会とも連携している。具体的にはライフプランニングをベースにしたアドバイザーの支援活動に注力している。ネット証券にはセールスマンがいないためIFAとの親和性が高い。我々がIFAの要望に応えた商品を揃え、サービスのプラットフォームを提供して、コンプライアンスを強化しながら共存共栄していくというモデルで今後も発展させていきたい。さらに、IFA事業の延長となるBtoBビジネスとして、一部の地域金融機関に仲介業務をお願いし、そのお客様に対し、ライフプランをセットにした金融商品を展開するようなことを行っている。こういった形での連携を、今年は広げていくつもりだ。

――ネット証券の競争条件となる手数料については…。

  手数料に関しては創業時代から業界各社が切磋琢磨しながら下げ合ってきた経緯があり、かなり重要な部分と認識しているが、我々としては手数料よりもサービスをきちんとしていくことを重要視している。我々のビジネスがすでに社会基盤となっている今、無理な競争を行ってお客様にご迷惑をおかけするようなことは出来ない。手数料をゼロにすれば当然、他の部分で収益を求めなくてはならないが、それだけの体力が備わっていなければ利益相反も生まれかねない。そのため、手数料に関しては競争状況を見ながら慎重に対応し、あくまでも事業の健全性、安定性はしっかりと確保しながら進めていく考えだ。

――法人業務についての考えは…。

  我々の強みは何と言ってもリテールであり、法人ビジネスはリテールサービスを強化するためのものという位置づけだ。例えば昨年は楽天カードの社債の引き受けを行ったが、それもすべてリテールサービスに結びつくような形で進めている。IPOの引き受けも行ってはいるが主幹事は務めていない。というのも、過度に大量の玉を引き受けて、最後は個人のお客様に無理やり購入を迫るような状況もあり得る。これは利益相反そのもので、一番気を付けるべきところだ。個人のお客様を重視し、適切なキャパシティの中での法人ビジネスを心掛けている。

――暗号資産や新しいデジタル商品の展開は…。

  楽天証券ではデジタル商品は手掛けていないが、楽天グループの中で取り扱っている。例えば暗号資産も楽天ウォレットでサービス提供するなど、eコマースで色々な事業を展開していく為、あらゆる決済通貨をグループ全体で広げていくことが現在の重要課題だ。

――今後の抱負は…。

  ネット証券の成り立ちはデイトレーダーを取り込むことから始まっており、今でもアクティブにトレードを行うデイトレーダーからの収益割合は高いため、この部分のサービスは競争力を上げながらしっかりと大切に続けていく。ただ、顧客基盤が拡大してくると、究極的にはお客様の資産形成にいかに貢献できるかが一番重要だと考えており、その部分でのサポートをしっかりと行い、信頼されるような会社でありたい。それが我々の社会的使命だと考えている。高度成長期時代から、伝統的に対面を中心とする証券会社はどちらかというと高額販売中心のプッシュ型セールスで、今となっては必ずしもお客様本位とは言い切れない部分がある。しかし、ネット証券は創業来営業を持たずお客様のニーズ中心に伴走するようなサービス事業モデルになっている。楽天証券ではネットのプラットフォームをサービス基盤として提供し、広く活用してもらう事で、新しい形の資産形成、資産運用のあり方に貢献していきたい。そして、それがこれから求められる当該分野でのサービス業のあり方だと思っている。(了)

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