金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「地球と人のための事業を展開」

日立造船
代表取締役社長兼COO
三野 禎男 氏

――2002年に造船事業を分離させて以降、業容が大きく変化している…。

 三野 当社が船を造らなくなって約20年、今や社員達も造船事業で日本を率いてきたという時代を知らない人の方が多くなってきた。現在の日立造船をけん引している主力事業の一つは、ごみ焼却発電事業だ。廃棄物を燃やして衛生的に処理し、それをエネルギー資源として発電するごみ焼却発電施設は全世界に納入しており、世界でもトップクラスのシェアを誇っている。

――日立造船のごみ焼却発電施設の特徴は…。

 三野 1965年、大阪の西淀に日本で初めて大型の発電付き焼却施設を納入した。設備の耐久性が高いのが特徴で、この55年間、ごみの性状に合わせて改良を重ね、発電効率の向上に努めてきた。今ではよく耳にする遠隔監視運転も2000年という早い時期から取り組んでおり、競合会社と切磋琢磨しながら技術を磨いてここまでやってきた。国内ではこれまで約500カ所でごみ焼却施設を納めており、今後も安定した更新需要はあるが、大きな成長は見込めない。他方、海外では欧州や中国を中心に約500カ所でごみ焼却施設を納めているが、インドやASEAN地域等では今後ごみ焼却発電施設はますます必要になってくるため、グローバルな展開にも積極的に取り組んでいくつもりだ。会社全体での海外売上比率は、この2~3年は平均して30%弱だが、今後は海外比率の方が増えていくと見込んでいる。

――2011年にはインドに現地法人を設立された…。

 三野 インド現地法人であるHitachi Zosen India Private Limitedは、巨大なインド市場をカバーするとともに、当社がグローバルな事業展開を進めていくうえで重要な拠点になると考えている。どの国も事業を始めて軌道に乗るまで10年はかかる。インドに関して言えば、2016年にごみ焼却発電施設の初号機を納め、昨年ようやく2件目の受注に至った。SDGsやCO2削減という世界的な流れの中で、タイやマレーシアなどでもいくつか案件をいただいており、今後も増えていくことを期待している。世界中で大量に廃棄されるごみが、埋め立てではなく、当社のごみ焼却発電施設によって衛生的に処理されて、エネルギーの利用もできる。グリーンでクリーンな世界の実現に向けて、我々の技術で貢献していきたい。

――メタネーションの技術開発にも意欲的に取り組まれている…。

 三野 メタネーションとは、CO2と水素からメタンガスを生成することだ。回収したCO2を、既存のインフラでも活用できるメタンガスにして再利用する。このような技術こそ今の時代に欠かせないカーボンニュートラルに貢献できるものであり、当社としても引き続きその技術開発に取り組んでいく。さらにいえば、当社は同時に再生可能エネルギーを使った水素発生装置の技術開発にも取り組んでいる。CO2を削減し、ゼロカーボン社会を実現させるために、あらゆる方向から代替エネルギーにつながる技術を展開していく。

――洋上風力発電事業の今後の計画については…。

 三野 洋上風力発電についても、船や浮体構造物を作る技術を持っていたことから始まった。もともと当社は、陸上での風力発電事業を2001年に開始しており、すでに現在、国内3カ所で陸上風力発電所を運営している。それに続くものとして、現在、伊藤忠商事とENEOSと共同で参画する「むつ小川原風力合同会社」では、青森県上北郡六ヶ所村での風力発電事業化を進めているが、日本ではどうしても陸上での設置場所に限りがある。そのため、先ずは沿岸部の着床式、その後浮体式といった形で洋上風力発電を展開することが望まれている。ただ、洋上風力は陸上に比べて非常に規模が大きくなり、莫大な資金もかかってくるため、当社としては、基礎構造物を製作し供給するといったような形で、強みを生かした事業展開を図っていくつもりだ。洋上風力向け浮体基礎についてはNEDOの実証事業として2019年より北九州市沖で稼働している。

――2019年4月に施行された「再エネ海域利用法」によって、国内の洋上風力発電は急速な市場拡大が見込まれている…。

 三野 洋上風力発電と一言でいっても、着床式から浮体式まで様々なタイプの基礎構造物があり、当社はそのそれぞれの構造物を設計、製作する技術を有している。ただ、日本の洋上風力発電は欧州に比べて遅れている。その主な理由として海上権益の問題や送電網や法整備の問題があげられる。また、欧州では安定した偏西風だが、日本の場合は季節により風況が異なる問題もある。そういった問題にしっかりと向き合いながら、安全面での検討もさらに進め、「再エネ海域利用法」の有望な区域と指定されている青森での洋上風力発電を実現させていきたい。

――次世代電池として注目が集まる「全固体リチウムイオン電池」の開発も手掛けている。目指すところは…。

 三野 当社の製品は、真空環境や-40度~+120度の特殊環境で使用を想定したもので、産業機器や宇宙などの特殊用途での展開を検討している。今年2月に発表させていただいたが、先ずはJAXAと共同で宇宙での実証実験を計画している。初めのうちはどうしても製造コストがかかるため、サンプル提供を行いながら色々な使い道を見つけていきたい。

――今後の日立造船はどのような形で進んでいくのか…。

 三野 企業理念である「私達は、技術と誠意で社会に役立つ価値を創造し、豊かな未来に貢献します。」を第一に、クリーンなエネルギーやクリーンな水、環境保全、そして災害に強い街といった、地球と人のための事業に引き続き取り組んでいく。「日立造船」という社名ではあるが、毎年当社に入ってきてくれる新入社員の皆さんは、当社の事業内容をきちんと調べたうえで、こういった分野で何か社会の役に立ちたいという思いで入社される方たちばかりだ。技術立社として、SDGsやグリーン成長戦略といった政策にもしっかりとマッチするような事業を進めていきたい。数字的な目標としては、現在年率3%程度の営業利益率を、先ずは中期経営計画で目標にしている5%以上とすること。そして、2030年には10%にまでに持っていくことだ。きちんと収益をあげて、いつでも次の目標に投資出来るような体制を整えておきたい。(了)

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