金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「地方議員はおいしい職業」

財団法人日本自治創造学会
理事長
穂坂 邦夫 氏

――現在の地方自治の問題点とは…。

 穂坂 国家財政にも無駄があるが、財政を健全化し、日本を良くしていくためには、国家の基盤となる地方を大改革する必要があると考えるようになった。日本の地方自治がおかしな状況になっているからだ。何故なら、地方が国の2倍の行政経費を使っているにも関わらず、国民が地方政治に全く関心を持っていない状況が明確になってきたからだ。本年4月に行われた統一地方選挙の投票率を見ても明らかで、住民が地方政治にこれほど無関心な国も珍しい。ご承知の通り、日本の債務残高はGDPの2倍の約1000兆円まで膨らんでいるにも関わらず、住民による監視が行き届かないまま、地方がお金をどんどん使ってしまっている状況が続いている。しかも、地方自身の借金も200兆円を超えているが、全て国が肩代わりをする仕組みとなっている。日本の債務残高がここまで増大した原因は、地方にこそあるとも言えるのではないか。現在は地方の浪費がおかしいと指摘する人はいないが、多くの人がこの問題を理解してくれれば自治体の再生と財政悪化の状況は改善するのではないかと思っている。

――国が地方交付税という形で地方を縛っているため、責任感のない財政になっている…。

 穂坂 この点も非常に大きな問題ではあるが、国と地方の仕組みが非常に分かりにくくなっていることが、国民の無関心を招いてしまっている。財政再建の話になると国の財政支出の話だけになりがちだが、国も歳出カットを進めており、今や地方よりも国のほうがよっぽど質素だとも言える。例えば、地方政治にかかわる都道府県や政令指定都市の議員は毎年2000万円の歳費を受け取っているが、議会に出るのは多くても年間90日、かつ4年間は身分を保障されており、非常に「おいしい」職業になってしまっている。その結果、今や地方議員の約3分の1は職業政治家が占めている。世界でも珍しい国と言える。そうした出費は国家財政の心配がなければ民主主義のコストとして容認も出来ようが、今の日本の財政は大赤字にも関わらず、これに対する国民の問題意識は極めて希薄だ。かつて塩川元財務相が国の特別会計のことを「離れですき焼き」と称したが、地方の浪費的な仕組みにも歯止めがかかっていない。

――地方の歳出を減らすためにはどうすればよいか…。

 穂坂 まずは国と地方の役割分担を見直し、地方が何をすべきかをはっきりとさせるべきだ。国と都道府県、市町村が現在行っている業務をどこが受け持つか再整理してみると、都道府県がやるべき仕事はほぼ無くなってしまう。例えば、義務教育担当の部署は都道府県にも市町村にもあるが、都道府県は国からの交付金を市町村に配るだけの役割で、現在は都道府県と市町村のダブル行政になってしまっている。無茶な話だが、仮に都道府県を無くすことが出来れば、都道府県と市町村が半分ずつ使っている年間90兆円の支出は半減させることが可能だ。

――総務省では地方公会計の整備を進めている…。

 穂坂 地方公会計は重要だが、敢えて言ってしまえば枝葉の議論であり、幹である地方の行政支出システムそのものに切り込んでいくことが重要だ。例えば私がかつて埼玉県の志木市長に就任した際、志木市の財政は何億円もの赤字があったが、行政改革によりこれを解消できた。一例だが、市主催の花火大会を毎年ではなく5年に一度に減らすことで支出を削減したが、近隣の大型花火大会を見ることによって、市民サービスに何の支障も生じなかった。市町村の業務のうち約6割は選択的事業であり、いわば地方が勝手に行っているものだ。

――現在の地方交付税制度を止め、徴税権を地方に渡してはどうか…。

 穂坂 確かに、現在の地方交付税制度は中央集権制度の根幹であると共に地方の支出基準になる基準財政需要額の根拠が不透明である等の問題がある。ただ、現在は国家財政が赤字であるため、徴税権を地方に渡してしまうと日本国債の信用力が毀損してしまう恐れがある。長期的な日本の地方自治のビジョンやその仕組みを示すことが出来れば投資家からの信認は得られると思うが、徴税権を移す前に国と地方の責任分担など、しっかりとした議論が必要だ。このため短期的には政治がリーダーシップを取り、各地方に対してしっかりした緊縮型財政健全化策を進めさせることが先決だろう。

――アベノミクスの評価は…。

 穂坂 過度の円高が修正されたほか平均株価も上昇しており、一定の効果が上がったことは間違いない。ただ、大企業は潤っているかもしれないが、中小企業等で働く人達はこれまでのところアベノミクスの恩恵はほとんど受けていない。地方の景気も回復したとは言えず、安倍政権はどうすれば経済が再生できるのか真剣に取り組んでいる最中だが、主要政策の地方再生も、主役である自治体自身がどれだけ真剣に取り組んでいるのか不透明だ。一方で、地方の財政改革に手をつけようとしない安倍政権では、少なくとも国家財政を立て直すことは難しいのではないか。

――地方財政が悪化しても、責任を取る者がいない…。

 穂坂 「行政の継続性」という言葉がよく使われるが、知事や市長は4年ごとに変わってしまうため、結局は責任の所在がはっきりせず、支出が野放図になってしまう。日本が財政破たんを回避するためには、強力なリーダーシップを持つ指導者が現れるか、破たんの危機に瀕してから、よい知恵を皆で絞るかのどちらかだろう。私はこうした問題意識から自治創造学会を創設し、7回目となる研究大会を終えたところだ。研究大会では地方の衰退を回避するため活発な意見が出された。また、地方財政に関する本を出しているが、これもピンチが来た時に何かの役に立てばと考えている。

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