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「甲状腺がん、不都合な真実」

NPO法人3・11甲状腺がん子ども基金
代表理事 医学博士
崎山 比早子 氏

――福島県での小児甲状腺がんの多発と、原発事故との関連性が未だに認められていない…。

 崎山 福島県が原発事故以後に実施している県民健康調査の検討委員会で報告されるデータでは、事故当時4歳以下の小児甲状腺がんの発症はないことになっている。福島県立医科大学(県立医大)・長崎大学の山下俊一副学長は、4歳以下の子どもは福島県で甲状腺がんを発症していないため、5歳以下の子どもの発症例が多いチェルノブイリ原発事故とは異なり原発事故との関連性は考えにくいとの意見を表明している。ところが、県民健康調査の2次検査の時点で経過観察となり、その後に小児甲状腺がんと診断された場合は、検討委員会へ報告されるデータに含まれていないことが明らかになった。経過観察となった子どもの手術は県立医大で行われたにも関わらず、それも公表自体がなされていない。検討委員会で公表されたデータによると、福島県で事故当時18歳以下の子どもで検査を受けた約30万人のうち、甲状腺がんまたはその疑いがあると診断された子どもが191人(2017年3月現在)だった。3・11甲状腺がん子ども基金の活動を通じ、さらに8人多いことが判明している。当基金は甲状腺がんまたはその疑いがあると診断された25歳以下の子どもに10万円の療養費を給付しているが、検討委員会では発表されていなかった事故当時4歳だった子どもの家族から申請があった。この子どもは、県民健康調査の2次検査の時点で経過観察となっていた。また、支援を申請した子どもの家族のなかでも、県立医大或いは大学と提携している医療機関以外で手術を受けた場合は県のデータには含まれない。

――福島県での発症率は明らかに異常に高い…。

 崎山 小児甲状腺がんの発生は、国際的に100万人に1~3人程度と言われている。年齢が低くなるほど発症は極めて少なく、5歳程度の子どもではほとんど見られない。一方、福島県では検討委員会のデータでも30万人に対し191人程度が甲状腺がんまたはその疑いと診断されており、明らかに一般的な発症率よりも異常に高いと言える。検討委員会でも、小児甲状腺がんの多発そのものは認めている。県民健康調査の検討委員会が取りまとめた報告書にも小児甲状腺がんは「数十倍のオーダーで多い」と明記された。県民健康調査は環境省の支援事業となるため、検討委員会の結論は政府の結論に等しい。

――なぜ政府は原発事故との関連性を認めないのか…。

 崎山 数十倍の多発となったのは、精密な超音波機器で、これまで検査をしていなかった多くの子どもに対し検査をしたため、症状を出さないような潜在がんが高頻度で見つかる「スクリーニング効果」によるものだと説明している。ところが、疫学者によるとスクリーニング効果で説明できるのはせいぜい7倍程度の多発であり、今回のように数十倍となることは考えにくいとされる。また、県民健康調査は約2年おきに3巡目検査まで行われているが、1巡目検査で116人、2巡目検査でもさらに71人の子どもが甲状腺がんまたはその疑いと診断された。1巡目検査で多くの症例が見つかるだけならば、スクリーニング効果と言い逃れる道も考えられなくもないが、実際は2巡目でもこれだけの診断結果となった。これをスクリーニング効果で説明することは極めて難しいし、とても不自然だ。

――福島県立医科大学では、この結果をどう見ているのか…。

 崎山 県民健康調査検討委員会ではこの結果に対し、過剰診断だと主張している。過剰診断とは、命に別状がなく手術の必要がないがんを検診で見つけてしまうことだ。ところが、16年9月に日本財団が主催した第5回福島国際専門家会議で、手術の大部分を担当している県立医大の医師が報告した手術症例では、福島の甲状腺がんの手術例のうち80%程度はリンパ節に転移しており、約40%が甲状腺外に浸潤しているとされる。そのため担当医師は過剰診断ではなく、スクリーニング効果だと主張している。甲状腺がん多発と原発事故との関連性は考えにくいとする一つの理由に0から4歳児にがんの発生がないことをあげている山下副学長は、現在県立医大の放射線医学県民健康管理センターの副センター長であり、事故時4歳児の手術を知っていた。この事実はフリージャーナリストの和田真氏が直撃インタビューで明らかにしている(DAYS JAPAN10月号)。にもかかわらず、検討委員会に4歳以下の子どもの発症報告がないことを理由にチェルノブイリとは違うというのは全くの虚偽としか言いようがない。また県民健康調査の枠から外れて経過観察とし、検討委員会への報告義務をなくするというルートを誰がいつどのような相談をして作ったのか全く記録もなく不透明であり、このようなルート作成に山下氏が全く関与していなかったとは一寸考えにくい。その上で、検討委員会で発表されなかったから自らもそうした事実を公表するわけにはいかないと主張するのも解せない。これでは、5歳以下の子どもに甲状腺がんが多発しているチェルノブイリ原発事故とは異なるという主張にも大きな疑問符が付く。

――正確な情報が隠ぺいされることで、水俣病などの様に被害が広がる可能性がある…。

 崎山 過剰診断を強く主張することで、甲状腺がんの検査を縮小したいとの意図が感じられる。福島県では小児甲状腺がんの発症を放射線被ばくによるものではないとし、政府が復興を強調するなか、検査により甲状腺がんの症例がさらに発見されることを懸念しているのだろう。ところが、基金の活動で実施したアンケート調査では、甲状腺がんと診断された患者からは検査の縮小を望む声は聞かれない。そもそも、過剰診断による過剰治療であるならば、必要がないのに甲状腺を摘出したことになってしまう。県民健康調査で経過観察中の子どもは2700人以上いるが、経過観察とされた場合は小さくはあっても腫瘍があるため、通常よりもがんが見つかる確率も高い。県民健康調査のデータに現れていない経過観察中の子どもが既にがんになっている可能性もある。日本からは、県民健康調査のデータをもとに執筆された医学論文も複数発表されているが、これでは元データが不確かなため論文に対する信用もなくなるだろう。かつては水俣病などの様に、事実の隠ぺいにより被害者が増加し、結局は国が莫大な費用をかけて対応する例も見られている。しかし、これでは対応が遅い。

――国民にはそうした被害の実態は全く知られていない…。

 崎山 放射能汚染地域から少しでも長く離れるよう、汚染がより少ない地域に子どもを保養させている母親たちと話したことがあるが、福島県で甲状腺がんの子どもが増えていることを知っている母親はほんの少数だった。実際に甲状腺がんと診断された患者でさえ、191人も甲状腺がんと診断された子どもがいることを知らない人もいた。私達はこの基金を立ち上げた際、福島県の地元紙に一面広告を出している。ところが、メディアで甲状腺がん発生の実態が報道されることは極めて少ない。また、チェルノブイリ原発事故でも放射線被ばくとの関連性が国際機関で正式に認定されているのは小児甲状腺がんだけであるため、福島県でも甲状腺がんの調査しか行っていない。だが、小児甲状腺がんだけでなく、小児白血病や免疫系、血管系の疾患が増えてくる可能性は否定できないので調査は必要だ。

――基金のこれまでの活動は…。

 崎山 基金では、「手のひらサポート事業」として甲状腺がんの子どもに対し10万円の療養費を給付し、経済的な支援をしているが、福島県の発表者数が191人であるのに対し、給付申請は8月末迄に73人に過ぎない。申請をしていない個々の事情はわからないが、理由の1つに基金の活動が広く知られていないことがある。また、患者にこの基金のことを知らせるよう、病院その他にパンフレットを置いてもらうよう頼んでいるが、この基金の目的が十分理解されず協力が得られないこともある。甲状腺がんを発症すれば、まず経済的な負担が重くのしかかる。18歳以下の医療費は無料となるものの、甲状腺がんの専門医の数が少なく診断・治療できる病院も限られるなか、病院までの交通費だけでも負担がかかる。母子家庭の子どもでは、母親が通院に付きそうために仕事を休むことでも負担になる。経済的な負担以外にも、政府が復興や東京五輪を強調するなか、自らの甲状腺がんを隠して生きていかなければならない精神的なプレッシャーを感じている患者もいる。このような患者に対し少しでも支援になるよう給付をしている。原資は寄付により募っており、まず初めに、基金の特別顧問で長野県松本市長の菅谷昭先生の講演会で基金設立後すぐに記念講演を行い、募金を集めた。

――給付以外の活動展開は…。

 崎山 要望に応える形で、医療相談に対応するための電話相談を開始した。病院では医師の多忙により十分に話ができない患者さんに対し、定期的に電話相談を実施している。相談対応では、日本女医会の協力を得ている。また、甲状腺がん以外に白血病など他の疾患も増えている可能性があるため、調査を行ったうえで給付の範囲を広げることも考えている。政府は除染に莫大な費用をかけているが、甲状腺がんの患者をはじめ子どもの健康を考え避難している家族に対しては十分な支援の枠組みが整っていないのが現状だ。この中、さらに多くの患者、健康不安を抱える方に支援を届けられるよう、広報活動をさらに進めていきたい。

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